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ツクヨミさんのレビュー
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  • 悪魔交渉人 4.天使の方舟

    悪魔交渉人 4.天使の方舟

    栗原ちひろ,THORES柴本

    富士見L文庫

    最終巻にふさわしい読み応え

    シリーズ第4巻(最終巻)。晶と音井は今回、悪魔関連品の調査のため豪華客船に乗り込みます。豪華客船という舞台の華々しさに加え、珍しく森木も同行するとあって、どことなく浮かれた雰囲気で始まるのが新鮮でした。 でも、それも序盤まで。以後は坂道を転がるように一気に展開が早くなります。スリリングな場面の連続に、ハラハラしながらも楽しく読みました。船には一般の乗客も大勢いてパニックホラー状態になるんですが、その混乱の中で戦う晶たちがまた格好よかったり……。 事件自体も、出てくる敵も、今まででいちばん濃いものでした。懐かしいキャラの再登場や設定上の種明かしなどもあり、まさに最終巻にふさわしい読み応えだったと思います。 ただ、できればもっと続いてほしかったというのが正直なところ。ラストは納得のいくものでしたが、好きなシリーズだったのでこれで終わってしまうのは残念です。

    5
    投稿日: 2016.02.05
  • アンデッドガール・マーダーファルス 1

    アンデッドガール・マーダーファルス 1

    青崎有吾

    講談社タイガ

    怪奇小説風味の本格ミステリ

    十九世紀末のヨーロッパを舞台に、探偵(女)と助手(男)のコンビが怪物がらみの事件に挑む怪奇ミステリ。事件の関係者として吸血鬼や人造人間が登場しますが、探偵・輪堂鴉夜の推理は非常に論理的で、この作品の芯があくまでも本格ミステリなのだと実感させてくれます。 この1巻には、序章のほかに吸血鬼の事件と人造人間の事件が収録されています。多少血なまぐさいところもあるけれど、人が死ぬミステリに抵抗がなく、本格ミステリが好きな方なら問題なく楽しめるでしょう。 推理の鮮やかさはもちろんですが、鴉夜と津軽の迷コンビぶりも読みどころです(二人が笑い合うシーンの微妙な空気がたまりません)。まだまだ謎が多い二人ですが、最大の謎は静句さんかも……。 ほかにも、古典作品の登場人物がちゃっかり(何人も)出てきたり、ミステリなのにバトルシーンがあったりと、いろいろと規格外な作品です。でも、とにかく読んでいて楽しい! それに尽きます。

    11
    投稿日: 2016.02.05
  • 菩提樹荘の殺人

    菩提樹荘の殺人

    有栖川有栖

    文春文庫

    火村シリーズ初心者にもオススメ

    火村シリーズの短編集(全4編)。個々の短編は独立しているものの、どれも「若さ」というモチーフが入っていて、それが短編集としてのカラーにもなっています。 火村シリーズの入門書としては『46番目の密室』(刊行順に読む)や「国名」シリーズの短編集(代表的な短編集から読む)あたりをオススメしてきましたが、今ならこの『菩提樹荘の殺人』から入るというのもアリかもしれません。本書では、火村とアリスの出会い、火村が臨床犯罪学者になった理由、アリスがミステリを書くきっかけとなった事件など、これまでシリーズの中で書かれてきた背景エピソードに一通り触れることができるからです。多少省略されている部分もありますが、これだけ押さえておけば、次にシリーズのどの作品を読んでも大丈夫だと思います。 「アポロンのナイフ」……少年犯罪を扱った作品。高校生の男女を殺したのは、連続通り魔事件を起こして逃亡中の美少年なのか? 個人的には、火村が語る少年犯罪の発生件数や法律関係の話が興味深かったです。 「雛人形を笑え」……殺されたのは若手漫才師の女性。解決に至るまでの道筋が変則的なので、華麗な推理を期待していると肩すかしを食うかも。高柳刑事の意外な趣味と、火村とアリスの漫才めいたやりとりに笑いました。 「探偵、青の時代」……アリスが学生時代の知人から、当時の火村の名探偵ぶりを聞く話。現在にもつながる鋭い観察眼に感心したり、すごく真面目な学生だったんだな、と驚いたり。ただ、学生とはいえ、自転車に乗る火村の姿だけは想像しにくかったなあ……。 「菩提樹荘の殺人」……いつまでも若々しい「アンチエイジングのカリスマ」が殺される。真犯人を導く根拠や被害者が服を脱がされていた理由が、思いつきそうで思いつかなかったです。老化に対する火村の意見には共感する部分もありましたが、そういう火村は(アリスも)永遠の34歳なんですよね。そう思うとちょっと複雑。

    13
    投稿日: 2016.01.22
  • 灰と幻想のグリムガル level.7 彼方の虹

    灰と幻想のグリムガル level.7 彼方の虹

    十文字青,白井鋭利

    オーバーラップ文庫

    クザクとハルヒロ

    シリーズ第7弾。前巻は多数のキャラが入り乱れて賑やかさ満点でしたが、今回はガラリと雰囲気が変わります。なんというか、いろいろな意味でダークな感じ……? 展開もぜんぜん想像がつかなくて、どこ行っちゃうのこれ?と思いながら読み進めました。 そんな中いいなと感じたのは、パーティの盾役・クザク。初登場時はわりと地味(?)な印象でしたが、いつの間にか成長していい男になってました。特にハルヒロとの会話シーンなんかは、打ち解けてるのが伝わってきて微笑ましい気分になります。 ハルヒロのほうは相変わらずヘタレですが、ヘタレなりに一生懸命なところに惹かれます。もし主人公がハルヒロじゃなかったら、このシリーズにこれほど共感することもなかったでしょう。弱さも欠点もありまくりの彼だからこそ、頑張る姿に声援を送りたくなるんです。 それにしても、このシリーズは毎回気になるところで終わりますね……。すでに次巻が待ち遠しいです。

    7
    投稿日: 2016.01.05
  • 闇の喇叭

    闇の喇叭

    有栖川有栖

    講談社文庫

    「重い」世界の女子高生探偵

    ※やっと1巻が文庫に切り替わったので、単行本版(公開終了)に書いたレビューを一部修正の上再投稿します。 「探偵ソラ」シリーズ第1作。この『闇の喇叭』はもともと、他社のヤングアダルトレーベルの1作品として書かれたそうです。とはいえ、特に中高生向きということはなく、主人公・ソラが女子高生という点を除けば一般向けの小説と大差ありません。 著者の他シリーズと違うのは、架空の世界(実際とは違う歴史をたどった日本)を舞台にしていることです。そこは一種のディストピアといってよく、探偵行為が禁止されていたり、推理小説が軽蔑されていたりと、なにかと息苦しそうな世界です。この重苦しい世界をよりによって10代向けレーベルで書こうとしたところに、著者の意気込みを感じました。 そんな特殊な設定を敷いていることもあり、本書の「本格ミステリ度」はあまり高くありません。殺人事件も謎解きもありますが、それがメインというわけではないようです。そのぶん、純(ソラ)と友人との交流やいびつな世界の描写に力が入れられていて、読みながら自然と純に感情移入していました。理不尽な世界で懸命に生きようとする、彼女の強さに憧れます。

    10
    投稿日: 2015.12.10
  • 溺れる犬は棒で叩け THANATOS

    溺れる犬は棒で叩け THANATOS

    汀こるもの

    講談社ノベルス

    事件解決が早いときは……

    シリーズ第8弾。第7弾に当たる『立花美樹の反逆』はなぜかまだ電子化されていないので、飛ばして本書を読みました。結果的に大きな支障はなかったのですが、いくつか7巻の内容に触れている(と思われる)箇所があるので、先にそっちを読んでいればより楽しめたかもしれません。 今回美樹は、長野にある親戚の家でとある儀式に参加します。付き添いは真樹と高槻、それに監察医の出屋敷。美樹がいるからには、なにも起きないはずがない!……というわけで、いつものように惨劇の幕が上がります。 鬼の伝説を受け継ぐ旧家に、日本刀を使った謎の儀式、さらには美樹が語る錦鯉蘊蓄と、今回は全体的に和風な感じでまとまっています(小ネタも犬神家とかだし)。事件のあと解決編に入るのが妙に早いと思ったら、やっぱり……なパターンでした。もやっとした書き方で申し訳ないのですが、個人的にはシリーズ中でいちばん「怖い」と感じました(未読の7巻を除く)。 このシリーズは、巻が進むにつれて印象が塗り替えられていくキャラが多いような気がします。いつか彼らにも平穏が訪れるといいのですが……。 ※2017.02.22追記 その後『立花美樹の反逆』も電子化されました。

    5
    投稿日: 2015.12.09
  • つれづれ、北野坂探偵舎 トロンプルイユの指先

    つれづれ、北野坂探偵舎 トロンプルイユの指先

    河野裕

    角川文庫

    雨坂(朽木)続の小説世界に浸りたい!

    幽霊×ミステリ×物語(?)シリーズ第5弾。毎回当たり前のように幽霊が出てくる本シリーズの中でも、今回は特にファンタジックな話となっています。幽霊の世界に迷い込むので、ちょっと異世界ファンタジーに近い部分があるかも。 本書には雨坂と名のつく「天才」小説家が二人出てきます。本好きとしてはどちらの小説も読んでみたいのですが、たぶん自分がより心惹かれるのは雨坂(朽木)続の書いたものなんだろうな、と思います。本文中に引用などはないものの、彼の作品について書かれた部分を読むだけでものすごく読書欲を刺激されます。スピンオフとして出たらいいのに……。 小説書きにおける天才の定義や、二人の雨坂の禅問答のような会話も興味深く読みました。読書って、読者と著者のコミュニケーションなのかな、なんて考えたり。 今回、ものすごーく続きが気になる終わり方をしていると思ったら、どうやら次巻で最終巻のようです。早く続きが知りたいけれど、まだ終わってほしくない気も……。やっぱりスピンオフ出してくれないかなあ。

    6
    投稿日: 2015.11.21
  • 悪魔交渉人 3.生贄の迷宮

    悪魔交渉人 3.生贄の迷宮

    栗原ちひろ,THORES柴本

    富士見L文庫

    血管マンション(誤変換ではありません)

    シリーズ第3弾。今回のテーマは脱出ゲーム!ということで、晶、音井、森木の三人は悪魔が巣食うマンションからの脱出を試みます。 対戦相手は悪魔、しかもゲームオーバー=死なので、文字通りゲーム的なスリルの感じられる話となっています。マンション内の描写もなかなかグロテスクで、人間の体内を思わせる造形だったり、血しぶきが飛んだりと、気持ち悪さ満点です。苦手な人は苦手かもしれないけれど、個人的には適度なホラー感で楽しめました。 読みどころは、やはり晶、森木、遊江(悪魔じゃないほう)の関係でしょう。あと、五得の変態ぶりとか……。 ところで、巻が進むごとに音井が可愛く思えてくるのは、妖怪ならぬ悪魔の仕業でしょうか……?

    1
    投稿日: 2015.11.06
  • 灰と幻想のグリムガル level.6 とるにたらない栄光に向かって

    灰と幻想のグリムガル level.6 とるにたらない栄光に向かって

    十文字青,白井鋭利

    オーバーラップ文庫

    こんな展開を待っていた

    シリーズ第6巻。個人的に、設定面で1巻からずっとモヤモヤモヤモヤしてたところがあったのですが、ここに来てやっとそれが解消されました。脱線のように思えた5巻も、今回のこういう流れにつながるのなら納得です。ぼんやりした書き方で申し訳ないのですが、終盤に出てくる某キャラの台詞には「これを待ってたんだよ!」と思わず叫びたくなりました。 今回は戦闘シーンもボリュームたっぷりで、新キャラ含め、登場キャラもやたらと多くなっています。それでも書き分けがしっかりしているので、「誰だっけ、これ?」みたいなことにはなりません。一部、キャラ立ちすぎで変人としか呼べない人々もいますが……(でも、トッキーズのタダはちょっと好き)。 まだまだ先は長いんだろうなあ……と思いつつも、今後の展開がますます楽しみになる一冊でした。

    5
    投稿日: 2015.11.06
  • ホーンテッド・キャンパス この子のななつのお祝いに

    ホーンテッド・キャンパス この子のななつのお祝いに

    櫛木理宇,ヤマウチシズ

    角川ホラー文庫

    長編ならではの深み

    シリーズ第8弾。これまでの連作短編形式とは違って、今回は長編です。しかもオカ研メンバーで行く冬の温泉旅行!……ということで、いろいろ新鮮な気持ちで読みました。 旅行中は全員一緒なので、サークルメンバー同士の関係もいつもより突っ込んで描かれるんじゃないかなー、なんて思っていたのですが、結果は期待以上でした。森司とこよみのやり取りは微笑ましいような、ただのバカップルのような……。 「1話=1怪異」だった連作短編形式に比べて怪異のスケールもぐんと大きくなり、森司たちはそれに否応なく巻き込まれていきます。特に後半はスピードが出てきて、心地いいスリルを感じました。 ラストも爽やかでいいのですが、今回の怪異は読み終えたあともほろ苦さが残ります。親子も兄弟も含めて、家族って難しいなあ……と思ってしまいました。 面白さの向こうに感じられる深みは、長編形式ならではのものかもしれません。

    7
    投稿日: 2015.10.31