竃猫さんのレビュー
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あゝ野麦峠 ある製糸工女哀史
山本茂実 / 角川文庫
働くって何だろう?
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言わずと知れた、昭和のノンフィクションの金字塔。岩波の「女工哀史」が未だ電子化されていないので、本書が電子版で読めるのが本当に嬉しい。が、電車の中で読むと、うっかりして、つい落涙してしまうかも知れない…ので、注意が必要。
本書を勧める対象は簡単だ。つまり、全ての日本人に勧めるから。日本人なら是非1回は読んでほしい。
特に若者の多くが、本書や大竹しのぶ主演の映画を知らないらしく、残念で仕方ない。
本書は3通りの読み方ができる。1つ目はプロレタリア文学の延長として、2つ目は日本近代史の文献としてである。そのどちらの読み方をしても、最高評価を得ること疑いない。
数年前、デフレ景気の影響で小林多喜二の「蟹工船」といったプロレタリア文学が人気を呼んだとか。多喜二の「セメント樽の中の手紙」にしても、吉村昭の「高熱隧道」にしても本書にしても、今日の日本が尊い犠牲のうえにあることを忘れてはならないことを思い出させてくれる。そして、本書を読むと、日本人自身の犠牲の存在は、もっと日頃から強調されるべきと思えてくる。そうすれば、よそから何か言われても「強制労働だけでなく我々の祖先だって・・・」と主張できる(ただし、私自身はどこの国の人間であったにしろ等しく扱いたいが、いずれにしろ、国力が劣るのは絶対悪に違いない)。
世界遺産を巡る無邪気な喜びと議論を、チョッと斜に構えて眺めてみる。
3番目の読み方は、趣味によるけどマルクス経済の傍証としての読み方。
ロバート・オウエンのような希少な例はあるが、資本主義は抑制されなければ暴走するし、搾取するものなのだ。改めて、ため息とともにジッと手を見る。ただし、製糸業を”生死業”という観点から考察を加えているのは本書の凄みでもある。黎明期の起業家が高いリスクを負っていたとはいえ、そのシワ寄せ先を考えるのではなく、知恵でリスクをなくす仕組みが講じられなかったのか・・・いやあの当時では誰もが精一杯だった、と言うことだろうか。
それにしても、元女工のばあ様達の、肯定的な思い出語りが何とも言えず考えさせられる。
産業革命当時の児童炭鉱労働者からはじまり、現在も世界中に多い児童労働者は?苦しいとは思わないのだろうか?もし、そうならば、それは、選択肢を持たないが故なのだろうか?
続きを読む投稿日:2015.06.05
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梟の城
司馬遼太郎 / 新潮文庫
名作
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娯楽系といっては文豪 司馬遼太郎に失礼かと思うが、超人的な忍者の技には、多少そのような趣を感じる。ただし、だからと言って本作の面白さは変わらない。つまり、忍者の世界の非情さや、駆け引きを通じて司馬が言…いたかったことを汲み取ることに、本書の魅力を見出せるだろう。
本書を推すのは、私ばかりではない。読書家として名高い漫画家 吉野朔美氏のご尊父も本書を推薦している(「お父さんは時代小説(チャンバラ)が好き」)。
続きを読む投稿日:2015.06.05
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走ろうぜ、マージ
馳星周 / 角川文庫
読了していませんが
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私は読み終わってもいないのに、酷い時は自分自身は最初の数ページから先に読み進めないのに、人に作品を強く勧めることがある。例えば、新潮社文庫の「朽ちてゆく命」は代表例だった。本書も同じく、無責任を承知で…強く勧めたい。
「あなたはイヌ派?ネコ派?」という他愛もない分類がある。我が家にも犬がいるものの、清少納言と同じく「小さき者は皆かわゆし」と思う。何故、彼らがこんなにも我々を惹きつけるのだろう?
いろいろ理由を考える人もいるが、種族を超えているとはいえ愛とは理屈を超えたものだという結論は当初から周知のことでもあろう。
手間もかかるし、お金もかかる。ウソもつくし、イタズラもする。ゴハンと水と娯楽と睡眠と散歩をINPUTし、ウンチとオシッコをOUTPUTするだけの存在。でも、まったく前提条件を必要としないで愛情の対象として君臨している、いわば絶対存在。それで良いと思う。
さて、著者はハードボイルドの名手だが、本書の語り口は真摯で落ち着いたもので、驚く読者も多いと思う。それは、愛犬への愛情がいかに深かったかを端的に表していると思う。その愛犬が亡くなるまで軽井沢で過ごした静謐で愛情溢れる日々を日記風に書かれています。
犬好きの人にも、そうでない人にも一読を勧めたい。
追記;
押井守も愛犬家として有名である。ハードボイルド系の人はイヌ好きの傾向があるのだろうか?押井守によれば、人付き合いを面倒と思う人はイヌ好きの傾向があるという。そういえば、西村寿行も「黄金の犬」を書くほどの犬好きだった。ハードボイルドではないがコント赤信号の渡辺正行も愛犬の思い出を絵本にしている。男の子は結構センチメンタルなのである。
続きを読む投稿日:2015.06.19
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火天(かてん)の城
山本兼一 / 文春文庫
とにかく読んで
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紙の文庫本で数年前に読みました。
本と出合う中で、「説明は後でするから、騙されたと思って、とにかく読んでみて!」と人に勧めたくなる作品に出合うことがありますが、本作はまさにそんな作品でした。
モノづく…り男子、プロジェクトリーダーなら本当にお勧め。新入社員研修の課題図書にしても良いくらい。
見せ場の連続ですが、個人的には”大黒柱の修正”をするエピソードが凄い!
だって、アナタ!情報システムの開発で言えば・・・
『総合テスト段階で、全く想像もしていなかったような致命的かつ根本的な不具合が発見された!工期延長や追加資源投入どころか修正自体も不可能。あなたなら、どうする?』
みたいな状況に主人公が立たされるんですよ!?滅茶苦茶、感情移入して、文字通り手に汗を握って読みました。
山本兼一氏は、他の作品も含め、一芸を究めようとする人を描いておられたと思います。夭逝が本当に惜しまれます。合掌
追記;
本作が気に入った人は「雷神の筒」「いっしん虎徹」も、きっと面白いはず。どっちも電子化されていません。意地悪しないで早く電子化して下さいm(_ _)m
追記2;
本作は人気があるようですね。本作と似た作品をもっと読みたいならば、幸田露伴の「五重塔」もお勧めですよ。
続きを読む投稿日:2014.11.11
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ニルスの旅 -スウェーデン初等地理読本-
セルマ・ラーゲレーヴ, 山崎陽子 / 1000点世界文学大系
「ニルスのふしぎな旅」の原作
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今年、永く”オクラ”になっていたアニメ版の劇場映画が上映されたとか(観れなくて誠に残念)。
余りに有名な作品ですが、やはり電子書籍として読めるのはこれだけ。訳とかも心配でしたが、エピソードの省略もなく…、買ってよかったです。昔、紙媒体で読んだ人も安心して買っても良いと思います。
個人的には、第14章 ふたつの町 のエピソードはアニメ版を観たときから印象的でした。当時は経済も成長期だったので、本作に限らず加熱した経済活動に警鐘を鳴らすメッセージを込めた作品が割とあったのです。でも、今回、読み返してみると、キリスト教な背景もあるように感じられました。それが時流的な警鐘に終わらない、深さみたいなものを当時、子供心に感じた理由かも知れません。
それにしても、創作の経緯が面白いですよね。こんな勉強法なら、地理の勉強も楽しくバッチリですよね。
蛇足を少々。口が裂けても誰にも言えませんが、恥ずかしながら、児童文学が未だに大好きです。
リンドグレーン、ゲド戦記、冒険者たちーガンバと15ひきの仲間ー等の名作の電子化を願ってやみません。
続きを読む投稿日:2015.09.02
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田中芳樹初期短篇集
田中芳樹 / らいとすたっふ文庫
喜んで”人柱”になりました。
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収録作品が明記されていなかったので購入を躊躇しましたが、どうせ何が入っていても損はないと思い直した次第です。1978年から1980年にかけての以下の作品が収録されています。ご参考にして下さい。
「緑…の草原に・・・・・・」
「いつの日か、ふたたび」
「流星航路」
「懸賞金稼ぎ」
「黄昏都市」
「白い断頭台」
「品種改良」
「深紅の寒流」
「黄色の夜」
「白い顔」
「長い夜の見張り」
「炎の記憶」
「夜への旅立ち」
「夢買い人」
「ブルー・スカイ・ドリーム」
「銀環計画」
「訪問者」
「戦場の夜想曲」
「闇に踊る手」
「死海のリンゴ」
個人的には、アルスラーン戦記もいいですが、”中国もの”の電子化を期待して首を長くして待っています。
特に「天竺熱風録」は知らない人はビックリするだろうなぁ。苦行の種類が違うから、三蔵法師より凄いとは言わないけど、確実に”彼”は同じ水準の偉人であることは確か。あと、『黒竜潭異聞』中の各短編も魅力的ですよね。「宛城の少女」なんて痛快だと思うのですが、早く電子化しませんか?
続きを読む投稿日:2016.08.20