bookkeeperさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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山椒魚(新潮文庫)
井伏鱒二 / 新潮文庫
肩の力がぬけた独特の読み味
3
処女作と思えない老成した感じの「山椒魚」
設定が面白い「掛持ち」
ひねくれたユーモアの「言葉について」
幻想的ですらある「朽助のいる谷間」「へんろう宿」「シグレ島叙景」
女性との関係を滑稽に描く「岬の…風景」「女人来訪」
いっぽうこちらは男同士「寒山拾得」「夜ふけと梅の花」
鳥シリーズ「屋根の上のサワン」「大空の鷲」 続きを読む投稿日:2017.03.12
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適正技術と代替社会 インドネシアでの実践から
田中直 / 岩波新書
「MAKERS」副読本?
3
クリス・アンダーソンの「MAKERS」と前後して読みました。だいぶノリは違いますが、「ブラックボックス化したモノ作りを我々の手に取り戻そう」というマインドは同じです。インドネシアで排水処理をしたり、バ…イオマス・ボイラーを作ろうとしたりといった体験をもとにして、途上国で自前で賄えて、さらに環境にやさしい技術について語っています。この著者は自らがエンジニアなのですが、専門外の知識については大学や企業に協力を請うていて、一種のオープン・イノベーションをやっている訳でもあります。
資本主義経済への反省みたいな方向に行ってしまっているので印象こそ異なる本ですが、アンチ権威的な気風は、WEB系(クリス・アンダーソン)と左派系(こちら)とで結構共通していることに気づきました。 続きを読む投稿日:2013.10.13
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日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち―(新潮選書)
板谷敏彦 / 新潮選書
単なる美談としてではなく
3
もし高橋是清の外債公募ツアー回顧だけならば、ちょっと面白い歴史物に過ぎないでしょう。また、日露戦争当時の世界経済・ファイナンス概論だけならば勉強にはなっても無味乾燥でしょう。両者をうまく組み合わせるこ…とで、面白く読める上に、知的興奮のある読み物になっています。
舞台となる20世紀初頭は、産業革命が世界にひととおり浸透して経済・金融がグローバル化した時期です。ヴィクトリア朝は終わっていますがまだ英国が世界のリーダー的地位にあり、太平洋に達した新興勢力米国の勢いはすさまじく、極東の島国日本がようやく世界に向かって本格的に開かれ、ロシアでは革命の予兆が漂っています。
当時のロシアの人口は日本の3倍、GDP(購買力平価ベース)も同じく3倍。
あれ?一人当たりGDPは日露で同等だったんですね。ロシアはヨーロッパの後進国とは言え、この事実は個人的には意外でした。
こういったデータの積み重ねで、当時の日本が置かれていた状況、さらには、高橋らがどんな判断でどう行動したかが伝わるようになっています。また、ロンドン公債市場や東京株式取引所の相場が、戦況の報道を受けて上下する様も丁寧に追われており興味深いです。 続きを読む投稿日:2013.09.27
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ウナギ 大回遊の謎
塚本勝巳 / PHPサイエンス・ワールド新書
ウナギ研究の40年
3
ウナギたちが、太平洋は遥か南方のマリアナ海溝あたりで産卵しているのが明らかになったことは聞き及びの方も多いと思います。あの黒いニョロニョロが大海原を何千kmも泳ぐ姿を想像すると、「何故わざわざそんな遠…くで?」という疑問が湧き上がってきますよね。
この本は、魚の回遊行動を研究してきた先生が書いています。ウナギの豆知識解説書であると同時に、産卵場所探しに取り組んできた研究者の半生記であり、仮説を元にフィールドで実証に至る科学のプロセスを解説した本でもあります。著者40年の研究生活を贅沢に素材にして、薄い新書にギュッと詰め込んだような一冊です。
著者の塚本先生がはじめて調査船に乗り組んだのが1973年の「第1回白鳳丸ウナギ産卵場調査」。それから天然ウナギ卵を発見するまでのあいだ、何回にもわたって航海が繰り返されました。この間、もちろん闇雲に海を探していたわけではありません。手持ちのデータを元に産卵場所の仮説を立てて、それに基づいて網を引いてまわってウナギの稚魚を採集します。広い海をグリッドに区切って、稚魚が採れる海域/採れない海域、採れたならばサイズや海流をマッピングしていくのです。成果があがる航海ばかりでなく、望む小ささの稚魚がぜんぜん採れないこともあります。徐々に網を狭めるように産卵場所を突き止めていくプロセスは、丁寧な解説や詳しい図表のおかげで、研究者の思考を追体験できるようです。
Readerでこの本を読むにあたっての注意点は、カラーの図版がふんだんに使われていることです。長い本ではないので、もしお持ちならばタブレットで読むのがオススメです。もちろん紙の本、という手もありますが。。。 続きを読む投稿日:2013.09.27
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神様のカルテ
夏川草介 / 小学館文庫
品が良いお話
3
ともすると「さあ泣きなさい」と言わんばかりのお話なのですが、不思議といやらしさを感じず素直に読めました。主人公の語り口なんて奇妙な設定ですが、その辺のひねりがうまく働いて品の良さを出しているのでしょう…か?松本の風景や、下宿の様子なんかもイイ雰囲気を出しています。
あと、書いているのがホンモノのお医者さんだそうで、やっぱり病院の描写は元手のかかり方が違うだけあってリアルだと思いました。 続きを読む投稿日:2013.10.13
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〈意識〉とは何だろうか 脳の来歴、知覚の錯誤
下條信輔 / 講談社現代新書
少し古い本ですがこれをラインアップしてあるのはエラい
3
まず、人間が認知の過程で犯してしまう「錯誤」からその意識の仕組みを解明しようというアプローチがとても面白いです。
「脳」科学と呼ばれるように意識の座としての脳がスポットライトを浴びがちなわけですが、…意識というものは脳に閉じているのではなく周りの環境と交じり合うものだという視点から、「来歴」という考えが提唱されています。 続きを読む投稿日:2013.10.13