竃猫さんのレビュー
参考にされた数
64
このユーザーのレビュー
-
「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい
森達也 / ダイヤモンド社
評価はパス
7
一番目に強調する。森達也は注目しているドキュメンタリー作家である。下山事件、放送禁止歌は非常に興味深く読んだ。未だ心の準備が出来ないが、代表作であるAシリーズも是非読みたいとは思っている。
二番目に強…調する。社会は、いかなる意見も封殺してはならないと信じている。それは、社会にとって批判意見は全体として見れば有益と思うからである。ヘーゲル的弁証論に即して言えば、ジンテーゼに至るにはアンチテーゼの存在が不可欠だからとか、全員賛成の多数決は全員が誤っている危険を検知できないからでもあるが、そんな理屈を言うまでもなく、そもそも意見は全く以て自由である。
三番目に強調する。私のように匿名でなければ言いたいことも言えない人間と違い公然と意見を表明している人々は、真に尊敬に価すると思う。
そのうえで、敢えて言う。本書は勧めない(興味深いテーマもあるにはあるが・・・)。大手出版社刊行なので、興味のある人は立ち読みしてから購入することをお勧めする(電子書籍は古本屋に売れないので)。
勧めない理由を一言で言えば、主張に納得性の乏しいことが多かったからである。例を2点示そう。
【死刑制度について論じた部分】
・そもそも社会の多くは死刑に賛成しているのではなく容認していると思う。無くて済むなら結構だと思う。しかし、一命を以て始末をつけるという武士道を精神的規範としたわが国では、死刑を最高刑の位置に置くのは納得性が高いし、廃止するまでに社会は成熟していないと思う。
・諸外国との制度比較については、参考にするとしても廃止の論拠には不適切だと思う。憲法の議論は最終的には、我々がどのような憲法を持つ国に住みたいと考えるか?が最重要である。同じく、死刑制度も我々の問題であって、外国がどのような制度であるかは決定的な意味を持たないと思う。そもそも死刑制度を廃止している国と比較自体が難しい。例えば、多くの死刑制度を廃止した先進国では、テロ事件等の凶悪事件が発生した場合、実行犯の逮捕より鎮圧が優先されるようだ。つまり、取り調べは勿論、裁判にすらかけないで刑を執行していると私には見える。
・廃止後の犯罪率の予想も語られているが、統計調査の経験も多少ある私としては、他人の調査を信じない。誰がどんなパネルで、そんな質問票で、どんな分析をしたか分からないが、調査依頼主の望む結論に応じて如何ようにでもする。それが腕のいい統計屋というものだ。私も過去、某行政施策は大成功!というグラフを・・・(泣笑)。
・冤罪については被害者に本心から同情する。また、そのような事を行った人々に底知れない恐怖を覚える。その点は作者と同じだが、作者は制度と制度の運用を同列に論じようとしている。それは別に議論すべき事だと思う。また、執行方法の不確実性、残酷性を指摘しているが、昔、逆説的に生を鼓舞する趣旨で書かれた「完全自殺マニュアル」によれば、現行方式が医学的には推奨されるようだ。
・執行現場を見た検察官の意見は個人の感想に過ぎないと思う。命は終わるまで続くもので、途中で止めるからこそ、それがどのような生き物であれ苦しいだろう。私も恐らく某検察官同様、確実に正視に堪えられない。それは屠畜でも同じで、社会としてその困難を専門職の方にお願いするしかないのだ。誠に心苦しい限りである。つまり、執行官のように末端で一番苦しい人を思うと、エリート法曹家の感傷は私の心には響かないのである。
【イルカ漁について論じた部分】
マスメディアが取り上げない社会の片隅、あるいは、少数派、反対側に光を当てるのが作者の特徴だと思う。そして、イルカ漁を妨害した外国人活動家の態度が堂々として見えたというのも個人の感想として自由だ。でも、この場合、弱者はどう見ても漁師さん達だと思う。
あくまで想像だが、イルカ漁の漁師達はガソリンが値上がりする中、ボロ船を一生懸命手入れしながら、採算ギリギリを覚悟で船を出すのだろう。細々とした水揚げにため息を漏らし、古びた木造の家に帰り、ビールか酎ハイを飲みながらプロ野球をTVで観るのが何より楽しみ・・・。そして、多くは海外旅行だって一生に数回、何かの記念に一大イベントのように出かける程度、そんな人たちを想像する。
そんな漁師たちからすれば、イルカのために、わざわざ日本まで海外旅行し、船をチャーターし、自分たちの前に立ち塞がるなどということは、まるでエイリアンの所業に見えたのではないだろうか?どんなお貴族様だ?と。
海獣類は北洋で海産物に対する脅威として捕獲されているそうだ。NDLの調査部の資料で知った。僭越な私見で恐縮の限りだが、イルカ漁は魔女狩りにあっているいるのではないだろうか?
このコメントを書くか半年悩んだ。筆の過ぎた点は伏してご寛恕賜りたい。 続きを読む投稿日:2015.05.30
-
思考の整理学
外山滋比古 / ちくま文庫
【評価はパス】奇をてらわない指針の数々
5
有名な東大生協の売れ筋、もし悪く言えば不見識を責められそうで怖い。
敢えて☆を付ける必要はないので、評価はパスします。
題名から、今どき多い「~の技術」みたいな本の内容を期待するかも知れません。そん…な、銀の弾みたいなノウハウが、この世にある訳ないと思いますが・・・。
この本も、言ってみれば当たり前のような内容が、語りかけるような自然な文章で書かれています。ですので、期待外れと思う人も多いと思います。
ただ、主に研究に行き詰まりを感じた人には、有益な指針を示してくれる内容が本書の中に見つけられると思います。
卒研等で悩みがある学生が、老教授のオフィスアワーに相談に行き、ポツリポツリと答えて貰う。そこに解決の糸口を見いだせるか否かは学生の素質にもよるのかなぁ。
文章としても名文ではないものの、味わいがある良いものです。ですので、数年前に非常勤でコンピュータリテラシーを担当したときには、キーボード操作習熟のために
日本語のヒアリングディクテーションと称して、学生達に本書の中から「書いてみる」を読み聞かせてWordに入力する訓練をして貰ったことがあります。他の文章でも
良かったのですが、私なりにメッセージを込めて選んだつもりですが分かっただろうか・・・?
続きを読む投稿日:2015.02.14
-
覚悟の人 小栗上野介忠順伝
佐藤雅美 / 角川文庫
不器用な人と呼ばれるのか・・・?
3
娯楽作の多いこの作家ですが、「大君の通貨」に連なる一連の硬派な作品群の傑作です。
いや、忠順という人物自体が非常に魅力的なんです(NHKさん「またもやめたか亭主殿」観たいです!)。
頭が良くても、真面…目過ぎて、世渡り下手で・・・。勝海舟とかと比べると、その不器用さが本当に際立ちます。
忠順の評伝は童門とか他の作家にもあるけど、この佐藤雅美が不器用さがよく出ている気がして、一番しっくりします。
同じく佐藤雅美の「川路聖謨」と並び、昔の人は偉かったんだなぁ、とか、崩壊しようとする組織を懸命に支えようとする姿が胸を打ちます。
そのうち、高崎市を訪問したいと思いますが、遺徳を偲ぶなら意外なところでJR横須賀駅の近くの公園に小さな銅像があります。
ちなみに「大君の通貨」は激推です。政治の本質は経済にあり!と思わせる感じがしますが、山川の教科書に書かれていない幕府崩壊の意外な要因に驚きます。 続きを読む投稿日:2014.11.29
-
キシマ先生の静かな生活 The Silent World of Dr.Kishima
森博嗣 / 講談社
好き嫌いあるでしょうが・・・私はこの作家の一推し
3
お勧めはしません。人を選ぶ作品です。でも、私の一推しです。
敢えて言うなら、学者とか研究者、それも理系の人で、実験系というより計算機を使う理論研究で、アラフィフ以上の人なら、分かって貰えるかも知れませ…ん。
この電子版も買ったけど、単行本は売らないで手許に置きます。
学生時代、サークルとかも入らないで、計算センターに入り浸ってFORTRAN77に憑かれていた私にとって、もう、なんか色々な感情とか記憶とか湧いてくるんです。
悲しいお話しですよ。でも涙を流す悲しさじゃなくてね、切なさに近い感じです。
あの頃、学科もバラバラな端末室常連仲間のあいつら、どこかで頑張っていて欲しいな・・・、と読み終わった後、思いました。そんな作品です。
追記;このダイジェスト版とは別にフルバージョンも発売されたようです。著者検索で出てきました。もちろんフルバージョンの方がお勧めですが、このダイジェスト版も”静かな世界の”空気感は遜色なく味わえます。せっかちな人はこちらを買っても良いと思います。が、やはりダイジェストを読んだら、多分、フルバージョンも読みたくなると思いますよ。フフフ♪
あと、表題は生活ではなく世界の誤記ですかね?それとも英題の方を変更し忘れたのかな?
続きを読む投稿日:2014.11.20
-
虚空の影落つ(電子復刻版)
西村寿行 / 徳間文庫
西村寿行の素顔か?すごく真面目な傑作
3
明治維新に興味のある歴史好き、武器・格闘技マニア、歴史小説ファンには是非一読を!といって推したい一冊。
本作は、報われなくても、過酷・薄幸でも、一途に愚直に己の筋を通すとか、道を究める漢(おとこ)の物…語とでも謂えるかも知れません。
エロとバイオレンスの名手が、ふと、こんな作品を書いている。よくぞ書いた西村寿行!よくぞ書かせた編集者!と賛辞を送りたい。
あるいは、こちらの方が”素顔”だったのだろうか・・・?
武道にも一家言あったという西村寿行。別の作品で登場する棒術が本作でも主要な設定になっています。
調べたら棒術を教えてくれる道場もあるらしい。本書を読み終わったら、あなたも私と同じで、きっとで習ってみたくなると思いますよ。その「最強」という武具をね。
続きを読む投稿日:2014.12.25
-
怪盗ルパン全集(1) 奇巌城
モーリス・ルブラン, 南洋一郎 / ポプラ文庫クラシック
ラスト号泣確実
3
良い時代になりました・・・。子供時代に夢中で読んで、貧乏な中、1冊づつ揃えて、「本が多すぎて邪魔」という無理解な家族に知らない間に捨てられてしまった名作が、電子版で手に入るなんて!
この本家ルパンシリ…ーズは、初めの巻の方はルブラン自身が書いたものですが、後世の作家が続巻をかいているので、巻数の多いものはバイオレンス調が強くなります。
(個人的には第10巻くらいまでがお勧め)
やはり、おすすめはルブラン自身の書いた巻ですね。また、フランス語も知らないのですが、南洋一郎の名訳がイイ!
スピード感も出せるが、情緒的な表現も実に良くて・・・、その最たる例である、この奇厳城のラストは本当に泣ける。
驚くような結末の後の、ルパンの行動、それを取り巻く乳母ビクトワール、背景の情景・・・それらが一枚の絵のようで、私は何故かミレーの晩鐘を思い浮かべてしまいます。
(悪役みたいなホームズなのですが、ホームズクラブの会員としては、ルブランのホームズは別人と思ってます)
これから先は、残念ながら読んでもらうしかないです。
「11歳の息子さん」、君は良い目をしているよ。
この先は第10巻くらいまで巻数順に進むと良いでしょう。
特に第8巻「緑の目の少女」はね気に入ると思うけど、読み終わったら宮崎駿の「カリオストロの城」を観ると良いよ。理由はヒミツ♪
それでね、一通り読んだ後で考えるんです。奇厳城は何故、第2巻の「怪盗紳士」より先なのかってね。
余談ですが、世界遺産のモンサンミッシェルは、本作のヒントになったとか・・・。 続きを読む投稿日:2014.12.08