竃猫さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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ペコロスの母に会いに行く
岡野雄一 / 角川文庫
とても参考になりました
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お袋がね、あんたたちの分もついでに貰ってきてあげたよって、くれたのよ。何かなぁと思ったら、『終活の手引き』(泣き笑い)。だからね言ったの「母ちゃん、俺ら母ちゃんより30歳若いいんだから、未だ要らないよ…」って、そしたら「あんたの事だから心配だから今から始めておけって」さ(笑)。ポイント消化で何か買おうと思って物色していて、ポイントより大分高かったけど、こういう本は早めに読もうと思って買いました。買って正解でした。やはりためになります。何年か前までは、母が事実を都合の良い具合に変えて話すたびに、いちいち訂正したり、いらいらしてましたが、最近では慣れました。叔母は特養にいるけど、今が一番穏やかで楽しそうです。勿論、大変なことにかわりはないのでしょうが、大変だった叔母の人生に神様が最後に魔法をかけてくれたような気がしています。私自身もどうなるか分かりませんが、身の回りの人達には穏やかに過ごして貰いたいなぁと思います。義務感や悲壮感ではなく、気持ちの持ち方でユーモアも言えるし、それで笑えたら小さくても幸せですね。読んでいて、そんな風に思いました。 続きを読む
投稿日:2020.02.17
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小学館電子全集 特別限定無料版 『三浦綾子 電子全集 塩狩峠』
三浦綾子 / 三浦綾子 電子全集
名作に敢えて物申す
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名作の名が高いのは承知しているが、正直、肌に合わない。時代性によるのかも知れないが、どうも道徳(修身)の教科書を読んでいるようだし、キリスト教のプロパガンダに思えてしまう。もちろん、塩狩峠事件の殉職者…には深い敬意を持っているし、作者自身に思う事はないが、この創作物には多々違和感を感じる。まず、キリスト者の母親が信教とわが子への愛情を天秤にかけなければならない時に信教を採ったことが解せない。その後、義母が死去した後、その家屋にすぐ入り拘りなく同居できるだろうか?義母が長年、寝起きし生活していた思いのこもった部屋にだよ?このような所にキリスト教を最上のものとして、迫害は全て迫害する側を悪とし、キリスト教信者は無垢、無謬な被害者とする”演出”を感じてしまう。キリスト教自体には親近感すら持っているが、私が望むのは遠藤周作の『沈黙』のように思い迷いもする人間であったり、踏むがいいと言ってくれる人である。どうも、肌に合わなかった。あっ、あと父親もどうかねぇ、ウチも武家だったけど昭和まで「(武士として)恥ずかしい行いはするな」と躾けられたよ。”改宗”するのが早すぎだよ。徳川家の300年の御恩をそんなに早く忘れられますかねぇ。 続きを読む
投稿日:2020.02.17
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ゴーゴーAi アカデミズム闘争4000日【電子特典付き】
海堂尊 / 講談社
【評価はパス】いや長かった、私には悪くないけど
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新しい事を始めようとしたときに、必ず抵抗があるものだそうで、事の大小に関わらず、その組織が民間企業であろうと官庁であろうとアカデミック界であろうと、さらにはその事の意義にもよらず、必ずあるのだそうで。…それは、新しい物を産み出す発明や開発の苦労とは、全く異質な苦労だそうで。このAiに関する活動の時期は、公私にわたり多忙だったのか、初耳のことばかりでした。一応、専門分野は異なりますが、学の一端にいるので、好奇心で読み始め、同情心と同じ境遇に遭ったときの実用書として読み進め、達成感とため息とともに読了しました。いや、ご苦労をなさったものです。本書の長さが苦労を表現していますね。ダイジェストの説明では、苦労が伝わらないでしょうね。私だったら、作者のように無私高潔、生真面目なスタイルではなく、もっと・・・と考えたりしました(笑)。医学界は「学」の世界でも一番プライドが高いとされていますが、その中も分化しているのですね。私の場合、経済学者に意地悪されたことが(泣)。
余談ですが、作中に出てくる「省(会)議室」は、その省庁で一番格式の高い会議室とされているそうです。一度入れて貰ったときの印象は、まぁ、少し大きな企業の役員会議室程度のものでしたが・・・。本書で私が不足と唯一つ感じるのは、この一連の出来事の略年表を巻末に付けて欲しいと思うことです。目次でも兼ねますが、年表形式の方が見やすいと思うので。 続きを読む投稿日:2020.02.17
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彼女は頭が悪いから
姫野カオルコ / 文春e-Books
されど、よくぞ書かれたと思う
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例えば、子どもの頃、「体に良いから食べなさい」と言われた食物を食べている時のように、中々、読み進むのが大変でした。読みたくて買ったのに、読み難い文章でもないのに。それには、多分、2つの理由があったと思…います。一つには、主人公が大変好感の持てる女性だったので最後の事件を遅らせたいと思う心理が働いたこと。二つには、指摘されているように東大(生)の扱い方に違和感があったこと。エピローグに至る前は、後者が大変気になって仕方ありませんでしたが、エピローグを読み終わると違和感は軽減しました。作者の意図やら本作の存在意義などが感得できたせいかも知れません。勿論、フィクションとしての本作に閉じた感想ですが、感想を文章にして、心を整理したいのですが、箇条書きが精一杯です。
◆主人公が受けた傷とは何か?加害者達は何を傷つけ、傷つけたものが何であるかを理解できないのは何故か?その答えは、尊厳と思いました。人としての、女性として、過去は恋人だった者としての尊厳。憲法で政府が国民に明記して保証している基本的人権です。「誰からも個人として尊重される」権利、その実体を持たない漠然とした概念は、心の無い人間には理解できない種類のものでしょう。
◆本作がこの事件を通じて表現したいことは何だろう?『車輪の下』のように何らかの優越性を他者に持つ者の傲慢だろうか?純真さ故に不幸な事件に遭った悲劇だろうか?容姿や家庭環境で性格や人生が大きく影響を受ける社会への批判だろうか?私は答えを未だ定められずにいる。作者は主人公や加害者の半生と、その家族を紙幅を大量に費やし丹念に綴っている。人間には歴史があり、その人の背景が、その人を語るからだ。それが本作では、極めて重要と作者が考えたからであろう。そして、事件を判決を列挙して終わることも出来るのに、救いのあるエピローグを書いている。そこに理解の鍵があるのだろう。レディになるということを、個として何人から侵されない確たる尊厳を堅持する人間になろうという意味に理解するならば、エピローグは、世の中の困難に対して歩き出す勇気を主人公に与えたものかも知れない。また、そのように願う。
◆本作は読者を感動させはしない。読むのも苦労する。知見を与えてもくれない。しかし、考える契機を与えてくれる。そして、恋愛という当事者にしか分からない(当事者でも分からないことも多いそうだが)心のうちを小説だからこそ文字で描写してくれる。文芸ならではの有難さと思う。この長く、複数人にも亘る、心理描写のうえに作意をのせるのは大変な労力と手腕と思う。これは好悪に及ばず、★5個に値すると考えた。
◆若干の異論を2点だけ挟みたい。1点目は東大(生)についてである。批判も多く出ているようだが、東大を神格化し過ぎているとは同感する。日本一入りにくい大学は京大はじめ異議を唱える人もいるだろう。優秀で恵まれているから、心がツルツル、は東大でなくても成立すると思う。私の知る東大出身者は、所謂”アスペ”系が多い。また、理物出身でも職業が吟遊詩人(プー)だったり、中堅IT企業の平社員だったりする。近所の鶏肉屋の親父は、東大出身者だが入り婿で永年、焼き鳥を焼いて幸せそうにしている。2点目は主人公を批判する人々と一括りにすることに対してである。その中の不用心と批判する派は、結果論から手遅れな心配をしている要素が含まれていると思う。私も無意味であろうと、他人の不幸につい、仮定の助言をしてしまいがちである。自戒に努めているが、どうも治りにくい習慣である。
以上 続きを読む投稿日:2019.08.29
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役人の生理学
オノレ・ド・バルザック, 鹿島茂 / 講談社学術文庫
妙に気になる
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一応「役人をコケにして笑う」ものだが、訳者も指摘するように、バルザックら筆先の鋭い人が書くので、本質的を指摘してしまう。いわく、民主主義と官僚制の本質的欠陥というものに。滅法読みにくいが、随所に気にな…るところがあり、しっかり読み直したいと思う。個人的には、格差の是正策として課税対象を論じているところをじっくり再読したい。ライシュもピケティも所得税の累進課税を格差是正の解決策としているが、実現性は別問題として、別の視点を示されたような気がする。専門ではないので、良く分からないけどね。 続きを読む
投稿日:2019.04.22
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ザ・ベスト・オブ・サキ(1)
サキ, 中西秀男 / ちくま文庫
【評価はパス】「ある死刑囚の告白」を情セキュの見方で
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昔、新潮文庫でサキを読んだときは、解説に「欧米ではO・ヘンリーかサキか」と紹介されていた。日本ではO・ヘンリーの方が有名なのは心温まる話が多いからだと思う。サキは敢えて例えると「笑ゥせぇるすまん」的な…方向なので、敬遠される気持ちも分かる。でも、その中に鋭い人間洞察が見いだせたり、何らかの教訓を読み取れれば面白いと感じると思う。現在、グーテンベルク版もあるので、ガッツリ嵌るならこちら、そうでなければグーテンベルク版を選べば良いでしょう。まぁ、正直、「ある死刑囚の告白」だけ読めば良いや、と思いもする(こちらでは、「1」に収録されています)。
!以下、ネタバレあり注意!
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「ある死刑囚の告白」とは大まかに言えば以下の内容です。
1.主人公の男が、旅の途中、行き倒れて死んでいる男を見付ける。
2.まぁ魔がさして主人公は死んでいる男の服と自分の服を交換した。
3.後で主人公の服を着て死んでいる男が発見され事件となった。
4.主人公は”主人公を殺害した別の男”として逮捕される。
5.主人公は入れ替わっただけと事情を説明するが、信じて貰えない。
6.主人公は死刑が言い渡され、神父が最後の懺悔を聞きに来る。
7.主人公は神父にいきさつの一切を聞いてもらう。
8.神父は帰宅すると刑が執行されたことを表す黒旗を見て悄然とする。
某質問サイトでみたところ
8.の黒旗の意味を誤解している人もいるみたいですね。
また、黒旗を見たあとで世界地図を見る意味は本人を証明する知識と
してバルカン半島の位置を確認したわけです。これは5.の部分に繋が
ります。5.で本人と信用してもらえなかったのは、本人しか知らない
知識を思い出せなかったからです。
この話は今読んでも凄いなぁと思うのです。つまり、今日の情報セキリティにおける本人認証の話としても読めるからです。
専門的には認証の3要素というのですが、どのようなセキュリティシステムも以下の3つのどれか(あるいは組み合わせ)で、その人を本人と認めています。
a.記憶情報:Something You Know PWなど知っているもの
b.所持情報:Something You Have 社員証など持っているもの
c.生体情報:Something You Are 顔や指紋など
主人公は顔を知らない人達に(c.)、自分の服など固有の所持品も持たず(b.)、本人であることを主張するならa.によるしかなかったのですが、それも出来なかった。緊張していてパスワードを忘れてしまったようなものです。
深読みに過ぎるかも知れませんが、サキ畏るべしです。
続きを読む投稿日:2017.08.18