
悪魔の涙
ジェフリー・ディーヴァー,土屋 晃
文春文庫
ベストセラー作家の技巧
アメリカを代表するベストセラー作家の物語つくりに関する技巧を堪能できる作品だと思います。 文書鑑定という主人公の持つ地味なスキルと大晦日1日の出来事という制約の中で、リーダビリティの高い物語を見事に作っています。生半可な作家ならば、他にも特殊技能を持つキャラクターを配したキャラクター小説にするか、主人公と犯人役に過去の因縁話を持たせて過去パートを描いて枚数を稼ぐなどするでしょう。 ディーヴァーは、単に主人公が地味文書を調べる姿を描くのではなく。、4時間ごとに予告されたマシンガンの乱射を阻止するというサスペンスを盛り上げるイベントを盛り込み、読者を飽きさせない工夫をしています。また、その枠を敢えて外すイベントを設けることで、どんでん返しの要素を読者に提供することも忘れていません。 読者を楽しませる技巧とサービス精神に富んだ作品なので、読んで損は無いと思います。その一方、イベントを順番にクリアし、アイテムを入手したら、その次のイベントに進むといたゲーム的なストーリーなので、再読することは無いと思います。 まとめれば、大変おいしいファーストフードといった例えが似合う小説だと思います。
2投稿日: 2015.04.27聖母伝説
半村良
角川文庫
半村良の最初の一冊としては勧められない
何冊か半村良の本を読んだ後に読むなら良いのですが、最初の一冊としては勧められません。 物語は半村良の自伝的な要素を含んでいるらしく、大半の筋はバーテンダーから喫茶店経営、広告代理店と主人公が職を変わっていく中での恋人との関わりなどが中心に描かれています。 で、背景にあった不思議要素が前面に出てきたなと思うと・・・(ネタばれになるので略) 最初に読むなら、同著者の「黄金伝説」や「獣人伝説」のほうがSF的な要素を楽しめると思います。
0投稿日: 2015.04.01青い虚空
ジェフリー・ディーヴァー,土屋 晃
文春文庫
意外といける
コンピュータ(インターネット)を中心にすえた話は賞味期限が短いかなと危惧しながら読み始めましたが、意外と面白く読めました。 スマホ、ツイッター、Lineなどは出てきませんが、根底にある情報操作の恐れは今も本書が書かれた当時も同じだからだと思います。 物語は二人のハッカーの知恵比べで進みますが、捜査陣の中に潜む裏切り者の使い方が巧みで、良い意味で予想を裏切られました。 IT関連の専門用語が比較的出てくるので、専門用語にアレルギーがある方は敬遠するかもしれませんが、追いつ追われつの知恵比べの物語を楽しめる、上質のエンターテイメント小説だと思います。
0投稿日: 2015.04.01007 白紙委任状(上)
ジェフリー・ディーヴァー,池田真紀子
文春文庫
ボンドっぽくない
初めて読んだジェフリー・ディーヴァーですが、いまひとつの感じでした。 理由は、 - 私にとってあまり007ぽく無いこと。ボンドガールや秘密兵器も出てこないですし、ボンドが妙にまじめでしゃれた感じがしない。 - 敵が余り魅力的でも強力にも思えないこと。うそ臭くても世界征服を目指すくらいの悪役でないと。 - どんでん返しがうそ臭い。伏線も何も無く、「実はあの時こうでした・・・」と後から説明されても、どんでん返しのサスペンスも薄らぎます。 話の組み立てはそれなりに良くできて、最低限の水準は超えていると思いますので、軽めのエンターテイメントを探す人は、読んでみても良いかもしれません。
0投稿日: 2015.04.01マラッカ海峡
谷恒生
集英社文庫
70~80年代の日本映画の雰囲気が濃厚
70~80年代の日本映画の雰囲気が濃厚な作品ですが、今読んでも、却って時代のもつ空気の差を楽しめるのではないでしょうか? 登場人物の動機付けに説得力が欠ける点や、ややご都合主義的な展開がマイナスポイントですが、主人公のストイックで非情な価値観など、登場人物のキャラクターは良く描き分けられているのではないでしょうか。 ご都合主義と書きましたが、その一方で物語りはさくさくと進み、読者を飽きさせないつくりとなっているので、読んで損は無いと思います。
1投稿日: 2015.04.01