bookkeeperさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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江戸の思想史 人物・方法・連環
田尻祐一郎 / 中公新書
百花繚乱 元禄ルネサンス
3
江戸時代の思想の博覧会。朱子学から国学、蘭学さらに天理教などまで及ぶ。どこかで聞いたことくらいはある思想、人名が多いのだが、改めてこうして総ざらえにされると、江戸の世に百花繚乱の思想があった様がよく分…かる。あとがきに、思想に寄り添いすぎて批判的に読むのが苦手、と記してあるがたしかにその通りみたいで、正反対な志向を持つ思想を取り上げてもそれぞれの長所を誉めてしまう。厚くはない新書にこれだけ幅広く詰め込んでいるので細部の突っ込みはあまりないのだが、初心者には好適の見取り図。てんこ盛りすぎて消化不良のきらいはありますが。
元禄ルネサンスなんて言葉をどこかで聞いた記憶があるが、この様子にはルネサンスを思わせるものがある。戦乱の中世を抜けて、はじめは武士のあり方を模索したりしているが、やがて都市に文化が花開く。仁斎や徂徠は、朱子学を突き抜けて孔孟に帰ったという点で古典復興と呼べるだろう。徂徠や富永仲基、吉見幸和のテキスト分析の実証性や白石にみられる合理性、古いドグマを振り払って蘭学等々の実学が生まれるのもルネサンス的と思える。だから何なのか?都市で束縛の少ない、より匿名的な社会関係が生まれると思想もそういう方向に向かうのかも。本書は序章でそういった社会条件を列挙しているが、そこと思想の関連性をもっと問うと面白いかも。 続きを読む投稿日:2016.10.10
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〈意識〉とは何だろうか 脳の来歴、知覚の錯誤
下條信輔 / 講談社現代新書
少し古い本ですがこれをラインアップしてあるのはエラい
3
まず、人間が認知の過程で犯してしまう「錯誤」からその意識の仕組みを解明しようというアプローチがとても面白いです。
「脳」科学と呼ばれるように意識の座としての脳がスポットライトを浴びがちなわけですが、…意識というものは脳に閉じているのではなく周りの環境と交じり合うものだという視点から、「来歴」という考えが提唱されています。 続きを読む投稿日:2013.10.13
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空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む
角幡唯介 / 集英社文庫
遅れてきた探検家
3
舞台となるのはツアンポー渓谷。チベット高原を横断しインドへ流れ込むツアンポー川(現地語でヤル・ツアンポー、実はツアンポーの方が「川」って意味なのですが)がヒマラヤ山脈東端でおれまがる屈曲部の渓谷です。…19世紀までは、そもそもツアンポー川の下流がどこにつながっているかすらも諸説あり、ほとんど人跡未踏の地でした。「空白の5マイル」とは、1924年にツアンポー渓谷を踏破したフランク・キングドン=ウォードが探検できなった最後の秘境をさします。
著者は早大探検部OBです。空白の5マイルとはいうものの、1990年代にはあらかた探検されてしまっています。それでもわずかに残された秘境に挑む、いわば遅れてきた探険家であるがゆえに「何でそこまでするの?」という問いが否応なく浮かびあがります。装備が不十分だったり、中国政府の許可がなかったり、結構ムチャな単独行。そのムチャに、臨場感というか読み応えがあります。 続きを読む投稿日:2013.12.08
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ディアスポラ
グレッグ・イーガン, 山岸真 / ハヤカワ文庫SF
あまりの壮大なスケール
3
あまりの壮大なスケール。はっきり言って難しすぎてついていけない所があるが見事な大法螺イーガン節である。すばらしい。
これまで読んだ作品と比べるとユッタリとしたストーリーで、解説の大森望氏が指摘するよ…うなビークル号的古典的冒険譚の香りもある。もう少し異世界の細部をギリギリ書いて冒険譚風味を出して、という気はするが、それじゃテーマとそれるし冗長か。 続きを読む投稿日:2016.10.10
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逝きし世の面影
渡辺京二 / 平凡社ライブラリー
西洋人の目から見た開国前後の日本
3
幕末・明治初期に日本を訪れた西洋人の観察記から近代以前の日本のすがたを探る。読み方について議論があるのもうなずけるが、渡辺は日本の話がしたいのではなく近代以前の話がしたいのである。ここに描かれる日本の…姿は「逝きし世」であり今には残っていないのだ。他の著作と十分に一貫していると思う。
いろいろ読みどころの多い本だが、興味深かった点をひとつだけ。西洋文明の衝撃に直面して、幕末思想家の何人かは東洋の精神的道徳と西洋の物質的技術の統合、すなわち和魂洋才を夢見たが、当の西洋人は日本の特長は物質的生活にあり、それに反して西洋の特長は精神のダイナミクスにあると考えていたという。
しかしベストセラーのはずなのにこれが初レビューとは 続きを読む投稿日:2016.10.09
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適正技術と代替社会 インドネシアでの実践から
田中直 / 岩波新書
「MAKERS」副読本?
3
クリス・アンダーソンの「MAKERS」と前後して読みました。だいぶノリは違いますが、「ブラックボックス化したモノ作りを我々の手に取り戻そう」というマインドは同じです。インドネシアで排水処理をしたり、バ…イオマス・ボイラーを作ろうとしたりといった体験をもとにして、途上国で自前で賄えて、さらに環境にやさしい技術について語っています。この著者は自らがエンジニアなのですが、専門外の知識については大学や企業に協力を請うていて、一種のオープン・イノベーションをやっている訳でもあります。
資本主義経済への反省みたいな方向に行ってしまっているので印象こそ異なる本ですが、アンチ権威的な気風は、WEB系(クリス・アンダーソン)と左派系(こちら)とで結構共通していることに気づきました。 続きを読む投稿日:2013.10.13