竃猫さんのレビュー
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名妓の夜咄
岩下尚史 / 文春文庫
大人とは、こういう人のこと。
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麹町に屋敷を構えていた我が先祖も、本書で紹介される料亭の座敷に登ったことがあるかも知れない。
没落した我が身としては、そう歳も離れていないのに、客として登楼すること数知れない作者が唯ひたすらに羨ましい…。
TVは殆ど観ない方なのだが、それでも最近ちょくちょく、お見受けする顔。肩書きが作家ということなので興味を惹かれ読んでみました。
TVでは幇間めいた役回りが多いようだが、実に立派な粋人であり、旦那としての知性を備えた大人物であることが本書を読んで分かりました。
本書の白眉は、名妓の貴重な聞き書きです。
分野が違うので分かりませんが、これだけの記録を持つのならば立派な博士論文が作成できるだろうに・・・。欲のない人だ。
また、名妓の写真が収録されていることも嬉しい。当時の古写真も味わい深いが、作者と歳召された名妓のツーショット写真は特に良い。
往時の美貌と、積み重ねた風格と気品が顔貌、佇まいに顕れている。
故杉浦日向子ならば、この本の価値を理解できるか否かを、黄表紙と並んで試金石にしたかも知れない。大人には一読を勧めたい。
続きを読む投稿日:2015.02.14
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「悪知恵」のすすめ ラ・フォンテーヌの寓話に学ぶ処世訓
鹿島茂 / 清流出版
悪知恵ではなく・・・
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作品中でも説明がありますが、所謂、悪知恵ではなく生きて行くための知恵の書です。
ただし、そこにはフランス人と日本人の違いが出てきます。ですので、異文化理解の読み物としても読め
ますし、あるいは国際関係…論の教訓集としても読めます。基本的に軽い語り口の”読み物”ですので大袈裟
かもしれませんが(笑)。でも割と本気で、今日でも変わらない国際関係論の基本の結晶知だと思い
ます。
いずれにしても、ラ・フォンテーヌを肴に鹿島茂が茶々を入れるというのが基本構成なので、大人の
あなたは時々ニヤッとしながら読むには、お勧めの一冊です。紙の本の岩波のラ・フォンテーヌも入手
困難なことですしね。
時々、著者の茶々が現代日本にも飛び火します。たとえ、その内容が頷けないとしても「著者の意見は
余計だ」など言わずに味として楽しみたいものです。私は酒を嗜めないので、酒場の親父の小言・人生訓
の替りのように楽しみました。親父の小言と茄の花は千に一つも無駄がないと言うじゃないですか!?
余談ですが、鹿島茂は「かの悪名高き」が電子化されることを楽しみにしているで、早くして下さい。
三角形ののど飴の販売権を掌握し、オペラ座のオーナーとして君臨した、稀代のグルマンにして医学博士
万人からの怖れと嫌悪を一身に受けた、かの悪名高き蛸(たこ)博士!
その名もドクトル・ヴェロン!あぁ、思い出しただけでもワクワクします!是非、電子版で!
続きを読む投稿日:2015.05.12
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寝ぼけ署長
山本周五郎 / 新潮社
時代劇ばかりじゃない!
1
毎年、上司にしたい人物のランキングが発表される。
大体が芸能人、スポーツ選手等、まずは名前が知られている人物が上位を占める。毎年繰り返しランキングされる人もいれば、大体は1回だけの人で構成されるように…見受ける。まぁ、一種のお遊びの人気投票なので、そういうモノなのだろう。
ところで、本書はやはり若者に勧めたい。
何年か前に、新潮社のキャンペーンで上司にしたい人物と書かれた帯が巻かれていたことがあった。
けだし、名言、名コピーであった。
最近はメンターとやら言う単語もあるようだが、身近にいて成長の目標の具体像としたい人物、それが理想の上司かも知れない。ねぼけ署長の凄さは、風林火山を体現している点にある。最後の交渉も下手と思ってはいけない。公権力側の外堀を事前に全て埋めてあることを確信してから、実際の交渉に臨んでいる。つまり、勝敗は戦う前に決まっていたのだ。これは戦略は戦術に優先するという用兵の基本とおりだ。警視庁特車2課第2小隊の隊長より、理想像としては現実的と言えるだろう。
続きを読む投稿日:2015.05.30
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幕が上がる
平田オリザ / 講談社文庫
驚いた!演劇って面白い!
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平田オリザ、正直、甘く見てました・・・。演劇、分かっているつもりになってました。ももクロの映画の原作だからではなくても、演劇入門としても、激お勧めです。
読んで損はしません。演劇の魅力や難しさが、部長…の高橋さんの視点で、演劇部の成長をとおして嫌味なく語られています。演劇って、こういう風に作られるものだったんだ(驚)。
恐らく、映画では大分、ストーリーやエピソードを書き換えていると思いますので、映画を観る前にネタバレになりたくないという人でも、読んで大丈夫だと思います。
よくある「原作とイメージが違っていて、映画が楽しめない!」という心配もないと思います。映画の予告編の範囲での推測ですが、人物の造形も、ももクロ向けに
当て書きし直す修正があるのではないかと思います。ですので、両者は別作品として楽しめると思います。例えば、本作での高橋部長、冷静に周囲のことを考えられる
落ち着いた感じの、しっかりした人でロシア文学やシェークスピアも読もうという人です。コミカルな場面もありません。
文章としては、会話や高橋部長の独白を主体にしてスピード感を持って進みますので、読みだしたら一気読み状態です。また、読んでいて情景の浮かぶ文章は、
久しぶりです。やはり演劇の方が書いた小説ならではの魅力と言えるかも知れません。
それにしても、セリフが一々、カッコイイんです。吉岡先生、凄い指導力です。あぁ、ここで作品中のセリフが書けないのが、実に残念だ。
溝口先生ではないですが「すげー、すげー、おまえたちすげーぞ」と、あなたも、私と同じように言うでしょう。
敢えて難をいうなら、演劇部がみんないい子で眩しすぎるところですかね(笑)。
最後に寝台列車の中で、高橋さんが皆からもらう要望という形の評価は、職業人としても最高の賛辞ですね。
なお、本書では宮澤賢治『銀河鉄道の夜』が劇中劇として出てきます。有名な作品ですが、子供向きのダイジェストしか
読んだことが無い人は、事前に読まれると本作も理解しやすいと思います。『銀河鉄道の夜』には複数版がありますが、
「最終形」版に沿っています。例えば、岩波文庫の緑本収録のものは「初期形(ブルカニロ博士編)」版ですので、本作とは
チョット違うのでご注意を。本書の巻末では新潮社版を紹介しています。難解な作品なので読むのはチョットという人には
ますむらひろしの漫画(ISBN4-594-01698-7)か、それのアニメ映画を観るという手もあると思います。
2007年公開の谷村美月主演の実写映画では、鳥捕男を斉藤洋介が演じていて、メイキングで台詞の解釈を説明していました。
これは作品理解のためには参考になりました。映画としては不評でしたが、「演劇」の映像化として観て欲しい映画ですね。
【参宮橋 観光案内(笑)】
東京合宿に使われた青少年センターは、カルチャー棟2階のレストラン「とき」など外来者でも予約等不要で利用できます。本作の紹介とおり小田急
「参宮橋」駅が最寄で、駅から行くと吉岡先生が誘ってくれたであろう歩道橋があります(実際は寄り道しなくても大丈夫です)。ここから望む夜景は
確かにハッとさせられます。タダで観れるお勧め絶景ポイントですね。夜風で冷えたら、駅から来た道にあったラーメン屋「昇龍」がお勧め。餃子が
ウマイです!それと、小田急線踏切脇の電柱にもご注意を。「春の小川」って看板があるでしょ?ここ、あの童謡「春の小川」のモデルとなった川が
あったところなんです(歌碑は代々木八幡駅の近くですが)。
##購入時の投稿##############################################################################################
済みません。これから読むのですが、内容の良さは確信できているので、先に評価をつけさせて頂きました。
読み終わったら、改めて感想を追加させて頂きます。
2月28日公開の映画と、5月の上演に向けて予習しなくちゃ^^v 続きを読む投稿日:2015.01.08
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梟の城
司馬遼太郎 / 新潮文庫
名作
1
娯楽系といっては文豪 司馬遼太郎に失礼かと思うが、超人的な忍者の技には、多少そのような趣を感じる。ただし、だからと言って本作の面白さは変わらない。つまり、忍者の世界の非情さや、駆け引きを通じて司馬が言…いたかったことを汲み取ることに、本書の魅力を見出せるだろう。
本書を推すのは、私ばかりではない。読書家として名高い漫画家 吉野朔美氏のご尊父も本書を推薦している(「お父さんは時代小説(チャンバラ)が好き」)。
続きを読む投稿日:2015.06.05
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危機の宰相
沢木耕太郎 / 文春文庫
もっと下村治を!
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諸君は偉大なる下村博士のことを御存じであろう乎?御存じない。嗚呼、それは大変残念である。(坂口安吾と鹿島茂のパロディです。ご容赦を)
電子版で読める下村治関連書籍が本作だけとは、実に実に実に惜しい!残…念である!
こういう分野は、意見、価値観も様々だから人に勧めるものではないけど、賛否いずれにしてもこの稀代のエコノミストを忘れることは実に惜しい!
講演集を国会図書館で読みましたが、1行を読めば1行に驚きました。生意気を言いますが、今の時代こそ、下村治を読み直す必要があるのではないでしょうか。
【追記】
これまで「バックパッカー向け作家」と思っていたのは、なんという不明だったんだろう。もの凄く、骨太なノンフィクションだ!
下村治、目当てで買ったので、池田勇人と田村敏夫はノーマークでした。時代が呼んだか、世間が呼んだか、いずれにしてもこんな漢気(おとこぎ)ある奴ら滅多に現れない。
畏れ入りました。
続きを読む投稿日:2014.11.25