【感想】ミレニアム2 火と戯れる女(上・下合本版)

スティーグ・ラーソン, ヘレンハルメ美穂, 山田美明 / 早川書房
(10件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
5
3
2
0
0
  • まるでギリシャ神話のような物語

    前回までのスウェーデン国内における女性が被る性被害の統計情報のエピグラフは、本書ではいくつかの数式の引用に置き替わっている。
    内容とどこまでリンクしているのかよくわからないし、冒頭のグレナダのパートは意味があるのか、隣室の怪しげな夫妻の行動やハリケーン襲来の話も余計に感じられ、なかなか本筋が始まらず、イライラさせられていた。
    さらにはミカエルが、なんとあのハリエットともベッドを共にする仲になっていて、それでいてリスベットとも連絡を取ろうとし続けるなんて、お前はどこまで節操がないのかと呆れてもいた。
    上巻の第3部くらいからようやく面白くなり始めたが、それでも下巻でまさかあのような展開が待っているとは露ほども感じられなかった。

    だから上巻で目を引いたのは本筋とは関係のない部分。
    リスベットがかつての恩人でもあり、いまは脳卒中から深刻な麻痺が残るホルゲルを訪ね、励ました時の台詞が印象に残った。
    今後のリハビリへの取り組みを促すつもりで「今後、あなたの助けが必要になるもしれないから、その時は弁護を引き受けてくれないか」という問いかけに、ホルゲルは言葉もうまく喋られないなか「もう年だから…」と断ろうとする。
    言い終わらないうちにリスベットが繰り出す次の台詞がとてもいい。

    「そうね、そんな気持ちでいるのなら、ほんとに年寄りの能なしだわ。でも、わたしには弁護士が必要なの。どうしてもあなたにお願いしたいの。裁判での最終弁論なんかは無理かもしれないけど、必要なときにアドバイスしてくれればいいから。ね?」

    ちょっとぎょっとさせられる程の冒頭の突き放しからのフォロー。
    日本人ならきっと「そんなことないわ、ホルゲル。あなただけが頼りなの」とでも言いそうな所だが、そうは言わない。
    リスベットの性格もあるのだろうが、こういうところが海外作品に触れる愉しみでもある。

    方程式の中で値が確定しない変数を未知数と言うが、本書で暗喩されるこの方程式に準えて物語を解釈すると、未知のXやY、Zがリスベットにもミカエルにも存在している。
    リスベットは1991年の捜査資料がなぜ機密扱いになっているのか、その理由がわからない。
    一方、ミカエルはビュルマンがこの事件にどう関わってくるのかがわからない。
    ブブランスキーら警察は、固執するサランデル単独犯説をなんとか排除してみても、そうすれば動機や犯人が複数ということになるが、凶器である拳銃が一つである謎がわからない。
    すべての未知数に値が与えられたとき、それぞれが等式でつながっていく。

    人身売買と強制売春を告発する単純な社会派ミステリーかと思いきや、追う者が追われる者に転じたり、弱点のない不死身の敵が現れ、さらには出生の秘密や父殺しなど、まるでギリシア神話のようなスペースオペラが展開される。
    最大の敵であるラスボスが父親ってスターウォーズのダースベイダーみたいだし、どんな攻撃もまったく効かない巨人に挑むのが、パオロ・ロベルトという実在の元プロボクサーってなんだよ。
    スウェーデン国内ならもちろんお馴染みの存在なのだから、日本でいったらさしずめ井上尚弥がいきなり物語に出てきて、ボコボコにされながらストリートファイトするようなもの。
    こんなの絶対ベストセラーになるわ。

    というか作者ラーソンは、本書である第2部までを書き終えてから、出版社に連絡を取って契約を結んだらしい。
    しかも全10部までの構想を持って。
    普通なら第1部を書き上げた時点で連絡しないか?
    たいがいの傑作だったぞ、あれ。
    それにロベルトは了解済みだったんだろうか?

    何より第1部と第2部のこの物語の違いは何だろう?
    第1部のヒットを確信してシリーズ化するんだったらきっと、リスベットという魅力的な闇の仕置人というキャラを使って、公的には解決困難だったり、法的には裁かれないような様々な社会問題を、記者であるミカエルたちと協力して解決し、のさばる悪を片っ端から罰していくと思うんだけど、第2部では逆に容疑者として指名手配されちゃう。

    第2部にしてこの構想力だとすると、第10部ではどんな展開が待っていたかわからないよな。
    つらいのが急死した著者のパソコンには、未発表の第4部の草稿が存在していること(いま出版されてる別作家の手による4部とは別)。
    籍を入れてなかったために内縁のパートナーで共同執筆者でもある彼女は、遺産を相続したラーソンの父親や弟と対立し、出版できずにいる。
    読みたいよなぁ。
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    投稿日:2024.04.24

  • とにかく二人の描くコントラストが良い

    【上巻】リスベットは前回の事件で手に入れたお金で旅に出る。おそらくこの後の事件とは関係ないと思われる旅のエピソードは面白いが非常に長かった。いよいよスウェーデンに戻り、家も購入しこれからという時に事件は起きる。殺人犯人として警察に追われる身となったリスベットと偶然にも第一発見者となったミカエルがこれからどう絡んでくるのか。静と動、陰と陽とでも言うのか対照的な二人だがどちらも強烈な個性を持っている。しかし片方だけを語った部分は退屈だ。とにかく二人の描くコントラストが良いのである。この後のミカエルの活躍に期待したい。
    【下巻】リスベットは何者なのか、次第に謎が解けていく。それにしても変わり者のリスベットを誰もが敬遠しているかと思ったらそうでもない。私も読みながらリスベットならこう考えるはずだと勝手に応援していた。前半の長いエピソードもリスベットの性格を描く大切な場面だったのだと途中で気がついた。最初は警察が頓珍漢でミカエルが暴走するストーリーを予想していたが警察も賢い。常に絡んでくるのは女性への虐待である。スウェーデンも日本も背負っている病は変わらないなと考えていたらワイドショーで「純烈」の記者会見が流れるオマケもついてきた。
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    投稿日:2019.01.23

  • カッコイイ!

    ミレニアムの2作目。とにかくリスベット(主人公)がカッコイイ。見た目は長靴下のピッピ。でも人一倍負けん気が強く、正義に燃えている。大切な人の復讐のためなら殺人さえ厭わない。

    どうしても映画(スウェーデン版)のリスベットとミカエルを思い浮かべてしまいます。ハリウッド版は観ていません。リメイクでいい映画なんてあまりなかったから。映画もオススメ。

    上下巻で長いけど、一息に読めます。
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    投稿日:2015.01.14

  • リスベット、かっこよすぎます!

    「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」でミカエルが雇った調査員リスベット・サランデルが主役になって再登場する。
    義務教育を修了しておらず、無能力者として後見人が付けられているが、その実、優秀な調査員であり、ハッカーであるリスベット。強烈な個性の持ち主だが、非常に謎の多い女性であるリスベットの秘められた過去が明らかにされる。

    たった一人で世界を相手に戦おうとするリスベットが実にかっこいい。
    まったく、「ミレニアム2」におけるリスベットには完全にまいってしまった。
    そして、終盤における衝撃の展開には「え~~~っ! そんな~~~っ!?」
    これはスゴイ!
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    投稿日:2013.11.09

  • 遂にリスベットの過去が明らかに~ミカエルとの信頼関係

    雑誌「ミレニアム」に寄稿予定のジャーナリストとその恋人、そしてリスベットが事件に巻き込まれます。
    この3人と関係の深い「ミレニアム」のミカエルが調査を開始します。事件の真相とリスべットの過去が明らかになるにつれて、事件は戦慄な結末に進みます。
    ミレニアム1とは比べ物にならないスピード感と戦慄のストーリー。夢中になって読みました。このままミレニアム3に突入します。
    ※ミカエルとリスベットの関係性がとても重要なポイントになるので、ミレニアム1 を読んでからのほうが楽しめると思います。
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    投稿日:2013.10.19

  • スウェーデン発大河ミステリ第2弾!

    ヴァンゲル家の謎とヴェンネルストレムへの復讐を果たしたミカエルに対し、リスベットが距離を置いてお互いの関わりをなくそうとするところから物語がはじまる。ある事件をきっかけにリスベットの過去が徐々に明らかにされるが、そこには重大な秘密が隠されていた。
    リスベットの過去が明かされるにつれ、なぜリスベットがこんなにもかたくなな姿勢を貫いているのかが納得できる。第1作「ドラゴンタトゥーの女」の時点ですでにこうしたバックグラウンドは設定済みで、第3作に繋がる秘密も伏線として張ってあったということにまず大きな驚きが隠せない。
    一方で、作者はジャーナリストらしい、緻密な筆致で現在のスウェーデンが抱えている問題も喝破し、それらも物語にうまく織り交ぜながら展開させていく。それはそれは圧倒的なリアリティを感じさせる。人身売買、官僚の腐敗、女性蔑視、報道被害など諸々の要素を織り交ぜながら破綻なくストーリーを展開させ、しかもそのページターナーぶりもまた圧倒的だ。
    終盤の衝撃的な展開で第3部への期待も高まってゆく、その仕掛けもすばらしい。
    続きを読む

    投稿日:2013.10.10

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