Reader Store
BACH/バッハさんのレビュー
いいね!された数446
  • ふつつかなヨメですが!(1)

    ふつつかなヨメですが!(1)

    ねむようこ

    ビッグスピリッツ

    嫁いできたヨメの様子がどうもおかしい…

    働く女の現実を描いたかと思えば、漢方の話しを描いたりと幅の広いねむようこ。 今作は、ワケあり女の嫁ぎ譚。 新居が決まるまでの間だけと夫の実家に居候することとなった新婚夫婦(入籍はこれから)。 ところが、どうも嫁の様子がおかしい。 高校二年の夫の弟は嫁の笑顔に違和感を覚え、 さらに下のブラコンの妹は、兄を奪った嫁を徹底的に追いだそうとする。 弟が感じた違和感の正体がわかりはじめ、このマンガは一気に展開していく。 とにかくふつつか具合が半端ではない。 マンガなのだから、そんなこと言うなとも思われるだろうが、そんな女いるのか?! みたいな状況。 そもそも極端を描くのがマンガであり、極端が意外と手の届くところにあるなと思わせるのも、マンガ家の技術。 ねむようこのうまさは、キャラクターのキレ具合や引き具合、悪巧みのときの駆け引きであり、 ある秘密に気づいた人間と気づかない人間の作品内でのギャップの描き方にある。 家/家族という最小単位の集団のなかで生まれるさまざまなギャップと駆け引き。 殺伐とするのか、嫁は秘密の過去を活かして家をシメられるか。

    0
    投稿日: 2016.07.04
  • 新装版 日本国憲法

    新装版 日本国憲法

    学術文庫編集部

    講談社学術文庫

    憲法から日米安全保障条約まで

    2016年7月10日参議院議員選挙が行われます。 ふと見たテレビの世論調査では、関心の優先順位として年金・社会保障が1位、 経済政策が2位、そして憲法問題が3位となっていました。 憲法問題は以前の選挙に比べ関心度が高まっているそうです。 改憲への発議に必要な全議員の3分の2議席を是が非でも改憲したい与党が取るのか、 護憲の立場から共闘する野党が死守するのか。 なにより平和を求め、個人の尊厳を守ってきた憲法を本書で再確認し、 自民党改憲案としっかり見比べてみなければいけない。 自ら読み、学んだものは血肉となり、真に批判も賛成もできる。 本書はさらに、大日本帝国憲法、教育基本法、児童憲章、英訳日本国憲法、 日米安全保障条約の全文も収録されている。 この本を読み込み考えることができれば、いまの選挙の争点の多くをカバーできるでしょう。

    0
    投稿日: 2016.07.04
  • オリンピックと商業主義

    オリンピックと商業主義

    小川勝

    集英社新書

    変わり目となった84年ロサンゼルスオリンピックに至る道

    2020年の東京オリンピックに関して、 どうもきな臭い話ばかりが先行し、 楽しみに思う気持ちが削がれてしまっている。 今年開催のリオも不安定た経済状況を反映して、 なかなか不穏な気配を漂わせている。 オリンピックとお金の話題は、いったいいつからこんなにも複雑で、 利権まみれのものになってしまったのだろうか。 72年のミュンヘン・オリンピックでエンブレムの商用利用が開始され、 完全民営化された84年のロサンゼルスオリンピックが、 最大のきっかけであったのはよく知られたこと。 アマチュアによる純粋なスポーツの競い合いだった当初から変わり、 オリンピックは完璧に商業主義的なものへと変化してきた。 それを一刀両断に悪だというのではない。 その功罪を問うためにも各大会ごとお金の収支を整理した本書の冷静な記述が役に立つ。 何が変わり目だったのか、国と都市、IOC、企業、選手、国民すべてが複雑に絡み合う。 まずは状況の整理から。

    0
    投稿日: 2016.06.01
  • 下り坂をそろそろと下る

    下り坂をそろそろと下る

    平田オリザ

    講談社現代新書

    衰退する社会を上手に下ること

    平田オリザは長年、大学で教鞭をとってきたが、 本来的には劇作家であり演出家である。 ところが、平田オリザは近年、地方と呼ばれるエリアを対象に、 さまざまな文化政策におけるキーパーソンになっている。 スキー人口が減ったことを学者たちは若者人口の減少を理由にするが、劇作家はそう考えない。 事態は逆で、スキー人口が減ったから人口減少が起こったのだと、平田は本書の序章で語る。 そんな暴論あるか、と言いたくなる気持ちはわかる。 平田は四国を中心に自身が関わる自治体や地域のさまざまな取組を、 文化的な側面、コミュニケーションの側面から描きだしていく。 読み終えた時、その暴論にある納得感が生まれていることに気づくはずだ。 衰退していくことを前提とした成長社会ではなく成熟社会をつくりだす、 下り坂の上手な下り方の秘密が隠されている。

    1
    投稿日: 2016.06.01
  • なぜぼくが新国立競技場をつくるのか 建築家・隈研吾の覚悟

    なぜぼくが新国立競技場をつくるのか 建築家・隈研吾の覚悟

    隈研吾

    日経BP

    この男は、なぜ”火中の栗”を拾ったのか。

    新国立競技場の設計再コンペの結果、隈研吾の案に決まった。 若くして逝去したザハ・ハディッドの斬新な案は、夢のなかへと消えていった。 フューチャリスティックだったザハ案に対して、 隈研吾は木材をふんだんに使い、植物が繁茂する未来を夢見た案を提案した。 地元の素材を使うことを積極的に行なってきた隈は、 今回もなぜ木材での設計を考えたのだろうか。 そうした新国立競技場案への解説はもちろん、 隈がその案に至るまでの歴史をを実作と建築史を通じて語っている。 公共の箱物建築への批判が続くいま、 建築は果たして誰のために建てられているのか。 社会と建築はどんな対話が可能なのか。 2020年がどんな年で、どんな都市になるのか、 この本から想像してみても楽しいかもしれない。

    0
    投稿日: 2016.05.31
  • 生きるとは、自分の物語をつくること

    生きるとは、自分の物語をつくること

    小川洋子,河合隼雄

    新潮社

    タイトルがすべてをあらわしている

    小さく、弱い存在へと寄り添う物語をつくりつづけてきた小説家の小川洋子と 他人が物語を見つける/回復する手伝いをしてきた臨床心理士の河合隼雄。 人が生きていくうえで、難しい現実とどう折り合いをつけていかなくてはいけない。 そのとき、ありのままでは受け入れられず、心のかたちに合うように、 その人なりに現実を物語化して記憶していっているはずだと小川はいう。 小説でひとりの人間を描く時、作家はことばやお話しという形で取り出して、 それぞれの積み重ねてきた記憶を再確認するのだと。 一方で臨床心理におけるカウンセリングは、 カウンセリングに来た人が、悩み迷い失いつつある自分の物語を発見し、 その物語を生きていけるような「場」を提供することだと河合はいう。 結局どちらもひとりの人間がことばと物語でもって、 いかに生きるのか、生きてきたのかを見つめることなのだ。

    1
    投稿日: 2016.05.31
  • 女子攻兵 1巻

    女子攻兵 1巻

    松本次郎

    月刊コミックバンチ

    巨大なギャルが市街戦

    女子攻兵というタイトルから想像したのは、 女のコの戦闘員ということくらいだった。 表紙絵にあるような、あえてセーラー服を着たギャルたちが、 人を殺し、街を破壊していくような。 ところが、その考えは早い段階で覆される。 女子攻兵は女子高生が武装したものではなく、 エヴァンゲリオンでいえば初号機などのエヴァそのもののことだったのだ。 驚くほど女子高生的な生態や口調をなした彼女たちにはそれぞれ搭乗者がいる。 女子攻兵に乗る者は徐々に精神に支障をきたし、崩壊していく。 そして誰かのために街を守っていたはずが、 いつしか自分のための戦いとなっていく。 地球を守る存在にギャル的な刹那主義を遂行させるという圧倒的なギャップ。 ギャルが巨大であるというだけで、 小さきものへの形容である”かわいい”がまったく無効化されてしまう。 その感慨を市街戦で実感せよ。

    0
    投稿日: 2016.05.31
  • あさはかな夢みし(1)

    あさはかな夢みし(1)

    瀧波ユカリ

    アフタヌーン

    特濃・平安時代のBL妄想譚

    まさか平安時代がこんな描かれ方をするとは夢にも思わなかった。 小犬丸は夢子という姫をよい男性に嫁がせるため、 夢子のもとに遣わされた顔のキレイな男。 秒速で嫁がせて大金ゲット、と思っていた小犬丸だったのだが、 夢子はなんととんでもない妄想BL好きだった。 源氏物語などの物語を愛する教養ある女性でありながら、 読んでいる時に現れる脳内映像はすべてBLに変換されている。 そんな姫が結婚できるはずもなく、よくよく過ごせば父親も女友達も、 どいつもこいつもおかしな人ばかり。 実に”あさはかな”夢ばかりを見て、現実が歪んだ夢子姫は果たしてお嫁にいけるのか… ちゃんと読めば古典のウンチクが学べるという要素もあるのだけれど、 おそらくそこに至るには乗り越えるべき世界観が濃すぎるかもしれない。

    0
    投稿日: 2016.05.31
  • その「おこだわり」、俺にもくれよ!!(2)

    その「おこだわり」、俺にもくれよ!!(2)

    清野とおる

    モーニング・ツー

    待望の2巻。

    待望です。 待望の2巻です。 今回も特濃な”おこだわり人”が出てきます。 ”薄皮パン””中国うなぎ””トマトのカス””寝ぬ男”と”寝る男(1巻参照)”、 そして本を仕事にする人間としてあまりに複雑な感情を催させる”読む男”。 こだわり自体はもはや読んでもらうしかない。 他人が説明することによる陳腐化の懸念と 清野とおるが作中で見せるテンションの高さは本人から話を聞いているからだ。 それを描いたマンガのテンションを伝えるにはやはりどうにかして読んでみてほしい。 そして自分のおこだわりを見つめなおし、そのおもしろさを噛み締めながら実行してほしい。 個人的にあるとしたら、柿の種、かな…

    1
    投稿日: 2016.05.31
  • ローカルワンダーランド 1巻

    ローカルワンダーランド 1巻

    福島聡

    HARTA COMIX

    ノスタルジー+テクノロジー+過去未来

    『機動旅団八福神』や『星屑ニーナ』などの重厚ものから軽妙なものまで SF的な作品を得意とする福島聡の読みきり作品集である本書。 本書は、いつものSF的世界がありながらも、 全体のトーンとしては日常の延長のような風景が多く描かれる。 描かれるのは人間の欲望と自尊心の滑稽さであり、人間の想像力の可能性。 決して叙情的に描かれているわけではないのに、 自分の心をなぜか投影して見てしまう自分がいる。 (男性目線がほとんどのため、男性に限るのかもしれない) 福島は無表情と言われるような人間の表情に、微妙な表現を描き分ける。 同じような絵が続くかのように見えて、そこに読み取れる感情や情報は、とても多いのだ。 SF的になるとテクノロジーや未来のような話しが増えるが、 ノスタルジーを絶妙にブレンドした読み切りはいつもと違った読み応えがある。

    1
    投稿日: 2016.05.31