
統計学が最強の学問である
西内啓
ダイヤモンド社
なんにでも応用できちゃう統計学
タイトルにふさわしく本文も煽り気味な統計に関する読み物です。実践寄りの話が多く、特に後半戦の統計学を使う分野によっての使い方の違い(ぜんぜん違う!)は面白く読めました。また、一般化線形モデルのまとめ表も秀逸。
7投稿日: 2014.05.01
新・ローマ帝国衰亡史
南川高志
岩波新書
衰亡の原因は結局よく分からず
本家本元のギボン『ローマ帝国衰亡史』にたいして21世紀の衰亡史を書こうとのねらいだそうです。本家は文庫本で全10巻。こちらが断然、手に取りやすいのは確かです。 カエサルの時代(前1世紀)、ローマ最盛期の五賢帝時代(2世紀)、軍人皇帝時代(3世紀)からまず概観して、コンスタンティヌス大帝、ウァレンティニアヌス朝、東西ローマ帝国分裂(4世紀)、西ローマ皇帝廃位(5世紀)までを扱っています。ローマの歴史に詳しくないので、ざっと掴むのにはありがたい記述の分量でした。 著者の主張は、ローマ人アイデンティティの崩壊=偏狭な排外主義がローマ帝国衰亡につながったと読めます(実はあまり因果関係を明示的に主張してはいないのですが)。しかし、帝国の勢力衰退が排外主義台頭につながったと、因果を逆に考えるほうが素直に思えました。
6投稿日: 2014.03.09
マルドゥック・スクランブル The 1st Compression─圧縮 〔完全版〕
冲方丁
早川書房
職人芸の一品
グイグイ引き込むように読ませるところがあります。隠れ家での畜産業者との対決や、ブラックジャックのシーン。電車で読んでいて降りる駅を乗り過ごしてしまったほどです。 Readerではじめて読んだ本だったのですが、こういう軽いけれど「巻を措く能わず」タイプの本は、電子書籍との相性が良いように思います。 ところでウフコックって、一体どんな仕組みなのか気になるな。SF好きなら気になるはず。
5投稿日: 2013.09.27
沈黙
遠藤周作
新潮社
神の沈黙
普遍的なテーマを扱っているせいか古びていない。簡潔でたしかにドラマチック、読みやすい小説でもある。 特に信仰のない身には「神の沈黙」は他人事ではあるが、この不条理な世界で寄る辺もなく一人きりであるという恐怖は信仰にかかわらず普遍的かつ根源的だと思う。
4投稿日: 2017.03.12
問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論
エマニュエル・トッド,堀茂樹
文春新書
手頃なトッド入門書かも 時事ネタも網羅
トッドにはかねてから興味はあったのだが分厚い著作にはなかなか手がでなかった。これはインタビュー・講演や雑誌への寄稿をまとめたお手軽な新書。時事ネタ(2016年末時点)を扱って読み進めやすいし、「なるほどー」とうならせる箇所もとても多い。フランス人らしくなく哲学嫌いの経験主義者というだけあって話が分かりやすい。一方で、分量ゆえ仕方ないながら踏み込み不足というか物足りない感じもある。本格的な著作に誘導するなかなかうまい広告なのかもしれない。 あと、とにかく日本は少子化対策をがんばりなさいよ、とのこと。仰るとおりで。 [目次より] 1,2はBrexitに関する論考でたがいにやや内容はかぶる。タイトルにもなっているのだが、本書の中では小手調べ的なパート 3はトッド自身の仕事や方法論を振り返っており、初読の身には大変おもしろかった 4は人口学による各国近未来予測、手短ながら興味深い。個人的にはロシアの復活には気づいていなかった 5は悲観的な中国論、日本への言及も多し 6,7はお膝元フランスでのテロ(およびその後の国民の反応)を受けて。切実な問題意識を感じる
4投稿日: 2016.12.31
世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち
マイケル・ルイス,東江一紀
文春文庫
金融市場に興味のある人は必読
住宅バブルからリーマン・ショックへ至る顛末は、興味のある向きには大筋だけなら周知のことと思うが、そのとき実際に現場で動いていた群像劇は圧巻。ドラマがある。世間では「バブルは予見できるか?」なんて、ややアカデミックな議論などあるが、そんな理屈が吹き飛ぶような迫力だ。これはウォール街を占拠したくなる気持ちも分かる。 本書の主人公たちはサブプライム債(を材料に合成されたCDO)をショートしていた面々。いずれもウォール街の主流からはだいぶ外れたアウトサイダー。こういう独立独歩の人が利益を求めて行動した結果、首尾よく価格発見に至ればまさに効率的市場仮説どおりだが、簡単にそうならぬのが現実の難しさ。本書でも再三指摘されているが、債券市場の不透明性(+その不透明性を最大限に利用した強欲)がひとつの原因だろう。 また主人公たちの「敵方」として、第9章で取り上げられるモルスタの特殊部隊の話がきわめて興味深い。サブプライム債がクズであることを十分承知していながら、トリプルBのCDOショート、トリプルAのCDOロングで見事に飛んでしまう。後知恵で何とでも言えるのだが笑うしかない。投資銀行、CDOマネジャー、機関投資家といった「敵方」の様子は本書でもハッキリとは分からないのだが、こうしたカオスが多々あったのだろう。 金融市場についての箴言あり、主人公たちの人間ドラマありで、マイケル・ルイスの皮肉な筆致も絶好調。ただ、ある程度は金融市場に興味・知識のある人でないと十分には楽しめないかもしれない。
4投稿日: 2016.10.10
第六ポンプ
パオロ・バチガルピ,中原尚哉,金子浩
ハヤカワ文庫SF
職人芸的SF
バチガルピは短編の方がうまいのではないか。職人的な手つきでディストピアな世界をさっと呈示してみせる。くどくなく、分かりやすく、強くイメージを呼び起こす。 暗い世界観だが、希望の要素が必ず入っているのもよろしい。たとえSF的な発想に目新しさはなくても、技術で読ませる手堅い作家だと思う。 収録作は甲乙付けがたいものが並んでいる。敢えていくつか好みを言えば、デビュー作にして作風が確立されている「ポケットのなかの法」、異世界の民俗・風習を簡潔に描きだしてみせた上にドラマを重ねた「パショ」、ねじまき少女と同じ世界を描いた「カロリーマン」、なんともエグいのだがあるかないかのほのかな希望を描く「ポップ隊」あたり。
4投稿日: 2016.10.09
これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義
ウォルター・ルーウィン,東江一紀
文藝春秋
実験物理学者の名講義
MITで一般教養の物理をやっている先生による本。講義の様子はMITのサイトで動画が公開されており、本書中にリンクもふくまれています。前半はその授業に準じていて、後半は専門であるX線天文学の歴史をみずからの体験で語っています。その後半はちょっと難しいといえば難しいですが、十分に理解できなくても読み物としてたのしめるので心配いらないでしょう。 ヒッグス粒子がノーベル賞の対象になったとき、理論物理学者と実験物理学者のどちらに賞が送られるべきか(実際は「理論」のほうでした)議論されているのを見かけて、両者がけっこう分業のようなかんじになっていることを知ったのですが、著者は実験物理学者のほうです。だからか、虹とかワイングラスの共鳴とか長縄跳びとか身近な現象に根ざした話がおおくて素人にもしたしみやすいです。とにかく測定の精度の大事さを強調するところも実験屋さんならでは。 たとえば年周視差で恒星との距離をはかるのですが、もっともご近所のプロキシマ・ケンタウリ(4.3光年)でも年周視差は0.76秒角しかないのです。ちなみに1秒角=月を1,800枚にスライスしたときの角度。いかに物理学者たちが観測精度を向上させるのに苦心しているかがよくイメージできます。そんなふうに物理学の現場の感じがわかる事例がたくさんあげられている本です。
4投稿日: 2014.07.20
Self-Reference ENGINE
円城塔
ハヤカワ文庫JA
正直なところ、ついていききれず
時間とは何か、言語とは何か、有限と無限、自己同一性などなど、テーマは思い切り直球勝負。けれど直球勝負のテーマの数々をてんこ盛りに盛りすぎているのと、奇をてらった構成や語り口や小道具のせいで、ふざけているようにしか見えません。ストーリーをこわすギャグが多すぎて、体をなさなくなった芝居みたいなものでしょうか。 あまりに韜晦が過ぎて物語の持ち味を殺しているような気がするんですよね。しかし、こんなお話をまじめな顔でされても困ってしまうかもしれません。粋みたいなものを感じつつ読むのが良いでしょう。
4投稿日: 2014.07.05
渚にて 人類最後の日
ネヴィル・シュート,佐藤龍雄
創元SF文庫
静かな静かな
オリジナルは1957年刊行。原題"On the beach"は、巻頭に掲げられたT.S.エリオットの詩からとられていますが、巻末解説によれば「陸上勤務となって」という慣用句でもあるそうです。 核戦争後の世界を描くというのはSFとしてはステレオタイプでもありますが、1957年という年代を考えると、本作はそのはしりだったのでしょうか。牧歌的ですらある取り残されたオーストラリアの光景にはじまり、物語は淡々と進みます。こんな枯れた味わいのSFというのも珍しい気がしますが、ある状況を設定してみて、そうした状況のなかで人々がどう行動するかを描く、というのはSFの王道でもありますね。 メアリの言動がなんだかうちのカミさんを思わせてラストがますます切ないです。
4投稿日: 2013.12.01
