わせみかん。さんのレビュー
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85
このユーザーのレビュー
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戦闘妖精・雪風(改)
神林長平 / ハヤカワ文庫JA
人生を変えた一冊。
8
人間ではないものを描くことで逆説的に人間とは何であるかを描こうとする唯一無二のメカトロニックSFです。主にキャラクターの心情に焦点が当てられているため、そういう意味ではキャラクター小説であるライトノベ…ルに近いものがあります。
主人公の深井零は、何かの手違いで人間に生まれてしまった機械と言われるほど人間的な感情に乏しいキャラクターとして描かれます。それ故に、味方を見殺しにしてでも情報を持ち帰るという任務の非情さから死神とも揶揄される特殊戦隊で“雪風”のパイロットを務めています。
宇宙人が出てきますが、戦闘機でドンパチやり合うありがちなSFではなく、そのストーリーは人間と機械知性と異星体“ジャム”との三者のコミュニケーション、とりわけ深井零と意思を持った戦闘機“雪風”との関係性を描くためだけに綴られているため最後まで物語に没入できます。
零は自分の周囲に心を閉ざし、愛機である雪風へ耽溺することでしか自己を守れません。しかし、そんな彼が、機械知性に翻弄されながらも人間であろうとするキャラクターたちとの交流(このサイドストーリー自体も非常に面白い)を通じて少しずつ人間らしさを表わしていきます。
そして、それまで積み重ねてきた深井零の雪風への想いや他のキャラクターたちの想いが、ラストシーンの雪風の判断をこれでもかというくらいドラマチックなものにしています。並のミステリよりも衝撃の結末でした。
何より私が気に入っている点は、機械描写が細かい点と、機械知性の心情を機械知性自体に語らせずアクションで描写することにより、シーンが劇的に表現されている点です。
人間と機械の心の交流を描いた作品は星の数ほどあれど、機械というものをこれほどまでに怖ろしく表現できる作品は、戦闘妖精・雪風をおいて他にないと思います。 続きを読む投稿日:2014.02.01
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六花の勇者
山形石雄 / ダッシュエックス文庫DIGITAL
最後まで夢中で読みました。
6
友達に勧められて読みました。
よくある魔神討伐ものかと思っていたら、魔神がいる場所に辿り着くことはおろか、スタート地点で仲間割れをおこし推理合戦が始まるとは、夢にも思っていませんでした。
偽物は誰だろ…うかと常に考えながら、興味がぶれることなく最後まで読めます。偽物のモノローグ等について納得のいかない点もありますが、とても面白いと思います。 続きを読む投稿日:2013.12.31
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幽霊伯爵の花嫁1(イラスト簡略版)
宮野美嘉, 増田メグミ / ルルル文庫
共に生きよう。会いに行くよ、ヤックルに乗って級のおもしろさ。
5
墓守の幽霊伯爵ジェイクと、幽霊伯爵家に嫁いだ美少女のサアラとが心を通わせるストーリーです。
女性主人公なので女性向けライトノベルでしょうが、普段少年向けラノベしか読まない私も非常に楽しめました。
幸せ…な結婚というテーマのとおりに、幸せとは何か、不幸とは何かを軸にしてストーリーが進みます。
主人公のサアラがとても魅力的でした。
男が女を守って幸せにするタイプの結婚を拒絶し、幸せは人から与えられる既製品ではなくて自分自身が積極的にかかわって創造していくものであると考える彼女はたくましいと思いました。
彼女からすれば幸せであることとは、自分自身と他者との関係から積極的に作り上げる能力を持つことであるから、不幸というのは無能力であり最大の侮辱に当たります。
彼女の幸福創造論に納得さえしてしまえば、六章の最後でジェイクが頓珍漢なことを言ってしまってサアラを激高させるところなどは、読んでいるこちらまでがジェイクのアホ!分かってやれよ!と思ってしまうくらい感情移入してしまいました。
ラストも良かったです。 続きを読む投稿日:2014.06.07
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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
大森藤ノ, ヤスダスズヒト / GA文庫
私には合いませんでした。
5
まずこの作品を読み始めて、とても読みづらいと思いました。
主人公「僕」の一人称視点と、「僕」を含めた他のキャラクターを俯瞰する神視点が、頻繁に入れ替わり、ストレスを感じました。
また、憧憬という普遍…的な感情を特殊化してやたら神聖視するスタンスに違和感を覚えました。
リアリティの基礎をゲーム世界に置いているため、共感できる部分がありませんでした。
続きを読む投稿日:2014.05.25
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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet
桜庭一樹 / 角川文庫
実弾の意味が深くて面白い。
4
少女たちの揺れる心が、こなれた文章で丁寧に書かれており、引き込まれました。
“弾丸”や“実弾”は当初は単なるお金を意味していますが、読み進めていくうちに様々な意味を持っていくことが分かり、興味がぶれま…せん。
主人公のなぎさにとっての兄の“神の視点”や、もくずにとっての“人魚”など、その当人にとって力を持ちうる虚構が“実弾”であり、読者にとっては、このストーリー自体が“実弾”になりうると思います。
未読の方は、ぜひ一読をお勧めいたします。 続きを読む投稿日:2014.01.06
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マリア様がみてる1
今野緒雪, ひびき玲音 / 集英社コバルト文庫
機会があればもう一度読み返したいくらい面白いです。
3
とても面白かったです。リリアン女学園高等部の「スール制度」や「ロザリオ」といった独自の設定をうまく生かしながら、学園生活の中で起こる普遍的な葛藤がリアルにかつ丁寧に書かれています。
そのため、新鮮みを…保ちつつ、主人公の祐巳に感情移入しやすく、最後まで面白く読めました。 続きを読む投稿日:2013.12.30