
ストレンジ・ランデヴー
平井和正
集英社文庫
永遠の青春作家
平井和正を評してある人がこんなことを書いていた。彼は決して物分かりのいい大人になんてなったりしない。「人間とは何か」というとてつもなく大きなテーマに、多感な少年の心のまま真正面から突き進み続けるのだと。 そんな作家だから60歳を過ぎた年齢でこんな小説を書いてしまうのだ。その感性のなんと瑞々しいことか。「ストレンジ・ランデヴー」「鏡の中の少女」「待っている」の3篇が収録されています。人生に疲れかけた心に1冊のサプリメントとして。
1投稿日: 2018.03.23
死霊狩り (1)
平井和正
角川文庫
角川文庫の生頼イラスト作品はもう全部復刊しようよ
生頼範義氏による表紙カバーイラストは電子化にあたり改めて原画から取り直したとのことでクオリティの高いものです。角川文庫のカバーは裏面までが一枚の作品ですが巻末にちゃんと裏面まで入った原画が収録されています。ただ「死霊狩り」の角川文庫版はイラストは表紙だけで挿絵はありません。角川文庫版が底本ですのでこの第1巻には親友の森優 (南山宏) 氏の解説が入っており、人間味たっぷりなロマンチスト平井和正の実像に触れることができます。 ということで、人類に警鐘を鳴らす傑作「死霊狩り」が電子書籍で復刊です。ネタバレになってしまうかもしれませんが、全3巻の一作ごとに最後にどんでん返しがありバッドエンドで終わります。この小説を初めて読んだときは衝撃でしたが、以来ハッピーエンドのお話には物足りなさを感じてしまうようになりました (笑)。この小説を読んだ当時、直後にアニメ映画の「風の谷のナウシカ」をTVで観たのですが、世間で絶賛のナウシカにエンディングでがっかりしてしまった記憶があります。「死霊狩り」が強烈すぎたのです。 特に最終章第3巻には作者の伝えたいメッセージが凝縮されています。ぜひ最後まで読んでください。ハリウッドで映画化しないかなあ、三部作で作れるんだけど…。って当時は思ったなあ。
1投稿日: 2018.03.19
からくさ図書館来客簿 第六集 ~冥官・小野篁と雪解けの歌~
仲町六絵
メディアワークス文庫
季節は巡り
京都の1年を巡って綴られたシリーズの最終巻、この巻は年が明け春を迎える頃のお話です。季節に沿って1年かけて読むつもりでしたがちょっとフライングです。作者の仲町さんは約4年をかけてこの作品を書かれたようです。無事に最終話まで読むことができてよかったです。 最後に登場する道なしは伊勢神宮の最後の斎宮で後醍醐天皇皇女の祥子様、南北朝の動乱で伊勢へ下向されぬまま後醍醐天皇に従って吉野に行かれ、斎王の制度も祥子様を最後に途絶えたそうです。最終話ということで今まで登場したキャラクター達のその後も織り交ぜ、作者の作品への思い、優しさ、誠実さを感じる1冊でした。
1投稿日: 2017.11.06
真幻魔大戦11 破滅世界のクロノス
平井和正,生賴範義
e文庫
このシリーズが気になるけどまだ読んでなかった人へ
第1巻の電子書籍刊行から1年半、出版ペースのあまりの乱れに呆れて読むのを諦めていた人、お待たせしました。待ちわびた第11巻がようやく刊行されます。 私が全15巻の『真幻魔大戦』の第11巻にこだわるのは、本作は第1巻からここまでストーリーが繋がっているからです。途中で読むのを中断されると非常にストレスが溜まりますが、これでようやく第2部のラストまで気持ちよく読むことができます。あの角川文庫版『幻魔大戦』の最終巻には「光芒の宇宙」とサブタイトルが付いていました。私たち読者はこの『真幻魔大戦』で「光芒の宇宙」の真実に触れることができるのでしょうか…。 ここで本編はついに、人類史上最大の能力者である7世紀の日本人、役の小角の覚醒へと至ります。そして第3部は舞台を変え、クロノスやソル王女が異世界で大活躍するお話となります。 あくまでもSFとして読みましょう。でも作者が描きたかったものを感じることができた人は幸せかも。
1投稿日: 2017.10.03
長いお別れ
レイモンド・チャンドラー,清水俊二
早川書房
チャンドラーと清水俊二が生んだ文体の奇跡
『長いお別れ』は20代のころに読んだ。その本は実家に置いたままで失くしてしまった。今度は同じハヤカワ文庫の村上春樹訳『ロング・グッドバイ』で読んでみようかな、と試し読みを開いてみる。冒頭の1行目で「?」。 あれっと思い『長いお別れ』の試し読みを開いてみる。これだよこれ。本を開いて文字が並んでるの見てるだけでなんかもう幸せな気分。
0投稿日: 2017.09.17
四月は君の嘘(11)
新川直司
月刊少年マガジン
読んで損ではなかったけど
レビューの高評価に釣られて最終巻まで読了。 んーと。みんなが騒ぐほど面白いのかなコレ? 読了後にまた再読してみようと思ってたけど、 1日経ったらどうでもよくなってしまった。
0投稿日: 2017.08.25
嶽神伝 孤猿(上)
長谷川卓
講談社文庫
シリーズを繋ぐ「嶽神伝」
山の民を描く嶽神シリーズ、いろんな作品が出てるようなので調べてみました。書籍の発表順に整理すると以下のようになるのかな。 ・「血路―南稜七ツ家秘録」 2001年、「二ツ」が登場。 ・「死地―南稜七ツ家秘録」 2002年、主人公は「二ツ」。 ・「嶽神忍風」 2004年 (2012年「嶽神」に改題)、主人公は「多十」。 ・「逆渡り」 2011年 (2016年「嶽神列伝 逆渡り」に改題)、主人公は「月草」。 ・「嶽神伝 無坂」 2013年、主人公は「無坂」。 ・「嶽神伝 孤猿」 2015年、同上。 ・「嶽神伝 鬼哭」 2017年、同上。 「嶽神伝」はこれまでに発表された個々の作品をシリーズとして繋ぐ役割もあるようですね。さて本作「嶽神伝 孤猿」の巻頭にある主要登場人物を見ると、 山の者は無坂、月草、二ツ、多十、さらには真木備に巣雲の弥蔵と嶽神オールスターキャスト。多十は世代が少し下になるので本作では幼い姿のようですが…。 戦国武将のほうは武田晴信(後の武田信玄)と長尾景虎(後の上杉謙信)、そして北条幻庵。さらには武田の「かまきり」、長尾の「軒猿」、北条の「風魔」といった忍びたち。この登場人物紹介を見るだけでもうワクワクです。
1投稿日: 2017.08.05
狼の紋章
平井和正,生頼範義
NON NOVEL
小説家平井和正、伝説の一冊
当時の平井和正は大ヒットしたTVアニメ「エイトマン」などで漫画原作者、脚本家としては認知されていたと思えますが、小説家としては不遇の時代を過ごしていました。そんな時代に出版された「狼の紋章」。 この一冊が時代を変えた。まあ日本の文芸界では全く無視されたでしょうが、それはエンターテイメントの世界に新たな風が巻き起こった瞬間だったと思います。この小説を読んだ人が、その後のSF、漫画、映画など様々な分野で新たな時代を創っていきます。そんな伝説の一冊。アウトローな絶望的な、しかし読者はその暗闇の中に光り輝く星を見つけるでしょう。たぶん。 この作品は全19巻(祥伝社から出版されたのは4冊)の長大な大河小説の第一作にあたりますが、これ一冊だけで小説として成立していますしエンディングもきれいに終わっています。平井和正を知らない人もこれだけを読んでみるというのもいいですよ。(この後の作品に付き合いだしたら泥沼にはまっちゃいかねないし(^^; …。) 参考までに、 本作は私の大好きな「アダルト・ウルフガイ・シリーズ」とは別のものです。お間違いのないように。 この小説は現時点では平井氏の小説で唯一、英訳されたものが海外で電子書籍になっています。これからも世界で新たな読者に衝撃を与えてゆくのでしょう。 https://www.amazon.com/dp/B014QBPG02/ また今回の本作の電子書籍化とほぼ同時期に、同じシリーズの「月光魔術團」も電子書籍が刊行開始されました。こちらは全37巻ありライトノベルに分類されています。本作の延長上の世界軸にある少し未来のお話です。私も付き合いきれてませんが興味のある方はどうぞ。
5投稿日: 2017.07.23
嶽神(上) 白銀渡り
長谷川卓
講談社文庫
読まなきゃ損
上巻読了、無骨な物語ですが読みだしたら止まらなくなります。まだ上巻しか読んでませんがもう5つ星確定。 この本の面白さとは関係ないけど、ひとり渡りの嶽神(がくじん)多十に託された幼い勝三(若千代)に、何故か「風神秘抄」の草十郎を彷彿させる特殊な力があるのです。何なのこれ? ところでこの勝三ですが、設定上は両祖父が武田信玄と北条氏康になるわけで下克上の時代とはいえ若様です。しかし幼いのに心身ともに気持ちのいい少年なのですよ。多十に師事したらどんな超人になるのでしょう。史実とは関係なしに行く先が楽しみです。
1投稿日: 2017.07.17
不思議絵師 蓮十 江戸異聞譚
かたやま和華
メディアワークス文庫
お嬢さんに春はいつ
江戸の町が舞台のファンタジー、続編も楽しみです。軽いタッチで読みやすいですが本作には男女の愛憎劇っぽいお話も。 メインキャラクターのほうは、蓮十に恋するおちゃっぴいな小夜お嬢さんと、色恋事に疎くて女心が全く分からない美貌の絵師蓮十。お嬢さんの家族も応援しているようなのに、二人のとんちんかんなやり取りが続きます。小夜お嬢さんに春はいつ。 読後、ネットで歌川国芳さんの数々の作品を見て圧倒されました。
1投稿日: 2017.06.20
