
宝石泥棒
山田正紀
角川文庫
文句なしの名作
異世界を舞台にしたSFで、一癖ある登場人物が、想像力を駆使した不思議な異世界を旅する姿を楽しむことができます。 商品説明だけを読むと、よくあるような異世界ファンタジーや秘境冒険物語かと思いますが、徐々に垣間見える違和感が大きなSF的な仕掛けにつながっていて、SFファンをうならせること間違いなしといえるでしょう。 連作短編風のつくりで、たとえば一見マクベスのパクリに見えても徐々にそれを乗り越えた独自の物語を語る第二部など、個々のパートも異世界ぶりやストーリーが面白く読めると思います。 そして終盤に、物語が隠されていた事実を提示するとき、読者は世界が一変するSFならではの面白さを味わうことができると思います。 SFファンなら、読んで損は無い名作だと思います。
4投稿日: 2015.05.19丑三つ時から夜明けまで
大倉崇裕
光文社文庫
最後の短編を読むと、ブラックな余韻が残ります
異能者のチームが出てくる物語というと、チームメンバーに突拍子も無い技能や性格付けをして、それをネタに作品を書き連ねるということを想像しますが、本作で作者はそのような手段に訴えず、ワンランク上を狙っているような印象を持ちました。 各短編は、バラエティに富んでおり、単に幽霊が犯人でしたという安易な落ちを避けたアイデア豊かな作品群に仕上がっています。 また、各短編はユーモアを湛えているものの、最後の短編まで読むと、全体にそれまでの作品に仕掛けられた伏線が活きて、ブラックな余韻を残してくれます。 欲を言えば、もう少し最後の作品につながる伏線を仕込んでくれた方が衝撃があったように思いますが、水準以上の作品です。
0投稿日: 2015.05.18崑崙遊撃隊
山田正紀
角川文庫
秘境冒険ものの醍醐味
一癖あるメンバーが集まり、伝説の土地を目指すという秘境ものの王道的な物語だと思います。 短い作品ですが、登場人物(特に探検隊のメンバー)が良く描かれてあり、山田正紀氏の想像力が生み出す異世界を舞台に、冒険物語を堪能することができると思います。
1投稿日: 2015.05.18弥勒戦争
山田正紀
角川文庫
名作「神狩り」が気に入ったら、こちらもぜひ
同じ神との戦いをテーマにした作品なら、「神狩り」を先に読んだ方が作者の作風/見方になれるという点から良いと思います。 ページ数が少ない分、書き込みが少なく、もっと読みたいと思わせる部分が多くありますが、超能力者たちの悲劇的な生き様を描く、無駄の無い物語は「神狩り」を気に入った人なら、こちらも楽しめると思います。
2投稿日: 2015.05.18黄金伝説
半村良
角川文庫
これまで読んだ半村良作品では、ベスト級
冒頭の謎の提示から、あれよあれよと物語が進んでいくので、読者を飽きさせない反面、物語世界の価値観が途中で変わるような点を好まない人がいるかもしれません。 しかし、半村良らしい、冒頭の謎、めまぐるしい展開、がらりと変わる物語の世界観、唐突ながら思い切りの良いラストが楽しめる作品です。 これまで読んだ半村良の作品では、かなり上位に入っています。
3投稿日: 2015.05.18獣人伝説
半村良
角川文庫
半村良の良い面が詰まった作品
尻尾の生えている人が見えるという不可思議な現象から始まる物語は、半村良の作品の中でも特にリーダビリティが高いと思います。 冒頭の謎から、追う側から追われる側への転換する構成の妙、虚無感を湛えたラストまで、半村良の魅力が詰まっているといえるでしょう。 代表作として挙げられる「石の血脈」や「妖星伝」といった大作に気後れしている人には、最初の一冊としてお勧めできます。
4投稿日: 2015.05.18不可触領域
半村良
文春文庫
ちょっとネタばれ
ひとつのアイデアで引っ張る作品なので、そのアイデアを受け入れることができるかで評価は分かれると思います。 もったいぶった割りに最後が強引のような気もしますが、メディアによる群集操作というテーマは、現在にも通じると思います。
0投稿日: 2015.05.182010年宇宙の旅〔新版〕
アーサー・C・クラーク,伊藤典夫
ハヤカワ文庫SF
小説ではなく、SFを楽しみたい向け
有名な「2001年宇宙の旅」の続編です。作中で前作の出来事が語られる箇所もありますので、先に前作の映画か小説を読んでいる必要があるでしょう。 さて、肝心の本編ですが、クラークは小説作りがへたくそなくせに、背伸びをして、重層的な物語を書きたがるところがありますが、本作もその悪癖が出ています。断片的に語られるエピソードは、説明不足で分かりにくく、挿入される家庭的なエピソードは物語の焦点をぼかしています。 しかし、クラークの真骨頂は、ベストセラー作家的な小説の巧拙ではなく、SFならではの壮大なビジョンを提示してくれるところにあるのでしょう。ボーマン船長の意識が宇宙を駆け巡るなかで垣間見せてくれる美しい異世界の姿、最後に提示される時間と空間の果てしない広がりと可能性は、SFを読む面白さ、醍醐味を存分に堪能させてくれると思います。
2投稿日: 2015.05.08人喰いの時代(電子復刻版)
山田正紀
徳間文庫
物語世界が一変するおもしろさ
連作短編集ですが、最後の短編を読むと物語世界が一変します。 個々の短編の面白さもさることながら、全巻を読み終えて、新しい意味を与えられた物語を再考するとき、読者は2度目のカタルシスを味わうことができるのではないでしょうか。 SF作家として当時、既に地位を確立していた作者がミステリに挑戦した作品とのことですが、SF作家の余技でもなく、SF作家とミステリ作家が一人の人物に共存しているということでもなく、あくまで作家がSFでも通用する技量と想像力を駆使してミステリ作品としても優れた物語を書き上げたといえると思います。
1投稿日: 2015.04.27刑事たちの四十八時間
アレックス・グレシアン,谷泰子
東京創元社
胸打つ物語
主人公たちが余りに善人で捜査にひたむきに打ち込む姿が、非人間的に思えるかもしれませんが、古い時代を描いているのであまり違和感を感じません。むしろ物語という虚構の世界では、他の小説に良く出てくる「過失から同僚(もしくは妻、目撃者など)を死なせた心の傷をもった刑事の再生物語」よりも、ストレートに物語りに没頭させてくれると思います。 物語自体は、複数の事件が平行して起きるモジュラー形の構造で、雪の降り積もる炭鉱町を舞台に刑事たちの奮闘する姿を描き、飽きさせずに読ませてくれます。 特に物語終盤の大惨事の中、犯人を追い、人々の命を救うため奮闘する主人公たちの姿は、理想化されすぎ、非人間的という批判もあるかもしれませんが、他のお涙頂戴の盆百のストーリーに比べて、遥かに胸を打つと思います。
0投稿日: 2015.04.27