yakitoriさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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ジョーカー・ゲーム
柳広司 / 角川文庫
切れ味鋭いスパイ戦
17
非常に面白い。虚実取り混ぜてのスパイ戦。もともと歴史推理ものを得意としていた作者の本領発揮といったところか。今ほど環境(技術・インフラ)が整っていない、情報戦の主役がまだ「人」だった時代。それを背景に…毎回、視点を変えての短中篇が小気味よく語られていく。特に好きなのが敵視点でのエピソード、やられた感がでかい程「D機関」の優秀さが際立つ話のカタルシスったらない。「死なず、殺さず」の掟による登場人物のある種「潔さ」もなかなかイカしている。速やかなる続巻の電子化を希望します。 続きを読む
投稿日:2014.12.04
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アイの物語
山本弘 / 角川文庫
昔懐かしいどストレートなSF
16
数百年後の未来、機械に支配された地上で出会ったひとりの青年と美しきアンドロイド。機械を憎む青年にアンドロイドが囁く、「物語から、この美しい世界は生まれたのよ」と。彼女が語り始めた世界の本当の姿とは? …
何だろう・・・この本は読んだ後にひどく懐かしさをおぼえる小説で、まだSFがSFしていた頃の作品を読んだ気になる。読んでいくに連れどストレートなSFの話にドキドキし読み終わった後に希望が持てる余韻が心に残る。昔どこかで読んだSFの匂いがするのだ。
当初は別々に書かれていた短編を各インターミッションと 「詩音が来た日」と「アイの物語」の中編を付け足して一つの大きな物語として再構築しているのだが、最初からこのために書かれたようにしっくりくるように編集されており正に構成力の勝利だ。
しかし最終話「アイの物語」は、趣味だねえ・・・とつぶやいてしまうほどオタク色が強い作品。でもまあ一番好きな話。俯瞰視点で語られる知的生命としての人類の美点と欠点、そして真の知的生命体としてのロボット。遠大なる未来を語り終幕を迎えるこの最終話はやはり一番面白い。昔読んだ楽しいSF小説を読みたいのなら本書はオススメです。 続きを読む投稿日:2015.02.09
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アヒルと鴨のコインロッカー
伊坂幸太郎 / 創元推理文庫
小説だからこそできたトリック
16
とにかく真相がわかった瞬間に「騙された」と思った。なるほど確かにそうだよなあとうんうんと頷いている自分がいたわけですが、当時これを「完全」映画化するといっていたので本当にできるのか?と読了後、非常に心…配したのを憶えている。小説だからこそできたトリックだと思ったのですが、後で映画観て杞憂であったと納得しました。
さて本作は非常に面白く読めました。そこそこのボリュームはあるのですが2日ほどで一気に読んでしまった。話の構造は1つは仙台に越してきた「僕」の現在時間、それともう1つ二年前のある3人の男女の物語が交互に語られていき、やがて物語は「僕」が二年前の話に追いついた時点で1つに収斂されていく形をとっています。同時進行的に語られていく為、読者も「僕」と同じように過去を追体験して行き、真相に近づいていくのですが、この時間的に隔たった物語を結び付けている人物を通して2つの物語が結びついており非常に重要なキーマンになっています。
内容自体は、かなり暗い話なのですが出てくる人物が「僕」も含め深刻に受け止めない性格の人が多いのか至ってライトでした。そのせいか同じ設定でも宮部みゆきだとここまで軽くは書けないだろうとは思いました。また小ネタも少々ありまして、主人公の「僕」には祥子という叔母がいるらしく、神奈川で響野という人に嫁いで喫茶店をやっているそうです。これはあきらかに「ギャング」の響野と祥子夫妻の話であり、ここで繋がっているようですね。 続きを読む投稿日:2013.10.26
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バビロニア・ウェーブ
堀晃 / 東京創元社
日本ハードSFを代表する堀晃の星雲賞受賞作
13
いやー、久しぶりに読み応えのあるハードSFを読みました。内容が詰まっているせいか、なかなか頁が進まず、ちびちびと2週間もかかってしまった。しかし本書を読むと日本SFも捨てたものではないと思う。約20年…前に書かれているので古さを感じる部分もありますが、エネルギー問題の解決とともにコロニー建設の衰退や太陽系外探査やCTEIなどの方向転換など作品背景までが細かく描かれており、面白く読める。徐々に明らかになるバビロニア・ウェーブの謎。最後は銀河スケールまで話は広がる。SFとしては読み応えは抜群。
ただ設定は銀河スケールなのに、ドラマが四畳半とでもいいましょうか。。ほとんど送電基地の中でちまちまとドラマが展開し、事故が次々と起こり人が死んでいく。その間、バビロニア・ウェーブとは何なのかの仮説や宇宙論が延々と展開されるので結構読むのが辛い。これは「遺跡の声」にもいえたのですが、登場人物が皆暗く主人公にもあまり感情移入できないため最初から最後まで結構重苦しい雰囲気で展開する。斜陽という言葉がぴったり来るとでもいいましょうか・・・。最後は、かなり未来の展望が開ける終わり方をしているにもかかわらずやはり暗い。万人受けはしない作品ですが、日本ハードSFを再発見したい方は読んでみては。 続きを読む投稿日:2013.09.24
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時砂の王
小川一水 / ハヤカワ文庫JA
時間SFの傑作
13
長編とは言いながらもそれほどのページ数はないので、集中して読めばすぐに読めてしまう。ただよくこの内容をこの中に盛り込んだと思う。設定は、昔からある有機生命体を殲滅すべく送り込まれてきた自動機械との戦闘…が話のメインで地球の生命体を根絶やしにする為、時間軸をさかのぼり先祖を滅ぼそうとする戦闘機械と人類に生み出された人型人工知性体との戦いを描いている。かなり壮大な物語であり、その為にはもう少しページがあったほうが良かったのではと思う。ただ何故、耶馬台国が最終防衛線になるのかがやはりよくわからなかった。
本作ならスピンアウト物がつくれるなあと思っていたところ、「フリーランチの時代」という作者の短編集の中に「アルワラの潮の音」という物語が書き下ろされており本書の主人公が登場しています。本作が気に入ったのであれは、ぜひこちらも読んでみては。。 続きを読む投稿日:2013.11.15
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戦闘妖精・雪風(改)
神林長平 / ハヤカワ文庫JA
神林長平の最高傑作にして日本SFの精華!
13
初版は1984年である。大学生の時に買って読んだのでもう29年経過したのか。。。
今回、改訂版となっているがこれは、作中に登場するワープロを作者の他の作品「言壺」に出てくるワーカムというガジェットに置…き換えるというのが主な作業となっており、その他部分にはほとんど手を加えていない。
最初の出だしがすごく好きで作中での登場人物リン・ジャクスンが書いた「FAF・特殊戦隊」でのジャムの地球侵略の経緯とFAFの成り立ちなどハードなSF設定が語られる。当時、ワクワクして読んだおぼえがある。その後一章から展開される戦闘や主人公零の非人間さのせいでなかなか感情移入ができずにいたのではあるが、四章の「インディアンサマー」あたりからこの小説で何を語りたいのかがジンワリと見えてくる。また零が感情表現しだすのもこのあたりから。そして五章の「フェアリイ・冬」に於いて明かさせる衝撃の事実、最終章「スーパーフェニックス」ではさらなる衝撃のラストへ。わかってみると一章から隠し絵的にそのテーマが語られているので再読してすぐに納得。とにかく80年代の傑作SFである。この作品はその年の日本長編部門で星雲賞を受賞。それだけ当時のSFファンからは支持された。まあ、この感想が私個人だけでなかったという事である。
続きを読む投稿日:2013.11.15