
小さいおうち
中島京子
文春文庫
ふつうのひとの歴史
”私たちと地続きの”戦前・戦中ということばが印象に残った。今よりもっともっと我慢を強いられ不本意のまま生きなければならなかった時代でも気高く明るく生きていた人々がいとおしい。タキちゃんは純朴で時子奥さまもとてもイノセント。分をわきまえてしっかり生きてる人は本当に美しいと思う。
3投稿日: 2015.04.12
りゆうがあります
ヨシタケシンスケ
PHP研究所
ヨシタケ作品に心酔中です
こどものヘリクツです。でもこのヘリクツを考え付く主人公の男の子がすばらしい。想像力のかたまりです。「りんごかもしれない」「ぼくのニセモノをつくるには」で著者の大ファンになりました。本作は豊かな子どもの想像力ももちろんですが、頭ごなしに叱らず、こどもの話を聞いて反応してくれる母親もなかなかです。こういう親子関係・家庭環境が心の豊かな人間を育てるのでしょう。みんなに薦めたい絵本です。
3投稿日: 2015.04.01
七色の毒 刑事犬養隼人
中山七里
角川文庫
七編どれも切ない。
赤い水、黄色いリボン、黒いハトなど、色にまつわる七編の短編。登場人物から事件の犯人はなんとなく透けて見えるのですが、材料を犬養刑事がどう料理するか、どんな調味料で味付けするかが楽しめます。美形の刑事・犬養が話の途中からふっと登場するたびに、ワクワクしました。どれも粒よりでみごとに現代社会を切り取っていて、読後の満足感が高かったです。
2投稿日: 2015.03.04
切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人
中山七里
角川文庫
ラストも秀逸
それにしても登場する移植コーディネーターが粗忽すぎる。猟奇殺人ものだがテーマはシリアスだ。描き方もまじめで引き込まれた。当事者になってみないとわからない壮絶な苦しみは常識から外れた行動を誘引するかもしれない。「告白」の内容も動機も意外なものだった。中山作品は有名だが、私はこれが初。テンポがよくて読みやすい。犬養刑事の活躍はシリーズものらしいので他も読んでみたい。
1投稿日: 2015.03.04
その女アレックス
ピエール・ルメートル,橘明美
文春文庫
評判どおり
話題作。評判どおり。大満足。ジェットコースターだった。訳者が上手い。私の大嫌いな翻訳調文体が薄くて文章が比較的自然。それでいてフランス文学のちょっとしゃれた感じは伝わる。そして話の展開がみごと。第一~三部と内容が特徴的でわかり易く、自分なりに頭の中でよくまとまる。悲劇と事件を追う刑事たちの人物造形のおもしろさ。解説で訳者が彼らを、まるで「三銃士」と言っているがなるほどと思う。事件を追う刑事にトラウマがあるというのはよくあるパターンだが、彼の内面にも十分に興味が持てた。アレックスとカミーユの両方が主人公。
11投稿日: 2015.03.04
漂砂のうたう
木内昇
集英社文庫
名作です
明治維新で大きく変わる世の中が急流の大河なら 社会の底辺で働く庶民は水底の砂粒だ。 容易には見えない場所で激しく流れ漂う砂粒たちの、またその奥底にある矜持や抵抗が細かく描かれている。読んでいて痛いほどだった。 ここじゃないどこかへ行きたい。自分はまだ本気を出していない。ここは私のいる場所じゃない。若いときには誰もが一度はつぶやくフレーズだ。じゃ自由って何なんだ?自分を解き放つにはどうしたらいいのか?世界大戦が終わって70年たった平成の世でもわからない。実は武家の出の主人公は明治初期の20代の青年。全盛の花魁は20歳そこそこの籠の鳥。それぞれがその正体すら見たことのない自由を求める姿は実は激しくて熱い。生簀から出た金魚、事実になってしまうという噺家の創作、墨染の衣裳などシンボリックな場面がちりばめられて、どっぷり作中の世界に入り込むことができた。読後は疲労困憊である。文体、道具立て、人物造形、すべていい。文句なしの傑作。
4投稿日: 2015.01.04
月光値千両 妻は、くノ一 5
風野真知雄
角川文庫
ついつい手が出るシリーズ
養子の雁二郎が面白すぎる。14歳というからびっくり。「春画」でもなく「あぶな絵」でもなくエロ絵だって!変なやつだ鳥居は。可笑しくて咳込むところが多かった一方でアクション場面も息をのむほど。ふたりのくノ一はもちろんのこと、彦馬の教え子おゆうちゃんも桃太、金太を探すのに大活躍。雅江さんってほんとうにすばらしい女性だったんだなとしみじみ思いました。母さん憎むけど半分で好きだよ、って織江の言葉で救われる。
1投稿日: 2014.12.15
夜の床屋
沢村浩輔
東京創元社
デビュー作とは!おみごとです。
とてもおもしろい構成の連作短編集です。最初の3篇はそれぞれ独立した日常の謎系の話ですが、後半4編は完全につづきもの。全編通して主人公は同じです。そしてラストはファンタジックな楽しさを味わえます。私としては全体的にちょっと凝りすぎかなと思うけれど、こういうバリエーションに富んだ短編集に出会えたのは得した気分でした。「チャーミングな連作ミステリ」といううたい文句は納得でした。
4投稿日: 2014.12.12
石の繭 警視庁殺人分析班
麻見和史
講談社文庫
あれもこれも伏線
女刑事如月塔子シリーズの第一作。犯人は話の途中で明らかにされるが、真相は意外なものだった。捜査員たちの個性が読みどころだが、まだ一作目なので主人公にはさほど魅力を感じなかった。
1投稿日: 2014.12.06
小説の書き方 小説道場・実践編
森村誠一
角川oneテーマ21
すなわち小説の読み方
私は小説を書く気はないが、この内容はそのまま「小説の読み方」としてもとても参考になる。特に第四、五章の文章論、文体論はそもそも小説とは何かという本質的なところを示していてそれは優れた小説とは何かと言う自分なりの価値観の見極めにも通じる。やはり私の読み方はまだまだ浅いなと反省した。森村ブームの頃はまだ子供で、作品名はよく知っていてもあまり読んだことがなかったが、著者の作品をもっと読んでみたくなった。
4投稿日: 2014.12.06
