
楽園のカンヴァス(新潮文庫)
原田マハ
新潮文庫
少女漫画版「ギャラリーフェイク」
MoMA美術館のキュレーター、ティム・ブラウンと、若き日本の研究者、オリエ・ハヤカワが、アンリ・ルソー作と言われる名画「夢をみた」の真贋を巡って競い合う。 与えられた期日は7日間。毎日の課題として与えられた文書を紐解きながら、見えてきた真実とは!? なんとなく先は読めてしまうのですが、ドラマチックで素敵な展開は、少女漫画版「ギャラリーフェイク」のようでした。
5投稿日: 2013.10.18know
野崎まど
ハヤカワ文庫JA
意味深なラスト
Google Glassがさらに進化したような“電子葉”の移植が義務付けられた未来。人類は自由にネットワークにアクセスし、情報を引き出せる身体を手に入れたが、得られる情報量とプライバシー保護のレベルには社会的な格差が生じていた。 日本でも有数の特権階級に属する“連レル”は、すべてを知りたいと願う少女“知ル”を連れて、究極の知を求める手助けをする。 彼女が本当に知りたかったものは何か? そして人類は新たな知の領域に踏み出すことができるのか? ラストで明らかになる真相に、思わず唸ります。
3投稿日: 2013.10.06嘘つきアーニャの真っ赤な真実
米原万里
角川文庫
重い歴史の真実を軽やかなタッチで読ませる一冊
祖国ギリシャの青い空を夢見ながら、ドイツで医師となったリッツァ。 ユダヤ人であることを隠し、数多くの矛盾を抱えながら真実のように嘘をつくアーニャ。 天才肌で芸術家を夢見ていたユーゴスラビア人、ヤスミンカの挫折。 ノンフィクションとは思えないドラマチックな展開に、こんな世界があったのかと驚きながら、あっという間に本書を読み終えました。 亡くなられた著者に代わり、3人が今もたくましく生き抜かれていることを祈ります。
4投稿日: 2013.10.05戦艦武蔵
吉村昭
新潮社
史上最大のデスマーチ
第二次大戦中、日本軍の総力を結して作り上げた巨大戦艦の誕生から、海の底に沈むまでを描いた記録文学の傑作。 過剰な表現を避け、事実を淡々と記したこの作品には、文面からにじみ出る戦争の悲惨さが伝わってくる。 武蔵の誕生と同様に、この作品の誕生にも著者の熱い執念のようなものが感じられた。
4投稿日: 2013.10.05月は無慈悲な夜の女王
ロバート・A・ハインライン,矢野徹
ハヤカワ文庫SF
地球に石をぶつけた計算機
地球の植民地だった月の独立運動を描いたSF小説。 コンピュータ技師の主人公は、彼のメンテするマシンが自我を持ち始めたことに気付きます。そのマシンにマイク(マイクロフト・ホームズにちなむ)と名付けた彼は、新たに2人の仲間を加えて革命を起こし、地球からの独立を宣言するのです。 とにかくマイクの言動がかわいくて、心を奪われっぱなしの600ページでした。
2投稿日: 2013.10.049・11の標的をつくった男 天才と差別 建築家ミノル・ヤマサキの生涯
飯塚真紀子
講談社
WTCビルの理想と現実
宮内悠介『ヨハネスブルクの天使たち』を読んで、WTCビルを設計したミノル・ヤマサキという建築家に興味を持ちました。彼は日系人の両親の間に生まれた二世で、数々の差別と闘いながら、建築家としてのし上がったのです。 世界で自由な貿易が行われることを夢見て、ツインタワーの間に希望を見出していたミノル。 9.11は私にとって、どこか遠い空の向こうで起きた悲劇でしたが、今改めてあの映像を見ると、胸に迫ってくるものがあります。 いつか彼の夢見た平和が実現することを願ってやみません。
2投稿日: 2013.10.04破獄
吉村昭
新潮社
才能の“超”無駄遣い
才能の“超”無駄遣い――まさにそんな言葉がぴったり来る小説でした。四回も脱獄を繰り返した囚人の執念と生命力にも驚かされますが、脱獄されるたびに罰則を免れえなかった看守の苦労も、涙なくしては語れません。そして一度は死刑判決も受けた男に、仮釈放までの道筋をつけた刑務所長の献身にも心を動かされました。 淡々と描写される中に垣間見える人間模様が素晴らしい一冊です。
1投稿日: 2013.10.03十角館の殺人〈新装改訂版〉
綾辻行人
講談社文庫
何度読んでも面白い傑作
ミステリーには一度読めば満足するものと、真相に気づいてから改めて読み直すものがあります。この作品はまさに後者に属する部類の名作。 こんなことをレビューに書くのは気が引けるけど、初読の人はぜひ電子書籍版ではなく、紙の新装版で読むことをおススメします。そして気に入ったらぜひ、手元でいつでも読み返せる一冊としてReaderに入れましょう。夏が来ると読み返したくなる、そんな一冊だと思います。
14投稿日: 2013.10.03言語都市
チャイナ・ミエヴィル,内田昌之
新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
言語は力を持っている
アエリカ人は2つの口を持ち、同時に発話することで「ゲンゴ」を理解する。人類は彼らと会話するため、二人一組の「大使」と呼ばれる通訳を作り出した。 最初は特殊な舞台設定になじめず、文字の上を目がすべって行くように、なかなかストーリーが頭の中に入って来ませんでした。けれども、問題の大使が登場し、エズ/ラーの言葉がアエリカ人たちを恐怖の底に陥れるあたりから、物語は急激に面白くなります。 エズ/ラーの言葉は麻薬になり、保たれていた秩序が崩壊していく様は伊藤計劃の『虐殺器官』を彷彿とさせます。 誰もが世界の終わりを予感し絶望の淵に追い込まれるなか、最後まで事態の収束に取り組んだ主人公の勇気と行動に拍手を送りたい。
1投稿日: 2013.10.02ニセ札つかいの手記 - 武田泰淳異色短篇集
武田泰淳
中公文庫
はずれなしの異色短篇集
武田泰淳といえば『ひかりごけ』の作者で、戦後文学の重苦しいイメージや、人間の根源に関わる、なんだか小難しい話を書く人・・・と思っていたのだけれど、本書を読んでガラリと印象が変わりました。 眼の悪い男女の恋愛を描いた『めがね』、ゴジラを倒すために編成されたチーム内で起こる事件を追う『「ゴジラ」の来る夜』、はずみで殺人罪を犯してしまった人の、驚きの一瞬を切り取った『空間の犯罪』、ニセ札を受け取って使うことを仕事にしている男の『ニセ札使いの手記』などなど、バラエティに富んだ珠玉の短編集です。
0投稿日: 2013.09.28