
キネマの神様
原田マハ
文春文庫
映画館に行きたくなる本
「自分が親父の年になったら、もう一度観たい映画ある」 この本を読んで、大学生の頃、サークルの飲み会で熱く語った友人のことを思い出しました。 ひとことで言ってしまえば、この物語は映画が大好きな父娘のサクセスストーリーです。 少女マンガのような甘ったるさと、あり得ないほどにご都合主義的な展開は、好みが分かれるところかもしれませんが、これは神様が奇跡を起こすファンタジーなのだと割り切って読むのが正解でしょう。 気分屋でいい加減な父にヤキモキしたり、小さな映画館の危機にハラハラしたり、そして何よりも、愛情たっぷりに語られる数々の名画に思わず胸が熱くなります。 「ニュー・シネマ・パラダイス」、「フィールド・オブ・ドリームス」、「硫黄島からの手紙」などなど、誰もが知っている名作の数々も登場。 この本を読んだ人同士で集まる上映会、ソニーさんやってくれないかしら?
12投稿日: 2014.10.01![一九八四年[新訳版]](https://ebookstore.sony.jp/photo/BT00001822/BT000018228700100101_LARGE.jpg)
一九八四年[新訳版]
ジョージ・オーウェル,高橋和久
早川書房
ひとかけらの誇りすら奪う暗黒の世界
1984年と言えば、昭和のバブルな時代を思い出します。けれども、この作品が書かれたのは1948年。ジョージ・オーウェルの描く近未来はどんな世界だったでしょうか? 世の中は3つの勢力に分かれ、絶えず戦争を繰り返しています。主人公、ウィンストン・スミスの仕事は歴史を書き換えることで、政府にとって不都合な真実はすべてなかったことにされます。昔の方が良い時代だったのでは?などと疑いを持つことは許されず、子どもにすら気を許すことができない社会。 そんな窮屈な現実から逃れようと、スミスは志を共にする女性との逢引きを重ねるのですが・・・ この物語の恐ろしいところは、政府に反することを思っただけで、死刑よりも辛い罰を与えられる主人公の末路です。 読者の心まで持ってかれそうな、ディストピアの傑作。 現代がここまでひどい世界でなくて本当に良かったです。
13投稿日: 2014.09.26
有頂天家族
森見登美彦
幻冬舎文庫
人間と狸と天狗が京都を駆け巡る
森見登美彦ゆかりの京都を舞台に四人兄弟の狸が活躍する、ちょっぴりミステリー風味のファンタジー。 亡き父の跡を継ぎ、一家を支える大黒柱たらんとする真面目な長男、蛙の姿になったまま井戸に引きこもっている次男、いつも面白おかしく社交性の高い三男、化けてもすぐに尻尾を出してしまう四男、そして宝塚が大好きでカミナリの苦手な母。 次期頭領「偽右衛門」の選挙出馬を巡ってライバルと争ううち、父の死の真相が浮かび上がってきて・・・ 難しい漢字を多用するのに読みやすく、面白く、流れるような名調子が楽しい一冊です。
13投稿日: 2014.09.20
妊娠カレンダー
小川洋子
文春文庫
美しく恐ろしい不思議な物語
芥川賞を受賞した表題作ほか3篇からなる短編集。 「妊娠カレンダー」は、妊娠した姉夫婦と同居している妹の視点で綴られる日記形式の物語。自分に近しい存在だった"姉"が、まるで別の生き物のような"母親"に変容していく様を、時にはグロテスクに、時には悪意さえ持ちながらレポートしていきます。 美しい文体で、ゾッとするような恐ろしいことをさらっと書く、小川洋子の不思議な感覚に引き込まれました。
12投稿日: 2014.09.13
ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム
谷口忠大
文春新書
読書好きから話し上手に
「趣味は読書です」「最近何が面白かった?」「ええと・・・」 本ばかり読んでいるので、知識は増えていくけれども、自分の中で完結してしまってコミュニケーションが下手という読書家さんは多いと思います。 何とかしたいとは思っていても、いわゆるビジネス書の類は二の足を踏んでしまって、「まあ、いいか」と諦めてしまっている、そんな人におススメの本かもしれません。 「書評ゲーム」というタイトルから、面白い本を知るきっかけになればと思い、手に取った一冊。早速読んでみたいと思う本もありましたが、それ以上に「本を通じて人を知る」というコミュニケーションの広がりを期待させてくれる一冊になりました。
4投稿日: 2014.08.31
富士山頂
新田次郎
文春文庫
一大プロジェクトを成功に導いた技術者の鑑
1年の大半が寒風吹きすさぶ大雪で覆われる富士山頂。2年間の一大プロジェクトとはいえ、現場で働けるのは実質80日間。そんな短期間で気象レーダーの建設は可能でしょうか? 雪が解けてから物資を運んでいたらとても間に合いません。 技術的な問題はもとより、意地悪な質問を繰り出す大蔵省から予算をもぎとった気象庁が、次に対峙したのは入札を競い合う各メーカーのし烈な争いでした。政界からの圧力をも跳ね除け、たった一つの目標に向けてまい進する主人公がとにかくかっこいいです。 プロジェクトXの第一話にも選ばれたテーマだけあって、読みごたえは抜群。最後までドキドキハラハラが止まらない、記録文学の傑作。
7投稿日: 2014.08.31
片耳うさぎ
大崎梢
光文社文庫
子どもの冒険心をくすぐるミステリー
父が事業に失敗して、家を引き払って親戚のお屋敷に住むことになった小学生。奈都はこの大きすぎるお屋敷が怖くて憂鬱な毎日を過ごしていました。 父は職探しに、母は実家の祖母の看病と、一人ぼっちになってしまった奈都。そこに心強い助っ人、さゆりが登場します。 2人でお屋敷探検に興じるうち、不吉なうさぎのメッセージを受け取った奈都は、物語が進むにつれて逞しく成長し、謎解きを始めます。 最後に彼女がたどり着いた真相とは――? 流血シーンもあるけれど、さわやかな読後感が心地よいミステリーです。
3投稿日: 2014.08.29
双頭の悪魔
有栖川有栖
創元推理文庫
長さを感じさせない青春ミステリー
「毎日電話をかけること」 一人旅の条件として親の言いつけを守っていた娘マリアが、ある日突然連絡を絶ってしまいます。 彼女が最後に訪れたのは、閉鎖的な芸術家のコミュニティ、木更村。 娘は無事なのか、何か事件に巻き込まれたのか、それとも――? 心配した親から相談を受けた大学のサークル仲間、アリスたちが、マリアの捜索とそこで起こる事件の解決に挑みます。 3度にわたって行われる読者への挑戦、難解なパズルを紐解く快感、そして本格派でありながら青春ものとしても楽しめるライトな読み心地。 ボリュームに対して全く長さを感じさせないミステリーの傑作です。
8投稿日: 2014.08.23
時計館の殺人〈新装改訂版〉(上)
綾辻行人
講談社文庫
壮大な仕掛けと怒涛の伏線回収が見事な最高傑作
十角館のこなん君こと、江南孝明が新米編集者となって再登場。雑誌の企画で集まったミステリーサークルの面々が、時計館に閉じ込められた形で殺人事件に巻き込まれます。遅れて登場した探偵役、島田潔は彼らを救うことができるのでしょうか!? “一行の衝撃”だった十角館に対して、時計館はたたみかけるような伏線回収とスケールの壮大さが見どころ。犯人がわかってからラストまでのボリュームがかなりありますが、冗長すぎることなく読者を楽しませてくれます。 他のシリーズを読んでなくてもおススメ。
7投稿日: 2014.08.15
蒼穹の昴(1)
浅田次郎
講談社文庫
青年の願いが夢を切り開く
激動の中国清朝末期を生き抜いた2人の青年の物語。 全4巻というボリュームに身構えていたけれど、読みやすいライトな文体と、先の読めない怒涛の展開にハラハラしながら一気読みしました。 生まれも育ちも異なる2人の青年は、幼馴染で互いに惹かれあいながらも、それぞれ別の道を歩んでいきます。当時最難関と言われた科挙の試験で首席を取り、光緒帝に仕えながら花々しく出世していく文秀と、のたれ死ぬしかないような社会の底辺から、宦官となって西太后に近づく春児。やがて対立する立場となる2人の、懸命に生き抜く姿に心を打たれました。
4投稿日: 2014.08.12
