yakitoriさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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バビロニア・ウェーブ
堀晃 / 東京創元社
日本ハードSFを代表する堀晃の星雲賞受賞作
13
いやー、久しぶりに読み応えのあるハードSFを読みました。内容が詰まっているせいか、なかなか頁が進まず、ちびちびと2週間もかかってしまった。しかし本書を読むと日本SFも捨てたものではないと思う。約20年…前に書かれているので古さを感じる部分もありますが、エネルギー問題の解決とともにコロニー建設の衰退や太陽系外探査やCTEIなどの方向転換など作品背景までが細かく描かれており、面白く読める。徐々に明らかになるバビロニア・ウェーブの謎。最後は銀河スケールまで話は広がる。SFとしては読み応えは抜群。
ただ設定は銀河スケールなのに、ドラマが四畳半とでもいいましょうか。。ほとんど送電基地の中でちまちまとドラマが展開し、事故が次々と起こり人が死んでいく。その間、バビロニア・ウェーブとは何なのかの仮説や宇宙論が延々と展開されるので結構読むのが辛い。これは「遺跡の声」にもいえたのですが、登場人物が皆暗く主人公にもあまり感情移入できないため最初から最後まで結構重苦しい雰囲気で展開する。斜陽という言葉がぴったり来るとでもいいましょうか・・・。最後は、かなり未来の展望が開ける終わり方をしているにもかかわらずやはり暗い。万人受けはしない作品ですが、日本ハードSFを再発見したい方は読んでみては。 続きを読む投稿日:2013.09.24
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叛逆航路
アン・レッキー, 赤尾秀子 / 東京創元社
七冠は伊達じゃない?
13
最近の海外作品の常でいつもの様にまったく説明無しでの主人公ブレクの一人語りで物語はスタート。話は昔からよくある復讐譚らしく、主人公が何故彷徨うことになったのかの過去パートと復讐の為の現在パートが交互に…語られる。ラドチという帝国が版図を広げ他の惑星を侵略し併呑する為に当地に送り込んだ戦艦のAIが主人公で自らの人格を四千人の人体に転写した生体兵器〈属躰〉として侵略任務に当たっている。ところがある事件からシステムから切り離され一人だけ生き残ってしまうのだが・・・。
帝国、蛮族、戦艦AIなど目新しい設定はなく通常のスペース・オペラのフォーマット。帝国内の人間関係は特有の家系やジェンダー意識を説明なしで語るのでよくわからず。ブレクの復讐の準備もマジそれだけ?というモノだし、後半の皇帝への謁見もそんな簡単でいいの?と突っ込みどころ満載。まるでハリウッド映画のシナリオを読でいる感じで小説としての厚みもないのでSF小説を読んだ!という気がしない。SFガジェットは使われているものの、その仕組みや成り立ちについても言及されず文化や宗教についても踏み込んで記述されているわけでもないので、すべてにおいて中途半端。確かに新人が書いた小説だ。
登場人物もラドチ文化のせいなのか、主人公がAIのせいなのか、わかりませんが「性別が理解できない仕様」になっているので読んでいて普通に感情移入ができない。この設定が後半生きてくる展開があるのかとも期待していたのですがそれもなし。シリーズものなのでこのあとこの設定を回収して行くのかもしれませんが本作のみで評価するとすれば、ただ読み辛らかっただけとしか言いようが無い。
7冠ということで読み手がハードル上げていることはわかるのですがそれを差し引いても、新人が書いた普通のSFというのが正直な感想。 続きを読む投稿日:2015.12.08
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幻魔大戦 1 幻魔宇宙
平井和正 / 角川文庫
復活はうれしいのだが・・・
12
懐かしい~。角川文庫(緑版)のままでの復活はうれしいかぎりです。「ウルフガイ」と双璧をなす、氏の代表作。元々は石ノ森章太郎の漫画原作として用意したものを小説に書き起こし(1~3巻)、4巻以降は漫画のそ…の後を描いており、角川アニメ映画になったのも3巻までをベースに作成されています。
本シリーズは全20巻なのですが実は完結していません。4巻以降は主人公:東丈が「GENKEN」を立ち上げてこれが宗教団体化し、その後丈が失踪するので求心力を失った団体が内輪揉めになる展開だったような。後半はかなり惰性で読んでましたね。
また角川版以外にも徳間書店から「新幻魔大戦」と「真幻魔大戦」が出ており位置づけとしては「幻魔大戦」と「真幻魔大戦」が並行世界で「新幻魔大戦」を基点にして繋がっています。つまり「幻魔大戦」の世界は幻魔に滅ぼされて「新幻魔大戦」でやり直しを行い、新たに生まれた世界が「真幻魔大戦」の世界ということになっておりました。ただこの後も続編が多数出ているのでこの関係性がその後どうなったのかは分かりません、その後はまったく読んでいないので。
平井氏の作風が「ウルフガイ」も含めこの頃から結構、神がかった展開になっていくのでかなり初期の読者は離れたんじゃないかなあ。
※1~3巻までは文句なしに面白いので★5、4巻以降は★2・5かな。 続きを読む投稿日:2014.12.03
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おもいでエマノン
梶尾真治, 鶴田謙二 / 徳間文庫
代表作登場
12
カジシンと言ったらリリカルSFの名手ですが、その中でも本作「おもいでエマノン」は最高傑作と名高い名作です。歴代日本SFでも常に上位にランキングされる程の人気作品だったのですが廃刊になっていたため最近は…読めませんでした。巻末の対談で当初はシリーズものではなく読み切りで終わる予定でしたが、短編ネタがないので再登場させたことにより現在に至る事になったと語っています。
さて地球に生命が誕生してからの記憶を持った少女という魅力的な設定ですが、超能力などの能動的能力ではないので周りが動いて話が進むという流れになります。ただどの話も登場人物が彼女に答えや許しを求める話が多く、そう言う意味では彼女は地球の思い出であり地母神ガイアなのかもしれません。時代設定も近代から近未来とバラエティに富んでおり時代が特定できなくファンタジー感を醸し出しています。私は第一話の最後のフレーズが好きで「数時間一緒にいても、数十年間一緒にいても同じ(刹那)ことなのよ」というエマノンの時間的スケールに圧倒されます。
※デュアル文庫の既刊4冊(本作入れて)が徳間文庫で新装復刊されるので楽しみだ。 続きを読む投稿日:2014.06.14
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火星の人
アンディ・ウィアー, 小野田和子 / ハヤカワ文庫SF
ハードSFならぬファームSF
11
火星ミッションの中断により撤退を余儀なくされた主人公が事故により一人火星に取り残される絶望的な冒頭からその場にあるモノで生活圏を構築する前半部分は目が離せない。次々と立ちはだかる難題に主人公のワトニー…が自分語りで冗談を交えながら前向きに危機を乗り越えていく展開に感嘆し共感してしまうからだ。また厳密に火星の環境やNASAの機械郡を描いているハードSFなのだがワトニーというフィルターを通して語られるので難しい技術や物理法則も噛み砕いて説明してくれて非常に読み易い。かなりボリュームのある話なのだが彼の行く末が気になってあっという間に読めてしまいます。
もちろん主人公ひとりで出来ることは限られているので、途中からは彼が生きてる事に気付いた地球側の登場人物も多数登場します。ここからさらに話が面白く転がり出すのですが、後は自分で読んで楽しんでください、損はしませんから。これ、間違いなくハリウッドで映画化されるな・・・。
※数多くの印象的なエピソードのなかで限られた糧食を増やす為、火星の土壌と地球のあるモノを使ってのジャガイモ栽培を始めるのだが、おいおい!ワトニー、火星で農業かい!と思わずツッコミを入れたくなった。
追伸:「オデッセイ」観てきましたが、結末分かっていてもラストは泣いてしまった。映画もオススメ、良い出来です。 続きを読む投稿日:2014.11.28
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機動戦士ガンダム THE ORIGIN(16)
安彦良和, 矢立肇, 富野由悠季, 大河原邦男 / 角川コミックス・エース
ロボット野郎としては
11
今回は、前半からかなりオリジナルのストーリーが展開し読んでいて楽しかった。こういう細かな変更は、オリジナルを観ているファンにはうれしい。特に後半の禁じ手である核ミサイルのエピソードは、TV版とは違い爆…撃機に搭載してのビッグ・トレーへの襲撃。覚醒したアムロの敵ではなかったんですけどね。。。
しかしTV版では、この頃Gメカと合体してガンガン敵をなぎ倒していたのにコアブースターとの連携のみというのはロボット野郎としてはある意味さみしい・・・。(笑)
続きを読む投稿日:2015.12.26