
トウェイン完訳コレクション アダムとイヴの日記
マーク・トウェイン,大久保博
角川文庫
まぁ、それを受け入れてこそアダムだね
アダムとイブの物語をストレートに現代訳したというより、出版当時(19世紀後半)に合わせた素敵な訳本。スポンサーの関係で楽園の中の滝が「ナイアガラの滝」となっているのがシュール? しかし、内容的にはイヴの理不尽が中々のもの。 名前なんかどうでもよいと思っているアダムに対し、イヴは鳥にドードー鳥と名付ける。理由はドードー鳥はドードー鳥だから・・・・。はい、その通りデス。
0投稿日: 2017.08.04竹取物語
星新一
角川文庫
ストーリーテラーはその時いた
現代語訳をしてくれているが、竹取の話そのものを楽しむのではなく、(竹取の)作者やストーリー構成の評価をしています。かぐや姫に対する4人のプロポーズの「物語」としての見せ方は、口先でだまして×、精巧な贋物で×、そして・・・ って感じでどんどん読者をひきつける構成。 平易な現代語訳をともなってみると、まるで物語の基礎講座のようでした。あぁなるほどねと、納得の1冊。
0投稿日: 2017.08.04君の膵臓をたべたい
住野よる
双葉文庫
生きたいから、精一杯生きているのに・・・
本文は【「**なクラスメート」君】の一人称の語りと、軽妙で知的な「彼女」との会話ですすみます。冒頭で語られる「死」は、高校生のライトな青春悲恋愛物語、または死を直面した時の悲しみをあおる伏線なのでは・・・と勘ぐってしまいましたが・・・違いました。 文中にもありますが「生きる」ということは?という、ややもすれば難しく考えすぎてしまう問いかけに、やさしい気持ちで答えてくれる作品でした。 「膵臓(すいぞう)をたべたい」というちょっと猟奇的な題名に、敬遠気味だったのですが読んでよかった。 すごくよかった。
0投稿日: 2017.08.04紙の動物園
ケン・リュウ,古沢嘉通
新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
文字の魔法は消えていく
伝統と先端、光と影のアイロニカルな対比が素晴らしい短編集。他のレビューでも書かれているように、読後の満足感は相当高かったです。 結縄(けつじょう)といったもはや神秘的な記録方法と最先端製薬会社の駆け引き。太平洋横断トンネルという大事業により第二次世界大戦が起こらなかったif世界。その影には・・・。全ての細菌(乳酸菌も!?)を駆逐した未来の女性が辿り着いたのは、忘れられた人類の末裔が住む細菌いっぱい?の惑星だった。などなど。起こった事、起こした事は不条理でも、それが人類が生きていくリアルだと感じてしまい「ほーぉっ」とため息をついて読了。
4投稿日: 2017.05.17謎だらけ 日本の神さま仏さま
山下昌也
新人物文庫
伝説なんてそんなもの!神様の出自の矛盾はこれで解決!!
謎本というより、純粋な神様たちのプロフィール本。七福神やお地蔵さんなど身近な神様から如来様・菩薩様、はては道真や将門などの神様になった人達まで幅広く網羅。出自からご利益まで徹底解説。 神様たちのヨミは難しいし、インド系の神様と交わってくると正直、知識として覚えられません。しかし作者様の独自の観点でのコメントがとてもシュール。学問の神様で名高い道真でに対しても「一時の受験より、忍耐や執念など一生役に立つ能力をお願いしたほうがよい。」など、とてごもっともなご意見。なんてったて、かなりしつこく祟るのだから・・・。 また、それぞれの神様の真言もちりばめられとても役にたつ本・・・なのかな?? ちなみに巳年生まれのわたしは、普賢菩薩様が守り神で、オン サンマヤ ザトパン が真言。災厄を避ける効力があるとの事。 ありがたいことです。
0投稿日: 2017.05.10神去なあなあ夜話
三浦しをん
徳間文庫
神去マウンテンゲートパーク
主人公、勇気君が仮想読者に話しかける(文章を書いている)流れは「池袋ウエストゲートパーク」みたい。もっともこちらは犯罪や時事ネタとは無関係。伝統やちょっと不思議な出来事(もちろん勇気君の恋も)。そしてその根底にある人と人とのつながりや、厳しくやさしい山に囲まれた環境を、三浦様の美しい言葉で語ります。 (今回はあまり林業そのもののシーンはほとんどありません。ほぼ生活のお話) しかし三浦様の紡ぎだす言葉に、いつものがら感嘆。 クリスマスのご馳走にノコ(犬)が喜ぶシーンで 「ノコもご馳走の匂いに驚いたようで・・」と書きそうなところを「ノコも「ご馳走の香り攻勢」に驚いたようで・・」と。「匂い」を「香り攻勢」ってするだけでぐっと情感がわきました。プロってすごい。
20投稿日: 2017.02.22神様の裏の顔
藤崎翔
角川文庫
裏の顔があるのは・・・おまえだっ!
教育の神様のような先生のお通夜で、係わった人たちが故人を讃える独白で始まります。基本的に「尊敬してました」「素晴らしい人だった」とするものの、ちょっと引っかかる事がちらほらと・・・。そのうち二名がたまたま話をしたことによって、疑惑のラインがつながります。それからは芋づる式で状況証拠のオンパレード。 題名通り、神様には本当に裏の顔があったのか? 状況証拠だけで尊敬していた先生の評価を変えてしまう語り部たちの方がよっぽど裏があるようにも思えますが・・・さて本当の裏の顔はどこにあるのでしょうか? ラスボスをお楽しみに!
16投稿日: 2017.02.22走狗
伊東潤
コルク
暗黒面へ走る!
日本警察の父として(知っている人は?)知っている、川路利良の半生。警察組織創設という素晴らしい実績とは裏腹に、西郷隆盛、大久保利通の下に暗躍するダークな面を伊東節で綴ります。 明治維新の暗黒面に取り込まれていく様は、まさしくダースベイダー。作者様は意識したのでしょうか?正義と信じた事がいつの間にか変質していくのはちょっと怖いぐらいです。自分もそんな風になっていないかな・・・。 元新撰組の斉藤一との絡みや、暗黒面に傾くきっかけとなったフランスの秘密警察の話など、もう少し厚く書いてもよさそうなところもありましたが、あっというまに読み終えてしまうのはさすがの伊東様。面白かったです。
20投稿日: 2017.02.15大空のサムライ
坂井三郎
光人社NF文庫
これが空戦というものか~ただ一心に何かを考えていた。
反戦でもなく、ましてや戦争礼賛でもありません。ただただ、戦闘機乗りとしての視点の戦記です。 刻々と変わる戦況に対応して次々と下す判断。大局的な流れの中での死をも覚悟する精神。それらを支えるフィジカル能力。なによりも零戦パイロットとしてのプライドがここにあります。 生きるにおいて、このようなプライドを持って生きたいと思わせる一冊でした。
15投稿日: 2017.02.09泣くな道真 大宰府の詩
澤田瞳子
集英社文庫
よいキャラを活かすのはムツカシイ
菅原道真は「学問の神様」と「恨み節の怖い人」とギャップのあるキャラクターで知ってはいるけど実際は? 小説なので史実かどうかはともかく、当本のような頭は切れるがちょっと根暗。でも正義感もちゃんとあるといった道真観はよいかも。 話の展開も、道真を上げて下げてといじくって?他の登場人物も魅力的な配置をしているので面白いのですが・・・。如何せんボリュームが足らない感じがします。悪徳貿易商や京からのイヤミな使者、破れ寺の住職等々。うーん、もったいない。
17投稿日: 2017.01.30