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yakitoriさんのレビュー
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  • 波の手紙が響くとき

    波の手紙が響くとき

    オキシ タケヒコ

    ハヤカワSFシリーズ Jコレクション

    日常から宇宙までを扱った音響SFの傑作

    音を題材にした小説と言うと一番に思い浮かぶのが音楽ミステリーなのですが本作は音楽というよりは「音」にこだわった音響小説で早川SFにカテゴライズされているのでSFか!と思って読むとそうでもない。構成は3短編と1中編の計4編の連作シリーズになっており、短編群は謎の現象を調査して謎を解くというミステリーで二作目、三作目は若干ホラー風味の味付けがされています。そして最終話は今までの登場人物が総出演しての中編SFでなかなかの力作。特に最後の二段オチは見事です。とにかく今まで丸々一冊音響小説というのは読んだ事がなく、非常に新鮮でこう言うのもアリなのねと改めて作者の着眼点と独自性に感銘を受けました。 オーディオ好きなので結構いろいろと知っているつもりでしたが、音の位相、バイノーラル録音、フーリエ変換、エコーローケーション、音の非線形性などなど次々と登場する音響用語に圧倒されますがわかりやすく説明されているので大変勉強になります。また本作を読むと如何に人が音に頼って生きているか、沢山の情報を拾っているかがよく分かります。人にとっての有意無意はあるものの世界がどれだけ無数の音に囲まれている事か! とにかく日常から宇宙までを扱った音響SFの傑作、ぜひ読んでみて下さい。

    9
    投稿日: 2016.08.30
  • さよならジュピター

    さよならジュピター

    小松左京

    徳間文庫

    映画より遥かに面白い原作SF!

    小説ではクラークの「2010年宇宙の旅」、漫画では星野之宣の「巨人たちの伝説」、アニメでは「トップをねらえ!」など太陽系の惑星の中で木星は度々重要な役回りで登場して来ましたが、本作でも初っ端から「木星太陽化計画」として登場。ところがある事情から別の目的に転用される事になるのですが、この辺りの設定や展開を無理なく説明してしまうのが小松SFの凄さであり力量。各国の宇宙開発レースと技術格差、惑星を破壊するというある意味究極の環境破壊、そしてそれを阻止しようとするテロリズム等、相変わらず隙の無い物語展開で人の賢さと愚かさを描いております。「スター・ウォーズ」ブームに沸く日本でかつて無いほど日本SFが盛り上がっていた時期に作成された「邦画」の原作であり、星雲賞受賞作。 ※劇中に「スター・ウォーズ20」が出て来るのですが、ディズニーが版権を買い取ったのでもしかしたら現実的にそこまで作られるかもしれませんね。(笑)

    8
    投稿日: 2016.08.27
  • 機動戦士ガンダム THE ORIGIN(20)

    機動戦士ガンダム THE ORIGIN(20)

    安彦良和,矢立肇,富野由悠季,大河原邦男

    角川コミックス・エース

    ソロモン編後半は名場面だらけ。

    連邦のソーラーシステムに灼かれるソロモンから撤退する兵士達を守る為、ドズルが駆るジオン軍最大最強のMAビグ・ザムが登場。電磁シールドと大型メガ粒子砲の圧倒的火力で連邦艦隊を蹴散らすビグ・ザムを阻止すべくアムロとスレッガーが仕掛ける捨て身の接近戦。「悲しいけど、これ戦争なのよねっ!」と言い放ち、ゼロ距離特攻でシールド破壊するスレッガーとノーマルスーツでガンダムに無念をぶつけるドズルに戦士としての矜持を見るアムロ。本巻、最大の見せ場です。 そして接収したソロモン(コンペイ島)に「星一号作戦」の為、集結する連邦艦隊を襲う謎の敵。LaLa・・という謎の声に導かれ戦場で再び相見えるアムロとララァ。そしてその前に立ちはだかるシャア。いよいよORIGINもクライマックスへ。

    5
    投稿日: 2016.08.26
  • 宇宙軍士官学校―前哨― 11

    宇宙軍士官学校―前哨― 11

    鷹見一幸

    ハヤカワ文庫JA

    悪い予感

    悪い予感がしていましたが本作でも終わらず。地球防衛戦に入ってからが長いよ。作者は前巻のあとがきで多視点での物語展開が好きと書いておりましたが、末端のエピソードはイイから本編をサクサク進めてもらいたい。どうも恒星反応弾の話になってから物語的なカタルシスが無く読んでいてイライラする。作者の他の長編作品の最期を思い出すのだが、頼むからあの後味の悪さだけは味わせて欲しく無い…。

    5
    投稿日: 2016.08.18
  • 人類再生戦線 上 アトランティス・ジーン2

    人類再生戦線 上 アトランティス・ジーン2

    A G リドル,友廣 純

    ハヤカワ文庫SF

    今回は謎解き編

    今回はアトランティス人の過去の記憶と惨状を引き起こしている遺伝子改変エピソードが、主人公達の現在の闘いの合い間に挿入される為、結構読みずらい。前巻の気になるラストのその後の話もアトランティス人の回想シーンやケイトによる疫病治療の話を経てからなので気勢が削がれる。 その為かデヴィッドと宿敵ドリアンの直接対決も少なく本作はシリーズ中で言えば謎解き編。アトランティス人と現人類の立ち位置や何故そうなったのか等の理由がハッキリとわかるので前作のモヤモヤ感は解消されます。新たな謎は出てきますが…。 そしてまたまた良い所で終わっているのでやはり次巻も読まねばなるまい。多分、最終巻の舞台は宇宙です。(笑)

    7
    投稿日: 2016.08.18
  • 多重人格探偵サイコ(24)

    多重人格探偵サイコ(24)

    田島昭宇,大塚英志

    角川コミックス・エース

    お疲れ様でした。

    やっと終わった〜というのが偽らざる感想、とにかく長かった。わかっていたけど最後は凡庸なラスト。シリーズ前半のあの謎が謎呼ぶ展開は何処へ行ったのかと思う程、後半の失速は酷かった。全一や渡久地、ガクソ、バーコード、ルーシー・モノストーン、ルーシーチルドレン辺りが一番面白かったかなぁ。 取り敢えず、皆様(作者及び読者)お疲れ様でした。

    5
    投稿日: 2016.07.18
  • 第二進化  アトランティス・ジーン 上

    第二進化  アトランティス・ジーン 上

    A G リドル,友廣 純

    ハヤカワ文庫SF

    いい意味で裏切られるSF冒険小説

    南極で発見されたナチス潜水艦と謎の遺跡。冒頭からスケール感デカく始まった本作はインドネシアでの幼児誘拐と対テロ組織クロックタワーへの攻撃へとスピーディに展開します。矢継ぎ早に複数視点で進むので最初はついて行くのがやっとなのですが、治験治療を行っていた自閉症幼児の誘拐を追う医師ケイトとテロ攻撃から辛くも脱出したクロックタワー工作員のデヴィッドが出会ったことから話は思わぬ方向へと転がり出します。 前半はとにかくアクションに次ぐアクションで息もつかせぬ展開にサクサク進みますが、中盤の過去話(日記の下り)が長く若干の中だるみに、そして後半に入るとまたフルスロットルになるのでラストまで一気に行けます。ただ内容が秘密結社、人のミッシングリング、謎の遺跡と装置、疫病、人類進化、ナチス、アトランティス、DNAなど某シグマフォースの「ナチの亡霊」や「ユダの覚醒」に話が被る部分が多いので、当初は最近の流行はこういう話ばかりねと結構斜に構えて読んでおりました。ところが後半部分からオオッ!そう来たかというSF的展開になるのでいい意味で裏切られます。 上巻は冒険小説、下巻はSF小説と一粒で二度美味しい小説。本作も自費出版から評判になりベストセラーという今ドキの本で三部作。いいところで終わっているので早く続きが読みたいです。

    7
    投稿日: 2016.07.07
  • レインツリーの国

    レインツリーの国

    有川浩

    角川文庫

    野暮なことですが

    本作、図書館戦争とのリンクに関しては有名ですが、作中に登場する「フェアリーゲーム」は巻末に参考文献として記載されている「妖精作戦」という本がモデルになっています。笹本祐一がソノラマ文庫に書き下ろしたラノベの元祖と呼ばれる作品で四部作。最終作の「ラスト・レター」の最後が当時としては衝撃的でリアルタイムで読んだ人は主人公のひとみと同じくショックを受けた様で作者の有川浩も然り。「天冥の標」で有名な小川一水もラストに納得がいかなかった一人でその為に作家になったそうです。 久し振りに読んで思い出した、どうでもいい事。

    7
    投稿日: 2016.07.03
  • ダブルオー・バック(新潮文庫)

    ダブルオー・バック(新潮文庫)

    稲見一良

    新潮文庫

    男の話を読むのなら「稲見一良」は外せない。

    シャクリと呼ばれるポンプ・アクション6連発銃、ウインチェスター・M12。その銃を手にした男たちのそれぞれの生き方。銃が人手を巡り、生みだされた四つの切ない物語。 稲見一良の作品は、その殆どが猟か銃に関する話で占められており、銃に関する知識や猟での作法などは読んでみるとそれを経験していなければ書けない「重み」を感じさせる。またそこに描かれる男としての生き様も、作者がどのように生きてきたのかを読んでいるとヒシヒシと伝わって来る。緊張感がある小説で、とにかく粋で沁みるセリフが沢山出てくる。それは病魔に冒されながらも最後まで原稿を書き続け生還することを考えていた作者だからこそ書き得た、また言わしめた言葉だからだろう。 第一話「オープン・シーズン」は、めずらしく女性目線から惚れた男の転落していく様を描いている。自分のスタイルに固執してしまい結局何もかも失ってしまう、男とは哀しい生き物です。。 第二話「斧」は、中学生になった息子が、山で猟をして生活している父親を訪ねる。父親は息子に山での生きる術を教えていくが、これも結末は悲しいが「父親は生涯に一度、息子に強烈な印象を残せればいい」というくだりがグッと来ます。 第三話「アーリィタイムス・ドリーム」。銃は登場しますが、猟には関係ないヒカレスクロマン。登場人物たちのセリフが粋で良い。ハードボイルド被れのBARのマスターが悪徳養豚業者とヤミ金融業者を敵に回して奮闘するのだが、、、、店のなじみ客がいい味出しています。 最終話「銃執るものの掟」。老猟師が山中で北の工作員に愛犬を殺され、海へと脱出する為の案内役として脅される。物語の中で語られる老人の過去。何度も癌の手術を受けその度に生還したその過去は、まさに稲見一良その人に思えた。そして最後の「生きている限り、人は迷う。忘れられるから、生きていける。」のセリフは重く胸にズンと迫まって来る。 和製ハードボイルド、男の話を読むのなら「稲見一良」は外せない。

    5
    投稿日: 2016.07.01
  • ユダの覚醒 上

    ユダの覚醒 上

    ジェームズ・ロリンズ,桑田健

    竹書房文庫

    題名のユダ(裏切り者)の意味が意味深・・・・

    一時期立て続けに読んでしまい私の中でインフレーションを起こしていたロリンズ作品ですが、一年ぶりに再開しました。久しぶりのシグマフォースでしたがやはり面白い。アクション物って最初の掴みが大事だと思うのですがギルドのセイチャンがいきなりグレイに助けを求めてくる冒頭から思わず引き込まれます。またインドネシアのクリスマス島で発生した奇病の調査に乗り出したモンクとリサにも海賊が襲いかかり、あれよあれよという間に戦いの渦中へ。 今回はマルコポーロが当方見聞録で書き残さなかった失われた旅行記を追ってワシントン、イスタンブール、インドネシア、カンボジアと各地をめぐりながら天使の言葉、ジャンクDNA、レトロウイルスなどのキーワードを元に話が進みます。また本作でもグレイの両親が人質に取られギルドに従わざるを得ない状況に陥ったり、世界規模で拡散し出した奇病を止める必要に迫られたりと相変わらずタイムリミット感を煽る展開になるのですが、一番の見所は何と言ってもグレイとセイチャンの関係でしょう。信頼と裏切りの間を行ったり来たりする二人の関係から目が離せません。 そして本作から登場するコワルスキーという隊員が作者の別作品「アイス・ハント」に出ていたあのコワルスキーだったとあとがきを読んでビックリ!似てるけど別人だと思っていただけにニンマリしてしまいました。どうやら作者の作品世界はいろいろと繋がっているようで他の単発モノの登場人物が本シリーズでも今後出てくるようですね。また一つ楽しみが増えました。

    8
    投稿日: 2016.06.30