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ABAKAHEMPさんのレビュー
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  • 百年法 下

    百年法 下

    山田宗樹

    角川文庫

    独裁国家と反体制派との間の闘争とその顛末に終始

    下巻だけに限ってみれば、ある独裁国家と反体制派との間の闘争とその顛末が描かれ、上巻で精緻に練り上げられた、不老化技術と寿命制限法によって成立する近未来の社会構造や親子関係(120歳以上の母親が今生の別れに息子と床をともにし、自分の友人を恋人にしなよとアドバイスするシュールな展開)のドラマをもっと読みたかったな。 昨今の決められない政治に対する我々共通の不満をくみとる下巻のストーリーはそれはそれで楽しめるのだが、せっかく希有壮大な空間に足を踏み入れたのに最後になじみのドアから出てきたみたいで、残念この上ない。

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    投稿日: 2013.12.11
  • ブレイクアウト・ネーションズ 大停滞を打ち破る新興諸国

    ブレイクアウト・ネーションズ 大停滞を打ち破る新興諸国

    ルチル・シャルマ,鈴木立哉

    単行本

    次の10年でブレイクする国家を、候補国ごとに概説・分析

    結論としては、チェコ、韓国、トルコ、ポーランド、タイ、インドネシア、フィリピン、スリランカ、ナイジェリアなどが、必要な成長率をクリアできそうな国として挙げられる。 著者が投資会社の責任者であるためか、まるで投資セミナーに参加しているようで、脇道なしで次の有望な投資先はどこかと真剣に探る。 評価は、日本だけでなく、出身国のインドに対しても厳しく容赦なしだ。 閉鎖的で硬直的と思われがちな計画経済や同族企業経営があながち負の面ばかりではないとの指摘も面白かったし、輸出が堅調なアジアの新興国家が必ずしも順調に国民所得が伸びてくれないのは輸出依存度が高すぎるためで、日本のようにバランスの取れた発展が必要という指摘は意外だった。 自民党政権下の農村への手厚いばら撒きも有効だったということか。 アジアの金融危機で徹底的に経済が破綻してその後急成長を遂げた国と、バブル崩壊でエベレストから転落したにもかかわらず骨折もせず痛みも感じようとしなかった日本とを対比させて、ハードランディングの重要性を説く。 中国の成長率の鈍化とアメリカの低金利政策の見直しによって打撃を受けるのは、ブラジルやロシア、中東などの資源輸出国で、生き残るのは逆にコモディティ輸入国となる。 どこかの市場が暴落したり、成長が止まったからといってそれですべてが失われるわけではなく、新たな成長や市場というように質的に変化するだけという指摘も心に残った。

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    投稿日: 2013.12.11
  • know

    know

    野崎まど

    ハヤカワ文庫JA

    ありきたりの人物設定や展開にゲンナリ

    もしある事柄について、一切の外部機器に頼らず、電子葉というものを入れられた自分の脳内だけで、しかも瞬時にわかってしまうとしたら? 「最初から知っている」ことと「調べて知る」ことの差異はなくなってくる。 その時、「知らない」という感情は起こらないか、一瞬すぎて痛みも感じないか? 逆に調べられない時に感じる「知らない」気持ちとはどんなものだろう? 面白そうだ。 が、謎の少女が登場したところで我慢しきれず、ねをあげました。 人物設定も展開もなんら新鮮味を感じない。 同じツボを刺激されて気持ちよくなれる人ならいいのかも。

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    投稿日: 2013.12.11
  • 病の皇帝「がん」に挑む(上)人類4000年の苦闘

    病の皇帝「がん」に挑む(上)人類4000年の苦闘

    シッダールタ ムカジー,田中文

    単行本

    「がん」撲滅を信じ挑みつづける医師たちとその陰で犠牲となる患者たちの歴史

    がんの正体が少しずつ解明されていく歴史を楽しみにしていたら、やみくもに治療に邁進していく医師の姿が描かれていて驚いた。「より多く切り取れば、より多くの患者を治せる」とか、「化学療法を最大にすれば、生存率も最大にできる」と。著者も「彼らの根本的な目的は、目の前の患者の命そのものを救うことではなく、別の患者の命を救う方法を見つけることだった」と書く。しかし、唯一の解決策は治療であり、がんを多様な疾患ではなく単一の病だとする揺るぎない信念がなければ、そもそもこの巨大な敵に立ち向かうことすら難しかったのだろう。 印象に残った文章をいくつか。 「がんを完治させるには患者を生死の境にまで追いやらなければならない」 「国立がん研究所はしだいに、毒工場に変わっていった」 「治療法の探求にばかり取り憑かれていた国立がん研究所の戦略の中に、予防が含まれていなかった」 「がんは過剰の病あり、拡張主義者の病である。がんに立ち向かうということは、われわれと類似の種に、ひょっとしたらわれわれ自身よりも適応能力の高い種に立ち向かうことなのだ」 「ほかのあらゆる殺し屋が殺されて初めて、がんはありふれた病になった。文明化はがんの原因ではなく、ヒトの寿命を延ばすことで、がんを覆っていたベールを取り去ったのだ」 残念なのは章前のエピグラムが過剰なことで、チョイスも平凡すぎること。半ばくらいからは、読み飛ばすことにした。

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    投稿日: 2013.12.11