
球体の蛇
道尾秀介
角川文庫
すべてを呑み込んだ先に・・・
血のつながった家族以上に大切で、ずっと守りたいと思っていた関係が、修復不能なまでに壊れてしまう。誰かのためについた嘘が、他の誰かを傷つけ、やがてそれは自分の胸に突き刺さる。 読後感は人によって分かれると思いますが、重苦しさを感じながらも、先を急ぐように読み進めて迎えたラストには、一筋の明かりが指したように見えました。
4投稿日: 2014.02.18ヒトリシズカ
誉田哲也
双葉文庫
凶悪で恐ろしい事件の中で美しさが際立つ
薄暗い山林にひっそりと咲くヒトリシズカ。美しく可憐で、はかなさをたたえつつも、力強く自生する野生の花が表紙を飾っています。 数々の事件を引き起こしながらも、関わりあった人々に強い印象を残して去っていくヒロインは、まさにそんな“ヒトリシズカ”のイメージにぴったり。やがて明かされる彼女の過去には暗い気持ちになりますが、最後まで自分の生き方を貫く姿勢には、一貫した美しさを感じました。 ちなみに“ヒトリシズカ”には類種の“フタリシズカ”という花も存在します。そんな豆知識も頭に入れて読むと、また違った感慨を味わえるかもしれません。 電子書籍にはめずらしい解説付きです。
3投稿日: 2014.02.05ツール・オブ・チェンジ 本の未来をつくる12の戦略
オライリー・メディア,秦 隆司,宮家あゆみ,室 大輔
ボイジャー
電子書籍の可能性を夢見る一冊
電子書籍を毎日読んでる自分にとって、とても気になる本の未来。主にデジタル化を進めている版元や書店、著者向けに書かれた様々な取り組みが話の中心となっていますが、読者視点で読んでも十分に面白かったです。 電子本の貸し出しや献本システム、複数のストアで購入した本を一元管理できる仕組み、端末の解像度にあわせて図表を最適表示したり、画像に頼らない数式の埋め込みなど、いつか手元のReaderでも利用できる日が来るといいなぁ。
2投稿日: 2014.01.22ラッシュライフ
伊坂幸太郎
新潮社
エッシャーのだまし絵をモチーフに物語る意欲作
金持ちの画商と彼に付き添う女性画家、リストラされて家族も失った男、新興宗教の教祖と信者、自分の仕事に美学を持っている泥棒、etc…。仙台を舞台に生きる、多種多様な人物の群像劇かと思いきや、終盤でバラバラだったストーリーが一気に交差し、つながっていきます。 途中、死体を処理する話も出てきて、生理的にダメな人もいると思いますが、一気に盛り上がって終わるラストは圧巻。読後感もさわやかです。
4投稿日: 2014.01.21チューリングの大聖堂 コンピュータの創造とデジタル世界の到来
ジョージ・ダイソン,吉田三知世
単行本
コンピュータの誕生と未来に思いを馳せる
表題のチューリングに目が行きますが、メインはフォン・ノイマンを中心とした技術者たちのお話。他にもアインシュタインやオッペンハイマーといった人物が登場します。 冷戦時代の核開発競争とともに発展してきた暗号技術や、コンピュータについての前知識がないと、通読するのは辛いかも。逆にこの方面の話が好きな人には楽しく読めると思います。 後半は、野崎まど『know』の世界に通じるような話も出てきてゾクっとしました。 電子書籍なので本書の帯情報も知らずに手に取りましたが、訳者あとがきに円城塔の名前が出てきてびっくり。SF好きにもおススメです。
3投稿日: 2013.12.27最悪
奥田英朗
講談社文庫
本当に最悪なのは涼しい顔をした人たち
悪いことは重なるもので、ちょっとしたボタンのかけちがいから歯車が狂い出し、決して後戻りできない崖っぷちに追いつめられる。 そんな3人の人生が交差する様を描いた群像劇。 タイトル通りの「最悪」な結末を予想しましたが、その最悪な中にも人間の良心を信じられる希望が見えたのが救いでした。
5投稿日: 2013.12.16銀の匙
中勘助
岩波文庫
亡くなった祖母が大好きだった本
この世に生まれて物心がついた子供の頃から、大人に一歩近づく青年になるまでの出来事を、情緒豊かにまとめた随筆集。著者の生きた時代は、現代の日本とは大分様変わりしてしまっているのに、どこか懐かしく自分の子供時代を思い起こさせます。 普通なら気にもとめないような日常の端々を切り取り、情景鮮やかに綴られる日本語の美しさは必見。 電子書籍版では省かれることの多い解説がしっかり収録されているのも◎。
4投稿日: 2013.12.16Self-Reference ENGINE
円城塔
ハヤカワ文庫JA
あまりの荒唐無稽っぷりに笑ってしまう
20の短編からなる、著者のデビュー作。頭に弾丸を埋め込まれた少女や、箱であるかどうかも分からない立方体を年に一度転がし続ける男、全く同じ理論を同時多発的に発見した26人の学者など、それぞれがまるで無関係な次元の話を装いつつ、一連のつながりを持って収束していく。 途中でわけがわからなくなりつつも、思わずくすりとさせるような言葉に不意を突かれたりして、楽しく読みました。 何度読んでも面白い、円城塔のマイベストです。
9投稿日: 2013.11.29向日葵の咲かない夏
道尾秀介
新潮社
みんな夢だったらいいのに
小学生の少年が主人公の道尾作品を『月と蟹』『シャドウ』の順に読んで、次に本作を手に取りました。3作の中で一番好きなのは『月と蟹』ですが、読後に強烈な印象を残したという点では『向日葵の咲かない夏』がダントツでした。 後味も悪く、好き嫌いが分かれると思いますが、何故かもう一度読み直したいという衝動にかられる一冊。 「最後に謎が解けて終わり!」ではなく、じっくり読み返しながら、残された謎を解き明かしていきたい人にはおススメです。 ちなみに本作で作者に苦手意識を持ってしまった人は『カラスの親指』で口直しをどうぞ。
8投稿日: 2013.11.13ふたり(新潮文庫)
赤川次郎
新潮文庫
蛹から蝶になり、少女は旅立つ
何でもできる自慢の姉が、突然の事故で亡くなってしまう。 残された実加を取りまく環境は、決して彼女にやさしくなく、次々と事件が起きては壁にぶち当たる。 そんなとき、彼女を救った姉の声をきっかけに「ふたり」の生活が始まります。 少女の視点そのままを作文したような文体は読みやすく、読後もずっと応援したくなる物語でした。 赤川次郎はずっと読まず嫌いでしたが、これを機に他の作品も読んでみようと思います。
3投稿日: 2013.11.08