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竃猫さんのレビュー
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  • 虚空の影落つ(電子復刻版)

    虚空の影落つ(電子復刻版)

    西村寿行

    徳間文庫

    西村寿行の素顔か?すごく真面目な傑作

    明治維新に興味のある歴史好き、武器・格闘技マニア、歴史小説ファンには是非一読を!といって推したい一冊。 本作は、報われなくても、過酷・薄幸でも、一途に愚直に己の筋を通すとか、道を究める漢(おとこ)の物語とでも謂えるかも知れません。 エロとバイオレンスの名手が、ふと、こんな作品を書いている。よくぞ書いた西村寿行!よくぞ書かせた編集者!と賛辞を送りたい。 あるいは、こちらの方が”素顔”だったのだろうか・・・? 武道にも一家言あったという西村寿行。別の作品で登場する棒術が本作でも主要な設定になっています。 調べたら棒術を教えてくれる道場もあるらしい。本書を読み終わったら、あなたも私と同じで、きっとで習ってみたくなると思いますよ。その「最強」という武具をね。

    3
    投稿日: 2014.12.25
  • 怪盗ルパン全集(1) 奇巌城

    怪盗ルパン全集(1) 奇巌城

    モーリス・ルブラン,南洋一郎

    ポプラ文庫クラシック

    ラスト号泣確実

    良い時代になりました・・・。子供時代に夢中で読んで、貧乏な中、1冊づつ揃えて、「本が多すぎて邪魔」という無理解な家族に知らない間に捨てられてしまった名作が、電子版で手に入るなんて! この本家ルパンシリーズは、初めの巻の方はルブラン自身が書いたものですが、後世の作家が続巻をかいているので、巻数の多いものはバイオレンス調が強くなります。 (個人的には第10巻くらいまでがお勧め) やはり、おすすめはルブラン自身の書いた巻ですね。また、フランス語も知らないのですが、南洋一郎の名訳がイイ! スピード感も出せるが、情緒的な表現も実に良くて・・・、その最たる例である、この奇厳城のラストは本当に泣ける。 驚くような結末の後の、ルパンの行動、それを取り巻く乳母ビクトワール、背景の情景・・・それらが一枚の絵のようで、私は何故かミレーの晩鐘を思い浮かべてしまいます。 (悪役みたいなホームズなのですが、ホームズクラブの会員としては、ルブランのホームズは別人と思ってます) これから先は、残念ながら読んでもらうしかないです。 「11歳の息子さん」、君は良い目をしているよ。 この先は第10巻くらいまで巻数順に進むと良いでしょう。 特に第8巻「緑の目の少女」はね気に入ると思うけど、読み終わったら宮崎駿の「カリオストロの城」を観ると良いよ。理由はヒミツ♪ それでね、一通り読んだ後で考えるんです。奇厳城は何故、第2巻の「怪盗紳士」より先なのかってね。 余談ですが、世界遺産のモンサンミッシェルは、本作のヒントになったとか・・・。

    3
    投稿日: 2014.12.08
  • シングルママの涙と誓いの出生届け

    良歌の宮・こころ

    シングルママの涙と誓いの出生届け

    良歌の宮・こころ

    いるかネットブックス

    アダルト分類は違うと思う。この作者にもっと語らせるべきでは?あと女性はどう読むだろう?

    誰かに勧めるには、難しい種類の本です。でも、多くの人に読んで欲しいと願いたくなる本です。 勧め難い理由は、本作がアダルト分類になっているからではありません。 (この作者の他の作品は別として)このシリーズは、いわゆるアダルトとはちょっと違うと思います。 勧め難い理由は、余りにつらい体験が語られているからです。 こういう感想を持つのは作者や同じ境遇の人たちに悪いと思いますが、自分の平凡でささやかな幸福を有り難い、と感謝する気持ちになりました。 私は男性なので、女性は本作を読んで、どう思うのか分かりませんが、捨てるのも母親という存在ですが、この作者のように頑張ってくれるのもまた母親なんですね・・・。 取り敢えず、自分のお袋に優しくしてやろうと思います。なんだかんだと言っても、女性って凄いですね。 きれいごとと思う人も多いでしょうが、社会的弱者が悲しまずに生きていける世の中を、良い社会と言うのだと信じています。 本作を世に出してくれた作者、関係者に敬意の念を表します。

    0
    投稿日: 2014.12.02
  • 底辺女子高生

    底辺女子高生

    豊島ミホ

    幻冬舎文庫

    この作家は当たりだ!

    実に良いですよ。笑いもありますが、久しぶりに泣けました。 文章に読者を引き込む魅力がありますよね。マンガ家に転向されたようですが、筆を折るには余りに惜しいです。 真骨頂は、中学時代の同級生のお葬式の場面と、家出の場面。作者自身は言及していないけど、この両者には関係があると読みました。 作者はきっと、周囲の気持ちを大事にする心優しい人なのでしょう。それにしても「ハトガイッパイ」って家出中のメッセージにしては詩情の欠片もない(笑)。 でも一言・・・。この人は「底辺」ではないです。本人の認識に尽きますが、「底辺」という意識があっただけ、私の高校生時代より全然マシです。 作者はちゃんと悩み、もがき、そして堂々と大人にケンカを売っている。周囲の大人も、それに割とマジメに付き合ってくれている。良いじゃないですか・・・。 なんとなくモヤモヤした感じのままダラダラと日々を過ごし、時々顔色を伺いつつスネてみる・・・。 周囲の大人も本心は面倒はヤなので、テキトーに指導する。少なくとも私の場合は、そんな感じの高校時代だったと思います。それより全然マシ。

    2
    投稿日: 2014.12.02
  • 覚悟の人 小栗上野介忠順伝

    覚悟の人 小栗上野介忠順伝

    佐藤雅美

    角川文庫

    不器用な人と呼ばれるのか・・・?

    娯楽作の多いこの作家ですが、「大君の通貨」に連なる一連の硬派な作品群の傑作です。 いや、忠順という人物自体が非常に魅力的なんです(NHKさん「またもやめたか亭主殿」観たいです!)。 頭が良くても、真面目過ぎて、世渡り下手で・・・。勝海舟とかと比べると、その不器用さが本当に際立ちます。 忠順の評伝は童門とか他の作家にもあるけど、この佐藤雅美が不器用さがよく出ている気がして、一番しっくりします。 同じく佐藤雅美の「川路聖謨」と並び、昔の人は偉かったんだなぁ、とか、崩壊しようとする組織を懸命に支えようとする姿が胸を打ちます。 そのうち、高崎市を訪問したいと思いますが、遺徳を偲ぶなら意外なところでJR横須賀駅の近くの公園に小さな銅像があります。 ちなみに「大君の通貨」は激推です。政治の本質は経済にあり!と思わせる感じがしますが、山川の教科書に書かれていない幕府崩壊の意外な要因に驚きます。

    3
    投稿日: 2014.11.29
  • ある市井の徒 越しかたは悲しくもの記録

    ある市井の徒 越しかたは悲しくもの記録

    長谷川伸

    中公文庫

    忘れるには余りに惜しい作家

    長谷川伸。一時代を築き、後世の作家に多大な影響を与えた・・・。その眼差しは、常に市井の人々への側にあり、謙虚さや義侠心等に満ちた明治男の心意気を教えてくれる。 映画監督の押井守が好きなので、その影響で読み始めましたが、お勧めです。 台詞回しは難しいかもしれませんが、それが粋でもあります。 奇遇にも生誕地と同じ地域に住んでいます。記念碑が大岡川沿い(京急日ノ出駅近く長者橋付近)にありましたが、護岸工事のため見ることはできません。 毎日、長谷川伸の祖父が出資して作った橋を渡らせてもらっていますが、そのたびに遺徳を偲んでおります。

    1
    投稿日: 2014.11.29
  • 危機の宰相

    危機の宰相

    沢木耕太郎

    文春文庫

    もっと下村治を!

    諸君は偉大なる下村博士のことを御存じであろう乎?御存じない。嗚呼、それは大変残念である。(坂口安吾と鹿島茂のパロディです。ご容赦を) 電子版で読める下村治関連書籍が本作だけとは、実に実に実に惜しい!残念である! こういう分野は、意見、価値観も様々だから人に勧めるものではないけど、賛否いずれにしてもこの稀代のエコノミストを忘れることは実に惜しい! 講演集を国会図書館で読みましたが、1行を読めば1行に驚きました。生意気を言いますが、今の時代こそ、下村治を読み直す必要があるのではないでしょうか。 【追記】 これまで「バックパッカー向け作家」と思っていたのは、なんという不明だったんだろう。もの凄く、骨太なノンフィクションだ! 下村治、目当てで買ったので、池田勇人と田村敏夫はノーマークでした。時代が呼んだか、世間が呼んだか、いずれにしてもこんな漢気(おとこぎ)ある奴ら滅多に現れない。 畏れ入りました。

    1
    投稿日: 2014.11.25
  • 無人島に生きる十六人

    無人島に生きる十六人

    須川邦彦

    青空文庫

    ワンピース好きには是非!

    無人島漂流物とでも言いましょうか・・・。ロビンソンクルーソー、十五少年漂流記、東京島もそうかな・・・。特に、奇跡の生還者である「無人島長平」や「ジョン万次郎」を主人公にした小説群(吉村昭「漂流」、山本一力「ジョン・マン」等)は、素材が凄いだけに本当に凄いものが多いのですよね。 でも、本作ほど爽快感のある物語は絶無でしょう。驚くべきは、これが事実であるということ(wikiですが「パールアンドハーミーズ環礁」にも記載があります)。 人間は極限状態に陥れば、たやすく理性を失う弱い存在かもしれませんが、それでも彼らのような実例がいてくれるお蔭で私たちは人間を信じることが出来る・・・(なんてね)。 そんな気がする作品です。海洋国、日本の多くの人が気に入ると思います。 本作で無人島漂流物に興味が出たら、無人島長平を調べると面白いですよ。サルガッソー海みたいな場所は世界中、わりとあるみたいですね。海流が渦を巻いていて難破船が引き寄せられてくるような場所。海流図を見ると鳥島(八丈支庁)はそんな場所の真ん中に、神様が蜘蛛の糸を垂らしたようにポッンとあるんです。この島の存在も奇跡に思えますよ。 追伸; 忘れてならないのは「エンデュアランス号漂流」、爽快感という意味では本作には及びませんが、英国人がユーモアを大切にする理由が分かる気がする作品です。 実際の写真が多いのも探検家らしい姿勢を感じます。ラストの船長のセリフが良いんですよ、これ。

    0
    投稿日: 2014.11.25
  • 聖の青春

    聖の青春

    大崎善生

    講談社文庫

    こんな凄い本、なんで誰もレビューしないんだろ?

    本当に凄く良いですよ。元関係者の強みと作者自身の力量に賛辞を送ります。が、何といっても怪童丸、村山聖、その人の壮絶と言っても過言ではない生き様に震撼します。 大げさだと笑う人もいると思いますが、きっと同感してくれるはず。人間とはここまで一事に懸けられるものだろうか・・・、天才とはこういう人のためにある尊称なんだな・・・と思えてきます。間違いないです。

    2
    投稿日: 2014.11.20
  • なれる!SE 2週間でわかる?SE入門

    なれる!SE 2週間でわかる?SE入門

    夏海公司,Ixy

    電撃文庫

    頑張れ作者!

    他の人のレビューでは、誇張しているとか、実際はここまで酷くないとか、これはブラック企業の話だとか・・・、そっか・・・桜坂にすっかりシンクロして読んだオレって普通じゃなかったんだ(今、分かった)。ドライバーで刺すとかはないけど、割と普通な感じだと思ってました(軽くショック)。 (気を取り直して)取り敢えず、読んで楽しい作品です。現在、電子版は10巻までのようですが、作者さん頑張って末永く続けて下さい! 個人的には、姪ノ浜ちゃん、お気に入りです。最終的には、桜坂に振られるのかも知れませんが、幸せにしてやって下さい。

    0
    投稿日: 2014.11.20