
ファイアパンチ 1
藤本タツキ
少年ジャンプ+
わたしたちはいま何の物語を読んでいるのか…?
冒頭、腕を斧で切り落として食料にするシーンで連載開始からネットを騒然とさせたこの作品。 その後も作品内でジャンルが変わるかのような大変化を見せて読者を混乱に陥れ、 一体何の話しを読んでいるんだと思わずに入られない。 祝福者と呼ばれる特殊能力者が存在する世界を描く、ファンタジー。 なのだけれど、ファンタジーで片付けてしまえない展開がその後待っている。 対象物が焼け落ちるまで消えない炎の能力者に焼かれた、肉体再生能力を持つ主人公アグニ。 焼かれながら朽ちない肉体。焼かれ続け、再生し続け、死ねず、焼けながら生きる。 殺された妹の敵を殺すべく、復讐者として旅を始めるのだけれど、 突如アグニを主役に映画を撮ろうとする人間が登場する。 ここから読者は何を信じて、物語を追っていいのか戸惑うかもしれない世界に突入する。 深刻な主人公が怒られ、突っ込まれる。 そんなストーリーマンガがあっただろうか。 何のマンガを読まされているのか混乱するが、毎週毎週が楽しみで仕方ない。
2投稿日: 2016.08.16トーキョーエイリアンブラザーズ(1)
真造圭伍
ビッグスピリッツ
宇宙人にとっての地球は、外の星。
『みどりの星』同様、宇宙が舞台。なのだけれど、宇宙のなかの地球が舞台。 そう主人公が宇宙人であり、外から地球にやってきたのだ。 物語は隕石が落ちるところから始まる。そんなことは気にもとめず、田中冬ノ介はBBQへと向かう。 カワイイ顔で明るく、みんなにやさしい。男女を問わず好かれ、憧れられる冬ノ介。 河原で出会った女の子をナンパしたと思ったら、そのままラブホテルへ。 そこで何をするかと思ったら、まさかまさかの変態な流れに…。 そして登場する兄と呼ぶスライム。 そう、あれもこれも彼らは宇宙人だと思えば納得できるのだけれど、 見た目が完璧な人間(日本人)であることで生まれるズレにニヤニヤする。 冬ノ介は、恋愛をして、セックスをして、人間であることを楽しみながら地球を理解しようとする。 兄の夏ノ介はどうしようもないグズなのだが、そのグズが地球に派遣されたことにも理由があった。 侵略対象としての地球を見るということは、自分たちの生活を俯瞰的に見ることと同じ。 だから、そこにおかしみがでてくる。
0投稿日: 2016.08.16みどりの星(1)
真造圭伍
ビッグスピリッツ
宇宙と地元
初連載作品『森山中教習所』が今年映画化された真造圭伍。 ちいさな街を舞台にしてきた真造が、『みどりの星』で描くのは、なんと宇宙。 運送会社「ひまわりうんゆ」で働くバイトの高市と社員の山本。 謎の人型カエルの住む星に不時着したふたりは、そんな意味不明な状態にも突っ込めるほどに馴染んでいく。 言葉の話せるカエルがいる星。一体どんな星なのかと思ったら、なんと対岸には人が住んでいる?! 完全ギャグマンガのような設定が用意されていながら、 このマンガの肝はボーイ・ミーツ・ガールの恋愛にある。 人が住んでいるけどやっぱり違う星の人。 文化がまったく違う恋愛の壁を高市はどうやって乗り越えていくのか。 カエルは見方になるのか、ただのカエルなのか。 宇宙という設定でありながら、これまでの真造作品同様、地元感が出てくる恋愛物語。
0投稿日: 2016.08.16ゴールデンゴールド(1)
堀尾省太
モーニング・ツー
”人間の欲望を叶える存在。私たちはそれを、「神」とも「悪魔」とも呼ぶ。”
デビュー作とは思えない凝った世界観で描かれた『刻刻』が衝撃だった堀尾省太の二作目。 これも1巻を読む限り、また快作の予感漂うおもしろさ。 舞台は尾道近くの小さな島、寧島。主人公の中学生、早坂瑠花は都会からひとり伯母がいる島に来た女の子。 好きな同級生はマンガに夢中。高校進学はアニメイトのある大阪に行くという…。 ある日、瑠花は海でぬめぬめした不思議な(気持ち悪い)置物を拾う。 それを洗って空いている祠に収めて何をするかと思えば、 「でっかいアニメイトができること」を願うのだ。 すると、その置物はなんと、小さな人間サイズになって現れた。 島の人には普通のおじさんに見えるというそれは、福の神なのか、悪魔の使いなのか…。 ”人間の欲望を叶える存在。私たちはそれを、「神」とも「悪魔」とも呼ぶ。” というコピーが、まさにこの話しを表している。 小さなおじさんの置物は、福を呼び込んできているようなのだが…。 神/悪魔が日常に侵入、介在するが誰もそれに気づかない。 幸福だと信じて願っていたことが叶い始めた時、何かが変わっていく。 際限なく増えていく人の欲望のありか。 一体どんな展開が待っているのか、気になって仕方ない。
1投稿日: 2016.08.16ワンパンマン 1
ONE,村田雄介
となりのヤングジャンプ
強すぎるがゆえ、たった一発ですべてが終わる。
マンガであることを最大限表現しつつ、 よくよく考えたらマンガだったらたしかにそうならざるをえないよなという、 フィクションにおける強さのパラメーター問題を顕在化させた良作。 タイトルが示すように主人公のヒーロー・サイタマは、 ワンパンチですべての敵を倒してしまえるほどに強い。 ストーリーを必要としているはずのマンガにあって、 サイタマは一発で戦いを終えてしまう。 例えばドラゴンボールのようなマンガであれば、 主人公が敵と戦う中で成長し強くなっていく。 もちろん敵も主人公の成長と合わせるようにますます強い存在が出現する。 トーナメント方式をとってしまうえば宿命的な構造なわけで、 それを回避したのがジョジョやワンピースのお互いに得意不得意のある特殊能力だったが、 ワンパンマンはそのどれも無効化し、対敵に関してはスタートにした時にすでに終わっている。 では、そこにどんなマンガ的な物語があり得るのか。 それこそ見どころなわけだけれど、たった一瞬の戦いを描く高い画力もすばらしい。 平熱と書かれるのは、 熱くなるまでもなく勝ってしまうという意味かも知れないが、 意外と熱い気もしている。
4投稿日: 2016.07.05世界が認めた和食の知恵―マクロビオティック物語―(新潮新書)
持田鋼一郎
新潮新書
マクロビ? 胡散臭い? 本当にそうかな?
和食ほど、健康にいいものはない、らしい。 日本人の寿命の長さを考えるに、確かにそうかもしれないとも思った。 そんな日本で、古来の食にまつわる知恵を健康法として実践したものがマイクロビオティック。 横文字であることからどうも輸入文化のように思われがちだが、実は日本発という驚き。 明治に日本人が生み出された健康法が、アメリカで注目され、世界中に広まった。 その文化ができていくきっかけは料理人ではなく、陸軍薬剤監からだった。 明治から昭和にかけてマクロビオティックに関係する人物を追い、 文化遺産としても登録された日本の食/食療法の知られざる意義を探っている。 濃い味文化、カロリー多めなアメリカフードカルチャーのなかで 和食が健康的な食事療法として注目をうけている。 マクロビ、と聞くとどうもあるカルチャーの中の人の食事や考え方だと、 いまの日本人は思ってしまうかもしれない。 けれど、実際それは日本で古くから実践されてきた「食の知恵」を活かした食養法なのだ。
0投稿日: 2016.07.04最後の晩餐
開高健
文春文庫
食の世界を隅々までまで渡り歩く
文学、歴史、政治まで広範囲な領域を横断し、 最底辺の食事から王侯貴族の晩餐まで、 作家開高健が1977年〜79年まで雑誌「諸君」に連載した 古今東西、人の食にまつわる欲望のすごみを知るエッセイ集。 元々は壽屋(現・サントリー)宣伝部に所属していた開高は、 コピーライターとしてお酒や食べる、飲むということについて 広く万人に伝えるべく表現を駆使した。 その後作家として、小説と同じかもしくはそれ以上に 食や酒、釣りを書く作家としても知られるようにもなる。 本当にうまいものは別腹なのかと、 フランス料理フルコースを1日5食を食べ続ける実験を行い、 最後のデザートまで完食。 にも関わらず、ホテルに帰ってお茶漬けを食べたくなるというのは日本人だから? そして食の世界を隅々まで見渡した開高は、究極の食“食人”にまで行き着きます。 果たしてそれは。
1投稿日: 2016.07.04スポーツを考える ――身体・資本・ナショナリズム
多木浩二
ちくま新書
スポーツはなぜスポーツか。
リオオリンピックを今年に控えながら、現地の不安もまだまだ多い。 4年後の東京オリンピックも相変わらず暗い空気のまま。 完全に商業的になったオリンピックにあって、 プロの選手の出場も珍しくなくなったいまでもなお、 まだイメージとしてはアマチュアリズムの精神をという気持ちは残っている感じもある。 健全で純粋なスポーツ。 はたしてそんなものは存在するのか。 多木浩二はそうした視点を歴史やルールという存在、遊技性、政治性などを、 貴族の余暇から生まれたイギリス的スポーツから考察を始め、 グローバルで中性化されたアメリカ的スポーツへと進めていく。 スポーツは観客の存在を含めて存在するというスペクタクルをめぐる議論にはハッとした。 リオ前に目を通しておくと、競技性だけではないスポーツの重層性が見えてくるはず。
0投稿日: 2016.07.04おふろどうぞ
渡辺ペコ
太田出版
お風呂や温泉になにかひとつは思い出ありませんか?
お風呂/温泉はお好きですか? 疲れが取れるから? 一日の汚れや汗を落とせるから?体があったまってよく眠れるから? それとも嫌いですか? 大抵の人は一日の終りにお風呂に入る。 だからどうしても役割が同じに感じるかもしれないけれど、 少し角度を変えればというか、自分の経験のいくつかを思い出してみると、 お風呂/温泉で過ごしたいろいろな記憶が浮かんでこないだろうか。 お風呂や温泉をモチーフに描かれた本作。 不倫と銭湯、作家と編集者と温泉、姉妹と思い出の中のお風呂、 還暦超えの母の不倫、サラリーマンのサボり風呂などなど。 お湯があるところで生まれる物語は、 入っている時の安心感や安らぎとその前後での感情や状況にギャップに生まれる。 問題が解決するときもあれば、深みにハマることも。 罪深くも、癒やしにもなるお風呂。 いろいろ思い出してしまう物語。
1投稿日: 2016.07.04かんぺきな街
売野機子
ウィングス
「寝起きに夢を尋ねる人がいると夢を憶えていられるんだな」
タイトルである完璧な街なんて、おそらくどこにもないのだろうけど、 そもそもこの本のタイトルはひらがなで“かんぺき”。 英語で書けば同じPERFECTだけど、日本語ではそのニュアンスは変わってくる。 たとえば飽くまで括弧付きの“かんぺき”であるとか、完璧ということへの皮肉であったり。 この作品には、というか売野機子の作品には何かを喪失していたり、足りないと思っている人たちが登場してくる。 失業中のジョシュは遺失物拾得センターで嘘をついて、届けられた封筒をいただいてしまう。 それはある学校のテストの答案用紙だった。 その答案用紙を探す少女長崎ミカと出会い、ミカもジョシュも過去と未来が動き始める。 「私のこと野良犬だと思って 顔を出したらかわいがって いなくなっても探さなくてもいい でもたまに あいつ見ないなって思い出して……」 「寝起きに夢を尋ねる人がいると夢を憶えていられるんだな」 このふたつの言葉にゾクッとした。 売野は何でもないと思っていた流れで突如印象的でハッとさせられるセリフを入れてくる。 男性誌だけを読む人には少女マンガ的に感じるかもしれないが、 読んでみれば普遍的に誰もが楽しめる作品であることがわかるはず。
0投稿日: 2016.07.04