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ryunicoさんのレビュー
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  • とりかえ・ばや(1)

    とりかえ・ばや(1)

    さいとうちほ

    月刊flowers

    さいとう版「とりかへばや」

    平安時代に書かれた作者不詳の物語「とりかへばや」。 それをさいとうちほさんがコミカライズしています。 同い年の異母姉弟が、それぞれの性別を取り換えて成人の儀を迎えたことから、様々なトラブルを引き起こす物語です。 平安ものは初めてとご本人もおっしゃってますが、ベテランゆえ画面運びはこなれたもの。 ストーリーもテンポよく進むので、次から次へと起こる問題に「それでどうなる!?」と読者もやきもきさせられます。 随分前に氷室冴子&山内直美の『ざ・ちぇんじ』を読了していますが、屋台骨が同じなだけで、物語の味付けは大分違う仕上がりとなっています。 構成や登場人物も整理されていますから、平安時代の風潮に詳しくなくても楽しめるコミカライズだと思います。

    2
    投稿日: 2014.05.04
  • バベルハイムの商人 3巻

    バベルハイムの商人 3巻

    古海鐘一

    月刊コミックブレイド

    さらに深化するバベルハイム世界

    1巻が世界観の説明、2巻が主人公とライバルの描写だとしたら、この3巻はバベルハイム世界の拡張……でしょうか。 メフィストとの戦いが続くかと思いきや、また悪魔商品を中心としたオムニバス展開スタイルに戻りました。 この巻で一番驚いたのは、アシスタント・黒田の正体が説明されたこと。 もう少し謎を引っ張るかと思いきや、すっきりさっくり解明されました。 個人的に一番気に入ったタイトルは『円環のシュヴァリエ』。 ストーリーとネーム展開がかなり練られていて、タイトルに収束するつくりなのがよかったです。 (ちなみに、あとがきも相変わらずの安定展開。)

    0
    投稿日: 2014.05.02
  • DRAMAtical Murder 1

    DRAMAtical Murder 1

    浅田寅ヲ,Nitro+CHiRAL

    B's-LOG COMICS

    浅田ファンとしても微妙なタイトル

    これは同タイトルPCゲームのコミカライズになります。 ゲーム未プレイのまま読みましたが、良くも悪くも浅田寅ヲの独断場といった感触です。 1巻は世界観の説明が大半を占めますけれど、浅田節全開のネームですから、物語のイントロとして把握することが多いわりに内容が頭に入ってきません。 他のコミカライズ(森博嗣作品や『解体屋外伝』など)はスマートだったのに、これに限ってガチャガチャした印象なのは、首をかしげるばかりです。 ページ見開きで更に変形コマを多用するタイプの作家さんなので、電子書籍での画面表示でどこまで読書に耐えられるか……という不安要素もあり。 浅田寅ヲ氏の作品を読むの初めてという方は、別タイトルから入るのをお勧めします。 (逆に浅田作品に慣れてる方なら問題なく読めるかと。絵がやたらキラキラしてますけど。)

    0
    投稿日: 2014.04.30
  • 子爵ヴァルモン(1)

    子爵ヴァルモン(1)

    さいとうちほ

    月刊flowers

    『危険な関係』のベストコミカライズ

    あらすじを読んで「『危険な関係』っぽい話だな」と思ったら、そのものずばり、ラクロ原作『危険な関係』のコミカライズでした。 パリ社交界を舞台に、かつて恋人関係にあったヴァルモン子爵とメルトイユ夫人が、互いの利害が一致して純真な少女・セシルを恋愛遊戯に引きずり込むイントロです。 あの退廃的でドロドロとした愛憎劇と、さいとうちほさんの作風がベストマッチした一作。 つまらぬメンツの為に真実の愛を失う男と、策略の果てに愛を失う女を中心に、主要キャラクターが軒並み「平凡な幸せ」を失っていく展開はヘビーです。 でも、18世紀に書かれた物語が繰り返しメディア化していることからもわかるように、時代を超えて読者をひきつける魅力があるのも事実。 全2巻で完結しますから、『危険な関係』がどんな物語なのか知りたい……という方も手に取りやすいのでは。

    1
    投稿日: 2014.04.28
  • Final Phase

    Final Phase

    朱戸アオ

    PHP研究所

    理性的なパンデミックもの

    湾岸埋立地域で発生した感染症をめぐり、医療関係者や隔離地域の住民が力を合わせ、解決を目指す物語。 綿密な取材や物語構成力が目立つ秀作だと思います。 治療法がない感染症(致死あり)なので、隔離地域でもっとパニックが起きても不思議でない状況ですが、物語は状況に対して冷静に進むのが特徴的。 「災害ユートピア」という概念にも考えさせられるものあり。 正直、『ネメシスの杖』ともども、ドラマなど別メディアの原作になっても何ら不思議でない物語ですが、 惜しむらくは画力でしょうか……。これで絵力があったら評価が更に飛躍すると思う作家さんです。

    0
    投稿日: 2014.04.28
  • 豚飼い王子と100回のキス

    豚飼い王子と100回のキス

    海野つなみ

    Kiss

    海野版童話はハッピーエンド

    原作のアンデルセン童話は未読のまま手を出しましたが、きれいに最後が収まって読後感のいい一編でした。 あとがきで「ポルノ」と書かれていましたが、ポルノという言葉からイメージされる雰囲気は感じませんでした。 むしろ硬質で乾いた絵柄の作家さんのため、ベッドシーンもさっぱりしたものです(むしろキスシーンの方が色気があります)。 S気質で行動力ある王子と世間知らずのツンデレ王女のラブストーリーが、海野さんの静謐かつスマートなストーリーテリングで上質な童話に昇華した一作です。

    5
    投稿日: 2014.04.27
  • 五色の舟

    五色の舟

    近藤ようこ,津原泰水

    月刊コミックビーム

    津原泰水と近藤ようこの錬金術的作品

    津原泰水氏原作の同名短編小説を、近藤ようこ氏がコミカライズした一作。 太平洋戦争中の広島を舞台に、障害を抱えるものたちが疑似家族として見世物小屋を営み、やがて未来を言い当てる生き物「くだん」と対話することによって一つの結論を得る物語です。 原作未読のままコミカライズを読みましたが、津原作品の幻想的な雰囲気が非常に端的に写し取られていて驚きました。 それだけでなく、近藤氏の透明感ある作画が読みやすいだけでなく求心力もあり、美しい最後には思わず泣いてしまいました。 タブー視される可能性があるモチーフですが、それでもこの物語を書いた津原氏と、それを更に漫画へ転換させた近藤氏に拍手を送りたいです。 (ちなみに、原作小説は『11eleven』に収録されています。)

    1
    投稿日: 2014.04.23
  • 2DK 1

    2DK 1

    スエカネクミコ

    ジャンプ改

    全力疾走のバカエロコメディ

    浪人生あっちゃんが童貞をこじらせて妄想を爆発させるバカエロコメディです。 叔父・マキオはあっちゃんの生活をフォローしてくれてるだけなのに、AV男優という職業のためあっちゃんが過剰に迷走し、あげく成績まで落ちる有様。 最初はBLを匂わせるような話もありますが、後半はただのバカエロにシフトします。 ページめくる毎に笑いが波状で襲ってきますので、何も考えずに笑えるコメディ作品を楽しみたい時に手に取るといいかも。

    0
    投稿日: 2014.04.20
  • 外天楼

    外天楼

    石黒正数

    文芸第三

    まるでパズルのように組み上げられた物語

    外天楼と呼ばれる建物を舞台に繰り広げられる、オムニバスミステリーです。 エロ本探索に燃える少年たち、ロボットを巡る法律、そして殺人事件。 それらの物語がやがて一つに収斂していきます。 読後感はあまりよろしくないものの、物語の構成そのものでカタルシスを得た……そんなタイトルでした。 少年たちのエロ本への情熱が暑苦しいスタートから、「思えば遠くへきたもんだ」というオチのつき方。 でも過不足ない伏線の張られ方で、「ああ、そういう物語だったんだ」とすこんと納得できます。 それにしても、小説とは違う、漫画ならではの伏線の張り方は勉強になった。 ネタはSFですが、ミステリー好きにお勧めする一冊です。

    1
    投稿日: 2014.04.19
  • ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~

    ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~

    三上延

    メディアワークス文庫

    古書店を舞台にしたミステリ

    全部で4話の短編が収められていますけれど、基底に一本大きな流れがあり、最終話で一段落つく……という長編と短編の両要素を備えた構成になっています。 第一話で古書の鑑定依頼をした客・五浦大輔がそのまま狂言回しとなり、栞子の安楽椅子探偵をサポートする流れになります。 各章ごとにテーマになる古書があり、栞子によってその作品について解説されるものの、該当本のネタバレはしないよう配慮されている点は好感度大。 もちろん、その作品を知っている読者は二度美味しいことになるので、「古書を巡るミステリー」という切り口が最大限に活かされていると思います。 また、せどりなどの古書ならではのモチーフ使いも上手いです。 古書店という舞台効果をいかんなく発揮している反面、事件の真相の一つ一つが少々後味悪く、通読すると妙な苦みが残ります。 大輔と栞子の恋心未満みたいなハートウォーミングなやり取りもあるのに、読み終わった後「ほのぼの、すっきり」といった気分になれない……。 「町の片隅で起こる日常の不思議を解き明かす」系ミステリーかと思っていたので、悪い意味で予想外なストーリーでした。

    5
    投稿日: 2014.04.19