竃猫さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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花のれん
山崎豊子 / 新潮文庫
”あさ”以外にも
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吉本興業の礎を築いた吉本せいの物語。KBSのケーススタディ資料の中の吉本興業を読んだことがあるが、吉本せいへの言及はなく本作で初めてその存在を知った。その印象を一言でいえば、「超絶すごい人」、である。…今、話題の広岡浅子だけでなく大阪という土地は女傑を産み出す土地柄のようだ。なにより、作者自身がその好例でもある。バイタリティ、という単語が彼女達の共通項として思い浮かぶが、あるいは、浪速のオカンのDNAと表現した方が良いのだろうか?いずれにしても多くのビジネスパーソンに、一読されることを勧める。なお、過年、藤山直美が吉本せい役を演じた舞台を観たが、実にハマリ役であった。再演されるならば、併せてお勧めする。
続きを読む投稿日:2015.10.04
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明日の記憶
荻原浩 / 光文社文庫
いずれ何時かは私もか?
2
良作の多いこの作者の、映画化もされた有名な作品。
敢えて私が勧めるまでもないが、ReaderStoreに入荷していることが知られていないのか、未レビューだったので、おこがましく、しゃしゃり出ました。
…
ガンや他の病気も怖い。ロコモ障害も怖い。でも、私は認知症が一番怖い。
本作は認知症が進行してゆく主人公の視点で語られているため、現実には殆ど困難ともいえる認知症患者の”体験談”を聞く、または、追体験することが出来る。これは貴重な読書経験だと思う。
本書は語る。認知症とは、姿かたちを保ちながらも、私が私でなくなり、究極的には脳が、体が、生きること自体を忘れてしまうのだと。実に怖ろしいことだ。
しかし、本作品を作者は、ある意味、ハッピーエンドで語り終えている。決して、明るい結末ではないが、人間に対する作者の暖かい眼差しがそこにある。本作品が映画化されるまでに評価された理由でもあろう。
私と同じ中高年。あるいは、家族や夫婦の絆の物語を読みたい人に勧めたい。
続きを読む投稿日:2015.06.20
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ヤマケイ新書 ドキュメント御嶽山大噴火
山と溪谷社編 / 山と溪谷社
これは掛け値なしに凄い本だ
2
既コメ者に感謝です。フェア本の表示の中で、★がついていなかったら危うく見逃すところでした。
是非、トップページのフェア本の中に表示して頂き、多くの人に読んでもらいたい。
仕事柄、リスクマネジメント関…係の書籍は結構読んでいる方だと思いますが、極めて迫真の、そして濃密なドキュメンタリーです。迫真という点では、新潮文庫の「クラッシュ」以来の衝撃です。ともに平穏な日常に隣接した危機への対処を考えさせられる、貴重な資料です。
特筆したいのは、サバイバル・ギルティという言葉を、本書で初めて知ったことです。本書が、そこまで踏み込んでいるのは執筆者達自身が登山家だからなのでしょう。これが、もし2大新聞の記者が書いたら、そういう当事者の視点は持たないのではないかと思います。そういう意識の違いが本書を類書と決定的に違う存在にしている。と、感じました。
続きを読む投稿日:2015.11.05
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算学武士道
小野寺公二 / 光文社文庫
寡作のほぼ無名作家の珠玉の短編集です。是非読んでみて下さい!
2
無名と言っては、気の毒ですが歴史小説好きにも殆ど名を知られていない作家です。
でも、私には熾火のように、生涯、小さくとも消えることのない灯りを心にともしてくれる作品を遺してくれました。
東北出身で中央…大学経済学部卒とwikiにありますので、数学との接点、和算最上流との接点はそこでしょう。
暗く、悲しく、救いの無い話ばかりです。大多数の人が、読み終わっても、中島みゆきを聴いた後のような感じに
なってしまうと思います。でも、誰だって経済的理由や、家庭の理由や、その他有形無形のしがらみの中でジタ
バタしているものじゃないでしょうか?私は大学時代は数学を専攻していましたが、自分の才能に諦めを付けて
転向した直後に本作と出合いました。もう、約20年以上前のことです。他人事とは思えなかったですね。
本作の主人公達はみんな歯がゆいくらいに生真面目で、不器用で、不遇で、野心と呼ぶにはささやか過ぎる
願いしか持っていないのです。神様がいるなら何故救ってあげないのかと思ってしまいます。
私には、そんな彼らの残像が、不遇のうちに他界された作者の姿と重なって見えます。
感じとしては、やはり藤沢周平に似た印象が全体に漂いますが、人生の辛苦を身を以て噛みしめた人の書く
一文字一文字が得難い人生訓のようです。
和算・算学ものには、算学少女、算学奇人伝がReaderStoreで購入できますが、本作者の別作「幕末算法伝」
も購入できるので、是非読んでみて下さい。
続きを読む投稿日:2015.02.22
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美貌の果実
川原泉 / 花とゆめ
そう!これ!
2
先のレビューアーさんの言う通りです。名作揃いのカーラ作品の中でも、凄くお勧め。
確かにどれも良いのです。が、個人的には特に美貌の果実は泣けるのです。
友愛というか、自己犠牲というか、愚かな人類への赦…しというか・・・恥ずかしいけど、「愛」とかいうものが溢れているのです。
ネーム(セリフ)が泣かせるんです。良いんです。ネタバレになるといけないので書きませんが、天地に赦しを乞うが如きあのセリフ・・・。
”教授”の真骨頂です。
続きを読む投稿日:2015.01.24
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戦艦武蔵
吉村昭 / 新潮社
モノづくりの可能性
2
「光る壁画」、「高熱隧道」と並んで個人的に吉村昭の”モノづくりシリーズ”と呼んでいる。
先頃、艦体が発見されたのは喜んでいいのか、分かりかねるが、場所がはっきりした事は良かっただろう。
ところで、一…説、自動車は部品点数1万点オーダー、飛行機は100万点オーダー、ロケット・スペースシャトルはそれ以上、と言う。そして、日本人のモノづくりは藤本隆弘のいう「擦り合わせ」が有効範囲の制約により部品点数1万点オーダーの自動車までに優位性がある、とも言うらしい。
が、しかし。本書の武蔵建造の物語は、日本人のモノづくりに無限の可能性を感じさせる。
試行錯誤の繰り返し。執念ともいうべき、その繰り返し。そこにモノづくり能力の核心を見る。
飛行機やロケットがこれまで苦手だったのは、開発が禁止されていたため実績、経験が不足していたからで、出来ないわけではない、と思う。
本書は完成後の武蔵の運命も含んでいるが、やはり建造過程が非常に魅力的である。作者が何故、大和ではなく武蔵を選んだのか読めばお分かり頂けるだろう。
蛇足であるが、本書の中で個人的に一番印象に残っているのは、工費が膨れ上がったことを受けて三菱が発注主である海軍に追加費用を依頼する場面である。弊社としても株主に利益責任がある、と主張に海軍も交渉に応じる。戦況が逼迫する以前かも知れないが、狂気の時代でも経済が機能していたことが興味深い。どんな状況でも経済は止まらないもののようだ。昔、東証の職員から聞いた話だが、終戦直前に平和関係銘柄が軒並み値を上げたそうだ。商人畏るべし。
続きを読む投稿日:2015.06.05