
リア王
シェイクスピア,三神勲
角川文庫
解説が充実
ストーリーは良く知られていますが、意外と実際に読んだ人は少ないのかもしれません。 実際に読むと、リア王とその娘たちを中心とした、古代ブリテンを舞台に、権力闘争とその原動力ともなる欲望や嫉妬などの感情がうごめくドラマが展開されます。 極端な性格付けがされたキャラクターは今読むとおかしいと思えるところがありますが、巻末の解説を読むと敢えてそのようにしたことによる効果が説明されていて理解を助けてくれます。 予定調和の物語を排して、悪意や欲望に虐げられる人々の姿は、悲劇の名作に呼ぶにふさわしいドラマを見せてくれます。
0投稿日: 2015.08.20甲賀忍法帖 山田風太郎ベストコレクション
山田風太郎
角川文庫
山田風太郎氏の忍法帳シリーズを読むなら、まずこの作品を
伊賀、甲賀に分かれた忍者が生き残りをかけて忍法合戦を行う・・・という話ですが、そこに、伊賀・甲賀の若きリーダーの悲恋、奇想を聞かせた忍術の数々など話を面白く膨らませる要素が詰まっています。 特に、1対1の対決を順番に見せるという単純な構成を避けた物語は、先が読めず、はらはらとした展開で楽しませてくれます。 似たようなタイトルの作品がたくさんありますが、忍法帳シリーズを読むなら、まずこの作品をお勧めします。
6投稿日: 2015.08.17忍法八犬伝 山田風太郎ベストコレクション
山田風太郎
角川文庫
二冊め以降に忍法帳シリーズを読むならお勧め
物語は、長さの割りに登場人物が多いので、序盤の道具立てに当たる部分が長く退屈に感じる、八犬士のキャラクターの掘り下げが不足しているといった面が否めないですが、序盤の1/3を過ぎたころから、起伏に富んだストーリー展開で娯楽作品として安心して読むことのできるレベルだと思います。 山田風太郎氏の忍法帳シリーズなら、最初に読む作品として、「甲賀忍法帳」をまず勧めますが、その次に読む作品に迷うようなら、本作を読んでも良いと思います。
1投稿日: 2015.08.17出口のない農場
サイモン ベケット,坂本 あおい
ハヤカワ・ミステリ
読後感は意外と爽やか
訳ありの男が怪我をして農場に身を寄せる、という冒頭部分は昔話題になった「飛蝗の農場」を思い出しますが、本作も負けず劣らず楽しむことができました。 冒頭のシーンを基点にして、そこから先の話を語る現在パートと、なぜ男が逃げているのかということを語る過去パートが交互に語られる構成で、分かりにくいと思う人がいるかもしれませんが、過去パートはシンプルなので、類似の物語内の時点があちこちに飛ぶ小説の中では、判りやすいほうだと思います。 多くを占める現在パートは、エキセントリックな農家の家族の中で、戸惑いながらも徐々に居場所を見つけていく男の日常が語られる中、破滅への伏線をほのめかす描写のバランスが良く、残りのページ数がカウントダウンのように、静かにサスペンスを盛り上げてくれます。 決して明るい物語ではないかもしれませんが、悲劇の果てに作者が提示する主人公の姿は爽やかな読後感を残してくれました。
1投稿日: 2015.08.11パインズ ―美しい地獄―
ブレイク・クラウチ,東野さやか
ハヤカワ文庫NV
ドラマが気に入ったなら小説も
マット・ディロン主演でドラマ化されている作品の原作で、ドラマの6か7話位までのストーリーが3部作の第一部に当たる本作の範囲です。 目が覚めると見知らぬ町にいる主人公が、なんとか町の外と連絡を取りたい、脱出したいと四苦八苦するというのが大まかなストーリーですが、ドラマと原作を比べると、ドラマの方がキャラクター設定も不気味さや話に膨らみを持たせやすいように変えられているように思います。また、映像の特性を活かして、よりミステリアスな雰囲気を深めてくれていると思います。 小説も主人公の回想シーンなど無駄に思える描写もありますが、見知らぬ町で助けも無い主人公の苦悩や焦燥感など内面的な描写は映像よりも小説のほうがじっくり味わえると思います。また、いささか陳腐かもしれませんが、ドラマには無いラストは、それまでの主人公の苦労を思うとなかなか感慨深いシーンになっていると思います。 小説を読んでからドラマを見るか、ドラマを見てから小説を読むか、どちらでもよいと思いますが、片方が楽しめたなら、もう片方も楽しめると思います。
3投稿日: 2015.08.09タイム・シップ〔新版〕
スティーヴン バクスター,中原 尚哉
ハヤカワ文庫SF
これぞオールタイムベストSF
ウェルズのタイムマシンの遺族公認の続編という作品ですが、私がこれまで読んだSFの中でベスト級です。 時間旅行家が未来世界で助けることのできなかったウィーナを救うために、再度タイムトラベルするという導入部から、過去に未来に時空を超えた壮大なスケールの旅が始まります。 バクスターの描く小説は、クラークと同じく、人類に対する突き放した視点があるものの、科学とそれに取り組む生物(人類だろうがなんだろうが)への深い共感を底辺に湛えていると思います。このあたりが読者を選んでしまうかもしれませんが、バクスターのほかの作品に出てくる、(科学とは)「何を知っているかではなく、何を疑問に思うかだ。」という言葉に共感を覚える人は、本作品で描かれるスケールの大きな未来世界の描写や、時間の根源への旅といった物語にSFを読む醍醐味を味わい、深い感動を覚えるのではないでしょうか? 長い小説ですが、科学が好き、SFが好きという人は読んで損は無いと思います。
3投稿日: 2015.08.03闇の太守
山田正紀
講談社文庫
主人公より敵役の造詣のほうが見事
「闇の太守」の血筋で生まれた主人公がその宿命の導かれて、戦国の日本に潜む魑魅魍魎と、別な神から神託を得た刺客とも対決する短編が4つ収録されています。 主人公の影が回を進む毎に薄くなり、またその同行者もいまひとつ魅力を発揮できていないようです。その一方、毎回出てくる妖怪や刺客はいろいろなアイデアを盛り込んで、バラエティ豊かなキャラクターで楽しませてくれます。 山田風太郎の忍者小説が好きな人には勧められると思いますが、山田正紀の面白い本を探しているなら、「宝石泥棒」や「神狩り」といった定番の名作や、「人食いの時代」、「崑崙遊撃隊」といった作品の方が完成度は高いと思います。
0投稿日: 2015.07.16ミステリーのおきて102条
阿刀田高
角川文庫
あくまでミステリを巡るエッセイ
ミステリーの書き方ガイドや、ミステリのガイドブックではありませんので、その点にはご注意を。 ミステリに関する短めのエッセイが全部で102本掲載されているので、少しずつ空いた時間に気分転換で読むのに最適です。 書き方ガイドではないと先に書きましたが、作者はミステリ作家でもありますので、作家ならではの創作上のエピソードも多くありますので、そういった面に興味を持つ人にもお勧めできると思います。
2投稿日: 2015.07.16ボトルネック(新潮文庫)
米澤穂信
新潮文庫
高校生ぐらいのときに読めば、もっと印象に残ったと思います
一般的なミステリでは中核となる謎が設定されてそれを巡る物語が語られるという構成をとると思いますが、本作では中核となる謎の設定が淡く描かれており、その意味では謎解きを楽しみにして読む人はちょっと期待はずれかもしれません。 一方で、同作者の「氷菓」でタイトルの意味が分かった後に残るやるせなさや、寂寥感に魅力を感じた人には、強くアピールするのではないでしょうか。
1投稿日: 2015.07.16楽園伝説
半村良
角川文庫
伝奇小説とSFの幸福な出会い
伝説と名のつく作品の中でも、半村良作品の良い面が出ている作品だと思います。 不思議な冒頭、一般的な価値観で描かれる社会の別の姿、その価値観がSF的なアイデアによって一変する中盤から後半といった半村良の醍醐味が短い作品ながら楽しめると思います。 欧米のSFよりもどろっとした読後感ですが、伝奇小説とSFの幸福な出会いを楽しめると思います。
2投稿日: 2015.07.07