
盤上の夜
宮内悠介
東京創元社
表題作にめげずに続きを読んで。
実は一度読むことをやめてしまった作品。特に女性は最初の表題作で挫折してしまうかもしれない。 特に順番でなくともいいので、気になった題材からチャレンジしてみましょう。 ニコニコの電王戦にドラマを感じた人は「人間の王」を、 麻雀が好きな人は「清められた卓」を、 寓話のような物語が好きな人は「象を飛ばした王子」を。 どの作品も奥深く、著者の引き出しの多さに驚かされます。
3投稿日: 2013.09.28ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。
辻村深月
講談社文庫
世代によって読後感が変わりそうな作品
自分の方が優位だと知って相手をかばったり、他人と比較して意地を張ったり、頼っているフリをしながら見下していたり。そんなイヤな内面の描写がことのほかリアルで、どぎまぎしました。 親離れ&子離れできない母娘の関係と、そんな彼女が周りから浮いた存在であることを知りつつも、どうしようもない状況は、見ていてとてもせつない。 主人公もいつか、母のことを許せるようになるといいな。
4投稿日: 2013.09.28カラスの親指 by rule of CROW’s thumb
道尾秀介
講談社文庫
騙されたつもりで読む
友人の保証人になったことがきっかけで巨大な借金を背負わされ、返済に東奔西走した挙句、大切な人を失ってしまう。闇金ウシジマくんのような恐い話なのかな?と思ったら、全然違いました。辛い場面がないわけじゃないけれど、本書の主人公には力強い味方ができるのです。 ちょっと都合良すぎるんじゃない?と思うシーンも、騙されたつもりで読んでみると楽しいです。
1投稿日: 2013.09.28ペンギン・ハイウェイ
森見登美彦
角川文庫
初めて森見作品を読む人にもおススメ
秘密基地と探検、いじめっ子への逆襲、女友だちとの微妙なカンケイ、そして失恋・・・ ジュヴナイルのツボを押さえつつ、突然お姉さんがペンギンを生み出す場面に遭遇するなど、突飛な世界観は森見ワールド健在! 少し大人びた少年と、彼の成長をあたたかく見守るお姉さんとのやりとりも楽しく、読みながら顔がニヤケてしまいました。 最後はちょっとせつない終わり方。泣くな、少年。
13投稿日: 2013.09.28孤島の鬼
江戸川乱歩
東京創元社
悲しい鬼の末路
前半は謎解きがメインのミステリー、後半は犯人の居城に乗り込む冒険譚。表題の“鬼”になった犯人の生い立ちは悲しいけれど、多くの人間を不幸の底に陥れた悪事の数々に同情の余地はない。最後は一応の大団円を迎えるが、彼によって運命を狂わされた人の命は戻ってこないのだし。 なんとなく腑に落ちないのは、主人公の蓑浦が周りの人間に頼ってばかりの情けない男であること。何故か女からも男からもモテる蓑浦は、それを自覚しながら多くの人間を巻き込んでいくのだ。彼こそが鬼なのかもしれない。
4投稿日: 2013.09.26解錠師
スティーヴ・ハミルトン,越前敏弥
早川書房
その技術は少年を不幸にするか
解錠は芸術だ。鍵の知識だけでなく、聴覚や触覚などの五感を総動員して行う、才能を持つ者だけに許される密かな遊び。 最初は、店で購入した鍵をおもちゃのように開けるのが楽しかった。 次は自分の家の鍵を開けて遊んだ。 その特技はやがて友人に知られることとなり、鍵の番号を忘れて困っている級友を助けたことで、うわさが広がる。 少年は自分の意思に関係なく、解錠を強要されるようになり、そこから先は暗い未来しか見えない。 結末は推して知るべし……と思っていたら、意外にもラストは希望の持てる終わり方でよかった。 最後まで諦めない少年の生き方に勇気づけられた一冊。
5投稿日: 2013.09.25清須会議
三谷幸喜
幻冬舎
血の流れない戦い
信長亡き後、織田家の後継者と領地配分を決めた清須会議の様子を、現代風の口語体でユーモアに描いた娯楽小説。 敵の状況を探り、有利な方に付きそうな相手を抱え込み、手ごわい男には恩を売り・・・会議を前に繰り広げられる情報戦。 今も昔も、政治には根回しが大切なんだなあと思った。 映画の方も楽しみです。
0投稿日: 2013.09.25ブランコのむこうで
星新一
新潮社
ショートショートの名手、星新一による長編ファンタジー
「ぼく」は学校の帰り、自分にそっくりな「もうひとりのぼく」に出会う。あとをつけていくと、父が見ている夢の世界に来てしまっていた。 この本は、いろんな人の夢の中を旅するぼくの冒険譚だ。 様々な人が見ている夢の世界と、その人の現実の世界を垣間見ながら、彼はいろんなことを考え、感じ、学んでいく。 特に、彫刻を掘り続ける老人の話がグッと来た。
1投稿日: 2013.09.25八月の魔法使い
石持浅海
光文社文庫
会社っていいな、と思える一冊
世間ではお盆休みの8月15日。出社する人も少なく、おだやかな雰囲気の会社で事件は起こる。経営管理部員の小林拓真は、書類の判子をもらいに訪れた総務部で、会社にあってはならない文書を見つけてしまうのだ。 何故そのような文書が存在するのか、中身は何が書かれているのか、誰が何の目的で作成したのか、その答えを求めて主人公の頭はフル回転する。 ある人物によって仕組まれた事件。そこに主人公の奮闘が加わり、物語は意外な展開を見せる。 読んでいて、ちょっとこの会社が羨ましくなった。 読後感もさわやかです。
1投稿日: 2013.09.25時の娘
ジョセフィン・テイ,小泉喜美子
早川書房
こんな入院生活ならしてみたい
骨折で入院生活を余儀なくされたグラント警部が、見舞いにもらった数枚の肖像画から歴史の謎に挑むミステリー。 警部自身がそれほど歴史に詳しい人物ではなく、周囲の人に話を聞いたり、看護婦から歴史の教科書を取り寄せたりして、少しずつ謎を解き明かしてくれるので、歴史が苦手な私でも楽しむことができた。 周りの登場人物も魅力的で、いろいろと助言をしたり、資料集めや推理を手伝ってくれる。 こんなに楽しい入院生活を送れた警部が、ちょっと羨ましくなった。
1投稿日: 2013.09.25