bookkeeperさんのレビュー
参考にされた数
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このユーザーのレビュー
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世界を読みとく数学入門 日常に隠された「数」をめぐる冒険
小島寛之 / 角川ソフィア文庫
数学が苦手でも楽しめました
3
多彩な話題を扱っていて面白い。条件付確率、確率の独立性、ネイピア数、ポワッソン分布、カオスあたりは実生活や仕事に馴染み深いか。一方、素数や複素数といった理論的な話もRSA暗号のところで実生活にかかわる…。ただし、RSA暗号の量子コンピューターによる解読のくだりは完全にお手上げ。ベルヌーイシフトなんかも分からん。他にも分かったつもりで分かっていない箇所はたくさんあるのかも。 続きを読む
投稿日:2017.03.12
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山椒魚(新潮文庫)
井伏鱒二 / 新潮文庫
肩の力がぬけた独特の読み味
3
処女作と思えない老成した感じの「山椒魚」
設定が面白い「掛持ち」
ひねくれたユーモアの「言葉について」
幻想的ですらある「朽助のいる谷間」「へんろう宿」「シグレ島叙景」
女性との関係を滑稽に描く「岬の…風景」「女人来訪」
いっぽうこちらは男同士「寒山拾得」「夜ふけと梅の花」
鳥シリーズ「屋根の上のサワン」「大空の鷲」 続きを読む投稿日:2017.03.12
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江戸の思想史 人物・方法・連環
田尻祐一郎 / 中公新書
百花繚乱 元禄ルネサンス
3
江戸時代の思想の博覧会。朱子学から国学、蘭学さらに天理教などまで及ぶ。どこかで聞いたことくらいはある思想、人名が多いのだが、改めてこうして総ざらえにされると、江戸の世に百花繚乱の思想があった様がよく分…かる。あとがきに、思想に寄り添いすぎて批判的に読むのが苦手、と記してあるがたしかにその通りみたいで、正反対な志向を持つ思想を取り上げてもそれぞれの長所を誉めてしまう。厚くはない新書にこれだけ幅広く詰め込んでいるので細部の突っ込みはあまりないのだが、初心者には好適の見取り図。てんこ盛りすぎて消化不良のきらいはありますが。
元禄ルネサンスなんて言葉をどこかで聞いた記憶があるが、この様子にはルネサンスを思わせるものがある。戦乱の中世を抜けて、はじめは武士のあり方を模索したりしているが、やがて都市に文化が花開く。仁斎や徂徠は、朱子学を突き抜けて孔孟に帰ったという点で古典復興と呼べるだろう。徂徠や富永仲基、吉見幸和のテキスト分析の実証性や白石にみられる合理性、古いドグマを振り払って蘭学等々の実学が生まれるのもルネサンス的と思える。だから何なのか?都市で束縛の少ない、より匿名的な社会関係が生まれると思想もそういう方向に向かうのかも。本書は序章でそういった社会条件を列挙しているが、そこと思想の関連性をもっと問うと面白いかも。 続きを読む投稿日:2016.10.10
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ディアスポラ
グレッグ・イーガン, 山岸真 / ハヤカワ文庫SF
あまりの壮大なスケール
3
あまりの壮大なスケール。はっきり言って難しすぎてついていけない所があるが見事な大法螺イーガン節である。すばらしい。
これまで読んだ作品と比べるとユッタリとしたストーリーで、解説の大森望氏が指摘するよ…うなビークル号的古典的冒険譚の香りもある。もう少し異世界の細部をギリギリ書いて冒険譚風味を出して、という気はするが、それじゃテーマとそれるし冗長か。 続きを読む投稿日:2016.10.10
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逝きし世の面影
渡辺京二 / 平凡社ライブラリー
西洋人の目から見た開国前後の日本
3
幕末・明治初期に日本を訪れた西洋人の観察記から近代以前の日本のすがたを探る。読み方について議論があるのもうなずけるが、渡辺は日本の話がしたいのではなく近代以前の話がしたいのである。ここに描かれる日本の…姿は「逝きし世」であり今には残っていないのだ。他の著作と十分に一貫していると思う。
いろいろ読みどころの多い本だが、興味深かった点をひとつだけ。西洋文明の衝撃に直面して、幕末思想家の何人かは東洋の精神的道徳と西洋の物質的技術の統合、すなわち和魂洋才を夢見たが、当の西洋人は日本の特長は物質的生活にあり、それに反して西洋の特長は精神のダイナミクスにあると考えていたという。
しかしベストセラーのはずなのにこれが初レビューとは 続きを読む投稿日:2016.10.09
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ペスト(新潮文庫)
カミュ, 宮崎嶺雄 / 新潮文庫
2011年4月の読書メモより
3
震災後の状況をこの作品になぞらえた文章をたまたま2つも別々に見つけた。そこで読んでみる事に。
日常をむさぼっていた都市が、徐々に不条理な事態に直面する(徐々に、というのが地震と異なるが、原発や電力の…問題が当初の予想を超えてエスカレートしていく様は少し似ていないか)様子を淡々と描く前半から、そのペストと言う事態の只中で、確たる希望もないまま闘う人物の姿が描きこまれていく後半へと盛り上がっていく。主人公のリウーやともに保健隊で働く仲間たちは、彼らを動かす原動力こそ違えど、ヒロイズムでなく平凡に自分の職務と思うところを果たしていく。世界は圧倒的な力で人間を打ち負かすことがあるが、それでも抗うことに人間の人間たる所以があるのだろう。
しかし、フランス人が書いたせいか、60年の隔たりのせいか、翻訳と言うフィルターのせいか、単に趣味の問題か、どうもセリフや叙述がまだるっこしく思える(これでも簡潔な文体と訳者は言うが)。それに主題も、ボクにとってスッと腹に落ちるものなのだが、スっと落ちすぎて引っ掛かりが足りない感じ。読みきれていない部分もあるのだろうけれど。 続きを読む投稿日:2017.03.12