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ryunicoさんのレビュー
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  • ワセダ三畳青春記

    ワセダ三畳青春記

    高野秀行

    集英社文庫

    家賃12,000円の部屋で過ごす青春

    三畳一間、家賃月1万2千円。そんなワセダの物件「野々村荘」。 そこで過ごした大学時代やその後のモラトリアム延長期にあった出来事を綴ったエッセイです。 ……説明としてはこれだけなんだけど、読むと「そういう話じゃないだろうが!」と言いたくなる。 面白い。まさしく抱腹絶倒な一冊。でもバカな内容じゃない。やってることは確実にバカだけど。 一つ言えるのは、この本は「貧乏」をネタにしている内容ではないこと。 物欲など皆無な筆者にとって、いわゆる「貧乏生活」というものは、はなから視野の外の様子。 むしろ「金がなくても、興味と熱意があればそれなりに実行できる」見本みたいな青春記です。 ワセダ探検部所属だけあって、モラトリアム期にやってることはかなり突き抜けてます。 それをからっと笑えるエッセイに仕上げる文章力もさすが。かなり読みやすいです。 夕暮れ時の西の空を眺めるような、ひっそりとした哀愁も漂うものの、最後には元気になれる本。 気分が疲れていたり日常に詰まっている人には、ことさら有効な一冊だと思います。

    1
    投稿日: 2014.04.19
  • バチカン奇跡調査官 黒の学院

    バチカン奇跡調査官 黒の学院

    藤木稟

    角川ホラー文庫

    カトリック総本山を舞台にしたミステリー

    世界中から寄せられる奇跡の報告について調査する調査官(神父)二人組が主人公の、ホラーミステリーです。 結構な量のある物語ですが、案外とっつきやすくさらさら読めました。 で、感想はというと。 ・角川ホラー文庫から出ているし、きっとカソリック世界を舞台にしたオカルトだろう。  ↓ ・あれ、連続殺人発生?……しかも見立て殺人とか、これホラーじゃなくてミステリー小説だったか。  ↓ ・「わかりました。これは奇跡でもなんでもありません。ここの背後にいるのは○○○です!」  「ナ、ナンダッテー」 と、目まぐるしくベクトルの変化するタイトルでした……。 その急スピン振りに終盤の読書テンションも上がりましたが。 惜しむらくは、もう少し流れが整理できたのでは……と思われるエピソードがあったこと。 とにもかくにも、キャラクターが立ったシリーズですので、読み始めるなら人物紹介にもなっているこの1巻からどうぞ。

    1
    投稿日: 2014.04.19
  • 明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者 1

    明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者 1

    杉山小弥花

    プリンセス

    骨太なラブコメ

    失礼ながら、このタイトルから「何か事件が持ち上がるたび、元忍がちゃちゃっと解決して主人公とラブが深まる展開なんだろうな」と舐めてかかっていました。 申し訳ありませんでした、全然違いました。 むしろ逆で、とても骨太な時代もの(+若干ラブコメ)でした。 「明治維新」という世の中の価値観が大激変した時代を舞台に、 御一新の世風に乗って最先端を行き過ぎる商家の娘・菊乃と、御一新によって身分保障をすべて失った元直参の武士という真逆の立場の二人が、不安定な世相から発生する事件に巻き込まれる展開は、読み応えがあります。 (むしろネームがかなり多く、一冊読むのにけっこう時間がかかります。) 明治維新前後の歴史に詳しい方なら更に楽しく読めるかもしれません。 (一般常識レベルの知識しかない自分にはついていくので一杯一杯なところもあり。) 別ベクトルの感想として。 この主役二人を見て、何か思い出すな~と思ったら、『CITY HUNTER』の主役二人でした。 その道で超一流の男(でもヒロインには甘い)と、そんな男の心にまっすぐに切り込む堅気の女……ってカップリングは案外王道中の王道かもしれません。

    1
    投稿日: 2014.04.13
  • デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト(1)

    デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト(1)

    綾村切人,金子一馬(ATLUS),山井一千(ATLUS),真壁太陽・原田庵十(RA―SEN)

    ファミ通コミッククリア

    RPG『デビルサマナー葛葉ライドウ』シリーズのコミカライズ、合言葉は『情熱』!

    ATLUSブランドからリリースされているRPGゲーム『葛葉ライドウ』シリーズのコミカライズです。 私はゲーム2本ともプレイ済なので、レビューもそれに準じる内容となります。ご了承ください。 架空の大正時代を舞台に、学生に身をやつし陰から帝都を守るデビルサマナー・葛葉ライドウが、帝都に迫る陰謀に立ち向かう物語です。 ゲームのディレクター陣が監修についているだけあり、原作世界観に忠実に寄り添いながらも、スピンオフとして十分以上に面白い作品となっています。 原作ファンはまず納得の出来と言えますし(なにしろファンサービス精神がすごい)、 原作ゲームを知らないとやや敷居が高いかもしれませんが、古今東西の神話やB級オカルトが好きな人なら楽しめるかと。 <神>とも称される超越した存在たちと対峙する、青年の熱い闘いを綴ったシリーズ。 一人でもファンが増える切っ掛けになればと願わずにいられないコミカライズタイトルです。

    2
    投稿日: 2014.04.13
  • 大誘拐

    大誘拐

    天藤真

    創元推理文庫

    名作中の名作

    岡本喜八監督の映画『大誘拐』から原作小説に入ったクチです。 チンピラ三人組の営利目的誘拐から始まった小さな(?)事件が、やがて日本中どころか世界でも注目される大誘拐劇へと展開します。 さながら、小さな雪玉が坂を転がるごとく。 誘拐犯+人質のおばあちゃん VS 警察 という構図。 身代金は前代未聞の100億円。 コメディのようなミステリーながら、その底に流れる思考はけっこうシリアス。 最後はほっこり安心の解決ですし、お勧めです。

    3
    投稿日: 2014.04.12
  • 短歌があるじゃないか。 一億人の短歌入門

    短歌があるじゃないか。 一億人の短歌入門

    穂村弘,東直子,沢田康彦

    角川ソフィア文庫

    気軽な現代短歌の紹介本

    お題別に、『猫又』というファックス&メール短歌会に寄せられた同人の短歌を、歌人・穂村弘&東直子が選び、講評するスタイルです。 短歌の門外漢である自分が、果たしてこの本を読んで短歌がわかるようになったかというと、それは微妙。 ただ、歌人だからといって、すべての歌をきちんと解釈できるわけではないんだ、ということがよくわかりました。 (同じ歌でも、穂村氏と東氏で評価が割れたり、解釈がまったく違ってお互い「え、あれ?」となっていることがままある。) そうした効果か、一冊読み終わる頃には「自分にも短歌が詠めるんじゃないか」という気になっている。 そういう意味では、確かに「短歌入門書」だったと思います。 で、実際に五七五七七が読めるかというと、それはまた別問題なんですけどね。 (いざ読もうとして手が止まったクチ。) これはあくまで現代短歌の本なので、短歌の歴史や他の歌人の短歌を知るには別の本も必要です。 ただ「短歌って案外身近にあるのかも」と思わせることには成功しているので、きっかけが欲しい方には良書かもしれません。

    0
    投稿日: 2014.04.12
  • LUNAR ヴェーン飛空船物語

    LUNAR ヴェーン飛空船物語

    船戸明里

    バーズコミックス デラックス

    船戸版『LUNAR』スピンオフ ガレオンの物語

    RPG『LUNAR』は未プレイで読みました。 ゲームの登場人物の1人「ガレオン」に焦点を当てた物語が3編収録されています。 特に三話目の中編が群を抜いて秀逸。 少年ガレオンを中心に、ヴェーンという魔法都市、そこに暮らす人間と魔族の協調と確執、そして亡き兄が遺した飛空船建造計画が描かれます。 あえてトーンを使わずモノクロで描かれた冬の風景と、亡兄との仲違いという解消されない少年のジレンマが見事にシンクロした一作です。 ゲーム内容を知らなくても、かなりオリジナル寄りで描かれた物語なので、問題なく読了できると思います。

    3
    投稿日: 2014.04.12
  • 狐罠

    狐罠

    北森鴻

    講談社文庫

    古美術の難しさを活かしたミステリー

    舞台は素人には謎が多く、また真贋の区別のつきにくい古美術界です。 その同業者間のやり取りなど、異業種界を覗く面白さは確かなもの。 その為、普通に殺人事件が起きて主人公が巻き込まれる展開は、個人的にトーンダウンの要因にしかなりませんでした。 なんというか、この殺人事件のために話が一気に二時間サスペンスのような雰囲気に。 主人公の仕掛ける罠とは、「目には目を、歯には歯を」のまんま、贋作を用意してそれを自分を騙した同業者へ売りつけようというものです。 この贋作作りのシーンや、相手が贋作をはたして真作として買い取るか、など、古美術メインのドラマとなりえる部分は盛り沢山なんだから、コンゲームをメインにしてはいけなかったのか……? 話の構成に無理があるわけではないけれど、ありふれたサスペンスみたいな殺人事件と古美術コンゲームがお互いの魅力を殺いでしまったように感じました。

    1
    投稿日: 2014.04.12
  • アルスラーン戦記(1)

    アルスラーン戦記(1)

    荒川弘,田中芳樹

    別冊少年マガジン

    荒川版「アルスラーン戦記」開幕

    第一話が荒川さんのオリジナル前日譚である等、コミカライズにあたって原作を更に磨き上げる工夫があって導入からすでに面白い。 映画版のキャラクターデザインが記憶にあるので、最初こそキャラの識別に戸惑ったものの、これは読み進めるうちに馴染めるはず。 1巻は主要人物がほとんど出そろってない序章なので、2巻以降も各キャラクターがどう描かれるか楽しみ。 これを切っ掛けに原作小説も電子書籍でリリースされるととても嬉しいのですが……。

    17
    投稿日: 2014.04.09
  • 火怨 上 北の燿星アテルイ

    火怨 上 北の燿星アテルイ

    高橋克彦

    講談社文庫

    蝦夷討伐の物語

    本作はアテルイがまだ少年と言えるところから始まり、各集落ごとに朝廷軍と戦っていたのを、物部氏の金銭的援助を得て蝦夷軍団を育成し、朝廷の大軍を相手に戦い抜く筋書きとなっいてます。 もちろん史実が前提なので、最後には坂上田村麻呂に降伏し、処刑されますが。 アテルイに関する史記は殆どなく、『続日本記』などごく少数に記録が残るだけで、しかもそれは朝廷側から描かれた記述です。 それをエンターテイメントとして蝦夷側から描いた点は非常に面白かったです。 仕掛ける策が悉くヒットして連戦連勝が続くあたりは、ちょっと上手くことが運びすぎな気もしますが、その勢いでぐいぐいと読ませます。 みずほ総研の情報誌『Fole』における高橋氏の対談記事によると。 史記には記録皆無のアテルイ軍ですが、郷土資料を探すと色々逸話が見つかるそうです。 町おこし的な意味もこめて各市町村がそれぞれの史料の編纂を試みたところ、文字では残っていない史実も口伝では色々伝わっていた為、まとめることが可能だったとか。 これを地域毎に照らし合わせると、見事に合戦の戦場がどのように動いたか戦線記録が浮びあがったようです。 なので、本作で展開する戦のある程度は史実なんだろうなぁ……と思い、読み進めました。

    3
    投稿日: 2014.04.07