
光圀伝 電子特別版 (上)
冲方丁
角川書店単行本
「虎」の文人、その一生
カバー絵の「虎」がまさしく主人公たる「光圀」の姿。猛り、吼え、満身にみなぎるエネルギーで、己の信じる道を爆進する。戦国終わりし「泰平の世」なれば、「武」ならぬ「文」の道を。電子特別版では、筋骨隆々のプロレスラーみたいなビジュアルで、さらに武芸にも秀でてる。無敵です「黄門」さま(笑) で、生涯に50人近い人間を殺してる。物語の最初である最晩年、49人目に殺した人間…自らホールドして脇差で刺殺した人間が誰で、いかなる理由だったのか、というミステリーが全編を締めている。 作者の前著「天地明察」と同時進行であり、「虎」と算哲さんとの交流も、あらためて楽しめます。
17投稿日: 2013.10.23
サイバラバード・デイズ
イアン・マクドナルド,下楠昌哉,中村仁美
早川書房
めくるめくインド版サイバーパンク
近未来のインドを舞台にした、サイバーパンクセンス溢れる傑作SF。7編の短編からなっていて、それぞれに小技が効いていて楽しめる。ラストの「ヴィシュヌと猫のサーカス」が圧巻。中盤以降のとてつもないスケールアップ感に、めまいがしそうになった。他には、血なまぐさい生き女神に選ばれ、インドに連れて行かれるネパール少女の数奇な生涯を綴る「小さな女神」が良かった。「ハイジ」みたい。少年たちがロボット兵器をヴァーチャル操作する「サンジーヴとロボット戦士」は大友克洋にコミック化してほしい。
3投稿日: 2013.10.07
下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
内田樹
講談社文庫
「意味」のある人間になるために
学ぶ意味、働く意味なんて考えなくていい。学べる時には学べ。働ける限り働け。その結果として、お前はこの社会において、他者にとって「意味」のある人間となれる。超要約すればそういうことか。その「意味」は、「意義」「価値」「すばらしさ」その他のプラス表現に変換可能。100パー同感です、内田先生。
0投稿日: 2013.10.05
極大射程(上)
スティーヴン・ハンター,染田屋茂
扶桑社BOOKSミステリー
孤高のスナイパー
ヴェトナムで心に深い傷をおい、山奥でひっそり暮らしていた主人公が陰謀にハメられ、ライフル一挺で巨悪と戦う、という胸熱必至のサスペンス。小高い丘のてっぺんに追い詰められながらも、登ってくる敵部隊を「偉い順」に狙撃していくシーンは、数あるスナイパー小説の中でも最高の見せ場。98年刊行でその年の「このミス」第1位となった。十数年ぶりの再刊だが、面白さはまったく色褪せていない。
7投稿日: 2013.10.03
中国文明の歴史
岡田英弘
講談社現代新書
「中国」は実は「日本」
カッコつきの「中国」に対する日本人の過大な幻想を除去するに有効な本。日清戦争以後の中国が「日本文明圏に入った」という指摘は重要。岡田英弘先生の本は新書や文庫で何点も出ていますが、どれも一読「目ウロコ」です。お奨め。
1投稿日: 2013.10.01
白鯨 上
メルヴィル,八木敏雄
岩波文庫
アメリカ文学の代表作
新訳はとても読みやすかった。鯨や捕鯨に関するありとあらゆることが入っていて、実に読みごたえのある作品。単なる「小説」を超越した、巨大で独特の何か。アメリカ文学の代表作の一つと評価される最大の理由がこの「巨大さ」だろうと思う。で、かくも雄大な捕鯨文化を持ったアメリカ人が、なぜ「日本人は野蛮な捕鯨をやめろ」と変容してしまったのか、その解答もこの作品の中に見つけられるはず。
7投稿日: 2013.10.01
城を噛ませた男
伊東潤
光文社文庫
「鯨のくる城」一押し
戦国時代の小大名をフューチャーした短編集。「見え過ぎた物見」は北条氏と上杉氏の狭間で「全方位土下座外交」で生き延びようとした佐野氏のお話。表題作「城を噛ませた男」は、真田昌幸の策士っぷりが…ちょっと黒すぎ(笑) 「鯨のくる城」は北条配下の伊豆の、名ばかり武士で実質鯨捕りの高橋氏が、小田原攻めの秀吉大水軍に、鯨の群れをぶつける話で、これが一番痛快だった。
2投稿日: 2013.10.01
阪急電車
有川浩
幻冬舎文庫
オムニバス・ラブストーリー
良く出来たオムニバス形式のラブストーリー。ええ話読ませてもらいました、て感じ。東京じゃ山手線とか東横線とか「線」とそっけないのだが、関西じゃ阪急電車、南海電車と「電車」で情感がある(と大阪出身の知り合いが主張していた)。「阪急電車」というタイトルがまさにそれ。「本読み」としては、図書館とか書店で運命の相手と巡り合う、ちうのが大いなる理想で、まさしくそれでまとめてくださりました、と。
8投稿日: 2013.10.01
推理小説
秦建日子
河出文庫
「無駄に美人」な女性刑事
ミステリファンならたまらんだろうスタイリッシュな構成。キャラレベルじゃ、ヒロイン雪平夏見の底抜けっぷりで1ポイント。刑事としては超有能ながら、私生活はバツイチで大酒呑みでゴミ部屋の住人。「無駄に美人」というコメントが全てを物語っています。相棒・安藤のお座敷犬っぷりで1ポイント。そして犯人が超絶クール。テレビドラマじゃ篠原涼子さんが夏見役だったんですね。観てないけど。「酔っ払って全裸で寝る癖」がどんな風に演出されてたのか、ちょっと気になります(笑)
2投稿日: 2013.09.30
浜村渚の計算ノート
青柳碧人
講談社文庫
数学苦手なひとにこそおすすめ
分かりやすい設定、読みやすいプロットならばこそ、アイディアに価値あり。数学なんて、学生時代は嫌で嫌でしょうがなかったけど、こういう形で見せられるとホントおもしろい。理系ミステリと言えば森博嗣先生だが、まったく違う切り口で新しい作品世界を構築している。ポイントは、ヒロイン渚のリアル地味中二女子っぽさ。
1投稿日: 2013.09.30
