
思い出のとき修理します4 永久時計を胸に
谷瑞恵
集英社文庫
二人のその後が自然と浮かんでくる
シリーズ完結巻。 最終巻だけあって、今回は本当の意味で秀司&明里が主役の1冊になっています。個々の短編は秀司の時計店を訪れる客の物語でもありますが、今回はその依頼の内容さえも二人の物語に収束していくというか……。夢と大切な人、どっちかを選ぶのは難しいだろうなあ、自分だったらどうするかなあ、とぐるぐる考えながら読みました。 秀司と明里がどんな道を選んだかは実際に読んで確かめてほしいところですが、読後、本には書かれていない二人のその後が自然と想像できました。シリーズ最大の謎、太一の正体についてもやっと明かされるものの、こっちはよけいに混乱するかも……? これで秀司や明里ともお別れかと思うと寂しいですが、最後まで陽だまりのようなあたたかさに満ちたシリーズでした。
7投稿日: 2016.06.30ラスト・ウィンター・マーダー
バリー・ライガ,満園真木
東京創元社
ジャズの息遣いまで聞こえてきそう
三部作の第3巻。内容的には完全に2巻の続きなので、いきなり本書から読まないようにご注意ください。 さて、2巻のラストもいろんな意味で悲鳴ものでしたが、今回はさらに手に汗握る展開に……。二転、三転どころか二十転、三十転(!?)する話に、楽しく翻弄されまくりました。最終巻にふさわしい、「濃い」内容だったと思います。 ジャズの孤独な闘いは読んでいて辛くもありましたが、彼を守り支えてくれる大人(G・ウィリアムやコニーの父)の存在に救われます。なにが本当に正しいかなんてわからないけれど、結末にたどり着いたときには、無性にジャズを抱きしめたくなりました。 読んでいるあいだはずっと、自分もジャズと一緒に走っている感じで、彼の息遣いまで聞こえてくるかのようでした。最終巻になってやっと、本当の意味でジャズに近づけた気がします。 広義のミステリといえる本作ですが、青春小説としての魅力もかなりのものです。 ……満足。
6投稿日: 2016.05.24殺人者たちの王
バリー・ライガ,満園真木
東京創元社
ラストは悲鳴!?
三部作の第2巻。いきなり本書から入れないこともないですが、できれば1巻『さよなら、シリアルキラー』から読むことをオススメします(そのほうが登場人物の関係とかよくわかると思うので)。 今回ジャズは、ニューヨーク市警の刑事・ヒューズに頼まれ、新たな連続殺人事件の捜査を手伝います。主な舞台もニューヨークに移るため、コニーとハウイーの活躍はもう見られないのかと心配したのですが、全然そんなことはなくてほっとしました。コニーの度胸もすごいけど、ハウイーの馬鹿っぽさにも癒されます。 出だしはわりとのんびりした雰囲気ですが、ページが進むにつれてスリルは増し、後半はめまぐるしい展開になります。なにが本当なのか、誰を信じたらいいのかと、ミステリならではの「翻弄される楽しみ」を味わえました。そして、最後は悲鳴。こんな場面で堂々と「つづく」としてしまえるところが、アメリカエンタメらしいなあと思いました(続きものの映画とかで、すごいところで終わるやつありますよね……?)。 完結編の第3巻は今月(2016年5月)発売なので、まとめて読んだほうがストレスは少ないかも……。
6投稿日: 2016.05.07ホーンテッド・キャンパス 春でおぼろで桜月
櫛木理宇,ヤマウチシズ
角川ホラー文庫
いろんな意味で泣きそうになった
シリーズ第9弾。長編だった前巻からいつもの連作短編形式に戻り、春休みから話が始まります。 今回は新キャラが登場したり、オカ研メンバーとしての森司の成長がうかがえたりと、なにかと見所満載の巻になっています。個人的にもいつも以上に楽しんで読んだのですが、中には思わず泣きそうになる話もありました。 まず、第2話「金の帯 銀の帯」は怖さのあまり泣きそうに……。私も含め、市松人形が苦手な人にはちょっとキビシイ話かも。 そして、怖さとは違う意味でウルっときたのが、第3話「月のもとにて」です。これは新キャラ登場の話でもあるのですが、話を構成するなにもかもが心に響きまくりました。これまでのシリーズ9冊通して、いちばん好きな話かも。 ラストにキュンとする第1話「意気地なしの死神」、深く考えさせられる第4話「籠の中の鳥は」も、それぞれ違った魅力があってよかったです。 前巻で藍は大学を卒業してしまいましたが、今後もちょこちょこ登場してくれるようで一安心。仕事に差し障りがないのか、ちょっと心配ですが……。
7投稿日: 2016.04.22バチカン奇跡調査官 ソロモンの末裔
藤木稟
角川ホラー文庫
適材適所
シリーズ13冊目(長編としては11冊目)。平賀とロベルトは、奇跡調査のためエチオピアに向かいます。 毎度ながら息ぴったりの神父コンビですが、正直、今回ほど平賀を頼もしく思ったことはありません。ふだんはなにかと暴走しがちなところをロベルトのサポートで乗り切っているのに……。適材適所ってこういうことか、と感心してしまいました(もちろんロベルトも違う面で活躍しますが)。ケルビムの奇跡も謎めいていますが、今回は奇跡の真相解明以上にわくわくさせられる場面が多かったです。 舞台になっているエチオピアにはなじみがなかったので、現地の空気が伝わってくる風景描写に助けられました。読後、偶然テレビでエチオピアの映像を観たのですが、景色が本書の描写そのままでびっくり。平賀とロベルトは毎回いろいろな国に行くので、このシリーズを読んでいると海外事情にちょっとだけ詳しくなりますね。
3投稿日: 2016.04.11灰と幻想のグリムガル level.8 そして僕らは明日を待つ
十文字青,白井鋭利
オーバーラップ文庫
予想もしないところに連れていかれる
シリーズ第8弾。話は前巻のラストの直後から始まります。ここのところ厳しい展開が多かったので、弱気なハルヒロとか、うざいランタとか、天然すぎるユメとか、相変わらずなパーティの面々にほっとしました。 が、それも長くは続かず。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、思わず「そう来るか!」と叫びたくなるほど予想外な展開でした。冒頭とラストの落差が激しくて、今、最初のほうのページを読み返したらなんだか切なくなりました……。次巻以降が怖いけど、やっぱり読んじゃうんだろうなあ。なんだかんだいっても、ハルヒロたちが好きなので。 余談ですが、某敵キャラの台詞が英語(たぶん)なのは世界設定になにか関係してるんでしょうか? もしかして伏線?と勝手に想像しています。
4投稿日: 2016.04.11さよなら、シリアルキラー
バリー・ライガ,満園真木
東京創元社
ギリギリの「青春ミステリ」
殺人鬼の息子を主人公にした青春ミステリ3部作の1作目。「21世紀最悪のシリアルキラー」を父に持つジャズ(高3)が、地元で起きた殺人事件の犯人を捕まえるべく奔走します。 事件自体にも猟奇的な部分があるものの、個人的にはジャズの父・ビリーの言葉のほうがずっと怖かったです。ジャズの脳内で頻繁に再生される(昔聞かされた台詞がフラッシュバックする)のですが、まさに殺人鬼!という言葉の数々に背筋が寒くなりました。 そんな本作をギリギリで「青春」ミステリにしてくれているのが、ジャズの親友・ハウイーと恋人・コニーの存在です。この二人がいなかったら、ジャズもこの物語ももっと違ったものになってしまっていたでしょう。重い展開のときも、二人の明るさと強さに救われます。 それにしても感心するのは、これが米国ではヤングアダルト(YA)小説として出版されていることです。高校生はともかく、中学生が読むにはなかなか刺激的な内容だと思うのですが、これも文化の違いでしょうか……?
6投稿日: 2016.03.22有栖川有栖の鉄道ミステリー旅
有栖川有栖
光文社文庫
車窓からの景色が目に浮かぶよう
鉄道をテーマにしたエッセイ集。著者はいわゆる「乗りテツ」だそうで、本書の後半は鉄旅エッセイ(鉄道で日本各地を回った様子を記したもの)で占められています。前半には鉄道を好きになったきっかけや学生時代の鉄道旅行の話が収録されていますが、それに加えて「オススメの鉄道ミステリ」が多数紹介されているところがミステリ作家らしいですね。 鉄道好きのミステリ作家が薦める鉄道ミステリ、というのにも興味を引かれましたが、それ以上に鉄旅エッセイが面白かったです。車窓からの風景描写が印象的で、読んでいる自分も一緒に電車に乗っているような気分でした(気分だけでなく、実際に鉄旅に出たくもなります)。 有栖川ミステリのファンだけでなく、鉄道ファンにもオススメしたい1冊です。
10投稿日: 2016.03.22幻坂
有栖川有栖
角川文庫
余韻じんわりな大阪怪談集
大阪を舞台にした怪談集。大阪にある7つの坂(天王寺七坂)をモチーフにした現代もの7編と、芭蕉や藤原家隆が出てくる歴史もの2編の、計9編が収録されています。 怪談といってもあまり怖くはなく(個人的に「口縄坂」だけはぞわっときましたが)、幽霊などの怪異を織り込んではいるものの、メインとなるのはあくまでも人と人とのつながりや心の動きです。また、どの短編もラストが印象的で、最後の行を読み終えたあともじんわり心に残るものがあります。作品によって、それは温かかったりほろ苦かったりするのですが……。 特に好きなのは、切ないながらも希望の見えるラストが魅力の「真言坂」と、こぢんまりとした料理屋で交わされる会話が楽しい「天神坂」です。 著者のミステリ作品などに比べて文体が渋め(重め?)ですが、この本の内容には合っていると思います。芭蕉の一人称で語られる「枯野」は、当時の空気が感じられる味わい深い1編でした。
8投稿日: 2016.02.25犯罪
フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一
東京創元社
読後の「もやっと感」がリアル
※単行本版が公開終了になったので、以前書いたレビューをこちらに再投稿します。ちなみにこの文庫版では、単行本版の内容に序文が加えられているそうです(東京創元社HPの情報より)。 弁護士の「私」を語り手として、種々の犯罪に手を染めた人々を描いた短編集(全11編)です。 本格ミステリなんかだと結末に向かって物語がきれいに畳まれていくものですが、本書はそうはいきません。作品ごとに雰囲気は異なるものの、どれを読んでももやっとした余韻が残ります。本書の物語をリアルに感じるのは、その余韻のせいもあるでしょう。綺麗に収まらないからこそ、あたかも現実の事件のように思えるのです。 やりきれない話もありますが、人間ドラマとしてはとても濃密で心に残りました。これからは現実の犯罪についても、その背景をいろいろ想像してしまいそうです。
7投稿日: 2016.02.12