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naotanさんのレビュー
いいね!された数713
  • 砂の王国(上)

    砂の王国(上)

    荻原浩

    講談社文庫

    ホームレスが世界を救う?!

    証券マンからホームレスに転落した主人公が、所持金3円からのし上がり、人生の再起に賭ける物語。ホームレスの身分に甘んじて細々と暮らすわけでも、地道に社会復帰を目指すわけでもなく、ただ一発逆転を狙うのみという意気込みは、ギャンブル好きな人なら共感できるのでしょうか。 商才を発揮してトントンと駆け上るサクセスストーリーを面白く読みつつも、タイトルが暗示する未来は決して明るいものではなく。 果たして主人公は救われるのか? 結末まで一気に読ませます。

    1
    投稿日: 2014.08.12
  • 人形館の殺人〈新装改訂版〉

    人形館の殺人〈新装改訂版〉

    綾辻行人

    講談社文庫

    最後に明かされる違和感の正体にすっきり

    長いこと音信の途絶えていた父が自殺し、遺産である京都の屋敷に住むために、静岡から引っ越してきた想一は、そこで3人の住人と奇妙なマネキン人形に出会います。 遺言により動かすことを禁じられた人形、近所を騒がせている幼児の連続殺人事件、そして何者かが想一に送りつけてきた脅迫文――。無関係に思える事象にじわじわと追い詰められた想一は、大学時代の友人、島田潔に助けを求めますが・・・ 館シリーズの中で少し異色な4作目。好き嫌いがわかれると思いますが、是非ほかのシリーズを読んでからお楽しみください。

    4
    投稿日: 2014.08.11
  • せどり男爵数奇譚

    せどり男爵数奇譚

    梶山季之

    ちくま文庫

    古書に憑りつかれた人々を巡る異色ミステリー

    本書は『ビブリア古書堂の事件手帖』1巻に登場する男爵の元ネタです。「色模様一気通貫」「半狂乱三色同順」などの連作タイトルは、麻雀好きなら興味をそそられるでしょう。 男爵はセドリーカクテルなる飲み物を片手に、身の回りで起きた数奇な出来事を語り始めるのです。 自分がせどりになったいきさつに始まり、流通の見込みのない発禁本や希少価値の高い初版本、世界に一冊しかない装丁の本など、それぞれの本についての魅力についてはもちろん、その本のために運命を狂わせていく数々の古書マニアたちが登場します。 最終話はかなりグロテスクな装丁家の話です。 読み終わった後は、ただの読書好きでよかったと思えるかもしれない?一冊。

    2
    投稿日: 2014.08.06
  • わたしを離さないで Never Let Me Go

    わたしを離さないで Never Let Me Go

    カズオ・イシグロ,土屋政雄

    ハヤカワepi文庫

    予備知識なしで読むことをおススメします

    この物語は「提供者」の介護をしているキャシーの回想からスタートします。 「提供者」とは何の「提供者」なのか? 主人公が出身のへールシャムとはどんな場所なのか? 出だしからわからない言葉に翻弄されますが、少しずつ謎が解き明かされて、終盤には驚愕の事実が判明します。 もしかしたら、なんとなく予想できてしまう内容かもしれません。 それでも、癌患者の「疑い」と、医師から宣告される「事実」との間に大きな隔たりがあるように、キャシーもまた大きなショックを受けます。 決して暗く陰鬱な話が続くわけではなく、物語の大半は眩いばかりの青春の輝きを放っています。 だからこそ、後から覆しようのない運命が重くのしかかってくるわけですが・・・ 電子書籍にはめずらしい解説付きです。読み終わってもなお残る謎に思いを巡らせてみてください。

    9
    投稿日: 2014.08.04
  • さようなら、オレンジ

    さようなら、オレンジ

    岩城けい

    筑摩書房

    遠く離れた異国のサリマを身近に感じる

    この物語には2人の女性が登場します。 故国の紛争から逃れてオーストラリアに流れ着いたサリマ。 同じく夫の仕事のために夢をあきらめて渡豪してきたサユリ。 生まれも育ちも、背景にある文化も全く異なる2人の人生が、英語教室での出会いをきっかけに交差します。 全く馴染みのない世界に最初は戸惑い、読みづらさを感じましたが、逃げ場のない生活の中で力強くひたむきに生きる彼女たちに、次第に感情移入していきました。 特にサリマの息子が母親に対する態度を変えていく場面には、胸に迫るものがありました。 最初は遠かったサリマの存在が、読後は身近に感じられるはず。

    4
    投稿日: 2014.08.02
  • 竜が最後に帰る場所

    竜が最後に帰る場所

    恒川光太郎

    講談社文庫

    少しずつタガが外れてゆく快感

    どこにでもありそうな普通の話。そんな日常から始まり、気が付くと異質な世界の入り口に立たされていて、遂には後戻りできなくなる。そんな不思議な力を持った5つの短編集。 どの話もそれぞれに魅力的だけど、特に印象に残ったのは「夜行の冬」と「鸚鵡幻想曲」。 「夜行の冬」は、最初「銀河鉄道の夜」みたいなお話?と思ったけれど、最後は「蜘蛛の糸」のような恐さにゾクっとさせられます。 「鸚鵡幻想曲」は、よくもまあそんな設定を思いつくなあと感心しながらも、決して独りよがりでない世界観に引き込まれました。 ラストは壮大な生命の物語、「ゴロンド」で幕を閉じます。 久しぶりに心地よい読後感に浸れた一冊でした。

    12
    投稿日: 2014.07.29
  • ガダラの豚 I

    ガダラの豚 I

    中島らも

    集英社文庫

    ハマったら止まらない面白さ

    PRS-T2にプリインストールされていた『読んでほしいこの本、50冊』からセット買いしました。 異様な雰囲気を漂わせた冒頭に読むのをためらってしまいますが、そこを我慢して読み進めるとそこはもうエンターテインメントの世界。アル中の教授が新興宗教にハマった妻を救い出す1巻目から面白いのですが、2巻で繰り広げられるアフリカツアーで未知の世界にぐいぐいと引き込まれ、暴走気味に加速する最終巻まで一気に読ませます。 もっともっと著者の本が読みたい!と思わせる一大巨編。

    6
    投稿日: 2014.07.26
  • 迷路館の殺人〈新装改訂版〉

    迷路館の殺人〈新装改訂版〉

    綾辻行人

    講談社文庫

    作中作中作の迷宮へようこそ

    推理作家の大家、宮垣葉太郎の還暦祝いに招かれた4人の作家と編集者たち。彼らが迷路館を訪れると、待ち受けていたのは宮垣の死を告げる秘書の井野と遺書代わりの録音テープでした。 迷路館を舞台にした小説を書き、最も優れた者に遺産が与えられるという内容に、戸惑いを覚えつつも執筆を始める作家たちですが、各々の作品が完成する前に殺人事件が起きて・・・ 作中作中作という入り組んだ構成はまさに迷路のようで、解決したかと思われた事件の後に、更なるどんでん返しが待ち受けます。 新人作家、鹿谷門実のデビュー作も読める館シリーズの3作目。細かなネタと伏線がちりばめられた、読み応えたっぷりの一冊です。

    7
    投稿日: 2014.07.21
  • 月と蟹

    月と蟹

    道尾秀介

    文春文庫

    苦い思い出を飲み込んで通り過ぎる夏

    海辺の町に転校してきた少年、慎一と、同時期に転校してきた春也。新しい学校に馴染めず、浮いた存在の2人は次第に打ち解け、秘密の基地で危険な遊びを繰り返すようになります。そこに3人目のクラスメイト、鳴海が加わって・・・ 残酷ならがもワクワクドキドキした前半から、少しずつ歯車が狂い始めて、どうしようもなくなる後半へ。幸せだと思っていた日々が過去のものとなり、読んでいて辛かったけど、しっかりと現実を受け止めて前を向く彼らを応援したくなりました。

    3
    投稿日: 2014.07.18
  • 猫を抱いて象と泳ぐ

    猫を抱いて象と泳ぐ

    小川洋子

    文春文庫

    少年の魂は棋譜の上で輝く

    身体的なハンデを負って生まれた少年の夢は、デパートでお子様ランチを食べること。 決して裕福ではなく、学校でいじめにあいながらも、自分を不幸だとは思っていない彼のもとに契機は訪れます。それは、バスを改造した家に住むマスターとチェスとの出会い。彼はマスターからチェスを教わりながら、世界や、人生や、生き方を決定づける数々のことを学ぶのです。 どんな境遇でも、チェスがある限り、少年は自由で、力強く生きていける。 そんな彼の生き方に勇気をもらえる一冊。 個人的に小川洋子のマイベストです。

    7
    投稿日: 2014.07.18
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