
舟を編む
三浦しをん
光文社文庫
美しい言葉が心をつかむ
このようにレビューを書いていても、三浦しをんさまに嫉妬します(おこがましい話ですが・・・)。美しい言葉の数々。「主人公マジメ氏の恋愛の章」の締め一行前の言葉が「・・・月夜だ。」。そしてカグヤさんの目は・・・。こんな心の綺麗な文章をどうやって紡ぎだすのだろう。 全編を通しての主人公はマジメ氏ですが、何の違和感もなく、むしろごく当たり前のように各章の中心人物は変わっていきます。辞書が(実は辞書に限らずほとんどすべての仕事にあてはまると思いますが・・)一人の力でできるものではない事を感じさせる見事な構成だと感じます。 読んでよかった。
36投稿日: 2014.05.25
神去なあなあ夜話
三浦しをん
徳間文庫
神去マウンテンゲートパーク
主人公、勇気君が仮想読者に話しかける(文章を書いている)流れは「池袋ウエストゲートパーク」みたい。もっともこちらは犯罪や時事ネタとは無関係。伝統やちょっと不思議な出来事(もちろん勇気君の恋も)。そしてその根底にある人と人とのつながりや、厳しくやさしい山に囲まれた環境を、三浦様の美しい言葉で語ります。 (今回はあまり林業そのもののシーンはほとんどありません。ほぼ生活のお話) しかし三浦様の紡ぎだす言葉に、いつものがら感嘆。 クリスマスのご馳走にノコ(犬)が喜ぶシーンで 「ノコもご馳走の匂いに驚いたようで・・」と書きそうなところを「ノコも「ご馳走の香り攻勢」に驚いたようで・・」と。「匂い」を「香り攻勢」ってするだけでぐっと情感がわきました。プロってすごい。
20投稿日: 2017.02.22
走狗
伊東潤
コルク
暗黒面へ走る!
日本警察の父として(知っている人は?)知っている、川路利良の半生。警察組織創設という素晴らしい実績とは裏腹に、西郷隆盛、大久保利通の下に暗躍するダークな面を伊東節で綴ります。 明治維新の暗黒面に取り込まれていく様は、まさしくダースベイダー。作者様は意識したのでしょうか?正義と信じた事がいつの間にか変質していくのはちょっと怖いぐらいです。自分もそんな風になっていないかな・・・。 元新撰組の斉藤一との絡みや、暗黒面に傾くきっかけとなったフランスの秘密警察の話など、もう少し厚く書いてもよさそうなところもありましたが、あっというまに読み終えてしまうのはさすがの伊東様。面白かったです。
20投稿日: 2017.02.15
散り椿
葉室麟
角川文庫
その想いに応えたくて・・・
不正を告発したため、本社を追われたエース社員が妻の死をきっかけに帰ってきた。おりしも妻の元許婚を筆頭とした創業者一族と、新規事業で会社を立て直した専務派の派閥争いの真っ只中。新入社員の甥っ子も、知らず知らずに争いの中に巻き込まれていく・・・。そのまま現代版にできてしまいますが、時代劇でやらないと生々しすぎるかな。 ストーリーは上記のようにベタな流れですが、妻の愛しい気持ちが男たちを切なくさせます。ある意味、愛って残酷なのかな・・・。「褒めてくれるか?」って旦那(私の!)の本音です・・・、多分・・・。
20投稿日: 2015.09.01
帰ってきたヒトラー 上下合本版
ティムール・ヴェルメシュ,森内薫
河出文庫
そしてあなたも我が党の!
タイムスリップモノの王道。過去の特徴のある人物(ヒトラーを偉人というのはちょっと・・・)が現代に現れたらなにが起こるか! しかし保守本流の面白さ=「現代とのギャップによる勘違いや騒動」は導入期のみ。。ヒトラーの現状認識力の高さは、「自分流に現状を解釈」して「自分の理想に向けて(積極的に!)活動」をする、一種のサクセスストーリー的な爽快感を感じさせます。「おぉ、結構正しいこと言っているじゃん!。その通り!」なんて思っていると、いつの間にか、登場する人物も政党も、そして私(あなたも)も・・・。怖い。
19投稿日: 2016.06.10
空飛ぶ広報室
有川浩
幻冬舎文庫
スカイよ!泣いてもいいんだぜ。
ドラマ(2013年放映:綾野剛・新垣結衣)を先に見ているのですが、ドラマ・原作共に大変よく出来ていると思います。ドラマは私が見た中で、初めて3.11の震災を扱った内容であったと記憶しています。その扱いはただリアルな「悲しみ・苦しみ」だけでなく、自衛隊側からみたあの震災を、誇張しすぎずかつ不必要なドラマ仕立てもなく、とてもよいものと感じました。当本の別章「あの日の松島」がそれにあたります。 メインのストーリーは、航空自衛隊広報室のお話。有川様の2大得意分野「自衛隊」+「お仕事」の夢のコラボ?。 元パイロットの広報官、空井君の想いが発露するシーンが泣けますが、お涙頂戴になりすぎず、周辺も丁寧に描いてとてもバランスのよい出来です。その反面、平坦なイメージがするな・・・と思ってしまうのは読者の贅沢なのだろうとちょっと反省。
18投稿日: 2016.07.23
家康、江戸を建てる
門井慶喜
祥伝社
施政者が目的を示したなら、現場が応える!応えたい!
小田原攻めの秀吉-家康の連れションで「関東を(家康に)やる」というシーンより始まります。ちょうどNHK大河「真田丸」(2016年6月)でも同様のシーンがあり、個人的にはタイムリーな読書でした。 合戦ではなく、内政による江戸幕府の出来ざまを描きます。造成(河川治水)、鋳造(貨幣)、水道、土木建築、そしてランドマーク(天守閣)と都市行政とはこういう事だと納得の一冊。最初と最後に施政者(家康)の視点が示されるのも秀逸。なるほど、後は現場が動くだけ!・・・そうありたい・・・。
18投稿日: 2016.07.08
泣くな道真 大宰府の詩
澤田瞳子
集英社文庫
よいキャラを活かすのはムツカシイ
菅原道真は「学問の神様」と「恨み節の怖い人」とギャップのあるキャラクターで知ってはいるけど実際は? 小説なので史実かどうかはともかく、当本のような頭は切れるがちょっと根暗。でも正義感もちゃんとあるといった道真観はよいかも。 話の展開も、道真を上げて下げてといじくって?他の登場人物も魅力的な配置をしているので面白いのですが・・・。如何せんボリュームが足らない感じがします。悪徳貿易商や京からのイヤミな使者、破れ寺の住職等々。うーん、もったいない。
17投稿日: 2017.01.30
ペンギン鉄道 なくしもの係
名取佐和子
幻冬舎文庫
過ぎ去った優しさも今は甘い記憶♫
ペンギンが乗ってくる鉄道を中心に展開する4つのハートフルストーリー・・・・。といってしまえば簡単なのですが、本当にその通りなので、ホワッとしたい方にお勧め。なぜペンギンがということもふまえて、ちゃんと収めてくれるので安心の一冊であります。
17投稿日: 2016.07.27
神様の裏の顔
藤崎翔
角川文庫
裏の顔があるのは・・・おまえだっ!
教育の神様のような先生のお通夜で、係わった人たちが故人を讃える独白で始まります。基本的に「尊敬してました」「素晴らしい人だった」とするものの、ちょっと引っかかる事がちらほらと・・・。そのうち二名がたまたま話をしたことによって、疑惑のラインがつながります。それからは芋づる式で状況証拠のオンパレード。 題名通り、神様には本当に裏の顔があったのか? 状況証拠だけで尊敬していた先生の評価を変えてしまう語り部たちの方がよっぽど裏があるようにも思えますが・・・さて本当の裏の顔はどこにあるのでしょうか? ラスボスをお楽しみに!
16投稿日: 2017.02.22
