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naotanさんのレビュー
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  • 読書について

    読書について

    ショーペンハウアー,鈴木芳子

    光文社古典新訳文庫

    ショッキングな読書術

    読書というと、何となく知的なイメージがあります。 もちろん、娯楽として読書を楽しむ人も多いけれども、履歴書に書かれる“無難な趣味ナンバー3”に読書が入ることは間違いありません。 しかし、仕事や家事の合間をぬって、せっせと読書に励む私たちに、ショーペンハウアーは言うのです。本を読むことは何も考えていないことに等しいと。 「絶えず本を読んでいると、他人の考えがどんどん頭に流れ込んでくる。これは自分の頭で考える人にとってはマイナスにしかならない。」 えええええー!? まるで今までの読書を否定されたような文章に自尊心を傷つけられながらも、それじゃあ何を読めばいいのか、どう読めばいいのか、ショーペンハウアー先生は教えてくれます。 これからの読書時間をより有意義にものにするために、読んでおきたい一冊。

    10
    投稿日: 2016.10.03
  • 野蛮な読書

    野蛮な読書

    平松洋子

    集英社文庫

    衣食「読」住

    タイトルからイメージした言葉は乱読。手当たり次第に本を読みまくる話かと思いきや、そこには同じ本を何度も繰り返し、大切に読む人の姿がありました。 思わず「野蛮」の意味を調べると、「文化の開けていないこと、教養のないこと」とあります。いや、むしろ著者の教養の高さがいやらしいほどにおってくるのですが……。 本書には、読書と同じくらい食べ物の話が出て来ます。 美味しいものを貪り食うように、面白い本を貪り読む。 食べなければ生きていけないように、書を読まないと死んでしまうんじゃないかと思わせるほど、本能の赴くままに読書する、その様子を「野蛮」と評したのかな、と理解しました。

    12
    投稿日: 2016.07.28
  • テロ

    テロ

    フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一

    東京創元社

    決断の重み

    ハイジャックされた旅客機を独断で撃ち落とした軍人は有罪か無罪か? 白熱教室のサンデル教授が好みそうなテーマで裁判の模様を伝える戯曲です。 安易に殺人=悪と結論付けたり、感情論に訴えて赦すのでもなく、最終的な決断を読者に委ねる1冊。 テロは無縁なものと切り捨てずに、もし自分が当事者だったらどうするか?を考える機会になりました。

    9
    投稿日: 2016.07.19
  • オーブランの少女

    オーブランの少女

    深緑野分

    東京創元社

    少女は生きる、したたかに。

    美しい花々が咲き乱れる園、オーブランに集められた少女たちには、何一つ不自由のない暮らしが約束されています。ただひとつ、外の世界に出られないことを除いては。 カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』にも似た雰囲気を持つ物語の中で、彼女たちは自分の将来に不安を覚え始めます。誰が何のためにこの楽園を作ったのか、果たして真相はーー? 表題作ほか、それぞれに異なる時代と場所を生きる少女たちの謎を描いた短編集。 どれも印象的で、一度読んだら忘れられない作品になりそう。

    11
    投稿日: 2016.05.31
  • 書店主フィクリーのものがたり

    書店主フィクリーのものがたり

    ガブリエル ゼヴィン,小尾 芙佐

    早川書房

    好きな本に囲まれていればしあわせ?

    読書好きなら一度は憧れる書店主。本書を手にする読者は、思い思いの“書店主像”を頭に思い描いてページをめくることと思います。そして私は、自分が想像していたのとは全く異なる主人公を目の当たりにして幻滅するのでした。 フィクリーは高学歴を鼻にかけた男やもめ。好き嫌いが激しいために好みの本しか扱わず、遠路はるばる営業に来た出版社の担当をけんもほろろに付き返します。そんな彼の店から大切にしていた稀覯本が盗まれて…… 「ザマアミロ」と私が思ったかどうかはさておき、盗まれた稀覯本と引き換えに店頭に捨て置かれた幼女が、フィクリーと島の人々との関係を徐々に変えて行きます。 人生は良いことばかりではなく、事件や悲しい出来事もあるのですが、最後はじぃんと心が温まります。 本と人との結びつきについて、考えるきっかけを与えてくれる一冊です。

    14
    投稿日: 2016.03.22
  • 沖で待つ

    沖で待つ

    絲山秋子

    文春文庫

    芥川賞受賞作おまけつき

    自分の死後、見られて一番困るものは何でしょう? 恋人や家族には決して見られたくないものの処理を会社の同僚から頼まれた私は、託された合鍵を手に彼の住居に忍び込みます。 表題作『沖で待つ』のほか、ハローワークに通う30女の見合い話を描く『勤労感謝の日』、風刺を効かせながら最後はほっこり和ませる『みなみのしまのぶんたろう』の3篇を収録しています。 いずれもすっきりとした後味で、働く女性ならきっと共感できる一冊。男性の感想も聞いてみたくなります。

    6
    投稿日: 2016.01.13
  • 秋の牢獄

    秋の牢獄

    恒川光太郎

    角川ホラー文庫

    みんな閉じ込められている

    教室を間違えたことに気付かず、別の教科の講義を始める教授。ランチで昨日と全く同じ話を繰り返す友人。違和感の正体は、11月7日から抜け出せなくなった自分の方にありました。 何をしても、どこにいても、朝が来るとリセットされて自分の部屋からスタートする『秋の牢獄』。たまたまこの本を読んだのが、咳で眠れない夜だったので、どうせ繰り返すなら健康な一日にヒットしてほしいと切に願いながら読み終えました。 そのほか、迷い込んだ家から出られなくなってしまった男の『神家没落』、不思議な能力のために教祖に祭り上げられ、監禁状態になってしまった少女の『幻は夜に成長する』、収録されている3篇の話に共通するのは、みんな閉じ込められているということです。 果たして彼らは脱出できるのでしょうか? 気になった方はぜひ読んでみて下さい。

    5
    投稿日: 2016.01.07
  • 新装版 海も暮れきる

    新装版 海も暮れきる

    吉村昭

    講談社文庫

    誰が彼を看取れたか

    咳をしてもひとり。有名なこの句から想像するのは孤独な老人の姿です。 俳人・尾崎放哉の晩年を描いた本書を手に取り、まず彼が41歳という若さで亡くなったことに驚きました。 東京帝大を卒業し保険会社に入社。結婚もして出世街道まっしぐら。勝ち組のエリートコースを歩んでいた彼が、なぜこんなに寂しい句を残して死ぬことになったのでしょうか? その理由は読み始めてすぐにわかりますが、自らの死期が近付くのを感じながらも、自作を句集にまとめることもせずに、常に新しい句を詠み続けた放哉の、壮絶な人生に感銘を受けました。

    9
    投稿日: 2015.11.27
  • 毒入りチョコレート事件

    毒入りチョコレート事件

    アンソニー・バークレー,加島祥造

    グーテンベルク21

    チョコレートボンボンのように1つ1つの推理を味わう

    毒入りチョコレート事件。そのタイトルから想起されるのは、バレンタインデーに絡む毒殺事件か、それともお菓子のパッケージに「毒入り危険」などと書かれて世間を騒がす事件でも起きるのか―? 読んでみるとそのいずれでもない、複雑怪奇なミステリーでした。 まず、ある男のもとにりチョコレートの試供品が届くのですが、彼はそのチョコレートを口にすることなく、その場に居合わせた別の男が持ち帰ります。そして実際にチョコレートを食べて死んだのは、持ち帰った家の奥さんなのでした。 毒入りチョコレートは誰を殺そうとして作られたのか、そして犯人は誰なのか? 迷宮入りとなった事件に、われこそはと「犯罪研究会」の面々が挑みます。 各人の独創的な推理が繰り広げられるなか、浮かび上がってきた真相とは――? 特に大きな仕掛けがあるわけではありませんが、ミステリ好きなら楽しめる一冊。無駄のない、すっきりとしたラストも私好みでした。

    9
    投稿日: 2015.11.26
  • 妻を帽子とまちがえた男

    妻を帽子とまちがえた男

    オリヴァー・サックス,高見幸郎,金沢泰子

    ハヤカワ文庫NF

    人間って素晴らしい

    人と物の区別がつかずに家具に向かって話しかける人、自分の足がどこにあるのかわからない人、身体の均衡が保てず常に傾いてる人…そんな人に出会うと、私たちは眉をひそめて極力関わり合いにならないように努めるものです。けれども本書を読めば、彼らも私たちと同じ、いやそれ以上にエキサイティングで魅惑的な世界を生きている人たちなのだと気付くでしょう。 映画『レナードの朝』の原作者としても知られる神経学者が、患者との対等で協力し合う関係を築きながら、暖かな目線で書き綴った医学エッセイ。 決して明るい話ばかりではありませんが、ほっこりするお話もあり、人間の奥深さを再認識できる一冊です。

    12
    投稿日: 2015.11.04