
半落ち
横山秀夫
講談社文庫
罪と命の重さについて考えさせられる
アルツハイマーの妻から殺してほしいと懇願され、思わず手をかけてしまった警察官。そのやむにやまれぬ気持ちも、どんな理由であれ殺人は許されないとする司法の立場も、両方の視点がしっかり描かれているところに、安定したバランス感覚のある作品だと思いました。 すぐに自首するはずだった彼が、2日間をさまよった後に出頭してきた理由は最後にわかります。賛否分かれる結末だと思いますが、私は救われた気がしました。
6投稿日: 2013.11.07共喰い
田中慎弥
集英社文庫
母は強し
暴力的な父親を持ち、自分もいつかああなってしまうのではないかと恐れている高校生が主人公。血は争えない――そんな心の葛藤を抱えながらも、幾分幼さの残る描写に、精神のアンバランスさとリアルさが感じられました。 印象的だったのは、彼の母親が、過酷な状況の中でも力強く生きていること。同時収録の『第三紀層の魚』にも強い母親が登場します。
5投稿日: 2013.11.01ハサミ男
殊能将之
講談社文庫
再読必至のサイコミステリー
ターゲットの情報を収集し、いつでも実行に移せるように用意していた犯行が、模倣犯のせいで無駄になってしまう。偽物は誰なのか、私は真犯人を突き止めるために動き出す。 自殺癖のある多重人格者というキャラクター造形から、主人公の只者でない雰囲気が伝わってくるけれども、本当にびっくりするのは物語が核心に迫る終盤から。 トリックが明かされることで、逆に読者は混乱し、何度も前のページを見返すことになります。 ぜひ新鮮な気持ちでこの作品を味わって下さい。
12投稿日: 2013.10.30KGBから来た男
デイヴィッド・ダフィ,山中朝晶
ハヤカワ文庫NV
スキンヘッドのおっさん好きにはたまらないハードボイルド小説
元KGBの調査員が、ニューヨークを舞台に活躍するスパイ活劇。 複雑に絡み合うプロットは、状況を理解するのにやや時間を要するものの、魅力的なキャラクターが次々と登場し、ロシア独特の台詞回しと鮮やかな情景描写に引き込まれてからは、一気にページをめくる手が早くなります。 ラスボスの正体はなんとなくわかってしまうので、謎解きよりもハードボイルドの世界を存分に味わいたい人におススメ。 登場人物としては一度も出てこないプーチンの存在感にも注目です。
1投稿日: 2013.10.28宇宙の戦士
ロバート・A・ハインライン,矢野徹
ハヤカワ文庫SF
名作は色褪せない
何の予備知識もなく、戦闘シーンばりばりの宇宙戦争モノかと思って読み始めたら、全く違う世界が広がってました。 物語の大半は軍部の生活や訓練について描かれるのですが、過酷な日々の中にもユーモアやジョークがあふれており、まるで男子校の学園ドラマのよう、と言ったら本書のファンに怒られるかもしれません。 戦争とは、祖国とは、市民とは、といった命題の、やや説教くさいところも含めて面白く、不朽の名作です。
14投稿日: 2013.10.26ロスト・シンボル(上)
ダン・ブラウン,越前敏弥
角川文庫
あっという間の上中下巻
親友のピーターに呼び出されたラングドン教授は、彼と出会えないままフリーメイソンの謎を追いかけることになる。 まるで映画のような展開に、息をつく間もなくページをめくり、一気に読み終えました。 全く知らなかったフリーメイソンについて多少なりとも知識を得られたことと、とても楽しい読書時間を過ごせたことに満足です。 事件が片付いてからが冗長すぎたのと、犯人の物語をもっと掘り下げて欲しかったという不満が残るものの、同シリーズをもっと読みたくなりました。
4投稿日: 2013.10.26ラテン語の世界 ローマが残した無限の遺産
小林標
中公新書
自己増殖するラテン語
日本語は他国から多くの言葉を取り入れて進化してきた言語だ。 一方ラテン語は、新しい概念に出会ったときに、外から輸入することなく、自ら新語を生み出して来たのだという。 まるで生き物のようなラテン語の魅力に迫る一冊。 「無限の遺産」というサブタイトルは伊達じゃない。
1投稿日: 2013.10.26チョコレートゲーム 新装版
岡嶋二人
講談社文庫
決して甘くない家族ドラマ
殺人の罪を着せられ、自殺に見せかけて殺害された息子の無念を晴らすため、父親が探偵役となって奮闘する物語。 警察がザルすぎるとは思ったけれど、頑張るお父さんにジン来た。安心して読めます。
2投稿日: 2013.10.25太陽の簒奪者
野尻抱介
ハヤカワ文庫JA
絶望的な状況に負けない、主人公のポジティブ思考が光る
天文部に所属する主人公は、水星の観測をしていてある異変に気付く。 そのニュースは瞬く間に世界に広がり、地球に住んでいる私たちを脅かす。 異星人は地球を侵略しに来たのか、それとも別の目的があるのか、あらゆる手段でメッセージが発信されるが、彼らは何の返答も行ってこない。 想像の枠を超えた異星人とのコンタクトが、いかに難しいかを描き出した名作。 文系の私にはついて行けない話も出て来たけど、わからないところは軽く読み飛ばしながら、楽しむことができました。
4投稿日: 2013.10.23夜にその名を呼べば
佐々木譲
ハヤカワ文庫JA
悲しい復讐劇
冷戦が続いていた80年代。東ベルリンに駐在していた神崎は、親会社が起こした不正輸出事件の罪を着せられ、殺人の容疑までかけられて東側へ亡命した。 そして数年後――。ベルリンの壁が崩壊し冷戦が終わりを告げると、彼が日本に戻ってくるという手紙に、関係者たちが吸い寄せられるように終結する。 期待していた展開とは違ったけれど、なるほどと納得のいくラストでした。
0投稿日: 2013.10.23