
アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う
ゲイル・キャリガー,川野靖子
早川書房
スチームパンクとハーレクインが半々の割合
ヴィクトリア朝イギリスを舞台にスチームパンク要素を取り入れたヴァンパイア物だと思って手を出したら、スチームパンク成分が期待を下回った一方、どこにもなかった前情報「ハーレクインロマンス」テイストが溢れかえっており、読みながらも「ええええ?」となることしばしば。 なんせページ数的に半ばを過ぎても事件は一向に進展せず、アレクシアとマコン卿の仲ばかりが進展するという……。 読み始める時の心持次第では、面白いと感じたかもしれない。 でもこちらが期待した要素がほとんど入ってない(吸血鬼との戦いやスチームパンク要素)ため、残念ながら読後の満足感は満たされなかった……。
1投稿日: 2014.04.07![マインド・イーター[完全版]](https://ebookstore.sony.jp/photo/BT00001812/BT000018123800100101_LARGE.jpg)
マインド・イーター[完全版]
水見稜,日下三蔵
創元SF文庫
1984年刊行の復活完全版
全部で8編の物語が収められていますが、「人類の敵としてM・Eが存在する」という共通項しかない、各切り口の違う作品が連綿とつづられる一冊でした。 私の気に入ったのは作品は『夢の浅瀬』と『憎悪の谷』。 約30年前の作品とは思えない感触がある一方、登場人物の会話が妙にB級ハリウッド的だったりと 通読すると妙なでこぼこ感が残りました。 あと、読んでいて気持ちが晴れない。 宇宙というこれ以上ない広大な世界を舞台にしているのに、読み進めれば読み進めるほどインナーワールドにはまり込むような閉塞感を覚えました。 もともとSFジャンルが好き、という人なら読了できると思います。 文体にもほとんど癖がなくて読みやすいので。 ただ、普段SFを読まない人には、若干ハードルが高いかも。
1投稿日: 2014.04.07
はたらけ、ケンタウロス!
えすとえむ
クロフネコミックス
表紙の第一印象から、そう外れない読後感
健太郎(表紙のサラリーマンケンタウロス)が主人公の営業マン物語が前半。 後半はそれ以外の職種(そば職人見習いとか靴職人など)のオムニバスになります。 読む前は、表紙のインパクトは強いけど、読み始めたら違和感なくなるようなストーリー展開かなぁ……なんて思っていましたが、むしろ逆でした。 読めば読むほどシュールさが際立つというか。 個人的には外国舞台の話(靴職人とモデル)が好きでした。 ギャグは控えめな一方、ケンタウロスという生き物の特性を上手に活かしたネーム運びで、しみじみとした余韻がよかった。 ふと、これはケンタウロスという架空の生き物に例えたマイノリティ目線のメッセージなのかな……と思うような部分もあり。 でも多分、そんな小難しいことを考えるんではなく、不条理系ギャグを楽しみつつほっこりするタイトルなんでしょう。
3投稿日: 2014.04.07
龍陽君始末記 1
青木朋
ミステリーボニータ
中華版「大岡越前」+「暴れん坊将軍」
お白洲での裁きから、事件の背後を探る捜査パートなどもあるため、中華版「大岡越前」+「暴れん坊将軍」みたいな感じかでしょうか。 天麟自身、お役人とは思えぬ奔放さに加え、惚れっぽい男色家(イケメンマッチョがストライクゾーン)。 脇を固める部下たちも、それぞれキャラが立っています。 こうしたキャラクターたちが、清時代の市井を舞台にあれこれ暴れまわる短編推理ものです。 清時代の有名な風物(纏足とか阿片など)を扱うので、物語もとっつきやすい一方、 背景や事物の描き込みが丁寧&緻密で、読んでいてトリビアな一面もあり。 3冊できちっとカタのつく物語構成もいいです。
0投稿日: 2014.04.07
魔法使いの娘(1)
那州雪絵
ウィングス
魔法使いの娘の成長物語
ここでいう「魔法使い」とは陰陽師のこと。 日本一の陰陽師の養女として育てられた高校生・初音が、普通の高校生活の範疇からはみ出た生活を送りつつ、やがて生い立ちの謎に迫っていく――という流れになります。 最初こそ心霊現象を扱ったオムニバス短編展開なんですが、中盤以降一気に1巻から散りばめられている伏線が活きはじめ、物語展開は加速していきます。 那須節全開なため、テーマのわりに怖いだけの物語ではないけれど、物語の骨子はどシリアスでした。 なんと言うか、コメディに散りばめられたネームが実は重い意味を持っており、それが判明するのはやっと終盤になってから……という流れなので、もし1~2巻で読むのを辞めてしまった人がいたら、それはとても勿体ない読み方だと思います。 最後8巻のラストは「え、ここで終わり!?」といったぶつ切りに見えますが、物語は『魔法使いの娘ニ非ズ』へ続きます。 一つ区切りをつけた初音のその後が気になる方は、『魔法使いの娘ニ非ズ』も一緒に読むのをお勧めします。
1投稿日: 2014.04.07
ミュージアム(1)
巴亮介
ヤングマガジン
戦慄のサイコサスペンス
女性の他殺体(「ドッグフードの刑」)から連続して猟奇殺人が発生し、 主人公・沢村は刑事として関わるうち、やがて犯人に追いつめられる立場へと転落していきます。 全3巻で完結しますが、2巻、3巻巻末には別の読み切りが収録されているので、話のボリュームとしては全2.5冊といったところ。 ただ、読み通すと、ちょっとボリューム不足と感じてしまうところアリ。 犯人の蛙男が登場してから終わるまでがあっという間というか、イントロが大いに盛り上がるだけに、収束が尻つぼみのように感じてしまうのが残念。 何故犯人が沢村にあそこまで拘るのかとか、犯人の背景とかもっと掘り下げられるポイントがあったはず。もう少しページを追加して、その辺りを補完してくれたら完璧だったなぁ、と。 映画『セブン』とか『ソウ』が好きな人はツボにはまるタイトルです。
2投稿日: 2014.04.07
探偵・日暮旅人の宝物
山口幸三郎
メディアワークス文庫
『日暮旅人』シリーズ、セカンドシーズン開幕
前シーズンを知らなくても楽しんでもらえるように……という配慮をされているらしいものの、 やっぱり前4巻を読んでないと蚊帳の外な気分になるエピソードもあり。 個人的には不穏なストーリーが好きなので、『花の名前』が好きでした。 (ただ、こういう展開だと一気に旅人がチープな感じになるのは何故なんだろう……。) 思わずほろっときてしまうような物語から入り、不穏な引きで終わるあたりも健在です。 このシリーズに興味ある方は、まず第1巻『探偵・日暮旅人の探し物』からどうぞ。
1投稿日: 2014.04.06
家、家にあらず
松井今朝子
集英社文庫
働く女。女が働くということ
読み始めてから、これは時代小説を借りたミステリーかと思いましたが、最後はやはり時代小説でした。 瑞江が家族という単位から離れ、勤めを通じて社会を知り(まあ特殊な社会ですが)、そこで女のあり方を真正面から考えるという成長物語でもあります。 ただ、舞台が奥御殿なので、登場人物の殆どが女性です。 しかも女の園の戦いですから、そりゃあ凄絶です。 こうしたものに耐性がない人は、読むと「うへぁ」ってなる可能性あり、です。
1投稿日: 2014.04.06
ゴーストハント(1)
小野不由美,いなだ詩穂
なかよし
黄金コンビ、さすがのホラー
原作は小野不由美さんの『悪霊シリーズ』です。 スーパー・パーフェクトなナル(渋谷少年の愛称)と麻衣を中心に、高野山の元坊主や自称・巫女さん、神父や霊媒師の少女など、個性溢れるメンバーで数々の心霊現象に挑む連作集です。 最初は絵がこなれていなかったり、主要メンバーの顔見せのニュアンスがあったりで、正直それほど人気のワケが理解できなかったんですが、2巻(『人形の家』)以降から俄然面白くなりました。 第1話のニュアンスでは、ホラーと科学の螺旋構造なのかな~と思ったんです(科学で説明できるとこ ろはきっぱりケリをつけるが、心霊現象の不思議も残る……というスタイル)。 ですが予想は裏切られ、第2話以降は完全にホラーになりました。 特に『血ぬられた迷宮』(6巻~)あたりは最高潮にホラーではないでしょうか。 「ゴーストハント」シリーズのホラーの特徴として ・ 箱物の中で事件発生 ・ この箱物の中にいる人が一人、二人……と消失する ・ その空間には下手をすると生存者の数よりも多数の霊が存在する ・ 箱物の中だから、逃げられる場所が限られている などが挙げられます。 読者の恐怖心を煽るポイントが結構明確です。 全巻通して読むことにより、シリーズの根底に流れる大きな謎が解明される展開も見事。 表紙絵から単なる少女漫画だと敬遠されているとしたら、とてももったいない力作シリーズなので、ホラー好きな方へ大いにお勧めします。
5投稿日: 2014.04.06
東方死神 メテオ・メトセラ外伝(1)
尾崎かおり
ウィングス
哀しいのに爽やか
『メテオ・メトセラ』で触れられるだけだった、ヒロイン・マチカの祖父ゾルを主人公にした小編でした。 が。 何だろう……こっちの方が下手したら本編より好みかもしれません。 いや、本編があるからこそ引き立つ話だってことは理解しているんですけども。 決してハッピーな話ではなく、むしろ困難を背負ったキャラばかりが登場するのに、読後感がとんでもなく爽やかなのは、作者の物語への愛ゆえでしょう。 絵も万人受けするタイプ&アクションシーン描写も上手い、と何気に万能型の作家さんです。 正直もっとメジャーになって当然だと思う……何故ステルスメジャー的な位置にいるのか謎です。 このタイトルに興味を持たれた方は、まず『メテオ・メトセラ』からどうぞ。
1投稿日: 2014.04.06
