あっくんさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~
三上延 / メディアワークス文庫
古書店巡りをしたくなるビブリオミステリの第1弾!
24
いわゆるライトノベルに分類されると思われるが、内容はしっかりとした安楽椅子探偵ものミステリ。ミステリではあるが、安直に人が死んだり、殺人が起こったりするわけではなく、人物の行動の背景を探っていく点に重…点が置かれている。
ふとした事故により入院することになった古書店店主・栞子とその店ではたらくことになった五浦大輔を中心に、本にまつわる人間模様が描かれる。
ちょっとしたヒントから半ば強引なまでに物事の背景を言い当ててしまう、人見知りなわりに本が絡むと人が変わる、など、常人にはあり得ないような設定の栞子さんだが、本について生き生きと語るその語り口に、つい元になった本を読みたくなる。
それぞれの物語はそれぞれで完結しつつ、一連のつながりがラストに向けて収斂していく構成になっており、ちょっとした発言が後のストーリーにも関わってくる、というあたりはよく考えられている。栞子さんのけがの原因を作った人物の行動はちょっと理解しがたいものがあったが。
作者によれば、作中に登場する本はすべて実在しており、ということはアンカットの太宰本もあるって事?とか、そんなところにも興味が行ったりして、古書店巡りをしたくなる側面も持つ。本好きというより、古書好きな人に受ける作品ではないかと思う。 続きを読む投稿日:2013.12.07
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探偵の探偵
松岡圭祐 / 講談社文庫
松岡圭祐による新シリーズ第1弾!
22
ストーカー被害から妹を失った紗崎玲奈。その裏に妹の居場所などを調査し、ストーカーに情報を渡していた探偵がいたことを知り、悪徳探偵を追い詰める探偵の探偵となる。
探偵の探偵となる動機もさることながら、ス…トーリー全体を重々しい雰囲気が漂い、同作者の万能鑑定士シリーズなどとは一線を画す。雰囲気はどちらかというと千里眼シリーズに近いシリアスな物語だが、万能鑑定士シリーズのような日常の延長線上を描いている点で、ほとんど別世界としか思えない展開が魅力の千里眼シリーズとも異なり、またひとつ松岡圭祐という作家の幅の広さを感じる。
どんなところにもクズとしか言えないような人間はいるもので、そんな相手に立ち向かう玲奈はカッコ良くも痛々しい。最後まで切なさの残る物語であり、いつか報われる日が来て欲しいと切に望まずにいられない。次巻にも期待! 続きを読む投稿日:2014.12.30
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ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~
三上延 / メディアワークス文庫
三上延による人気ビブリオミステリ第5弾!
19
栞子に告白したものの、なかなか返事をもらえない大輔。そうこうするうちに身近な人から謎解きを頼まれ、ギクシャクしながらも協力して謎を解いていく。その裏に栞子の母親の影が見え隠れしている。
いろんな意味で…栞子の母親・智恵子はすごい人だ。本の知識の豊富さもさる事ながら、全てを知った上であえて栞子に謎解きをさせたり、栞子と大輔がどう動くかも予想した上で待ち構えたり。こんな人が身近にいたら気持ち悪いかも。
実は、本作にはある仕掛けが仕込んである。エピローグまで読んだときに違和感を感じたのが気がつくきっかけになっているが、それに気がついたときには作者の周到な物語の構成に思わずうなってしまった。 続きを読む投稿日:2014.04.07
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夏を殺す少女
アンドレアス・グルーバー, 酒寄進一 / 東京創元社
一気読み必至の佳作!
15
オーストリアの作家アンドレアス・グルーバーの本邦デビュー作。
なんでもない事故のために窮地に陥っていた叔父を助けるために、その案件に関わっていたエヴェリーンは、同じようになんでもない事故だと思われてい…た案件にも同じ少女の姿が映っている映像があることに気づく。
一方、精神病院に入院歴のある子供が自殺している案件で不審な注射の後を見つけ、殺人ではないかと疑いを持ったヴァルターは、その犯人の後を追うように捜査を始める。
一見、なんのつながりもない事故、あるいは自殺にまつわる、二人の視点で物語が展開する。いずれも心に傷を持ち、一方では真実のために脇目も振らない活躍をする。エヴェリーンなどは弁護士のくせに、家宅侵入と窃盗まで行って証拠を集めようとする。褒められたものではないが、その探究心と行動力には脱帽させられる。
複雑に絡み合った物語がやがてひとつの大きな流れに収斂していき、そこから先を予想できない展開に入っていくあたり、ドイツ語圏で数々の賞を取っているという作者の力量が垣間見える。その作者のスピーディ且つ読者を引きつけてやまない物語を、これまた非常に読みやすく、ページを繰る手を止めさせないような臨場感溢れる筆致で訳された訳者の仕事もすばらしい。同じ作者・訳者が手がけた「黒のクイーン」も是非読んでみたいところだ。 続きを読む投稿日:2014.02.24
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新装版 不祥事
池井戸潤 / 講談社文庫
池井戸潤による銀行内の問題を解決すべく奮闘する女性を描く、ドラマ原作本!
13
ドラマは未見だが、作者が同一だからか「バブル組」シリーズの半沢と花咲舞がかぶる。連作短編となっているので一つ一つのエピソードはあっさりしていてしつこくない。銀行内の派閥争いについても描かれているが、真…藤らはまるで一休さんに出てくる越後屋のようでどこか憎めない。
「バブル組」シリーズは長編だったのでヒール役もねちっこくいやらしい感じだったが、本作ではいやらしくもねちっこくない印象。そのためか読後感はあっさりとしていて「バブル組」ほどはスカッとしない。
それでもミステリーのような展開やテンポよく進む物語など、読み始めたら止まらない要素をうまくまぶしてあり、ついつい読みふけってしまう。 続きを読む投稿日:2014.06.05
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空飛ぶ広報室
有川浩 / 幻冬舎文庫
有川浩による、自衛隊愛満載の長編!
11
ドラマ化もされたと思うが、そちらは未見である。
自衛隊の広報とは、そもそも自衛隊とは、という、知っていそうで一般の人があまりにも無頓着に知らなすぎることを軽妙なタッチで、かつ本質を鋭く突くセリフを織り…交ぜながら物語の進行に合わせて描いていく。そこには、悪意を持った人が読めば自衛隊礼賛だとか軍隊の美化だとかいいたくなるほど清廉で、こんなにも覚悟を持ち、それを誇示せず、しかし理解を深めてもらうために様々な努力をしている人たちが生き生きと描かれている。おそらく、実際にそうしたモデルとなった人がいるのだろうと思えるほどに。
物語はもらい事故によるけがで戦闘機に乗れなくなった空井を中心に、帝都テレビの稲葉リカ、広報室長鷺坂、あえて下士官として自衛隊広報に携わろうとする比嘉、比嘉に育てられ、同じ階級で競い合うことを夢見ていた片山、残念な美人・柚木とそれを見守る槙など、多彩な顔ぶれがそれぞれにそれぞれのキズを持ち、それを乗り越えていく姿を描いている。図書館戦争シリーズほど甘くないが、どこかに少女マンガチックな展開も忍ばせ、一方で自衛隊愛全開なところもしっかりと描いている。
ラストの「あの日の松島」はもはや涙なしには読めない。その当時、被災者である彼らが、自らを省みることなく被災地にて献身的にはたらく姿は、多くの美談として語られたが、実は彼らの本当に伝えて欲しかったことはそんなことではないのだ、という無私の姿勢に、つくづく自分たちの了見の狭さが情けなく思えてくる。
物語とはいえ、そこに描かれているのはヒーローでもなんでもなく、自分たちと同じ泣いたり笑ったり悩んだりしながらもがいている人間なのだという当たり前のことに、改めて気づかされた。 続きを読む投稿日:2014.01.09