
零戦 その誕生と栄光の記録
堀越二郎
講談社文庫
核心を黙して雄弁な語り
宮崎駿監督の「風立ちぬ」を見て、この本を読みました。読むべき一冊でした。 まず、著者は職業人として素晴らしい方ですね。仕事に対する姿勢は本当に尊敬します。戦争の結末を予想できる立場にあり、それでも時代の流れに逆らえず、体を壊してまでいま自分にできる全てをかけて仕事に打ち込む姿が感動を呼びます。どんなに難しい注文でも文句も諦めることもなくこなし、最後まで改良を重ねる仕事ぶりがすごいです。仲間への敬愛や戦争を引き起こした者への静かな怒りなどを見ると、この人を殺人のための兵器を作った人と単純には断罪できません。 優れた技術者でありながら、文章の見事さもまた驚きでした。記録としての確かさや目に浮かぶようなリアルさ、それから時折目が熱くなるような熱のこもった、けれど粛々とした書きぶりがたまらなく心地よかったです。 戦争へ向かう時の指導者の愚かさと、抗えぬ運命に対し市井の人が懸命に生きる姿を知ることができるという意味でも、この本は読む価値のある本でした。
1投稿日: 2014.04.13
超訳ニーチェの言葉
フリ-ドリヒ・ヴィルヘルム・ニ-チェ,白取春彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
ジグソーパズルの美しいピース
ニーチェという人をまったく知らず、予備知識ゼロで読みました。 なんという名言の数々…。ためになる言葉や、図星を突かれたような思いのする言葉、まったく新しい価値観を示してくれる言葉など、どのページも堪能できました。 それだけに、キラキラと輝かしいパッチワークというか、切り貼りのモザイク画みたいで、なんとなく物足りない気分になりました。画に現れない捨てられた部分のニーチェはどんなだろう? この本は名言集としての価値はあると思いますが、ニーチェその人を知るためには、この本が引用する出典にあたらなければならないですね。
2投稿日: 2014.04.12
風立ちぬ・美しい村・麦藁帽子
堀辰雄
角川文庫
生きようと努めなければ。
宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」を見て本作品を読みました。読んでいる最中は時代感覚のズレや文体の古さ、主人公の私的すぎるほどの感情描写に共感しにくいところがあって、終始戸惑いましたが、読み終わってみると不思議な感覚に包まれたような気分になりました。「生きねば」と思わせてくれる本でした。表題作以外の短編も含めて、何か不思議な力と美しさを感じました。
3投稿日: 2014.04.06
風流夢譚
深沢七郎
志木電子書籍
複雑な気持ち
たぶん新聞か何かの書評を読んで購入したと思います。しばらく読まずに他のものを読んでいたので、なぜ読もうと思ったかも忘れながら、本棚にあったので読みました。 夢の話をわざわざ本にする必要があったのか?誰でも見る夢の突拍子もない展開や表現が確かに面白く、短編ながらストーリーテリングの妙技を感じました。が、夢は夢。しかも一晩限り見た夢の話で、他愛もない。些細な妄想をモチーフに、敢えてこの短編を出す必要がどれほどあったのか。 いや、必要はあったのでしょうね。この短編は特別の目的を持っていて、そのために発表された。その当時の時代における意味や、政治的・言論的重要性は、あまりにも年月が経ちすぎて私には分かりませんが、作者のように世の中のあり方を見ている人がいるということは理解できました。 人物が特定できる形で、その人を不快な表現でもって描写しているという点において、読むべきではなかった、読みたくはなかったと思います。しかしながら、その時代を写す重要な作品である、とは言えると思います。文体としての面白さや物語としての読み応えは十分に感じられるので、星は三つにしておきます。(つまり、評価のつけようがありません。すみません) 作者の他の作品を読んだことはありません。
0投稿日: 2014.04.02
黒田如水
吉川英治
角川文庫
一気に読めました。
歴史小説を読まないのですが、NHKの大河ドラマにつられて読みました。読んでいてとても心地のいい文体で、目の前にその場面が見えるような臨場感でした。 官兵衛という人が事実書かれてある通りの人なら、かくありたい。そう思える生き様を躍動感たっぷりに味わうことができました。面白かった。物語は秀吉軍に従軍して三木城攻めを成し、凱旋帰郷したあたりで終わるのですが、え?続きは?もう終わり?と思うくらい終わり方が唐突です。彼の後半生も知りたくなりました。 そうそう、如水としての彼の人生は一行も書かれていないのに、なぜタイトルが官兵衛ではなく、如水なのか。もし理由があるのでしたら、誰か教えてください。小説の中にその答えもあったのかも知れませんが…。
1投稿日: 2014.04.01
これからの「正義」の話をしよう ──いまを生き延びるための哲学
マイケル・サンデル,鬼澤忍
早川書房
生きていこうと思える社会を作るために
読むのに1ヶ月かかりました。時間がかかりすぎですが、読むうちに次から次に考えが深まって、思考を巡らしては立ち止まって…。大変だけど本当に読みごたえがありました。 社会が抱える問題がどう問題なのか、その問題の解決策は何なのか、自分はどの様に生き、どのように社会に関わっていくべきか。考えさせるだけでなく、その答え(著者なりの)を示してくれて、希望さえ持たせてくれる。 より良い社会を目指し、その制度や枠組み、政治はどう変わって行くべきか、そこに正義が果たせる役割があるとして、それは何なのか。希望を持つために、読むべき一冊です。
0投稿日: 2014.03.23
日本辺境論(新潮新書)
内田樹
新潮新書
「日本人である自分」を理解するための本
どの国にもその国の人たちに共通の性質、国民性というのはあると思いますが、日本人にも日本人共通のものがありますよね。それが何か明らかにしてくれる本。分かっているようで、説明するとなると難しい、そもそも合意された答えが無いような、でも何となく感じる「日本人とはこんなもの」的なものを、なるほどと納得できる仕方で説明してくれる本。
0投稿日: 2014.02.23
美愛眞
武者小路実篤
PHP文庫
高齢に達してもなお
ピュアな著者の人柄が素敵すぎる。 中学・高校時代に武者小路実篤の小説を読んで、はまったことを思い出し、また著者の作品を読みたくなって読んでみた。本作は著者が80歳を超えて執筆されたものだが、それでも愛すること、世界は美しいということ、その純粋さを瑞々しい言葉で伝えてくれる。ああ、やっぱり武者小路って素敵な人だったんだろうな。他の作品も早く電子化されてほしい。 評価は個人的な思いも込めて星5つにしているが、誤字が多いのは気になります。電子化に際して発生したものだと思うが、読みずらいので、そこはどうにかしてほしいと思った。しかし、それを考慮しても、次へ次へと読みたくなる本ではあった。
1投稿日: 2014.02.09
銀河鉄道の夜
宮沢賢治
青空文庫
心が洗われる
普段新書や雑学本などばかり浸りきっているのがよく分かる。説明的で批判的で理路整然とした機械じかけのような言葉の中に埋れていると、言葉そのものの力、響きの美しさって忘れてしまう。たまにこういうのを読むと、生命のような言葉の清々しい流れが渇いた心に沁み渡ってくる感覚がある。偉大な作家の偉大な作品の価値を再確認した。
7投稿日: 2014.02.08
頭が冴える禅的思考
枡野俊明
SB文庫
疲れた頭を休めるのに良いかも
禅の教えに基づいた生き方の指南書。「禅」なるものに疎いので、興味を持って読んでみた。様々な禅の教え、禅の言葉が紹介されるので、座右の銘として覚えておきたいフレーズがあちこちに見つかる。一方で、悩み相談的な文体が新聞・雑誌の類に似ており、また挙げられている解決策や逸話も何だかどこにでもありそうなものが多いと感じさせる。 きっと仕事で疲れた時や悩んだ時に読むと、こんがらがったものを解いて楽にしてくれる本だろう。逆にそういう状況にないと、当たり前すぎてつまらなくなるかもしれない。関心のある章から読み進めていくのも良いだろう。
3投稿日: 2014.02.03
