ryunicoさんのレビュー
参考にされた数
255
このユーザーのレビュー
-
始祖鳥記
飯嶋和一 / 小学館文庫
熱い男たちの闘い
7
天災続きで民が疲弊した江戸時代天明期。
岡山の表具師・幸吉は、ずっと空を飛ぶことを夢見てきた。
そして凧の原理を応用した翼を作り滑空に挑戦したところ、本人のあずかり知らぬところで鵺騒動が沸き起こってし…まう。
お上の悪政に押しつぶされつつあった平民たちが、幸吉の空飛ぶ翼に「立ち上がる勇気」を見たからだ。
幸吉の翼に勇気付けられ、人々は公儀の悪政に敢然と立ち向かう――といった話です。
結構な分量のある本作品ですが、実は幸吉を描いているのは半分くらいです。
幸吉自身は枠にはまった生き方に馴染めず、心の奥底にある「飛ぶ」欲求一直線に生きます。
ただ、本人は飛ぶことに必死なだけで、お上にたて突こうなどとは毛の筋ほども考えていません。
むしろ周囲が勝手に幸吉の行動に理由を付けてしまいます。
そうした「理由付け」に魂を揺さぶられて、自らお上の隙を突く形で悪政に反旗を翻す人々を、残り半分で描いている物語です。
ざっくり纏めてしまうと
「迷わず行けよ 行けばわかるさ」が八割
「プロジェクトX」が二割
…といった読後感。
個人的には、幸吉の生き様よりも、第二部で語られた巴屋伊兵衛たちの活躍の方が面白かった。
目先の利に捕らわれない、長期スパンで物を見る、熱い男たちの生き様…みたいな展開が心地よかったです。 続きを読む投稿日:2014.04.05
-
天空の玉座 1
青木朋 / ミステリーボニータ
可愛らしい姫君の冒険譚だけど、下地は骨太な中国史
6
青木さんの主人公が女の子って珍しい……と手に取った新シリーズ。
市井で育った珊瑚は、実は反逆罪で五親等まですべて処刑された姫家の姫君だった。
宦官となることで首の繋がった珊瑚の兄は、今では姫家を滅亡…させた皇太后の側近となっていた。
何も知らない珊瑚は兄に引き取られ、後宮へ入る事になるが―――といった出だしです。
舞台の中国王朝は架空の設定のため、皇太后のモデルは清朝の西太后だったり、ぼんくら皇帝は前漢の宣帝がモデルだったり、中国史のいろんな要素をうまく絡めて物語が進んでいきます。
主人公の少女・珊瑚が天真爛漫で行動力のある可愛い女の子なので、なんだか和やかに眺めてしまいますが、物語の下地となっている政争は全く容赦ない展開です。
(作中や2巻あとがきで、宦官の作り方まで語られるとは思わなかったです。確かに勉強になりましたけど。)
変なタメがなく、さくさくと物語が進むのは、さすがベテランのストーリーテリング。 続きを読む投稿日:2014.07.11
-
蜜の島(1)
小池ノクト / モーニング・ツー
民俗学+孤島クローズドサークル……といった感触
6
太平洋戦争終戦直後を舞台とした、クローズドサークルものミステリーです。
地図にもない孤島・石津島を舞台に、復員兵・南雲と内務省の役人・瀬里沢が事件に巻き込まれていく展開です。
定期便もない(=外部との…定期的連絡手段なし)で事件が起こるあたりは典型的クローズドサークルミステリーですが、この物語の真の求心力はむしろ「石津島の常識≠本土の常識」な点。
一見にこやかで人懐っこい島民たちが、実は日本語は通じながらも意思疎通の難しい相手だと気づいた時の絶望感が半端ないです。
横溝ミステリー好きなどにもお勧めできるタイトルでは。 続きを読む投稿日:2014.03.25
-
豚飼い王子と100回のキス
海野つなみ / Kiss
海野版童話はハッピーエンド
5
原作のアンデルセン童話は未読のまま手を出しましたが、きれいに最後が収まって読後感のいい一編でした。
あとがきで「ポルノ」と書かれていましたが、ポルノという言葉からイメージされる雰囲気は感じませんでした…。
むしろ硬質で乾いた絵柄の作家さんのため、ベッドシーンもさっぱりしたものです(むしろキスシーンの方が色気があります)。
S気質で行動力ある王子と世間知らずのツンデレ王女のラブストーリーが、海野さんの静謐かつスマートなストーリーテリングで上質な童話に昇華した一作です。 続きを読む投稿日:2014.04.27
-
ラギッド・ガール 廃園の天使II
飛浩隆 / ハヤカワ文庫JA
〈数値海岸〉を外側から覗き込む中短編集
5
前作『グラン・ヴァカンス』は〈数値海岸〉という仮想リゾートの一区画〈夏の区界〉の崩壊を描きましたが、今作『ラギッド・ガール』ではその外側を描き、『グラン・ヴァカンス』を補完する構成になっています。
…〈夏の区界〉のジュリーとジョゼの交流を描いた『夏の硝視体』が全体のイントロ。
続いて、〈数値海岸〉開発秘話である『ラギッド・ガール』。
仮想リゾートのAIへ仕込まれた“潜在的恐怖”について触れる『クローゼット』。
〈数値海岸〉に訪問者がなくなった〈大途絶〉――その理由と、〈大途絶〉が発生した瞬間の区界を描いた『魔術師』。
最後に、〈夏の区界〉を襲ったランゴーニの少年時代の物語『蜘蛛の王』。
仮想世界に始まり、その外側の物理世界の動きを時系列で走り、最後にまた仮想世界に戻る章立ても、純粋に面白かった。
時には『グラン・ヴァカンス』を上回る残酷さなのに、区界はおしなべて皆美しいし、物理世界は適度にサイバーパンクだし、SF小説を満喫しました。
まさに情報的似姿がそれぞれの仮想世界で蓄積した情報をロードさせたような読後感でした。 続きを読む投稿日:2014.04.05
-
ゴーストハント(1)
小野不由美, いなだ詩穂 / なかよし
黄金コンビ、さすがのホラー
5
原作は小野不由美さんの『悪霊シリーズ』です。
スーパー・パーフェクトなナル(渋谷少年の愛称)と麻衣を中心に、高野山の元坊主や自称・巫女さん、神父や霊媒師の少女など、個性溢れるメンバーで数々の心霊現象に…挑む連作集です。
最初は絵がこなれていなかったり、主要メンバーの顔見せのニュアンスがあったりで、正直それほど人気のワケが理解できなかったんですが、2巻(『人形の家』)以降から俄然面白くなりました。
第1話のニュアンスでは、ホラーと科学の螺旋構造なのかな~と思ったんです(科学で説明できるとこ
ろはきっぱりケリをつけるが、心霊現象の不思議も残る……というスタイル)。
ですが予想は裏切られ、第2話以降は完全にホラーになりました。
特に『血ぬられた迷宮』(6巻~)あたりは最高潮にホラーではないでしょうか。
「ゴーストハント」シリーズのホラーの特徴として
・ 箱物の中で事件発生
・ この箱物の中にいる人が一人、二人……と消失する
・ その空間には下手をすると生存者の数よりも多数の霊が存在する
・ 箱物の中だから、逃げられる場所が限られている
などが挙げられます。
読者の恐怖心を煽るポイントが結構明確です。
全巻通して読むことにより、シリーズの根底に流れる大きな謎が解明される展開も見事。
表紙絵から単なる少女漫画だと敬遠されているとしたら、とてももったいない力作シリーズなので、ホラー好きな方へ大いにお勧めします。 続きを読む投稿日:2014.04.06