bookkeeperさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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沈黙
遠藤周作 / 新潮社
神の沈黙
4
普遍的なテーマを扱っているせいか古びていない。簡潔でたしかにドラマチック、読みやすい小説でもある。
特に信仰のない身には「神の沈黙」は他人事ではあるが、この不条理な世界で寄る辺もなく一人きりであると…いう恐怖は信仰にかかわらず普遍的かつ根源的だと思う。 続きを読む投稿日:2017.03.12
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Self-Reference ENGINE
円城塔 / ハヤカワ文庫JA
正直なところ、ついていききれず
4
時間とは何か、言語とは何か、有限と無限、自己同一性などなど、テーマは思い切り直球勝負。けれど直球勝負のテーマの数々をてんこ盛りに盛りすぎているのと、奇をてらった構成や語り口や小道具のせいで、ふざけてい…るようにしか見えません。ストーリーをこわすギャグが多すぎて、体をなさなくなった芝居みたいなものでしょうか。
あまりに韜晦が過ぎて物語の持ち味を殺しているような気がするんですよね。しかし、こんなお話をまじめな顔でされても困ってしまうかもしれません。粋みたいなものを感じつつ読むのが良いでしょう。 続きを読む投稿日:2014.07.05
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これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義
ウォルター・ルーウィン, 東江一紀 / 文藝春秋
実験物理学者の名講義
4
MITで一般教養の物理をやっている先生による本。講義の様子はMITのサイトで動画が公開されており、本書中にリンクもふくまれています。前半はその授業に準じていて、後半は専門であるX線天文学の歴史をみずか…らの体験で語っています。その後半はちょっと難しいといえば難しいですが、十分に理解できなくても読み物としてたのしめるので心配いらないでしょう。
ヒッグス粒子がノーベル賞の対象になったとき、理論物理学者と実験物理学者のどちらに賞が送られるべきか(実際は「理論」のほうでした)議論されているのを見かけて、両者がけっこう分業のようなかんじになっていることを知ったのですが、著者は実験物理学者のほうです。だからか、虹とかワイングラスの共鳴とか長縄跳びとか身近な現象に根ざした話がおおくて素人にもしたしみやすいです。とにかく測定の精度の大事さを強調するところも実験屋さんならでは。
たとえば年周視差で恒星との距離をはかるのですが、もっともご近所のプロキシマ・ケンタウリ(4.3光年)でも年周視差は0.76秒角しかないのです。ちなみに1秒角=月を1,800枚にスライスしたときの角度。いかに物理学者たちが観測精度を向上させるのに苦心しているかがよくイメージできます。そんなふうに物理学の現場の感じがわかる事例がたくさんあげられている本です。 続きを読む投稿日:2014.07.20
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世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち
マイケル・ルイス, 東江一紀 / 文春文庫
金融市場に興味のある人は必読
4
住宅バブルからリーマン・ショックへ至る顛末は、興味のある向きには大筋だけなら周知のことと思うが、そのとき実際に現場で動いていた群像劇は圧巻。ドラマがある。世間では「バブルは予見できるか?」なんて、やや…アカデミックな議論などあるが、そんな理屈が吹き飛ぶような迫力だ。これはウォール街を占拠したくなる気持ちも分かる。
本書の主人公たちはサブプライム債(を材料に合成されたCDO)をショートしていた面々。いずれもウォール街の主流からはだいぶ外れたアウトサイダー。こういう独立独歩の人が利益を求めて行動した結果、首尾よく価格発見に至ればまさに効率的市場仮説どおりだが、簡単にそうならぬのが現実の難しさ。本書でも再三指摘されているが、債券市場の不透明性(+その不透明性を最大限に利用した強欲)がひとつの原因だろう。
また主人公たちの「敵方」として、第9章で取り上げられるモルスタの特殊部隊の話がきわめて興味深い。サブプライム債がクズであることを十分承知していながら、トリプルBのCDOショート、トリプルAのCDOロングで見事に飛んでしまう。後知恵で何とでも言えるのだが笑うしかない。投資銀行、CDOマネジャー、機関投資家といった「敵方」の様子は本書でもハッキリとは分からないのだが、こうしたカオスが多々あったのだろう。
金融市場についての箴言あり、主人公たちの人間ドラマありで、マイケル・ルイスの皮肉な筆致も絶好調。ただ、ある程度は金融市場に興味・知識のある人でないと十分には楽しめないかもしれない。 続きを読む投稿日:2016.10.10
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第六ポンプ
パオロ・バチガルピ, 中原尚哉, 金子浩 / ハヤカワ文庫SF
職人芸的SF
4
バチガルピは短編の方がうまいのではないか。職人的な手つきでディストピアな世界をさっと呈示してみせる。くどくなく、分かりやすく、強くイメージを呼び起こす。
暗い世界観だが、希望の要素が必ず入っているの…もよろしい。たとえSF的な発想に目新しさはなくても、技術で読ませる手堅い作家だと思う。
収録作は甲乙付けがたいものが並んでいる。敢えていくつか好みを言えば、デビュー作にして作風が確立されている「ポケットのなかの法」、異世界の民俗・風習を簡潔に描きだしてみせた上にドラマを重ねた「パショ」、ねじまき少女と同じ世界を描いた「カロリーマン」、なんともエグいのだがあるかないかのほのかな希望を描く「ポップ隊」あたり。 続きを読む投稿日:2016.10.09
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山椒魚(新潮文庫)
井伏鱒二 / 新潮文庫
肩の力がぬけた独特の読み味
3
処女作と思えない老成した感じの「山椒魚」
設定が面白い「掛持ち」
ひねくれたユーモアの「言葉について」
幻想的ですらある「朽助のいる谷間」「へんろう宿」「シグレ島叙景」
女性との関係を滑稽に描く「岬の…風景」「女人来訪」
いっぽうこちらは男同士「寒山拾得」「夜ふけと梅の花」
鳥シリーズ「屋根の上のサワン」「大空の鷲」 続きを読む投稿日:2017.03.12