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bookkeeperさんのレビュー
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  • コン・ティキ号探検記

    コン・ティキ号探検記

    トール・ヘイエルダール,水口志計夫

    河出文庫

    ヴァイキング野郎、太平洋へ乗り出す

    子供の頃に読んだことあったかなー、と思いつつ古本屋で手に取ったものを夏休み的読書として。版元は違うのですが、訳者が同じなのでReader Storeになるものと中身は同じでしょう。 とにかく大胆で気風のいいヴァイキング野郎どもの航海記というか漂流記である。大きな太平洋の中ではたまに無線連絡がとれても場所を特定して見つけてもらうのは無理だったようで、航海中はまさに孤立無援の状態にあったわけだ。リスクだなんだと小うるさい世の中でこんな話を読むのも気持ちがいい。 航海=漂流は決して平坦で退屈なものではなかったようで、最初のうちは舵をとるだけでも大変。あと、大陸棚を越えてもずっと魚の群れと一緒だったことは意外。海流沿いに魚の道があるのか。ジンベエザメやらマグロやらイカやら色々と登場する。 南米からポリネシアに向かった話とは知らず、巻頭の地図を見て「あれっ?」と思った。逆じゃないかと。調べてみれば学説的にもポリネシアへの移住は西側からというのが今でも定説で、ヘイエルダールの説は認められていないようだ。たしかに、あごひげ生やした白人がどうのこうのと、ところどころで妙な説を唱えていたし。でも、この冒険譚の魅力はそれでも薄れない(サツマイモとかポリネシアと南米の交流を示唆する証拠もあるようだ)。 1000年以上前に、ちっぽけな筏やカヌーで大海原に乗り出した人たちを思えば、人間なかなかすごいな、と言いたくなる。

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    投稿日: 2016.10.09
  • 経済大国インドネシア 21世紀の成長条件

    経済大国インドネシア 21世紀の成長条件

    佐藤百合

    中公新書

    手堅いインドネシアのまとめ

    インドネシアの経済・政治を現地在住の長い研究者がまとめている。楽しみのために読むような本ではないが、手早くインドネシアの政治経済を知りたい人のためのバランスの良いまとめ。 ・領土も人口も大国。資源も豊富。90年代前半には今のBRICsあたりと並び称されていたが、アジア通貨危機で脱落。 ・人口増加率はふつうに減ってきていたが2000年代(90年代1.45%→00年代1.49%)になってなぜか盛り返した。民主化・分権化によりスハルト時代の強制的な人口抑制策が弱まったためか。良し悪しはあるが、他のアジア諸国と比べても人口ボーナスは長く続き、2025から30年くらいまで。 ・2004年就任のユドヨノがはじめて民主的に選ばれた大統領。経済面では通貨危機やスハルト後の混乱期の影響をようやく脱しつつあるくらいで苦戦しているが、政治・治安は安定した。ユドヨノは軍人出身で、軍が庶民の出世コースであることが伺われる。 ・大国インドネシアは重工業も含めたフルセット主義の開発方針を採っている。しかし、資源高のせいもあるが輸出高にしめる工業製品の割合はここ10年で減少している。それに重工業はまだ外資中心である。 ・1997年までは定跡どおり農業人口割合は減り続けていたが、その後一転して40%強で横ばいになった。 →著者は、「農業にも成長のエンジンが現れた」(パーム油など価格が上がっているはず)で済ませているが、農業が成長してもふつうは機械化などで従事人口は減るはずであり、他のアジア諸国と比べた生産性の伸び悩み、都市と地方の所得格差を考え合わせると、ここらへん(たぶん多すぎる人口、中国も近いところがあるのでは?)にインドネシアのアキレス腱があるかもしれない。 ・プリブミ優遇策でのしあがった政商がいたり、豪米帰りの経済テクノクラートが政府の中核を占めていたりいろいろ。もちろん華人企業家も多い。

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    投稿日: 2016.10.09
  • 決着! 恐竜絶滅論争

    決着! 恐竜絶滅論争

    後藤和久

    岩波科学ライブラリー

    サイエンス・コミュニケーションの難しさ

    2010年に41人もの学者らが共同で「サイエンス」誌に発表した、恐竜絶滅の原因は小惑星衝突が原因であることを改めて論証した論文についての本。学界ではほぼほぼ衝突説で決着していたのだが、それへの反論ばかりがマスコミに取り上げられる状況を危惧しての「まとめ論文」発表であった。 小惑星衝突説  1980年にノーベル物理学賞受賞者のルイス・アルヴァレズと、その息子で地質学者のウォルター・アルヴァレズが提唱。白亜紀-第三紀境界(K/Pg境界)でイリジウムの濃度が高いことを根拠とした。1991年にユカタン半島北端でチチュルブ・クレーターが発見されたことが決定的な証拠となった。 大量絶滅  ふつうは個体数ではなく、種や属レベルの多様性が顕著に減少する場合に「大量絶滅」という言葉が使われる。数パーセントの個体数でも生き残った種であれば、再び数を増やして地質学的証拠からはなかなか減少の様子は分からないことに注意。  チチュルブ衝突による生物への影響は、津波や熱波や毒ガスなどいろいろあったが、地球規模的な大量絶滅の原因となったのは、寒冷化と海洋の酸性化。光合成植物やプランクトンが絶滅したことで、食物連鎖の上層も死に絶えた。生き残ったのは、食物連鎖の中でも腐食物を利用する腐食連鎖の生物たち。昆虫や哺乳類など。あと海水生物よりも淡水生物が酸性化を免れて多く生き残った。カメ、ワニなど。 衝突説への反論  恐竜は漸進的に数を減らしていたとする主張と、火山噴火に絶滅の根拠を求める主張とが主な反論。火山噴火説には、白亜紀末だけでなく他の大量絶滅をも同じ理由で説明できる魅力があるものの、チチュルブのような物的証拠にサポートされていない。もはや、これらの説を唱えているのは一部の学者だけだと。

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    投稿日: 2016.10.09
  • 言語学の教室 哲学者と学ぶ認知言語学

    言語学の教室 哲学者と学ぶ認知言語学

    西村義樹,野矢茂樹

    中公新書

    対談形式で読みやすい

    認知言語学者に哲学者がツッコミを入れていく対談。まだ新しくて発展途上の認知言語学の視点から言語学全体の簡単なレビューもしてくれる。対談はざっくばらんで面白いが、意外と咀嚼するのは大変。 古くは言語学といえば言語のルーツなどを調べる学問だったが、ソシュールが共時態の言語学を唱えて言語の構造を調べる方向へ。そしてチョムスキーが単に言語のあり方をブラックボックス的に記述するのでなく、なぜそうなっているかの学問として生成文法をはじめる。言語知識を他の知識から独立したものとして捉えて(狭義の)文法に意味を認めない生成文法に対するアンチテーゼとして生成意味論がおこったが敗北。しかし生成意味の後継者として認知言語学あらわる。認知言語学は言語相対主義と親和性がある。 直感的には何を言っているか分かりにくい生成文法と比べると、認知言語学はハラ落ちしやすい。掛け算の順序の議論に例えると、順序に意味を認めないのが生成文法で、順序に意味を見出す(実際に意味を持たせて使われているじゃないかということで)のが認知言語学って感じ? ・カテゴリー間をしっかり区分けする古典的カテゴリー論に対して、そのカテゴリーらしさ=プロトタイプを中心に、グレーな色分けを想定するプロトタイプ論(ペンギンは「鳥」のプロトタイプではない、みたいな)。 ・プロトタイプ論と似た百科事典的意味論。言語の意味も、事実に関する意味(百科事典)と切り離せない。意味論と語用論も切り離せないと。 ・使役構文。英語ではcausation=因果。文法が意味を含んでいる例として。 ・メトニミー。「村上春樹を読んでいる」みたいな。(の本)を省略しているだけではないかとも言われるが、参照点理論とか、「フレームと焦点」理論とか、独自の働きを説明するフレームワークがある。 ・メタファーには言語の本質があると。More is up、Argument is warのような概念メタファー。

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    投稿日: 2016.10.09
  • 社会心理学講義 ──<閉ざされた社会>と<開かれた社会>

    社会心理学講義 ──<閉ざされた社会>と<開かれた社会>

    小坂井敏晶

    筑摩選書

    社会学なの?心理学なの?ハッキリしないんだから、もう!

    社会心理学の現状を「心理学の軒先を借りているに過ぎない」と嘆き、社会と個人のあいだのダイナミズムをこそ研究しなければと説く。著者は、日本の大学は中退してフランスに渡り、ほぼ「独習者」として社会心理学を修めた方。哲学にまで遡って(主体概念なんかに正面から取り組む)、タコツボ化せずにビッグ・ピクチャーを描こうとする心意気やよし。しかし、そうするとどうしても議論は大味になる。バランスというか、なんだか難しいね。 社会システムの同一性と変化という矛盾する(?)力に着目していく。 フェスティンガーの認知不協和理論は知っていたが、社会秩序を維持する方向に働くホメオスタシスの理論として捉えたことはなかった。ほんとうは周囲からの影響を受けているのに、自ら自分を説得して態度変化させるので、その変化は強く長く続くと考えられる(実験での実証は難しいが)。個人主義の限界を浮き彫りにする理論だと。 一方で社会システムの変化を扱う、モスコヴィッシによる少数派影響の理論は初耳だった。多数派の影響は表面的なものにとどまるが、少数派の影響は根っこから態度を変えるらしい。難しくてよく分からないところが多かったが、残像色を利用した実験はエレガント。

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    投稿日: 2016.10.09
  • 日本料理の贅沢

    日本料理の贅沢

    神田裕行

    講談社現代新書

    一流料理人はこんなに色々かんがえているのか

    ミシュラン三ツ星の店なんか縁がないのだが、これを読んだら行ってみたくなった。実家が料理屋をしていた徳島の子供時代や、パリに渡ったりもした修行時代のエピソードも交えつつ、前菜からはじまってデザートにいたるコースの章立てになっている。 語りかけるような文体で、本職は当然料理人なのだしたぶん口述筆記で一気に書いたのかと思っていたら、あとがきによると執筆に3年かけたとのこと。手間隙をかけるのはやはり性分なのか。みごと、読んでいて腹の減ってくる仕上がりになっている。 お客の飲みっぷりなどで即興的にメニューを組むそうな。 子供のころ百合根が好きで(渋いよな)、親に頼み込んで百合根だけの茶碗蒸しを作ってもらったら美味しくなくて出汁の効果を知る。これは作ってあげる親も偉い。 酸味が料理のキーだと。特に近年の傾向として(へー)。著者自身もスダチが好き。日本酒に比べて酸があるのがワインが好まれる理由ではないかと。日本酒ばかり飲んでいると酸がなくて飽きてくると。 寿司も握ってしまうオールマイティさはパリ修行の賜物。 素材の吟味とか、味の組み合わせとか、けっこうロジカルなのである。

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    投稿日: 2016.10.09
  • 現代台湾鬼譚 海を渡った「学校の怪談」

    現代台湾鬼譚 海を渡った「学校の怪談」

    伊藤龍平,謝佳静

    青弓社

    これもまた台湾の魅力

    台湾の大学で教える日本人が、教え子の卒論(ある小学校で怪談をテーマに調査した)をベースに書いた本。かならずしも怪談は専門分野ではないということだが興味深く読んだ。 「学校の怪談」があるのは日台共通だし日本から伝播した話もあるようだが、台湾では鬼(幽霊)に悩まされて退学してしまう学生がいたり、まじない屋みたいなのが繁盛していたり、日本よりかはだいぶ前近代的というか、幽霊が近しい存在であるようだ。 そんな台湾の大学でもっぱら女子学生に囲まれながら、陰陽眼のあるという(霊感があるみたいな)学生から個別の聞き取りをしたり、鬼について絵を描いてもらったりするアンケートをしたりしている。半分はクールに研究対象として日本のアニメの影響を見たりしているが、半分は霊の存在を信じる台湾社会にどっぷり浸かっている感じであり、その臨場感が面白い。 他にも、キョンシーやこっくりさんや日本兵の霊やオカルトなど盛りだくさん。

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    投稿日: 2016.10.09
  • ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争(上)

    ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争(上)

    デイヴィッド・ハルバースタム,山田耕介,山田侑平

    文春文庫

    (アメリカにとって)忘れられた戦争

    重量級の朝鮮戦争ドキュメント。アメリカの政府・軍上層部内(中朝露側も少々)の駆け引きと誤算、前線で戦った将校・兵士らの証言からなる。中央と前線の対比が読みどころ。また、マッカーサーという特異な個性もひとつの主役になっている。 アメリカにとって朝鮮戦争は忘れられた戦争である。引き分けるために多くの血が流された。ただし、アジアでの覇権的な共産主義の勢いをとめた功績はあると帰還兵は振り返る。 アメリカ国内政治との絡みで言えば、蒋介石の中華民国(台湾)がこの戦争に影を投げかけていた。武器を与えても中共軍に奪われるだけの頼りない連中。しかし米国内では共和党に巧みなロビイングで食い込んで、アメリカが中共との戦争に入るよう後押ししていた。トルーマンや国務長官のアチソンらはこうした動きに苦々しいものを覚えていた。しかし、結局のところマッカーシズムがおおいに吹き荒れてアメリカの外交・軍事を束縛した。→「タイム」誌などのメディアも大立者がマッカーシズムを応援しており、エルロイの小説を思い出した。著者としては21世紀初頭のアメリカ政治に擬する思いもあったろう。 中・朝・ロの微妙な駆け引き。中国はこの戦争で自らの力を証明しようとして成功した。ただ皮肉なことに毛沢東の独裁強化となり、後の文革の伏線となったとも言える。北朝鮮は、金日成のいい加減さばかりが目立つ。スターリンは漁夫の利というか、けしかけるだけで少なくとも損をしなかった。 マッカーサーはフィリピンで日本をなめ、朝鮮戦争開戦時には北朝鮮をなめ、鴨緑江では中国をなめて痛い目にあった。そもそも人種差別的、敵をリスペクトすることを知らぬままだった。とにかく外聞にこだわり、気分の浮き沈みが激しく、バターン・ギャングのような取り巻きを侍らせて意にそぐわね情報には耳を傾けなかった。朝鮮戦争の期間中もほとんど半島に行くことはなかった。 対照的に描かれるのは後任のリッジウェイ。タカ派であることは同じだが、敵をリスペクトし、現場重視であった。 米軍は第二次大戦後は動員がどんどん解除され訓練も行き届かず骨抜き状態になっていた。緒戦は、数に勝り規律がとれてT-34を擁した北朝鮮軍にかなわなかった。釜山橋頭堡まで後退して援軍が到着し戦線を整えるとともに、部隊の錬度もあがっていった模様。最初は偵察というとトラックに乗って道路を走っていったのが、道々の高地を占領するようになった。 朝鮮の山がちな地形が国連軍の車両による機動力をそぎ、中国軍には待ち伏せのチャンスを提供した。 中国軍も緒戦は国連軍の油断により、待ち伏せで大々的な勝利を収めた。数量的にも圧倒的に優勢だったし、国連軍の偵察機に気づかれず軍勢を動かすことも出来た。しかし、国連軍に大ダメージを与えつつも一方で多くの部隊を取り逃がしたあたり、部隊間の通信未整備や制空権を持っていないことに由来する弱点があった。 中国軍は国連軍を分断包囲する戦術を取ったが、国連軍側は陣地をしっかり固めて火力を集中し、空から補給を続ければ戦えることをチピョンニで立証する。中国軍は大損害を出した。中国軍はさらに南に進むに連れて補給も大問題になった。そして戦争はこう着状態に。 マッカーサーが原爆を使って中国との戦争になれば、より無防備な日本も巻き込まれるって懸念があったのだね。トルーマンはまともな判断をしてくれた。

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    投稿日: 2016.10.09
  • ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

    ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

    ピーター・ティール,ブレイク・マスターズ,瀧本哲史,関美和

    NHK出版

    最近はトランプ推しで有名なティール氏

    ペイパル創業のOBはその後多くのベンチャーで活躍しているとのことで、やはり何かが違うのだろうか。書かれていることはもっともだが、できることとできないことがあるよなあ、とは思ってしまう。残念ながらやや別世界の感。 ・ほとんどの人はグローバリゼーションが世界の未来を左右すると思っているけれど、実はテクノロジーの方がはるかに重要だ。 ・金融化された世界には批判的。(デフレ批判とも読めるな)  あいまいな世界では選択肢が無限に広がっていることが好ましい-お金を使ってできることよりも、お金自体にはるかに大きな価値があるとされる。お金が目的達成の手段となり、目的でなくなるのは、具体的な未来においてだけだ。 ・スタートアップの初期の社員にはできるだけ似通った人間を集めるべきだと言う。  (ペイパルは変わり者のgeekぞろいであった) ・役割をはっきりさせることが最善の人事管理であったと。争いを減らすことに効果。まあ、これはアメリカのベンチャーゆえというところかも。 ・販売へのコストのかけ方は商品価格に比例する。顧客生涯価値と顧客獲得コストの比較。個人セールスと従来型広告宣伝との間にはデッドゾーンがある。 ・パランティア。NSAとかの情報分析を助けるベンチャー。ソフトウェアと、訓練を受けた分析官の組み合わせ。

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    投稿日: 2016.10.09
  • 憑神

    憑神

    浅田次郎

    新潮社

    他人から借りて読んでみました

    ほんとに器用ですな、この人は。時代物をやると宮部みゆきに近いテイストを感じる。 人情話と怪異譚に歴史ものの風味を添えた佳品。飛行機内で気楽に読むにはちょうど良かった。

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    投稿日: 2016.10.09