
きみの友だち
重松清
新潮社
自分を許す旅へのいざない
大人になってから分かる10代の頃の気持ちってあるのかなと思いました。 自分の気持ちをなかなか言葉に出来なった頃の自分を、あらためて理解してあげるような、自分を許す旅にいざなってくれます。 私にとっての重松作品デビュー作でもあります。ありがとう、重松先生。
1投稿日: 2015.10.07
仕事に必要なことはすべて映画で学べる 会社に使い倒されないための9の心得
押井守
日経BP
実はタダで読めますが、それでもあなたはお金を出すことが出来ますか!?
2012年6月から翌年11月にかけて日経ビジネスオンラインに掲載された連載『押井守監督の「勝つために見る映画」』を電子本化したものです。なので実は、日経IDを取得して日経BPのメルマガ読者になればオンラインでも(タダで)読めます。 評者は、当初EvernoteでクリッピングしてReaderで読んでいましたが、非常に内容に濃いものなので、押井監督と日経BP編集部に敬意を払うべく購入しました。オンライン版と電子版の違いは、縦書きか縦書きかだけかな(笑)と思いましたが、取り上げられている映画の順番も異なり、本の体裁になるよう、多少は手が入っていました。 取り上げられているのは、以下の9つの映画。 1.「飛べ!フェニックス」(1965年 ロバート・アルドリッチ監督) 2.「マネーボール」(2011年 ベネット・ミラー監督) 3.「頭上の敵機」(1949年 ヘンリー・キング監督) 4.「機動警察パトレイバー2」(1993年 押井守監督) 5.「裏切りのサーカス」(2011年 トーマス・アルフレッドソン監督) 6.「プライベート・ライアン」(1998年 スティーブン・スピルバーグ監督) 7.「田園に死す」(1974年 寺山修司監督) 8.「スカイフォール」(2012年、サム・メンデス監督) 9.「ロンゲスト・ヤード」(1975年 ロバート・アルドリッチ監督) あと、プロローグのところで「ハスラー」(1961年、ロバート・ロッセン監督)が取り上げられています。 本来、本書に刺激されて取り上げらている映画をじっくり見るべきなんでしょうが、ごめんなさい、評者は、そんな暇ないです。でも、007の「スカフォール」だけは、飛行機上で見たことがあったので、なるほどなぁとじっくり読めました。映画を見てから再度読めば、自分自身の人生を勝ち抜く哲学というか、自分自身の精神の糧となって、寄って立つ芯になるものが得られるだろうと思います。 自分の教養レベルを丸裸にされる、読むにあたって本気で勝負する必要のある本だと思いますし、タダで読めると分かっていても、本物に対してなら、ぽちっとお金を払うことが出来るのか、自分自身のお金の使いどころ(人間力=クリック力)を試されている感じがしますね(笑)。
5投稿日: 2015.10.05
壇蜜日記 0(ゼロ)【文春e-Books】
壇蜜
文春e-Books
食わず嫌いでした
「身体を売りにしている女性は、表面だけの薄っぺらい人」という思い込みを、打ち砕いてくれます。手に取った理由も、期限切れになりそうなポイントが余っていたからですが、お金を払って読む価値のある文章と思います。 セコくて、薄っぺらいのは自分の方だったと猛反省。毎日こんなにウィットに富むキラりと光る文章を4~5行に詰め込んで書き続けられるだろうかと考えると、悔しいけど脱帽です。 パッと見だけで人を判断しないよう、もう少し慎重になろうと思います。
3投稿日: 2015.10.04
博士の愛した数式
小川洋子
新潮社
純文学と数学と野球の三角関数
沢山の伏線で、美しさと発見の喜びと喪失の哀しみの関係を結晶化させた作品。読んだときの自分の立ち位置(立場・経験・関心事等)によって見え方が異なり、何度も繰り返し読んでも、まるで新しい作品に出会ったかのような気持ちになれると思います。 評者の場合、新しいことを記憶できないことの辛さに寄り添そうと、痴呆に苦しんだ祖母のことを想いながら読みました。 小川さん、美しい作品をありがとうございます。
5投稿日: 2015.10.04
極黒のブリュンヒルデ 13
岡本倫
週刊ヤングジャンプ
高校生青春マンガっぽくなってきた
自分がいやになるくらい面白い(うーん、自分に残念)。 ストーリーの展開パターンに慣れてきてしまった為、あっと驚くことは減りましたが、相変わらず面白いですね。そして、読み方によっては深いです。こんな絵柄とセリフなのに(失礼)。 問われているのは生死観、過去(記憶)との向き合い方、自分の欲望(正体)との折り合いの付け方等々。絶望的な状況でささやかな希望を吐露されると、なんだか泣けてきます。 気が付くと登場人物のだれかに感情移入していて、心と身体が一瞬分離したような感覚になります。 今回は、人が死ぬけど死なないことが多く、ちょっとほっとします(あんまり書くとネタバレか)。 しかし、どうせ死んでも死なないんだろうと思っていると、本当に死んだりするのかもしれません。緊張感をもって読むことをお勧めします、こんな絵柄ですが(しつこい)。
4投稿日: 2015.07.24
できるリーダーの仕事術
自己啓発研究会,得トク文庫
得トク文庫
手軽に気づきの得られる本
平易な言葉遣いで、仕事に向かう上での心構えを説いた、まるで自己啓発セミナーに参加したかのような気持ちになる本です。1~2時間もあれば読めますので、気軽に手に取られても良いと思います。 真新しい主張を述べた本ではありませんので、正直驚きはありませんが、出来ているつもりになっている自分自身への戒めになりました。 特に、40代からは身体が衰え無理が効かなくなっていくことを念頭に、自分自身が頑張るだけでなく、部下や後進の育成を視野に入れ、組織全体でのパフォーマンスを考えていくことが求められているのだという説明には、成長機会を逃したと想像される諸先輩の方々の姿を思い起こしながらは、心せねばと気持ちを新たにしました。 本書は説明が平易で、分かりやすく説明しようとするスタンスは良いとのですが、誤植(明らかな漢字変換ミス)が多く、同じミスを何度も繰り返しているのが残念でした。仕事で自分の書いた文章の誤植に後から気がつくことが多いのですが、お金を払っている側が誤植を見るとどんな気持ちになるのか、書き手の信用や評判がどれだけ傷つくのか、良く分かりました。 得られるものは人に依りますが、良い気づきのある本と思います。
3投稿日: 2015.06.06
ヒストリエ(9)
岩明均
アフタヌーン
必ずハッとするストーリー展開
発売当日に、ページがもったいないなぁと思いながら、じっくり読みました。あっという間でしたけど。。。 前の8巻で久しぶりだった記憶がありますが、今回も久しぶり。見事に2014年が飛んでいます。そう、あれからもう○年。 エウメネス考案のマケドニア将棋が小道具として光ります。確か7巻(紙の本)の限定付録として売っていた記憶がありますが、是非ともやってみたくなります。これも伏線だったのね。 最近、チェスのルールを覚えたのですが、将棋しかしたことが無かった身には、どうしてこういうルールにしたのかなという疑問と今回のストーリー内で解説されていることに繋がるところがあって、個人的に非常に楽しめました。 読者の感覚からは、遅々としてなかなか話が進まないヒストリエですが、これからも、将棋かチェスでもしながら、じっくり待っているくらいで調度いいんでしょうね。
2投稿日: 2015.05.29
鋼の錬金術師1巻
荒川弘
月刊少年ガンガン
人間の在り方を規定するものとは何か
2001年から2010年まで連載9年に及んだ長編物ですが、作者の荒川弘さんの名声を確立した代表作と思います。荒川さんは、その後「銀の匙」で人気を博し、「アルスラーン戦記」の漫画化に挑戦されていますね。「鋼の錬金術師」も「銀の匙」もアニメ化されましたが、プロットの良い作品というのは、作品自身が成長力を持ち、花咲いていくようです。 本作品は、主人公兄弟や取り巻くキャラクターの葛藤・成長がその魅力ですが、描かれる世界観そのものが成長・発展していくことによる魅力の方が大きいという印象を受けました。各巻巻末の「あとがき」まで読むと、作者が世界観を広げていく現場がどのような雰囲気なのかが分かります。 ジャンルとしては少年マンガとは言え、大人でも充分鑑賞に堪える(もっと言えば大人の方が楽しめる)内容です。展開されるのは、現実ではありえない世界ではありますが、こんな世界があってもおかしくないと思わせるものがあります。というのも、人知を超えた法則の下で、法則の原理と利用方法を手にしたモノが世の中を支配するという構図は、科学の力で世界をコントロールしようとする現実社会の構図と同じだからです。そういう意味で、人間の在り方を規定する存在としての宗教と科学がテーマになっている深い作品だと思います。 あと、数字遊びではありますが、9年の連載で、108回(12ヶ月×9年)で完結としたのは、九年(くなん)を通じて108(煩悩の数)を超えないということ勝手に解釈しました。
6投稿日: 2015.05.12
脳には妙なクセがある
池谷裕二
扶桑社BOOKS
読めば読むほど脳のクセのせいにしたくなる
本書は脳科学をテーマに、26章に分け、読者が「へー」と言いたくなる話が綴られています。 ですが、それぞれが独立した項目なので、順番に読む必然性はありません。 評者は、読んでいる途中で、どこまで読んだのか(逆に言うと、あとどれくらい残っているのか)が、気になってきました。恐らく、本全体を通したストーリー性が無いので(テーマは本のタイトルの通り一貫性がある筈なのですが)、多重人格者による脈絡の無い話を聞かされている気分になるからだと思います。これって評者の脳のクセ!?それとも筆者のワナでしょうか。 要は、読んでいてイライラするんですよね。1つ1つはとても面白いのに。読めば読むほど、今どこにいるのか分からなくなって来て、道に迷った気分になるのです。不思議です。紙の書籍なら紙の厚さで分かるのでまだいいのでしょうが、厚みの分からない無い電子書籍だと相当にストレスです。 どうしてなんでしょうかね。脳科学を根拠に自分の脳みそを馬鹿にされているような気分になるからなんでしょうかね。もうし、脳じゃなくて脳のクセのせいにしたくなってきました。脳のクセに。 本書は、どこをどう紹介しても、一部の引用にしかならない構造になっているように思います。ですので、思い切って全体図(目次)を書いてみました。目次を読んでも、内容を殆ど思い出せません。すごい。 評者は、本書をして「24人のビリー・ミリガン」ならぬ「26人の池谷裕二さん」と呼びたい。 1. IQに左右される ― 脳が大きい人は頭がいい!? 2. 自分が好き ― 他人の不幸は蜜の味 3. 信用する ― 脳はどのように「信頼度」を判定するのか? 4. 運まかせ ― 「今日はツイテる!」は思い込みではなかった! 5. 知ったかぶる ― 「○○しておけばよかった」という「後知恵バイアス」とは? 6. ブランドにこだわる ― オーラ、ムード、カリスマ…見えざる力に動いてしまう理由 7. 自己満足する ― 「行きつけの店」しか通わない理由 8. 恋し愛する ― 「愛の力」で脳の反応もモチベーションも上がる!? 9. ゲームにはまる ― ヒトはとりわけ「映像的説明」に弱い生き物である 10. 人目を気にする ― なぜか自己犠牲的な行動を取るようにプログラムされている 11. 笑顔を作る ― 「まずは形から」で幸福になれる!? 12. フェロモンに惹かれる ― 汗で「不安」も「性的メッセージ」も伝わる!? 13. 勉強法にこだわる ― 「入力」よりも「出力」を重視! 14. 赤色に魅了される ― 相手をひるませ、優位に立つセコい色? 15. 聞き分けがよい ― 音楽と空間能力の意外な関係 16. 幸せになる ― 年をとると、より幸せを感じるようになる! 17. 酒が好き ― 「嗜好癖」は本人のあずかり知らぬところで形成されている 18. 食にこだわる ― 脳によい食べ物は何か? 19. 議論好き ― 「気合い」や「根性」は古くさい大和魂? 20. おしゃべり ― 「メタファー(喩え表現)」が会話の主導権を変える 21. 直感する ― 脳はなぜか「数値」を直感するのが苦手 22. 不自由が心地よい ― ヒトは自分のことを自分では決して知りえない 23. 眠たがる ― 「睡眠の成績」も肝心! 24. オカルトする ― 幽体離脱と「俯瞰力」の摩訶不思議な関係 25. 瞑想する ― 「夢が叶った」のはどうしてか? 26. 使い回す ― やり始めるとやる気が出る なお、☆の数は、面白いと思った章の数からイライラした回数を引いて算出しました。イライラしましたが、いい本です。とっても面白いです。脳のクセのせいです。
4投稿日: 2015.04.28
アジア新聞屋台村
高野秀行
集英社文庫
アジアの多様性とバイタリティ
アジアといっても東アジアと東南アジアの色々な言語と日本語で発行される月刊新聞(在日本)の、編集顧問兼ライター業を通じた、著者自身の成長物語です。アジアの多様性・バイタリティ・つかみ処の無さを「屋台村」と表現し、本書のタイトルとしています。 いちおうフィクション(小説)とのことですが、著者の実体験がベースとなっているのでしょう。演出はあるにせよリアリティしか感じませんでした。 評者は東南アジアで仕事をしているせいか、頷くところが多く、多くの示唆を得ました。 日本および日本人の立ち位置も、本書の中でうまく表現されています。堅苦しくない形で、文化比較論(評者にとって最も興味深かった点)も展開されます。 本書を読みながら、会社や組織という器を失ったときの日本人の弱さが、どうしても気になり考えさせられました。今まで、一個人としての底力や真価は、組織を離れて初めて発揮されるものだが、環境が整った日本では機会に恵まれない、くらいに認識していましたが、そう単純でもないことが分かりました。 日本的なモノの強みと弱みは、どっちがいいとか、どうすればいいとかいった話ではなく、表裏一体で不可分ということかと思います。が、どんなことも過ぎたれば及ばざるが如し。 本書は、日本人が普段意識出来ない次元での「個人としての自立」を自覚させ、促してくれます。 個人としての生命力を取り戻すには、もっとワガママでもいいんだと背中を押されたい方に、是非読んで欲しいと(自省を込めて)思います。
3投稿日: 2015.04.28
