竃猫さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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底辺女子高生
豊島ミホ / 幻冬舎文庫
この作家は当たりだ!
2
実に良いですよ。笑いもありますが、久しぶりに泣けました。
文章に読者を引き込む魅力がありますよね。マンガ家に転向されたようですが、筆を折るには余りに惜しいです。
真骨頂は、中学時代の同級生のお葬式の場…面と、家出の場面。作者自身は言及していないけど、この両者には関係があると読みました。
作者はきっと、周囲の気持ちを大事にする心優しい人なのでしょう。それにしても「ハトガイッパイ」って家出中のメッセージにしては詩情の欠片もない(笑)。
でも一言・・・。この人は「底辺」ではないです。本人の認識に尽きますが、「底辺」という意識があっただけ、私の高校生時代より全然マシです。
作者はちゃんと悩み、もがき、そして堂々と大人にケンカを売っている。周囲の大人も、それに割とマジメに付き合ってくれている。良いじゃないですか・・・。
なんとなくモヤモヤした感じのままダラダラと日々を過ごし、時々顔色を伺いつつスネてみる・・・。
周囲の大人も本心は面倒はヤなので、テキトーに指導する。少なくとも私の場合は、そんな感じの高校時代だったと思います。それより全然マシ。
続きを読む投稿日:2014.12.02
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聖の青春
大崎善生 / 講談社文庫
こんな凄い本、なんで誰もレビューしないんだろ?
2
本当に凄く良いですよ。元関係者の強みと作者自身の力量に賛辞を送ります。が、何といっても怪童丸、村山聖、その人の壮絶と言っても過言ではない生き様に震撼します。
大げさだと笑う人もいると思いますが、きっと…同感してくれるはず。人間とはここまで一事に懸けられるものだろうか・・・、天才とはこういう人のためにある尊称なんだな・・・と思えてきます。間違いないです。 続きを読む投稿日:2014.11.20
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まほろ駅前多田便利軒
三浦しをん / 文春文庫
人の孤独が語られているのです
2
として読みました。
私の中では、故杉浦日向子と並ぶ名文家だと思ってまして、作品コンプリート中です。本当にしなやかだけど、芯のある良い文章を書かれる方ですよね。
確かに面白い作品だし、オフビート系の娯楽…映画にもなりましたので、このシリーズは全部、そういう意味でも面白いです。
が、勝手な深読みかもしれませんが、本作に登場する人物は全て孤独ですよね・・・、作者が言いたいこと、表現したいとこは男の友情物語とか孤独からの解放ではなくって、もうちょっと深い何かだと思います。うーん・・・それが何であるかは読む人によるのかな・・・。
作中から一例をあげて考えてみたいと思います。
例えば、チワワの預かりを依頼しに来た女性が書類に、ご主人の氏名を記入するのを見て多田は、そういう女が
キライだと作者は書きます。何故、キライなんでしょうね?ごく普通で、主婦なら誰しも自然にするだろうことを・・・。
(1) 自分を裏切った前妻が、いつもそうしていたので、前妻を思い出してしまうから
(2) 幸せな家庭の空気を感じて、現在の自分と比べてしまいたくないから
(3) 自分自身の意思なのに、それを誰かの意思であるかのように見せたいという心理が感じられるから
(4) 便利屋ごときの契約に、何も世帯主名の契約でなくても良いじゃないかと思ったから
どれでしょうね・・・。これ以外にもあるかも・・・。
私の読み方は、(3)と(4)の中間ですかね。主婦であっても、ひとりの女性として人間として、平然と便利屋風情の
書類に自分の氏名を書く、そんな王子様に運命を委ねない生き方、つまり個として確立した人間の存在する様子
を作者は孤独と称している、のではないかと・・・。あくまでも、私の読み方ですがね(過激なことを書いてしまった、
怒られたらどうしよう・・・)。
あ、レビューのタイトルは作者の別作品に出てくるセリフでもあるんです。
追伸;
この作者は孤独に、寂寥感はあっても悲惨という色彩を与えないのは特筆すべきだと思います。「政と源」では政の妻は帰ってはこないけど、不思議に悲しくも惨めでもない。
「職業」と「個としての人間」が、この作者の大きなテーマですよね。 続きを読む投稿日:2014.11.20
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火天(かてん)の城
山本兼一 / 文春文庫
とにかく読んで
1
紙の文庫本で数年前に読みました。
本と出合う中で、「説明は後でするから、騙されたと思って、とにかく読んでみて!」と人に勧めたくなる作品に出合うことがありますが、本作はまさにそんな作品でした。
モノづく…り男子、プロジェクトリーダーなら本当にお勧め。新入社員研修の課題図書にしても良いくらい。
見せ場の連続ですが、個人的には”大黒柱の修正”をするエピソードが凄い!
だって、アナタ!情報システムの開発で言えば・・・
『総合テスト段階で、全く想像もしていなかったような致命的かつ根本的な不具合が発見された!工期延長や追加資源投入どころか修正自体も不可能。あなたなら、どうする?』
みたいな状況に主人公が立たされるんですよ!?滅茶苦茶、感情移入して、文字通り手に汗を握って読みました。
山本兼一氏は、他の作品も含め、一芸を究めようとする人を描いておられたと思います。夭逝が本当に惜しまれます。合掌
追記;
本作が気に入った人は「雷神の筒」「いっしん虎徹」も、きっと面白いはず。どっちも電子化されていません。意地悪しないで早く電子化して下さいm(_ _)m
追記2;
本作は人気があるようですね。本作と似た作品をもっと読みたいならば、幸田露伴の「五重塔」もお勧めですよ。
続きを読む投稿日:2014.11.11
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走ろうぜ、マージ
馳星周 / 角川文庫
読了していませんが
1
私は読み終わってもいないのに、酷い時は自分自身は最初の数ページから先に読み進めないのに、人に作品を強く勧めることがある。例えば、新潮社文庫の「朽ちてゆく命」は代表例だった。本書も同じく、無責任を承知で…強く勧めたい。
「あなたはイヌ派?ネコ派?」という他愛もない分類がある。我が家にも犬がいるものの、清少納言と同じく「小さき者は皆かわゆし」と思う。何故、彼らがこんなにも我々を惹きつけるのだろう?
いろいろ理由を考える人もいるが、種族を超えているとはいえ愛とは理屈を超えたものだという結論は当初から周知のことでもあろう。
手間もかかるし、お金もかかる。ウソもつくし、イタズラもする。ゴハンと水と娯楽と睡眠と散歩をINPUTし、ウンチとオシッコをOUTPUTするだけの存在。でも、まったく前提条件を必要としないで愛情の対象として君臨している、いわば絶対存在。それで良いと思う。
さて、著者はハードボイルドの名手だが、本書の語り口は真摯で落ち着いたもので、驚く読者も多いと思う。それは、愛犬への愛情がいかに深かったかを端的に表していると思う。その愛犬が亡くなるまで軽井沢で過ごした静謐で愛情溢れる日々を日記風に書かれています。
犬好きの人にも、そうでない人にも一読を勧めたい。
追記;
押井守も愛犬家として有名である。ハードボイルド系の人はイヌ好きの傾向があるのだろうか?押井守によれば、人付き合いを面倒と思う人はイヌ好きの傾向があるという。そういえば、西村寿行も「黄金の犬」を書くほどの犬好きだった。ハードボイルドではないがコント赤信号の渡辺正行も愛犬の思い出を絵本にしている。男の子は結構センチメンタルなのである。
続きを読む投稿日:2015.06.19
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梟の城
司馬遼太郎 / 新潮文庫
名作
1
娯楽系といっては文豪 司馬遼太郎に失礼かと思うが、超人的な忍者の技には、多少そのような趣を感じる。ただし、だからと言って本作の面白さは変わらない。つまり、忍者の世界の非情さや、駆け引きを通じて司馬が言…いたかったことを汲み取ることに、本書の魅力を見出せるだろう。
本書を推すのは、私ばかりではない。読書家として名高い漫画家 吉野朔美氏のご尊父も本書を推薦している(「お父さんは時代小説(チャンバラ)が好き」)。
続きを読む投稿日:2015.06.05