
想像ラジオ
いとうせいこう
河出文庫
彼岸とのコミュニケーション
電波じゃなく想像力で搬送されるラジオDJが、東日本大震災を体験した人々の声を伝える、という物語。 生者と死者のコミュニケーションという、ちょっとおおげさに言えば平安時代以来の日本文学の最重要テーマを、軽妙にかつ実感を込めて語る。佳作である。
0投稿日: 2014.03.03
さようなら、オレンジ
岩城けい
筑摩書房
英語という鏡
ごく普通に読んで十分に面白い小説だが、自分は「英語」を重要なモチーフとした物語として読んでしまった。 アフリカ難民の「サリマ」と日本人研究者の「ハリネズミ」。生まれも育ちも全く異なる二人の女性が、オーストラリアの英語教室で出逢う。 意思疎通のための「共通語」という単純な話ではない。サリマはハリネズミの英語を通じて彼女を知る、逆も然り。「英語という鏡」に写った相手とのコミュニケーションにおいては、誤解も勘違いもあり、もどかしさが常につきまとう。 サリマとハリネズミと章ごとに話者を交代させる手法により、このもどかしさが、痛々しいまでに読者に伝わってくる。 また、二人の女性はそれぞれ「家族」に関する悲劇を経験するのだが、それを英語で語ることが、悲劇を克服する契機となる。自らの母語と文化、それらによって形作られてきた自分自身を「英語という鏡」を通じて見つめ直すことにより、傷ついた心がパワーを取り戻す。 英語を学び始めた中高生にこそ読んでほしい。
1投稿日: 2014.03.03
櫻子さんの足下には死体が埋まっている
太田紫織,鉄雄
角川文庫
「ビブリア」好きならお勧め
ジャンルはラノベ+法医学。キャラは空気読めない年上美女+振り回されつつ懸命にフォローする少年。人間動物一緒くたに「死体」ネタがてんこ盛りなのは面白かった。「ビブリア」が気に入った人なら、多分楽しめます。
6投稿日: 2014.02.08
ここは退屈迎えに来て
山内マリコ
幻冬舎文庫
ファスト風土のガールズトーク
田舎というか「ファスト風土」で生きる女子たちの物語。地元のどうしようもない閉塞感と、ぬくぬくした居心地の良さの描かれ方が絶妙だ。その「風土」を代表する「椎名」なる男子が全編通じて脇役として登場し、ヒロインたちそれぞれの視点から描写される。中高時代はイケメンで、一度都会に出てUターンし、平々凡々たる田舎親父へと「成長」していく「椎名」の人生に着目しつつ、再読してみたい。 カバーに使われた、妙に存在感のある人形写真はモートン・バートレットというひとの作品。ググったら、人形やら写真やら異様な作品の数々が。アウトサイダー・アーティストの一人とのこと。
0投稿日: 2014.01.28
政と源
三浦しをん,円陣闇丸
集英社文芸単行本
GL万歳!(笑)
美老人カップルのイラストに、BL(ボーイズラブ)ならぬGL(爺ズラブ)かい、と突っ込んでしまったが、「コバルト」連載でしたか。ラストシーンの川面の桜に「Y町のだれもが、それぞれの永遠を生きる」と語るのが胸に沁みた。百年、いや千年生きたところで永遠にはほど遠い。永遠は、今この一瞬の中にこそある。
0投稿日: 2013.12.23
ライオンブックス(5)
手塚治虫
手塚プロダクション
元祖「萌え」ファンタジー
この巻に収録された「百物語」は、手塚治虫がゲーテの「ファウスト」を日本の戦国時代を舞台に翻案した作品で、私的には、手塚作品の最高傑作の一つ。 往年の黒澤映画を思わせるダイナミックな舞台設定とドラマに、いかにも70年代的なナンセンスギャグとパロディが織り交ぜられ、笑って泣いて感動させられる。 特筆すべきはヒロインである悪魔っ娘・スダマのエロ可愛いさ。「萌え」という言葉が生まれる何十年も前にこのようなキャラを生み出した手塚先生の凄さをあらためて思う。 少年ジャンプの短期連載で読んで以来、何度読み返したか分からない。電子書籍であらためて読んで、面白さがまったく色あせてないことを確認した次第。
1投稿日: 2013.11.20
ペンギン・ハイウェイ
森見登美彦
角川文庫
小学生時代の夏休み
山を拓いて建設された「郊外の町」に、突如出現したペンギンたち。森に閉ざされた空き地に出現した謎の「海」。小学生の夏休みに起こった、不思議な不思議な物語。「宇宙レベルの謎」を解明すべく、町を探検するぼくら。「おっぱい」が魅力的な「歯科医院のおねえさん」の正体は? 小学生時代の夏休みが、とてつもなく長かった、と記憶している人には、ぜひとも読んで欲しい。
19投稿日: 2013.11.06
わくらば追慕抄
朱川湊人
角川文庫
朱川先生、早く「続き」を!
「わくらば日記」の続編で、ダッコちゃん、浅沼委員長刺殺、新宗教ブーム、洞爺丸事故などが小道具や背景としてアレンジされている。前作より個々のキャラクター描写が深化しており、ヒロイン姉妹も実に魅力的に描かれている。「薔薇姫」なる第二のサイコメトラーも登場し、さらなる続編に大いに期待したいところ。
1投稿日: 2013.10.28
わくらば日記
朱川湊人
角川文庫
「三丁目の夕日」的ミステリ
サイコメトラーの姉とその妹を主人公にしたミステリ連作。舞台は昭和30年代で、お化け煙突、東京タワー、狩野川台風、「太陽がいっぱい」の若きアラン・ドロンなど、当時の事件や風俗が描写され、物語のキーポイントになったりもする。夭折した姉の思い出を、数十年後に妹が語るというスタイルで、懐かしさとともに哀しみが通低音となっている。続編「わくらば追慕抄」と併せてお薦め。
3投稿日: 2013.10.28
退出ゲーム
初野晴
角川文庫
意外に重量級
高校の文化部を舞台にしたミステリシリーズだが、いわゆるライトミステリを予想して読むと、意外な重量感に驚かされる。探偵役のハルチカコンビ以外のキャラが背負っている「過去」がどれも結構な重さなのだ。それを良い意味で「軽く」語り、笑えてちょっぴり泣ける青春ドラマに仕上げたのは、著者の技だと思う。 初野晴を読むのは初めてだったが、もっと早くに読んでおくべきだった。
6投稿日: 2013.10.25
