
孤独のグルメ【新装版】
久住昌之,谷口ジロー
SPA!コミックス
男のグルメ観
偶然を頼りに、普段は縁のない場所で、周囲の意外な雰囲気を楽しみつつ、掘り出し物的な美味に驚く。 (上記プロットに違和感の無い設定として、孤独な個人貿易商が主人公に選ばれたのだと理解) 「通」である必要は無いが、各話は短めで、ゆっくりと噛み締めないと味が分からない漫画。 仲間とおしゃべりしながら楽しむのが女性のグルメとすれば、一人思考に耽りながら黙々と食べるのが男のグルメ。グルメの基準が異なれば、何がいいのか意味が分からない方も相当数いらっしゃると思います。 評者は、カンボジアの雑誌でクメール語(と日本語)で「イタリア語で10万部超え」と紹介されているのを見て、どうしても読みたくなりました。(変なきっかけですね) 読後、最初は前評判ほどではないと思ったのですが、あとからジワーと良さが出てきました。 味が分かって、自分の運の良さを祝福したくなりました。 万人受けではないだろうということで、あまり期待値を高めないよう、☆1つ減にしておきます。
3投稿日: 2015.04.21
イスラムの怒り
内藤正典
集英社新書
目に見えない「踏み越えてはいけない一線」とは何か?
本書は、イスラムとの縁の浅い日本人が、イスラム教徒(ムスリム)から見たときの「踏み越えてはいけない一線」がどこにあるのかを理解することで、不用意に「イスラムの怒り」に触れないようにする為の指南書(を目指して書いた本)です。 筆者は、2005年9月に起きたデンマークでのマホメット(ムハンマド)風刺画事件が本書執筆の契機となったとのことで、西欧社会とイスラム社会が、どのようにお互いの「踏み越えてはいけない一線」を超え、問題を「文明の衝突」にまで大きくしてしまったのかを分かりやすく解説しています。 また、衝突の原因を、歴史的な背景・経緯にまで遡って考察し、欧米人がムスリムを毛嫌いする一方、ムスリムは必ずしも欧米人を嫌っているわけではない理由を分かりやすく解説します。また、我々日本人のイスラム観についても無知であるが故に、欧米メディア経由の翻訳報道に大きく影響を受けてしまっている現状を浮き彫りにします。 出版は2009年5月ですが、扱っている部分はイスラムの本質に近いところなので、取り上げている事象の同時代性はともかく、内容的な古さを感じさせません。むしろ時間の試練に耐え得る質の高さを感じます。収録されている、オバマ大統領に対するイスラム圏の期待に関するコラム(当時)も、現状と対比しながら読むことが出来、大変興味深いです。 デンマークのムハンマド風刺画事件については、評者もうっすらと記憶が残っておりましたが、当時も今も、遠い世界の関心外の事件に過ぎませんでした。しかし、昨今の「イスラム国」の日本人拘束・殺害を受け、残念ながら日本も無関係ではいられなくなってしまったようです。 ムスリムを理解できない相手として毛嫌いするのではなく、イスラムの教えを基本とするムスリムの内在的な思考回路と行動様式を理解した上で、欧米諸国とは違ったリスク回避策を日本および日本人は今後とっていく必要があるのだろうと思います。 とはいえ、個人的にはいまだに無知なら無知なりに「触らぬ神に祟りなし」でもよいのではという感覚から抜け出せていないですが… 少し横道に逸れますが、読後、「聖☆おにいさん」にブッダとイエスは登場できても、ムハンマドの登場が困難なのはなぜか分かった気がします。
8投稿日: 2015.04.17
極黒のブリュンヒルデ 12
岡本倫
週刊ヤングジャンプ
絵柄とタイトルからは想像もつかない逸品
表紙だけみて、こんな萌々な漫画をいい年したおっさんが楽しめるかとお感じの方、絵柄に騙されていはいけません。 SFとファンタジーと萌え(恋愛)とギャグとホラーが絶妙なバランスで配置された素晴らしい作品です。各要素が交互かつ波状的に繰り出されます。しかも扱っているテーマは意外と深い。成り行きでストーリー展開されているように見えて、実はキチンと計算されているのだと思います。。 ギャグは、けっしてダジャレではなく、コミュニケーションの「ねじれ」と「落差」による面白みです。何度もツボにはまりましたので、電車の中とかで読むには注意が必要です。 こんな浮ついた絵柄なのに、主人公もストーリーも真面目かつ真剣です。思い切って挑戦して良かったと心から思える作品です。初めての方は是非1巻から挑戦してください。 てっきり10巻あたりで終わるのかなと思っていましたが、12巻を終えてさらに展開が広がる気配です。電子書籍版リリース当日に読みきってしまいましたが、今後の展開が楽しみです。
6投稿日: 2015.04.17
進撃の巨人(16)
諫山創
別冊少年マガジン
終結を感じさせる展開
いよいよ本格的な謎解きが始まり、核心に迫ってきましたという感じです。少しずつ明らかにされる「真実」や、奇怪な現象から来る「ゾクゾク感」が減った分、人間の内面(精神構造)がえぐられていくく印象を受けました。 進撃の巨人の世界観全体があと少しで自分の掌中に、というところで to be continued(つづく).... 「巨人」(人を超えたものだが、人にも見えるもの)が、人類(個人として人及び人間社会)にとってどういう存在なのかを自分なりに考えてみることが、本作品を楽しむコツなんだと再認識しました。 あと、海外にいても、発売日当日に読める幸せを噛み締めております。
19投稿日: 2015.04.09
乙嫁語り 1巻
森薫
Fellows!
細部まで描きこまれた繊細で素晴らしい作品
「エマ」からやって参りました。自分が好きだから描く、描きたいから描く、自分の嗜好に正直に描くが、作者のモットーのはずです。ご本人が好きで書いている作品って、読んでいて(眺めていて)、本当に清々しい気持ちになりますよね。 ストーリーも圧巻です。戦闘シーンも凄い。女性的な要素と、男性的な要素が混然一体となっているのが作者の魅力。すでに完全なファンです、作品にも作者にも。
3投稿日: 2015.04.03
イシュタルの娘~小野於通伝~(1)
大和和紀
BE・LOVE
大したものです、おつうさん
タイトルは何であれ、安土桃山時代(最近は織豊時代と呼ぶそうです)から江戸時代初めまで実在した女性書家の小野於通(おののおつう)を主軸に描いた日本の歴史漫画です。 評者は教養がなく、最初「イシュタル」と聞いてもメソボタミアの女神とも知らず、何を想像してよいのか分かりませんでした。読み始める前は、中央アジアあたりのどこかを扱った漫画なのかなと思っていた位(「乙嫁語り」の強い影響を受けていた)です。 読み始めた後に「イシュタル」について色々ネットで調べましたが、「性愛と豊穣を司る女神」とか「固定的な夫神は存在せず多くの愛人をもつ奔放な女神」といった程度の情報しか入手できず、当漫画で描かれている大変に真面目な女性である小野於通(おののおつう)と照らし合わせると「時代や慣習の制約に捉われず自らの希望に沿って生きた女性」と作者は表現したいのであろう想像しました(違っていたら、すいません)。 読み始めるとアッという間に非常に引き込まれ、一気に1巻から10巻まで通読してしまいました。主人公の小野於通は、特殊な霊感を持った女性として、数奇な運命を辿るのですが、女性漫画ならではの、色々と魅力的な男性との忍ぶ恋や、本命の男性への愛、親が決めていた望まない結婚生活等が描かれ、逆境にあっても、強い意志と霊感、教養と書を武器に、決して挫けることの無い強い女性の生き様が描かれています。 当漫画を読む前に、司馬遼太郎の「国盗り物語」や、山岡 荘八の「徳川家康」「伊達正宗」、安部龍太郎「等伯」を読んでおりましたので、既視感のあるシーンが多いと思いましたが、描く視点は作者ならでは。新鮮です。 女性漫画家ですので、やっぱり女性を元気づけたいのだと感じました。私は男ですので、作者自身が恋愛対象としたい歴史上の男ばかりを強調している感を持ちましたが、それはそれで、思い入れがあって良いのではないかと思います。 時代、歴史の一つの描きかたとして、楽しめますよ。お勧めします。
4投稿日: 2015.04.03
ITビジネスの原理
尾原和啓
NHK出版
良書とは思うがタイトルがミス・リーディング
この本を読むと「ITビジネスの原理」が分かって、「ITビジネス」について人に解説できるようになるとか、自分でネットビジネスを立ち上げて成功できるようになるとか、そういった類の本ではありません。 中身を読んでからタイトルを見ると「まぁそうかな」と一瞬でも思えましたが、タイトルを見てから読み始めた時は「全然違う。そもそもITビジネスってそういうことだったっけ?」と思いました。 本書での「ITビジネス」の定義は、「ITを事業推進上での中心的な仕掛け(プラットフォーム)とする事業」くらいの意味合いかと思います。かつITの中でもコミュニケーション・ツールとしてのITを活用したビジネスの話が中心です。人によっては「ITビジネス」と聞いた時に連想されるものから大きくズレていないかもしれませんが、企業向けシステム開発などを行う、いわゆる「IT業界」にいる人々からすると、コミュニケーション・ツールとしてのITは領域が違うというか、一部の領域というべきか、方向性が違います(評者はそう感じた一人)。「ICT」と呼ばれる領域に近いかもしれません。 語り口は軽く、初心者にも分かりやすいですが、筆者が「あとがき」で自白している通り、色々な人から聞いた話をベースにしており、筆者自身のオリジナルな発想は無いそうです。筆者自身が情報交換のプラットフォームで、本書はそこから出てきた1つのコンテンツという訳です。人から聞いた話をまとめただけですから「知ったかぶり本」のはずですが、そうは感じさせません。筆者自身が実際に創発している部分があるからだと思いますし、「集合知」というか他人と議論する中でお互いに考えがまとまり、新しい何かが見えてきた結果を書いているからです。筆者の純真さと、ブログっぽい文体も毒抜きになっています。 売り文句にある、著者の10社を超えるIT関連企業への転職経験は「ITビジネスの原理」には残念なくらいに何の関係もありません。ただ、有名企業へ頻繁に転職出来るぐらい引っ張りだこな実力のある人が、多様な職場で培った業務経験をベースにITビジネスの成功事例や失敗事例を語れば、ITビジネスに共通する「鍵」や「仕組み」のようなものが見えてくるはずだという、読者の期待を膨らませてくれます。販促効果が目的の「箔付け」に過ぎないのでしょうが、筆者の行動力は本物です。なかなか説明することが難しいこと(ふわふわと流れていくフロー情報)を、書籍という形にまとめた(=フロー情報をストック化した)のは、何と言っても筆者の行動力の賜物ですからね。 最後に、本書で取り上げようとしている「ITビジネス(その中でもコミュニケーション・ツールとしてのITを利用したプラットフォームビジネス)」に関する領域を、評者なりに3つに分けて整理してみました。(タイトルと内容がマッチしていないという人向け) 1)コミュニケーションを実現する為の通信手段としてのITの話 (端末、通信インフラ、通信技術・規格、プラットフォーム用サーバ側アプリケーション等) → i-modeという言葉が出てくる程度で、本書では全く触れられていません。 そもそも、この辺の話は、IT業界(ITそのものを飯のタネにする人)向けの領域でなんでしょうね。 2)プラットフォームを利用したビジネスモデル(含む課金モデル)の話 → ビジネスモデルの中でも、課金モデルの成り立つ背景としての人間心理・行動様式をベースに 分類して論じている点が興味深く読めました。表現が、「北風と太陽」ですから。 3)ビジネスモデルの組立の前提となるコミュニケーション主体者の持つ文化の話 → 第5章で大胆な推論が展開されます。IT が本来持つ可能性や今後の方向性の話として非常に 面白く読めます。が、筆者が人とあれこれ話として盛り上がった時に垣間見えたビジョンを写し 取ったものなので、他人に向かって原理と説けるほどの理論の厳密さや言葉の統一性がなく、 言葉の定義も都度考えながら読む必要があります。 筆者の主張・提言を、一瞬そうかも(そうだったらいいな)と思えたとしても、少し時間が経って興奮が冷めると、言葉の定義もあいまいで本当に正しいか検証できず、地に足が着いていない話だったのかも(妄想に過ぎなかった)と思わせます。なんだか右脳と左脳を行ったり来たりするような、面白い本ですよ。
1投稿日: 2015.04.02
課長 島耕作(1)
弘兼憲史
モーニング
昭和のサラリーマン像の投影
海外出張時にマッサージ屋さんにおいてあった漫画コーナーで手にとり、続きをどうしても読みたくなって電子書籍で購入。どの企業をもじったのかすぐわかる日本を代表する大企業に勤めるエリートサラリーマンの山あり谷あり波乱万丈なサクセス(出世)ストーリーです。お話には、必ずキーになる美しい女性(寅さんでいうマドンナ役か)が出てきて、女性達の愛によって、ピンチを潜り抜けていきます。本当は「島耕作と彼を愛した女たち」くらいなタイトルの方が内容を正しく表現しているような気もします。 お話自体も楽しく読めますが、昭和時代のサラリーマンが何に悩み何を求めていたのかがよくわかるので、25年前(四半世紀前)の日本および日本を取り巻く世界がどうだったのか(どう世界が日本からみて写っていたのか)の勉強にもなります。 あと、女性が読む場合には、歴史の勉強か、25年前の日本人男性にとって女性観を描いた虚構の世界くらに思わないと、つらいかもしれません。示唆に富む内容もたくさんあるにはあるのですが、基本的に男性サラリーマンの娯楽作品(スケベ本)ですので。
4投稿日: 2014.01.16
社畜のススメ(新潮新書)
藤本篤志
新潮新書
過激なタイトルではありますが、中身は至って真っ当です。
「社畜のススメ」という過激なタイトルですが、中身は至ってまっとうでした。個人的には、いい本だと思います。過激なタイトルは、昨今の行き過ぎた「個性重視」の風潮に警鐘を鳴らしたいという動機で付けたようです。 自分が40代で、なかなか上に行けないなぁと思いながら、20年近く下積みをやって来ているので、自分でも気が付かないうちに、単なる「社畜」になってしまったのではないかと思い手に取りました。 本書の主張は、若いうちは、「自分らしさ」だの「やりがい」だの「歯車は嫌だ」だの、つべこべいわず、下積み期間だと思ってしっかり仕事しなさい、という話しです。それも「石の上にも三年」どころか、サラリーマンの勤続年数を35~37年として三分の一に当たる12年くらいはとにかく修行だと思って頑張れ、「自分らしさ」を出すために自分で考えたりするのはその後だ、というものです。考えてみれば、昔は、若手が何か言うと上司から「十年早い」とよく言われました。なお、12年というのは決まった期間というよりも、働ける現役期間を「守・破・離」に3つに分け、基礎を身に付ける「守」の期間として目安的に指して著者は使っています。この辺の育成方針を巡る期間設定は、職種的に求められる技能レベルといった内的な要因だけでなく、企業の置かれた環境や時代・世代的な時間感覚といった外的な要因にも左右されるとは思います。 筆者も本の中で述べてますが、20代の若い人はこう言ってもピンと来ない率が高いそうです。ですので、自分がいい本だと思っても、先輩・上司目線で、若手・部下に「いい本だから読んで」といって渡すと、それこそ価値観を押し付けてくるパワハラ系の人と思われるなど、「悲劇」の元になるのかもしれません。 私自身は、「自分優先」的な考え方と「社畜」的考え方の双方にそれぞれ共感してしまいます。あくまでも自分から見てですが、何にも分かっていないし何も出来ないくせして「自分らしい仕事をしたい」といって会社を辞めてしまう人に対しては「こらえ性がないんだなぁ。転職癖がつきそう」としか思えない一方、自分の出世とか保身の為なのか見え見えな状態で、どんな会社の命令にも従いますという人には「うーん。ああいう風(社畜)にはなれないな」と思ってしまいます。 しかしながら、著者が言うように、上司やお客さんに言われたことを理不尽と思うところがあったとしても、「理不尽と思ってしまう自分の方が修行が足りない」くらいに思っていないと、成長の機会すら摑めないというのは、自省の念を込めて、事実だと思います。現実はそんなに甘くないですし、コンプライアンスに抵触でもしない限り、「嫌だからといって逃げているだけ」なわけですから。 また、残業していても仕事が遅いだけのアウトプットの無い人は重要な仕事を任せてもらえず、結果として「残業代狙い」の残業依存生活パターンに陥り勝ちでしょうが、自分の成長の為に事務所の電気や設備をタダで利用させてもらって申し訳ないと思っている人は当然残業代はつけませんし、どんどん仕事を覚え成果も出していきます。結果として上司にも目を掛けられたり、お客さんに信用されることも多いでしょう。そいういう意味では、「社畜になるんだ」くらいの意気込みで、もう少し会社優先で働いて来ても良かったかもしれないなと思いました。 他人への迷惑やチームとしての成果に無頓着でいつも定時退社し自宅でネットしているような人と、必死に生産性を高め、夜学に通うとか家事の分担したり子供の保育所の送り迎えの為に定時に帰る人と、どちらが中長期的に成長し、かつ評価されるのか? 少し視線を高くし姿勢と自己認識を変えれば、同じ環境が違って見えるし、懸命に働くことで、自分の実力も他人の評価も後からついてくるのではないでしょうか。 一部の天才と本当の反社会的な職場環境で働いている人を除けば、凡人にとっての真理はシンプルであるように思いますが、こんな真理が信じられるかどうか自体が、問われてしまう時代なんだと思いました。
3投稿日: 2014.01.14
銀の匙 Silver Spoon(1)
荒川弘
少年サンデー
精一杯、真剣に生きていこうという気持ちになれます
私が勤める職場でも、最近の新人世代の中には農業にあこがれている人が出てきており、こういったジャンルの漫画が受け入れられるようになって来たという、時代の変化を肌で感じます。半分は「無いものねだり」とは思いつつ、私も趣味で自家菜園はやっているので、感覚的に共感するところがあります。 この漫画の魅力は、農業や酪農といった一次産業の厳しさを直視しつつも、可能性や夢を真摯に追い求める主人公の八軒とその姿勢に感化されていく登場人物たちの生き様がしっかりと描いているところでしょうか。置かれた状況がどうであれ、出来る範囲で精一杯、真剣に生きていこうという気持ちにさせられます。 いつ読み始めても最新刊までイッキ読みできますよ。
24投稿日: 2014.01.11
