
関東大震災
吉村昭
文春文庫
その日のために
どういう理由で勧めるのかレビュアー本人でも分からないけで、読んでおいた方が良いと思いますよ。この国に住んでいる以上は、ね。 震災後の流言や混乱の部分、甘粕事件も良く書かれていると思いますが、やはり被服廠の部分ですね。 よく避難訓練とかで消防署の人が指導して下さいますが、余り真剣に考えていなかったり、その指導内容の根拠も分かった気になっていましたが・・・これを読んだからには、消防署の人の訓示とか講評は正座して聞きたくなるくらい猛反省しています。日本の防災行政は、確かに万全ではなく犠牲もゼロにはなりませんが、でもどうしてなかなか。 生き残るために・・・、いえ、私がではなく、私を含めた一人でも多くの人が生き残れるように。★5個です。 あと、本作と併せて例えば宮崎駿「風立ちぬ」を見直してみるのもお勧め。
0投稿日: 2014.11.20まほろ駅前多田便利軒
三浦しをん
文春文庫
人の孤独が語られているのです
として読みました。 私の中では、故杉浦日向子と並ぶ名文家だと思ってまして、作品コンプリート中です。本当にしなやかだけど、芯のある良い文章を書かれる方ですよね。 確かに面白い作品だし、オフビート系の娯楽映画にもなりましたので、このシリーズは全部、そういう意味でも面白いです。 が、勝手な深読みかもしれませんが、本作に登場する人物は全て孤独ですよね・・・、作者が言いたいこと、表現したいとこは男の友情物語とか孤独からの解放ではなくって、もうちょっと深い何かだと思います。うーん・・・それが何であるかは読む人によるのかな・・・。 作中から一例をあげて考えてみたいと思います。 例えば、チワワの預かりを依頼しに来た女性が書類に、ご主人の氏名を記入するのを見て多田は、そういう女が キライだと作者は書きます。何故、キライなんでしょうね?ごく普通で、主婦なら誰しも自然にするだろうことを・・・。 (1) 自分を裏切った前妻が、いつもそうしていたので、前妻を思い出してしまうから (2) 幸せな家庭の空気を感じて、現在の自分と比べてしまいたくないから (3) 自分自身の意思なのに、それを誰かの意思であるかのように見せたいという心理が感じられるから (4) 便利屋ごときの契約に、何も世帯主名の契約でなくても良いじゃないかと思ったから どれでしょうね・・・。これ以外にもあるかも・・・。 私の読み方は、(3)と(4)の中間ですかね。主婦であっても、ひとりの女性として人間として、平然と便利屋風情の 書類に自分の氏名を書く、そんな王子様に運命を委ねない生き方、つまり個として確立した人間の存在する様子 を作者は孤独と称している、のではないかと・・・。あくまでも、私の読み方ですがね(過激なことを書いてしまった、 怒られたらどうしよう・・・)。 あ、レビューのタイトルは作者の別作品に出てくるセリフでもあるんです。 追伸; この作者は孤独に、寂寥感はあっても悲惨という色彩を与えないのは特筆すべきだと思います。「政と源」では政の妻は帰ってはこないけど、不思議に悲しくも惨めでもない。 「職業」と「個としての人間」が、この作者の大きなテーマですよね。
2投稿日: 2014.11.20キシマ先生の静かな生活 The Silent World of Dr.Kishima
森博嗣
講談社
好き嫌いあるでしょうが・・・私はこの作家の一推し
お勧めはしません。人を選ぶ作品です。でも、私の一推しです。 敢えて言うなら、学者とか研究者、それも理系の人で、実験系というより計算機を使う理論研究で、アラフィフ以上の人なら、分かって貰えるかも知れません。 この電子版も買ったけど、単行本は売らないで手許に置きます。 学生時代、サークルとかも入らないで、計算センターに入り浸ってFORTRAN77に憑かれていた私にとって、もう、なんか色々な感情とか記憶とか湧いてくるんです。 悲しいお話しですよ。でも涙を流す悲しさじゃなくてね、切なさに近い感じです。 あの頃、学科もバラバラな端末室常連仲間のあいつら、どこかで頑張っていて欲しいな・・・、と読み終わった後、思いました。そんな作品です。 追記;このダイジェスト版とは別にフルバージョンも発売されたようです。著者検索で出てきました。もちろんフルバージョンの方がお勧めですが、このダイジェスト版も”静かな世界の”空気感は遜色なく味わえます。せっかちな人はこちらを買っても良いと思います。が、やはりダイジェストを読んだら、多分、フルバージョンも読みたくなると思いますよ。フフフ♪ あと、表題は生活ではなく世界の誤記ですかね?それとも英題の方を変更し忘れたのかな?
3投稿日: 2014.11.20火天(かてん)の城
山本兼一
文春文庫
とにかく読んで
紙の文庫本で数年前に読みました。 本と出合う中で、「説明は後でするから、騙されたと思って、とにかく読んでみて!」と人に勧めたくなる作品に出合うことがありますが、本作はまさにそんな作品でした。 モノづくり男子、プロジェクトリーダーなら本当にお勧め。新入社員研修の課題図書にしても良いくらい。 見せ場の連続ですが、個人的には”大黒柱の修正”をするエピソードが凄い! だって、アナタ!情報システムの開発で言えば・・・ 『総合テスト段階で、全く想像もしていなかったような致命的かつ根本的な不具合が発見された!工期延長や追加資源投入どころか修正自体も不可能。あなたなら、どうする?』 みたいな状況に主人公が立たされるんですよ!?滅茶苦茶、感情移入して、文字通り手に汗を握って読みました。 山本兼一氏は、他の作品も含め、一芸を究めようとする人を描いておられたと思います。夭逝が本当に惜しまれます。合掌 追記; 本作が気に入った人は「雷神の筒」「いっしん虎徹」も、きっと面白いはず。どっちも電子化されていません。意地悪しないで早く電子化して下さいm(_ _)m 追記2; 本作は人気があるようですね。本作と似た作品をもっと読みたいならば、幸田露伴の「五重塔」もお勧めですよ。
1投稿日: 2014.11.11