naotanさんのレビュー
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妻を帽子とまちがえた男
オリヴァー・サックス, 高見幸郎, 金沢泰子 / ハヤカワ文庫NF
人間って素晴らしい
12
人と物の区別がつかずに家具に向かって話しかける人、自分の足がどこにあるのかわからない人、身体の均衡が保てず常に傾いてる人…そんな人に出会うと、私たちは眉をひそめて極力関わり合いにならないように努めるも…のです。けれども本書を読めば、彼らも私たちと同じ、いやそれ以上にエキサイティングで魅惑的な世界を生きている人たちなのだと気付くでしょう。
映画『レナードの朝』の原作者としても知られる神経学者が、患者との対等で協力し合う関係を築きながら、暖かな目線で書き綴った医学エッセイ。
決して明るい話ばかりではありませんが、ほっこりするお話もあり、人間の奥深さを再認識できる一冊です。 続きを読む投稿日:2015.11.04
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キネマの神様
原田マハ / 文春文庫
映画館に行きたくなる本
12
「自分が親父の年になったら、もう一度観たい映画ある」
この本を読んで、大学生の頃、サークルの飲み会で熱く語った友人のことを思い出しました。
ひとことで言ってしまえば、この物語は映画が大好きな父娘のサ…クセスストーリーです。
少女マンガのような甘ったるさと、あり得ないほどにご都合主義的な展開は、好みが分かれるところかもしれませんが、これは神様が奇跡を起こすファンタジーなのだと割り切って読むのが正解でしょう。
気分屋でいい加減な父にヤキモキしたり、小さな映画館の危機にハラハラしたり、そして何よりも、愛情たっぷりに語られる数々の名画に思わず胸が熱くなります。
「ニュー・シネマ・パラダイス」、「フィールド・オブ・ドリームス」、「硫黄島からの手紙」などなど、誰もが知っている名作の数々も登場。
この本を読んだ人同士で集まる上映会、ソニーさんやってくれないかしら? 続きを読む投稿日:2014.10.01
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オーブランの少女
深緑野分 / 東京創元社
少女は生きる、したたかに。
11
美しい花々が咲き乱れる園、オーブランに集められた少女たちには、何一つ不自由のない暮らしが約束されています。ただひとつ、外の世界に出られないことを除いては。
カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』にも…似た雰囲気を持つ物語の中で、彼女たちは自分の将来に不安を覚え始めます。誰が何のためにこの楽園を作ったのか、果たして真相はーー?
表題作ほか、それぞれに異なる時代と場所を生きる少女たちの謎を描いた短編集。
どれも印象的で、一度読んだら忘れられない作品になりそう。 続きを読む投稿日:2016.05.31
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私の好きな悪い癖
吉村昭 / 講談社文庫
記録文学作家、吉村昭の意外な素顔に迫る随筆集
10
綿密な取材をコツコツと積み重ね、精力的な著作で知られる吉村昭。てっきり、すべての取材を終えて、万全の準備を整えてから執筆に取り掛かるのかと思いきや、彼は書きながら取材を進めていくタイプの作家なのだそう…です。また、幼少の頃は病弱で、常に死と隣り合わせの生活をしていたというから、さらに驚きです(とても頑丈そうで生命力にあふれていそうなイメージでしたから)。
そして、病弱であったがゆえに共感しえたであろう、尾崎放哉についての講演録も実に面白く読みました。次に読む吉村昭は『海も暮れきる』に決まりです。 続きを読む投稿日:2015.09.14
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毒入りチョコレート事件
アンソニー・バークレー, 加島祥造 / グーテンベルク21
チョコレートボンボンのように1つ1つの推理を味わう
9
毒入りチョコレート事件。そのタイトルから想起されるのは、バレンタインデーに絡む毒殺事件か、それともお菓子のパッケージに「毒入り危険」などと書かれて世間を騒がす事件でも起きるのか―? 読んでみるとそのい…ずれでもない、複雑怪奇なミステリーでした。
まず、ある男のもとにりチョコレートの試供品が届くのですが、彼はそのチョコレートを口にすることなく、その場に居合わせた別の男が持ち帰ります。そして実際にチョコレートを食べて死んだのは、持ち帰った家の奥さんなのでした。
毒入りチョコレートは誰を殺そうとして作られたのか、そして犯人は誰なのか?
迷宮入りとなった事件に、われこそはと「犯罪研究会」の面々が挑みます。
各人の独創的な推理が繰り広げられるなか、浮かび上がってきた真相とは――?
特に大きな仕掛けがあるわけではありませんが、ミステリ好きなら楽しめる一冊。無駄のない、すっきりとしたラストも私好みでした。 続きを読む投稿日:2015.11.26
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神々の山嶺(下)
夢枕獏 / 集英社文庫
神々しい輝きを放つ山岳小説の最高峰
10
「死んだらゴミだ」
深町はエベレスト登山から失脚し、長いこと消息を絶っていた天才クライマー、羽生丈二に出会い、その人生に惹かれていきます。
彼は未だ諦めきれずに、人類未踏の夢を追いかけているのでした。…
人は何故山に登るのか?
「そこに山があるから」というマロリーの言葉に対をなす、羽生が見つけ出した答えとは?
エベレストの謎からさらに大きな謎に挑む、深町と羽生の挑戦が加熱する下巻。
ただひたすら男臭いけど、読後は清々しい気分に包まれます。 続きを読む投稿日:2015.03.17