
男の首
ジョルジュ・シムノン,宗左近
グーテンベルク21
悪役の人物像が秀逸
メグレが当初犯人と思われた男をあえて逃がして、その裏に潜む真犯人を追うというストーリーです。 この真犯人は、すぐにメグレの前に姿を現すもののなかなかシッポをつかませません。黙っていれば、完全犯罪になりそうなのに、メグレを挑発するような態度を取り続けるしたたかな人物で、メグレも苦戦します。この犯人の屈折した人物像が本作の読みどころだと思います。 謎解きよりも、人物描写を重視する人におすすめです。
0投稿日: 2016.01.23みんなバーに帰る
パトリック・デウィット,茂木健
東京創元社
冷めた文体
酔っ払いたちの姿を次々に紹介していく第1章、主人公が壊れていく第2章、主人公の更生努力?を描いた第3章と、(内容略)第4章から成り立っています。 中心的なストーリーがあるわけではなく、主人公を含む、酒場に集まる酔っ払いと麻薬中毒者の救いのない破滅的な姿が短いエピソードを積み重ねながら描かれていきます。 救いのない暗い物語かもしれませんが、自己憐憫も他者批判も感じられない冷めた視線で語る文体は、以外にもからっとした読後感を与えてくれます。 好き嫌いが分かれるかもしれませんが、同著者の「シスターズ・ブラザーズ」の文章が好きだった人には、文句なくお勧めできると思います。 一方で小説に起承転結のはっきりしたスリルあふれる物語を求める人は、不満に思うかもしれません
0投稿日: 2015.10.11土星の衛星タイタンに生命体がいる! 「地球外生命」を探す最新研究(小学館新書)
関根康人
小学館新書
丁寧な語り口の良書
少々タイトルが扇動的ですが、そこは割り切って。 地球との比較から、金星、火星の成り立ちと生命が存在する可能性を説明する第1章、タイタンを中心に木星、土星の衛星について論じる第2章、太陽系の外の世界での生命の可能性を論じた第3章と、大体3部構成になっています。 説明はとても丁寧で、初学者にも分かりやすい内容だと思います。 その一方で、内容も豊富で、水を前提にした地球の生態系の説明から、発展して、水の代わりにメタンやそのほかを前提とした生命体の可能性についての議論まで話を拡張してくれています。たまに一般紙の科学ニュースで、系外惑星が水のハビタブルゾーンに見つかった、生命の存在が期待できるかも?といった趣旨の記事が載ることがありますが、本書は水は必ずしも生命体の必須条件とは限らないこと、そのうえで、他の化合物を利用した生命活動の可能性が宇宙に満ちていることを読者に提示してくれます。 一般紙の報道をみて、興味を持った人が次に読む本として、お勧めできます。
2投稿日: 2015.10.11題未定 怪奇SF
小松左京
文春文庫
ユーモアあふれるSF
シリアスな作品も多く書いている作者ですが、本作は、ユーモアにあふれる物語です。 とはいえ、内幕話のような作者と編集者のやり取りや筆が進まないことを嘆く日常?的なシーンから、SF的な仕掛けが表に出てくるシーンへの切り替えなど、かなり考えられた構成になっているように思いました。 「怪奇SF」という副題は、ご愛嬌としても、SFの道具立てが惜しげ無く投入された物語は、おおらかに楽しめるSFとしてお勧めできると思います
1投稿日: 2015.09.28新釈 走れメロス 他四篇
森見登美彦
祥伝社文庫
「走れメロス」が白眉
「走れメロス」が白眉ですが、元ねたを知っていれば、その巧みなパロディぶりに爆笑できると思います。 「走れメロス」は、本家は時間内に王の下に戻る、本作は時間まで逃げ切ると、間逆の前提に立ちながら、随所に本家を髣髴させるシーンを交えて、より大きな笑いにつなげてくれます。 どこを本家から踏襲して、どこを直したかという点だけでも興味深く読めるのではないでしょうか?
1投稿日: 2015.09.28闇の中の哄笑
半村良
角川文庫
今度は、グランドホテル形式
本作は、とあるホテルに集まった政治家、金融家、嘘部一族、その他いろいろな人をグランドホテル形式で描いた作品で、半村良氏の作品にしては、珍しい部類に入ると思います。 それまで、人を操りだます側として、絶対的な立場に立っていた、嘘部一族が疑心暗鬼になっていくさまなど、興味深いストーリー展開ですが、話の面白さ自体は、前2作に劣るかと思います。 本シリーズは、作品毎にスタイルを変えているので、3作まとめて読むと、半村良氏のいろいろな面を見ることができると思います。
0投稿日: 2015.09.28闇の中の黄金
半村良
角川文庫
3部作の中では、一番面白い
サラリーマン社会に属する主人公が邪馬台国を巡る謎に巻き込まれていく、、、というストーリーは、「伝説」シリーズに通じるものがあり、嘘部シリーズの中でも一番面白く読めました。「黄金伝説」などの「伝説」シリーズを面白く読んだ人は、本作品も楽しめると思います。 その一方で、嘘部シリーズの一つということ自体が、重大なネタ晴らしになっていて、最後の驚きを損なっているのが残念です。
1投稿日: 2015.09.28闇の中の系図
半村良
角川文庫
半村良氏の良い面が出た作品
おおよそ三部構成になっていて、天性のうそつきである主人公の日常、秘密組織にスカウトされ訓練の日々、彼らが大掛かりな仕掛けの3つに分かれています。 二つ目のパートは、やや説明的ですが、嘘が嘘を読んでいく最初のパートの面白さは、半村良氏の作品の中でも上位の入ると思います。 短い作品ですが、皮肉さを湛えたラストを含めて、半村良氏の良い面が出ている作品だと思うので、お勧めできます。
2投稿日: 2015.09.28ラスト・タウン―神の怒り―
ブレイク クラウチ,東野 さやか
ハヤカワ文庫NV
まあ、終わりよければ。。。
第2部の終了時点から、第3部がスタートします。ストーリー面でも、第2部で描かれた謎をきっかけに第3部の冒頭に当たる混乱が引き起こされるので、事実上、第2部と第3部は上下巻と思っても良いかもしれません。なので、二冊まとめて購入しておくか、電子書籍のようにいつでも買える環境があったほうが良いと思います。 肝心の物語は、まあ、良くあるサバイバルものかな~というトーンで進んで、第1部にあったような奇想が見られなくて残念だと思って読んでいると、混乱が収束したあとに被とひねる用意されています。 最後に登場人物たちが取る決断は、第1部に負けず劣らずの、面白アイデアなので、このオチを読むためにも最後まで読んでよかったと思いました。 第2巻、第3巻は、ご都合主義的な展開や似たようなシーンが何度も出てきたり、登場人物の掘り下げがもう少しほしかったりと、欠点も多いと思いますが、勢いとアイデアのひねりで最後まで読ませてくれたと思います。 軽い娯楽作品を読みたい人にはお勧めできると思います。
2投稿日: 2015.09.09ウェイワード―背反者たち―
ブレイク クラウチ,東野 さやか
ハヤカワ文庫NV
第3巻への布石
第2巻は、一見、ミステリ風ですが、謎解きの要素は余りありません。 どちらかというと、第1巻の最後に出てくる驚きと、第3巻で爆発する物語の間をつなぐためのストーリーという感じです。 背景説明のための挿話といったエピソードもあるので、第1巻よりも面白みは劣るかもしれませんが、第3巻への布石として読んでもらえればと思います。
1投稿日: 2015.09.09