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naotanさんのレビュー
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  • こんな夜更けにバナナかよ  筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち

    こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち

    渡辺一史

    文春文庫

    当たり前を手に入れる

    人口呼吸器と24時間の介護なしでは息をすることすらままならない――そんな重度の障害を背負いながら、生涯必要とされていた入院生活を抜け出し、自活の道へと歩み出す。本書は「当たり前の生活」を手に入れたいと強く願った障害者・鹿野氏の生活と、彼の周りに集まった多数のボランティアを取材したルポタージュです。 とにかく鹿野氏の強烈な個性に圧倒されつつも、障害があるからといって特別扱いはせず、共に笑い、悩み、怒り、時にはケンカもしながら生きてゆく。そんな彼らがまぶしく見えました。 本書を読んでいて思い出したのは、同じように対等な障害者と介護者の関係を描いた映画『最強のふたり』。こちらもおススメです。

    1
    投稿日: 2015.01.23
  • 花と流れ星

    花と流れ星

    道尾秀介

    幻冬舎文庫

    マイナスをプラスに転じる魔法のような

    両親を殺した犯人を見つけたい。仲良しのあの子を負かしたい。孫娘を失った悲しみを誰かにぶつけたい。そんな負の感情に支配された自分への怒りと悲しみ・・・ 心に傷を負った者たちを優しく包み込む、5つの連作ミステリです。 読後に霊現象探求所を舞台にしたシリーズものだと知りましたが、本作だけでも十分に楽しめます。 道尾さん(登場人物でなく作者の)は、心の闇を書くのが本当にうまいなあ。

    13
    投稿日: 2015.01.03
  • 煙か土か食い物

    煙か土か食い物

    舞城王太郎

    講談社文庫

    最初から最後までハイテンション

    アメリカはサンディエゴのERでチャッチャッチャとメスを奮う、奈津川四郎は天才外科医。 四郎と言うからには上に3人の兄がいて、一郎、二郎、三郎、それぞれ人並み外れた才能を持っています。 ある日、母が入院したという知らせを受けて帰国すると、連続主婦殴打生き埋め事件の被害者になっていたということが発覚します。復讐心に燃える四朗は、早速犯人捜しを始めますが・・・ 超人的な行動力と推理力で真相に迫る四朗に引っ張られながら、ラストまで一気読み必至のミステリ。 作中に差し挟まれる『ロング・グッドバイ』の一節も美しく、また読んでみようかなと思いました。

    7
    投稿日: 2014.12.15
  • トリアングル

    トリアングル

    俵万智

    中公文庫

    罪作りな小説

    『サラダ記念日』で知られる、俵万智さんの小説です。 主人公は8年越しの不倫の上に、若い男の子を二股にかけている30女。結婚よりも恋愛に生きる彼女は、青山のマンションに居を構え、オシャレで知的な生活を楽しんでいます。そんないけ好かない女の小説が、なぜかネットのレビューでは評判が良くて。 歌人ならではの言葉選びのセンス、そしてところどころに差し挟まれる短歌がどれも素敵で、ともすればドロドロで醜くなりそうな日常を、美しくコーティングしているように見えました。そして読む人に「いいな」と思わせてしまうのかもしれません。 ことばの魔力というのは恐ろしい――そんな不思議な魅力を放つ一冊です。

    7
    投稿日: 2014.12.05
  • 孤島パズル

    孤島パズル

    有栖川有栖

    創元推理文庫

    宝探しから犯人捜しへ

    学生アリス2作目。男ばかり4人のミステリ研は、紅一点の新入部員マリアが加わり、一気に華やぎます。夏休みに彼女の伯父が所有する別荘に誘われたアリスと江神さんは、そこでパズルを解きながら宝探しを始めるのですが・・・ 彼らの泊まる屋敷で殺人事件が起こり、楽しい雰囲気から一転、張りつめた空気が漂います。 宝探しから犯人捜しへ。 問題の解決にはやはり、着手していたパズルを解き明かす必要があるようです。 島の地図を元にしたパズルに始まり、各所に配置されているジグソーパズルや島を行き来する交通手段に至るまで、パズル的な要素が盛りだくさんの一冊。 3作目につながるラストも美しく、アリスが所々でつぶやく詩も雰囲気たっぷりで楽しめます。

    8
    投稿日: 2014.12.04
  • 掏摸

    掏摸

    中村文則

    河出文庫

    運命に抗い続けること

    世の中には、誰にでもできる犯罪と、才能を必要とする犯罪があります。 後者が不幸なのは、本人の意思に反して強要されることがあるから。 この物語の主人公も、天才的な掏摸の才能を持って生まれたがために目をつけられ、破滅への道を辿るようになります。 圧倒的な悪の存在から死を宣告されたとき、はたして生き残る道は見つかるのでしょうか? 最初は読みづらい文章だなあと思いながら読んでいましたが、途中から少しずつ面白くなり、一気に読み終えてしまいました。 どんな理由であれ犯罪は許されるものではありませんが、最後まで誇りを失わない主人公の生き方が印象的です。

    9
    投稿日: 2014.11.24
  • オブ・ザ・ベースボール

    オブ・ザ・ベースボール

    円城塔

    文春文庫

    荒唐無稽奇想天外

    空から人が降ってきます。そして、それをバットで打ち返す仕事があります。 そんなぶっ飛んだ設定だけど、降ってくる人間を空高く打ち返すのは、きっと爽快に違いありません。 しかし、それはそんなに簡単には行かないのです。 そもそも、いつどこに落ちてくるのかわかりません。 なんとなく落下地点を予想してみても、果たしてちゃんと打ち返せるのかもわかりません。 荒唐無稽な舞台設定と、それをバカ真面目に論じる氏のユーモアを思う存分楽しめる処女作『オブ・ザ・ベースボール』と、難解かつ円城塔らしいメタフィクション『つぎの著者につづく』を収録した一冊。 芥川賞受賞作の『道化師の蝶』は挫折したけど、気になるからもう一冊を探している人にもおススメ。

    5
    投稿日: 2014.11.04
  • 袋小路の男

    袋小路の男

    絲山秋子

    講談社文庫

    不器用な人間関係を描いた三篇

    12年間想いを寄せている相手と、つかず離れずの関係を続けている男女の物語。表題作が女視点、『小田切孝の言い分』が男視点と、それぞれの視点で読むことができます。 最初はダメ男に引っかかる女の気持ちがわからなかったけど、なんだかんだで釣り合いが取れているのかも? こういう関係を「いいな」と思うか、全く共感できずに終わるか、真っ二つに分かれそうな作品です。 『アーリオ・オーリオ』は、清掃工場で働く40男の話。ある日、中学生の姪をプラネタリウムに連れて行ったことがきっかけで、2人の文通が始まりますが・・・ ちょっとせつない終わり方にじんと来ました。

    7
    投稿日: 2014.10.18
  • 夜市

    夜市

    恒川光太郎

    角川ホラー文庫

    本当は怖い日本昔話的ファンタジー

    色鮮やかな店が立ち並ぶ縁日を抜けた先にある神社の深淵。仲の良い親友と見つけた秘密の抜け道。子供ってそういう「ちょっと怖くてドキドキする」場所が好きですよね。本作は、そんな日常の風景から妖怪の住む異世界に忍び込み、壮大な冒険譚へと誘ってくれる物語。 ホラーが苦手でも、童話やファンタジーが好きなら気に入るかもしれません。むしろ、賞の名前とレーベルが、逆に読者を遠ざけているかもしれない一冊。 子供の頃の冒険心を思い出して、ちょっと手を伸ばしてみませんか。

    14
    投稿日: 2014.10.10
  • 二流小説家

    二流小説家

    デイヴィッド・ゴードン,青木千鶴

    ハヤカワ・ミステリ文庫

    仕事は選ぼう

    題名通り、二流の小説家が主人公。いつかは自分の書きたいもので稼ぐ生活を夢見つつ、今はエロから吸血鬼ものまで、依頼を受ければ複数のペンネームを使い分けて仕事をこなし、それだけでは生活が立ち行かないので家庭教師のバイトもしています。そんな彼のもとに、ベストセラー作家になるチャンスが訪れます。 発端は一通の手紙。 凶悪な連続殺人を犯した死刑囚が彼の小説を気に入り、すべてを告白するから自分のことを書いてほしいと言ってきたのです。 またとないチャンスとばかりに、刑務所での面会を申し込んだ彼ですが、それは新たな連続殺人事件の始まりでした。 作品の所々に差し挟まれる彼の小説や、死刑囚の依頼に沿って執筆した物語がアクセントとなって、ラストまで一気に読ませます。 前評判がとてもよく映画化もされた本作ですが、過度に期待しすぎると肩透かしを食らうかも? 軽い気持ちで読んだ方が楽しめると思います。

    7
    投稿日: 2014.10.08