
砕け散るところを見せてあげる(新潮文庫nex)
竹宮ゆゆこ
新潮文庫nex
突っ走った先には……
いじめられている高1女子と、それを助ける高3男子の話。設定的にはそれほど新鮮味は感じないけれど、キャラの強さで一気に物語に引き込まれます。ヒロインも強烈ですが、個人的には主人公(高3男子のほう)の熱さにやられました。恥ずかしいほど真っすぐで、いい意味で青臭くて……身近に1人いてほしいタイプです。 主人公がそんなキャラだからか、ストーリー的にも突っ走るような勢いを感じました。これぞ青春!と喜んで読み進めていたら、途中から「あれ?」という展開に。予想してたのと違うな、と思うと同時に、見え見えの伏線に少々がっかりしました。 なのになぜ★5かというと、それからラストまでで見事に評価が覆ったからです。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、途中でがっかりしていた自分のほうが馬鹿っぽい……。 綺麗なばかりではないこの世界で、それでも綺麗なものがあると信じ続ける主人公たち。きらきらとまぶしいその姿が、心に刺さりました。
7投稿日: 2016.11.26アンデッドガール・マーダーファルス 2
青崎有吾
講談社タイガ
豪華すぎる!
怪物専門の探偵とその助手が活躍するシリーズ第2弾。1巻にもドラキュラなど古典作品のキャラが出てきましたが、今回はそれと比べものにならないほど豪華です。ホームズ、ワトソン、ルパン、オペラ座の怪人、その他もろもろ……という、もう反則じゃないかと思うくらいのオールスター戦。しかも今回は長編形式(一応章は分かれていますが)で、最初から最後までこのキャラたちが暴れまくりです。 主役がかすむんじゃ?と心配になるくらいの豪華メンバーですが、そんな中でも鴉夜&津軽コンビのインパクトは健在です。特に鴉夜は笑えるシーンが多かったような……。静句も相変わらず格好いい! いかにしてダイヤを奪うか?というミステリパートはもちろん、キャラ入り乱れてのバトルシーンも迫力があって大満足でした(個人的には1巻の十倍くらいは面白かったです)。ちなみに、作中に出てくる保険機構は実在するようですが、どこまでが事実でどこからが創作なんでしょうね……?
7投稿日: 2016.11.23異人館画廊 当世風婚活のすすめ
谷瑞恵,詩縞つぐこ
集英社オレンジ文庫
いつもよりミステリ度高め
シリーズ第4弾。本シリーズは絵画をテーマにしたライトミステリですが、今回はいつもより本格的というか、よりミステリらしさの感じられる話でした。人も死ぬし、絵画の謎も一ひねりしてあるし、ほかにもそこここに驚きがちりばめられていて……。連続殺人とかはなくても、ミステリならではの「騙される楽しみ」を十分味わわせてくれる一冊になっています。それにしても、キューブのメンバーの活躍ぶりに対して京一のダメキャラぶりがすごい……。 ケンカばっかりだった千景と透磨は、これから少しずつ関係が変わっていくんでしょうか。物語が盛り上がる予感とともに、もしかして終わりが近い?とも思ってしまうのですが……。好きなシリーズなので、なるべく長く続いてほしいなあ。
6投稿日: 2016.11.23堆塵館
エドワード・ケアリー,古屋美登里
東京創元社
すべてがヘンテコなごみ屋敷ファンタジー
19世紀ロンドンを舞台にした3部作の第1巻。ジャンル分けしにくい作品ですが、あえて分けるならファンタジーでしょうか。 とにかく読み始めから、この物語が持つ異様さに圧倒されました。独特な設定に、変人ぞろいの登場人物。なにもかもがヘンテコすぎて、いったいどんな話になるのか想像がつきませんでした。 なのに、読み進めるうちにぐいぐい引き込まれ、アイアマンガー一族の変人ぶりから目が離せなくなり、ついには彼らのことがすっかり好きになっていたのだから不思議です。特に気に入ったのはルーシーで、誰に向かっても物怖じしないところや、ズバズバと言ってのけるところがすがすがしく感じられました。ところどころにちりばめられた奇妙なユーモアや、中盤以降のスピード感ある展開もよかったです。 ルビが多めなので頑張れば子供でも読めそうですが、もし自分が子供のときに読んでいたら、きっと衝撃を受けたことでしょう。それくらい、唯一無二の作風だと思います。 難点は、値段がお高いこと。翻訳もの(翻訳料が発生する)&紙版がハードカバーということを考えると仕方ないのかもしれませんが、電子書籍で3000円は勇気がいるかと……。
8投稿日: 2016.10.22赤と白
櫛木理宇
集英社文庫
絶望少女×2
「ホーンテッド・キャンパス」シリーズで有名な著者による、小説すばる新人賞受賞作。同じホラーでも、本書には幽霊も怪奇現象も出てきません。代わりに人間の心に潜む闇が描かれているのですが……正直「ホーンテッド~」の数倍は怖いかと。全体的に雰囲気も暗く、負の感情てんこ盛りの絶望系ホラーとなっています。 明るい話じゃないことは冒頭から想像がつくのですが、それでも引き込まれて読み進んでしまうだけの魅力が本書にはあります。端正な文章に、作り込まれた人物造形、丁寧な情景描写……。特に雪の描写は印象的で、新潟出身の著者ならではだと思いました。 弥子と小柚子の境遇に関しては読むのが辛いシーンもありましたが、意外にも読後感は悪くありません。救いのあるラストが、それまでの苦しさを和らげてくれた気がします。 「ホーンテッド~」みたいなにぎやかホラーもいいけど、個人的にはこういうのも好きです。
8投稿日: 2016.10.01灰と幻想のグリムガル level.9 ここにいる今、遥か遠くへ
十文字青,白井鋭利
オーバーラップ文庫
メリイ崩壊
シリーズ第9弾。前巻に引き続き、ハルヒロたちパーティは冒頭から散り散りになってしまっています。状況としては厳しいものの、バラバラになった各メンバーの視点で物語が進んでいくので、キャラの意外な一面がわかったりして楽しかったです。 特に笑ったのはメリイパート。ほとんどキャラ崩壊といった感じですが、それでも可愛く思えるのがメリイのすごいところ。ほかにも設定的な要素がちょくちょく挟み込まれていたりして(ユメの言葉遣いのこととか)、これからも巻を進むごとに少ーしずつ謎が明らかになっていくのかなあ、と思いました。9巻でやっとこれだけなので、いつまでかかるかわかりませんが……。 それにしても、ほかのパーティの面々に比べると、ハルヒロたちってすごくまともだなあ、と感じます。主役の彼らがまともだからこそ、ほかにどんな変人が出てこようと安心して読めるんですよね。もしハルヒロが颱風ロックスのサカナミみたいな人だったら、とてもついていけません……。
7投稿日: 2016.09.04邂逅
キャンディス・フォックス,冨田ひろみ
東京創元社
それぞれの信念
オーストラリアを舞台にした警察小説。のっけからエリック&エデン兄妹が強烈すぎて、語り手のフランクがすっかり食われているように感じました。特にエデンの危険な格好よさには、惚れ惚れせずにいられません。 バラバラに思えたエピソードが収束するにつれて、物語はスピード感を増し、後半は引きずられるようにして一気に読みました。追跡シーンもスリリングで、引き込まれます。思い思いの信念を抱いて進む登場人物たちの姿に、本当の正義ってなんだろう、と考えさせられました。 危うい絆で結ばれたフランクとエデンは、これからどんな道を歩いていくのか……。すでに続きが気になっています。
7投稿日: 2016.08.02シャーロック・ホームズの不均衡
似鳥鶏
講談社タイガ
トンデモ設定に乗れるか
名探偵の遺伝子群を持つ者は「狩られる」、という一風変わった設定つきのミステリ。冒頭がわりと普通っぽい感じだったので(雪山での殺人はミステリでは定番といえるでしょう)、油断して読み進めていたら、想像以上のトンデモ展開でびっくりしました。アクション激しいし、やたらグローバルだし、あと、とにかく幸村さんがすごすぎる……。 脇役キャラの濃さに若干押され気味ですが、もちろん主役兄妹も頑張っています。七海も可愛いけど、個人的にはハ○ー・ポッター似のお兄ちゃん(直人)が好み。見た目は弱そうなのに意外と芯が強くて、妹思いの頼れるお兄ちゃんです。 ミステリとしては変化球な作品なので、面白さは設定に乗れるかどうかで決まってくると思います。個人的には面白かったですが、「えー?」と思った部分もちらほら……。 ちなみに本文前の「頭脳チャレンジ!」は全然歯が立ちませんでした。
8投稿日: 2016.07.17虹果て村の秘密
有栖川有栖
講談社文庫
脇役作家の言葉が胸に刺さる
小6コンビが密室殺人の謎に挑む、ジュブナイル・ミステリ。子供でも読めるように残酷な描写は控えられているものの、あくまで「人が死ぬミステリ」にしたところに、著者の本格魂を感じます。子供向けだからと謎が甘く作られているわけではないし、疑問点をまとめながら推理を組み上げていく様子は、海外古典ミステリを彷彿とさせます。こういう作品を子供のうちに読んだら、ミステリにドハマりするかもしれませんね……。 大人の読者としてなにより印象に残ったのは、脇役の一人、二宮ミサトの言葉です。主役の片割れ・優希の母親で、推理作家をしている女性なのですが、とにかく発言の一つ一つが名言すぎる。特に、作家としての心構えを語った台詞には力があり、胸に刺さります。著者もミサトと同じような思いで原稿に向かっているのかな、と思わず想像してしまいました。
6投稿日: 2016.07.17緑衣の女
アーナルデュル・インドリダソン,柳沢由実子
東京創元社
痛みの先に見えてくるもの
痛い作品です。ある家庭内での暴力が執拗なまでに描かれ、読んでいて辛くなりました。しかし、これと同じようなことは今も現実のどこかで起きているはずです。そう思うと、暴力的な描写に込められた著者のメッセージが見えてきます。 本書には記号のように薄っぺらな人物は登場しません。人骨発見事件を担当する捜査官たちについても、事件の進行とからめて、それぞれの特徴や境遇がていねいに描かれていきます。脇役(大使館員など)までやたらとキャラが立っていて、妙に印象に残りました。 痛くて暗くて、でもその先にかすかな光が見える――そんな物語です。 (文庫化に伴い単行本版に書いたレビューが消えてしまったので、こちらに再投稿します)
5投稿日: 2016.07.15