
空飛ぶ広報室
有川浩
幻冬舎文庫
スカイよ!泣いてもいいんだぜ。
ドラマ(2013年放映:綾野剛・新垣結衣)を先に見ているのですが、ドラマ・原作共に大変よく出来ていると思います。ドラマは私が見た中で、初めて3.11の震災を扱った内容であったと記憶しています。その扱いはただリアルな「悲しみ・苦しみ」だけでなく、自衛隊側からみたあの震災を、誇張しすぎずかつ不必要なドラマ仕立てもなく、とてもよいものと感じました。当本の別章「あの日の松島」がそれにあたります。 メインのストーリーは、航空自衛隊広報室のお話。有川様の2大得意分野「自衛隊」+「お仕事」の夢のコラボ?。 元パイロットの広報官、空井君の想いが発露するシーンが泣けますが、お涙頂戴になりすぎず、周辺も丁寧に描いてとてもバランスのよい出来です。その反面、平坦なイメージがするな・・・と思ってしまうのは読者の贅沢なのだろうとちょっと反省。
18投稿日: 2016.07.23絶対読むべき日本の名作 蟹工船
小林多喜二
ゴマブックス
過酷
蟹の漁と缶詰加工が一体となった漁船。そこに詰め込まれた労働者の過酷な状況をひたすら描写する。 書かれた時代背景や労働者の権利が確立される過程とかを勉強してからでないと、読むのはつらいかもしれません。ご注意を。
12投稿日: 2016.07.09家康、江戸を建てる
門井慶喜
祥伝社
施政者が目的を示したなら、現場が応える!応えたい!
小田原攻めの秀吉-家康の連れションで「関東を(家康に)やる」というシーンより始まります。ちょうどNHK大河「真田丸」(2016年6月)でも同様のシーンがあり、個人的にはタイムリーな読書でした。 合戦ではなく、内政による江戸幕府の出来ざまを描きます。造成(河川治水)、鋳造(貨幣)、水道、土木建築、そしてランドマーク(天守閣)と都市行政とはこういう事だと納得の一冊。最初と最後に施政者(家康)の視点が示されるのも秀逸。なるほど、後は現場が動くだけ!・・・そうありたい・・・。
18投稿日: 2016.07.08フランダースの犬
ルイズ・ド・ラ・ラメー,和田今日子,WIPジャパン株式会社
ゴマブックス
運命は過酷だけど、まっすぐに生きよう。ねぇ、パトラッシュ
アニメ先行、しかもラストシーンが印象にありすぎて、いかがなものか?と思いましたが・・・そのアニメの印象通り、いやいやその感動(悲しみ)を超えていけます。 まっすぐなネロとパトラッシュの愛。悪意がないのに悪意が形成されてしまうムラ社会。 そして二人は・・・。ネロ・パトラッシュを追い込むのは「単に娘をもった親の心配」であるのがなんとも切ない・・・。 パトラッシュの心情も的確に表現できている翻訳も素晴らしい。お勧めです。
10投稿日: 2016.07.08オリエント急行殺人事件
アガサ・クリスティ,古賀照一
グーテンベルク21
「真相だけが正しい」か?ポワロも悩む。
個人的な「古典ミステリーを読もう月間」(なんのことやら^^;)に読んだ名作。古典ミステリーに慣れてきたこともあり、世界観にすんなり入れてよかったです。大作なので古いミステリーが初めての方は、短編(ホームズでもマープルでも)を読んでウォーミングアップをしてからのがよいかもしれません。 内容はさすのが名作。列車という動く密室と大陸間鉄道ゆえの多様な乗客。話がよじれるというより、平行線で交わらないそれぞれの話がまとまって行くときに、名探偵ポワロの出した答えは・・・。私の玉虫色の脳細胞ではたどり着けませんでした。 (余談)有名な「灰色の脳細胞が・・・」というセリフはこの本(訳?)では出てこなかったような・・・気がします。
12投稿日: 2016.07.08しずかな日々
椰月美智子
講談社文庫
ノスタルジックが波のように
5年生になった少年が、一人の友達に出会うことによって、引きこもりがちであった日々から少しづつ抜け出し、暖かい場所に漕ぎ出す、まさにその瞬間を切り取った一冊。わずか1学期から夏休みにかけての話。(幼い)世界が変わる瞬間って、ある人にはあるのだなって感じます。自分もありました。 少年の一人称で語られますが、ところどころに作者の大人目線が感じるのと、典型的な日本の田舎の原風景をつくりすぎのようにも思います。お母さんのエピソードも本当に必要なのか疑問。ノスタルジックな内容は映像の方が向くかもしれません。
13投稿日: 2016.07.08オービタル・クラウド 上
藤井 太洋
ハヤカワ文庫JA
希望と悪夢は軌道上で別れてる
オービタル(軌道)のクラウド(雲)。小さな宇宙空間推進装置「スペーステザー」の集まりがまるで雲のように見えることからこの題名。導入部は科学用語も多く何のことやらさっぱり分からず「雲」をつかむような話でした・・・が、話のが進むにつれて目が離せなくなります。 大雑把な流れは、「天才宇宙科学者が北朝鮮のテロに加担して、それに立ち向かう主人公チームの話」なのですが、ここかしこに宇宙へのフロンティアスピリッツが溢れています。宇宙という希望へと向かう話は個人的にとても好感がもてました。 このところ(2016年)「火星の人」や「ゼログラビティ」など宇宙モノはサバイバル要素が強いように感じていましたが、やっぱり宇宙は「ライトスタッフ」がいいなぁ。
15投稿日: 2016.06.22ミス・マープルのご意見は? 1
アガサ・クリスティ,各務三郎
グーテンベルク21
あの時もそうだったのよぅ~
アガサ様の2大キャラクター、ポアロと双璧のミス・マープル。ビジュアルでイメージするとおりの優しいおばあさんの推理する短編集。さまざまな職業の人が集まって、過去の難事件を語り、各自が犯人を推理する趣向で話が進みます。 時代とはいえ結構荒い捜査が多いのですが、「あの時もそうだったのよ」的な切り口でマープル様が言い当てます。 当本では安楽椅子探偵の典型ですが、他の本では活動的なマープルもあるようです。まずはこの本で入門しましょう。
13投稿日: 2016.06.22史上最強の内閣
室積光
小学館
直感的な政策はカイカンだけど・・・
歴史上の人物になぞらえて”影の内閣”が法律その他全て無視して突然参上。主に対北朝鮮、主にミサイル発射に対しての短期専門内閣ってところでしょうか。 直感的に「こうすりゃいいのに」と思う政策をズバッとやっていくので、ある意味快感ではありますが、作中のTV記者がいうように「これはファシズムでは・・・」ってのもその通りに感じます。 まぁちょっとやりすぎかな。
14投稿日: 2016.06.22帰ってきたヒトラー 上下合本版
ティムール・ヴェルメシュ,森内薫
河出文庫
そしてあなたも我が党の!
タイムスリップモノの王道。過去の特徴のある人物(ヒトラーを偉人というのはちょっと・・・)が現代に現れたらなにが起こるか! しかし保守本流の面白さ=「現代とのギャップによる勘違いや騒動」は導入期のみ。。ヒトラーの現状認識力の高さは、「自分流に現状を解釈」して「自分の理想に向けて(積極的に!)活動」をする、一種のサクセスストーリー的な爽快感を感じさせます。「おぉ、結構正しいこと言っているじゃん!。その通り!」なんて思っていると、いつの間にか、登場する人物も政党も、そして私(あなたも)も・・・。怖い。
19投稿日: 2016.06.10