
バチカン奇跡調査官 悪魔達の宴
藤木稟
角川ホラー文庫
マッドサイエンティスト・平賀
シリーズ12冊目(長編としては10冊目)となる本書では、ロベルトがドイツで悪魔祓いを行います(途中から平賀も合流)。メインが悪魔だけあって全体的におどろおどろしい雰囲気が漂っており、ここ最近ではグロ度高めなほうだと思います。ちょっと怖いけど、これぞ『バチカン~』!という感じもあり、個人的には楽しめました。本シリーズはミステリ風のホラーなので、多少グロくても真相が気になって読み進んでしまうんですよね……。 悪魔憑きの謎もとても面白かったのですが、それとは別の意味でウケたのが平賀の暴走っぷり。本人は大真面目なんだろうけど、端からはマッドサイエンティストにしか見えません。シン博士とのやりとりなんか「本当は狙ってやってるだろ!?」と突っ込みたくなるくらいで、とにかく笑わせてもらいました。シン博士にとっては悪魔より平賀のほうが実害があるんじゃ……? そんな平賀を上手に受け流すロベルトは、やはり最高の相棒ですね。
6投稿日: 2015.10.29
異人館画廊 幻想庭園と罠のある風景
谷瑞恵,詩縞つぐこ
集英社オレンジ文庫
六者六様の活躍ぶり
シリーズ第3弾。千景は図像術の用いられた絵を探して、瀬戸内海の離島を訪れます。せっかく透磨も一緒なのに、全然甘いムードにならないのがこの二人らしいところ。恒例の口喧嘩は、もはや微笑ましく感じられます。 本シリーズはライトミステリに分類されると思うのですが、この3巻はこれまでで最もミステリ色が強く、いつも以上に楽しめました。Cubeの他メンバーにもそれぞれ見せ場が用意されていて、探偵団的な活躍で千景たちをバックアップしてくれます。 相変わらず基本ツンツンな透磨ですが、たまにドキッとするような言動をするので油断なりません。千景も透磨を取っかかりに、頼れる人を増やしていってくれたらなあ……と思いました。
3投稿日: 2015.10.24
空を飛ぶための三つの動機 THANATOS
汀こるもの
講談社ノベルス
最後の最後まで……
シリーズ第6弾。今回はまた趣向を変えて、過去に立花兄弟が経験した事件をもとに、警察サイドの面々が推理ゲーム(脱出ゲーム?)を繰り広げる形式になっています(出題者は湊、解答者は高槻と新キャラの佐伯)。 扱われているのは過去の事件であり、その事件で美樹や真樹が死なないことはわかっているのですが、それでも事件パートはドキドキしながら読みました。子供たちが暮らす謎めいた施設、隠し事の多い職員たち、そこで起きる連続死(しかもクローズドサークル!)……という要素だけでも心躍るのに、展開もスピーディで飽きさせません。なにしろ、高槻たちが答えられないと湊が容赦なく話を進めていくので……。 でも、いちばんの読みどころはゲームとは別のところにあります。詳細を語るのは避けますが、最後まで気が抜けない話であることは確かです。 それにしても、高槻は刑事としてとことん規格外だなあと思いました。
3投稿日: 2015.10.20
論理爆弾
有栖川有栖
講談社文庫
後半は全力疾走
シリーズ第3弾。純は今回、母親の手がかりを探して九州の村を訪れているのですが、そこで連続殺人事件に遭遇することに。平家の落ち武者伝説の残る山奥の村、いわくありげな洞窟や奇岩といった舞台設定は横溝正史を連想させるし、クローズドサークルや連続殺人などの要素もいかにも本格ミステリっぽい感じです。あくまで「っぽい」というだけで、実際はほかの巻同様、本格ミステリ度は高くありませんが……。 それでも本書には、ジャンルなんて関係ない!と思わせてくれるだけの魅力があります。特に、平行する個々の事件が絡み合いながら収束していく後半は疾走感があって一気に読みました。「意外といい人」なキャラが多かったのも印象的です。悪役の明神も、今回は純のストーカーっぽくてちょっと面白かった……。 本シリーズ最大の特徴である歴史改変設定(北海道が日ノ本共和国という別国家になっている、探偵行為が法律で禁止されているなど)も巻が進むごとに生きてきて、今後の展開が楽しみです。
4投稿日: 2015.10.17
世界のエリートがIQ・学歴よりも重視! 「レジリエンス」の鍛え方
久世浩司
実業之日本社
踏まれてもまた起き上がる雑草のように
レジリエンスとは、「逆境やトラブル、強いストレスに直面したときに、適応する精神力と心理的プロセス」(序章より)を意味します。失敗に負けない力、または単に打たれ強さといってもいいかもしれません。 本書にはそのレジリエンスを身につける方法が書かれているのですが、自己啓発書でたまに見かけるような無茶ぶり(「どんな状況でも笑顔で」とか)もなく、全体的に素直に納得できる内容でした。 特に印象に残ったのは、 「役に立たない『思いこみ』をてなずける」 「『やればできる!』という自信を科学的に身につける」 「自分の『強み』を活かす」 技術です。どれも理論がしっかりしていて、実践すれば少しずつでも打たれ弱い自分から抜け出せるのではないかと思いました。 レジリエンス技術については★5をつけたいのですが、著者が自分のエリートな経歴について語っている部分がときどき鼻につく(私だけでしょうか……)ので、少し評価を下げました。 ビジネスマンだけでなく、「自分は打たれ弱い!」という人すべてにオススメしたい一冊です。
11投稿日: 2015.10.05
赤の女王の名の下に THANATOS
汀こるもの
講談社ノベルス
シリーズ最強の変人
シリーズ第5弾。ジャンルはミステリに戻り、高槻たちが豪邸で変死事件に遭遇します。ただし、語り手(視点キャラ)を担当するのは高槻ではなく湊。1巻からちょこちょこ登場している、あの変人警察官僚です。 初登場時から変人だとは思っていましたが、この5巻での湊の言動はもはや変態の域に達しています。語り手からそれなのに、そこに死神・美樹とはっちゃけ探偵・真樹、やりすぎ刑事・高槻も加わり、レギュラーメンバー陣はもう誰も止められない状態に……。 ストーリー的にもかつてないほどカオスな感じ(湊の夢とか、幽体離脱とか)ですが、ミステリらしいポイントはちゃんと押さえてあります。私はラストまで読んだあと、思わず前のほうのページを読み返してしまいました。ちなみに、クトゥルーやドグラ・マグラほか、わかる人にしかわからない小ネタも多数登場します。 湊といい美樹といい、本シリーズのキャラはどこか壊れた人ばかりですが、むしろそのいびつさが魅力的に思えたりします。実際に周囲にいたら困るかもしれませんが……。
5投稿日: 2015.09.24
推定少女
桜庭一樹
角川文庫
青さが胸にしみる逃避行小説
中3女子がヘンテコ美少女と出会い、2人で東京へと逃げる青春逃避行小説。「『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』と対をなす傑作」とありますが、『砂糖菓子~』だけでなく、『少女には向かない職業』にもちょっと似てるかな。著者の描く10代の女の子同士の関係は独特で、個人的にとても好みです。 久しぶりに再読して思ったのは、始めから終わりまで、とにかく「青い」物語だということ。自分を「ぼく」と呼ぶ主人公・カナも、電波系(?)美少女・白雪も、ミリタリー少年・千晴も、言うことなすこと青臭くて「うわー、中学生だー!」と叫びたくなります。でも、その青さが不思議と心地よく感じられるんですよね。自分も中学生のころ、似たようなことを考えてたなあ、と思ったり……。エンディングはファミ通文庫版でボツになったのも含めて3種類用意されているのですが、私は3番目のがいちばん好きです。 青春まっただ中の人にはもちろん、すでに大人になってしまった人にもオススメ。大人の読者には、本書に出てくるヒドい大人が反面教師になると思います。
3投稿日: 2015.09.16
新訳 フランケンシュタイン
メアリー・シェリー,田内志文
角川文庫
フランケンシュタインは怪物を造った人の名字です
人造人間が出てくるゴシック小説。タイトルは超有名でも、内容まで詳しく知っている人は少ないんじゃないでしょうか。そんな私も、読みはじめるまでは怪物がフランケンシュタインだと思っていました。実際はそれは怪物を造った科学者の名字で、怪物のほうは最後まで名無しのままです。 ホラーっぽいけど古典なので、現代の作品に比べると全然怖くありません。意外だったのは、これがけっこう切ない話だということ。特に、怪物の身の上話(?)は胸に迫るものがあり、思わず彼に同情してしまいました。また、「反逆する人工生命」という現代SFでも通用しそうなモチーフを19世紀に書いているのも凄いところです。 新訳で読みやすくはなっていますが、独白調の語りで進む部分が多いため、全体的に文字がびっちり詰まっています。黒っぽいページに最初は気後れしたものの、結果的には発見の多い読書となりました。 「訳者あとがき」によると今年(2015年)はジェームズ・マカヴォイ&ダニエル・ラドクリフ出演の新作映画も公開されるそうなので、映画を観る前・観たあとに原作を読んでみるのもいいかもしれません。
5投稿日: 2015.09.09
2.43清陰高校男子バレー部 2
壁井ユカコ
集英社文庫
涼しい風が吹き抜けるような
この第2巻には、第4~5話とエピローグが収録されています。もともと単行本1冊だったのを文庫2冊に分けているので、なるべく1巻から順にどうぞ。 今回はほとんど最初から最後まで、黒羽&灰島の1年コンビにスポットが当てられています。4話は部の夏合宿(会場は学校)のあれこれ、5話は灰島が過去の事件と向き合う話。個人的には、ヘタレだった黒羽が灰島を支えられるまでに成長していく様子が印象に残りました。ツンツンキャラの灰島も、可愛く思える場面がいくつかあったり……。 これまで登場したほかのキャラたちも、2人の物語を脇から固める形で活躍しています。この巻でさらに好きになったのは小田&青木の主将・副主将コンビ。1年の2人とは一味違う落ち着いた信頼関係が素敵だなあ、と思いました。 涼風にも似た、爽やかな読後感も魅力です。
3投稿日: 2015.08.29
2.43清陰高校男子バレー部 1
壁井ユカコ
集英社文庫
バレーに縁がなくても楽しめます
地方の高校バレー部を舞台に、バレー馬鹿な男子(+女子)たちが織りなす青春小説。バレーボールを題材にしていますが、ルールとか詳しく知らなくても問題ありません。ある程度は読んでいるうちに理解できるし(巻末に基本的なルール解説もあります)、なによりキャラ重視の作品なので、コート内での彼らのカッコよさが伝わってくればそれで十分かと。 この1巻にはプロローグから第3話までが収録されていて、1話ごとに視点となるキャラを変えながら物語が進みます。第1話は表紙にもなっている黒羽と灰島の中学時代の話、第2話は2年の棺野と女子バレー部員・末森の話、第3話は主将と副主将を務める3年コンビ、小田と青木の話。 いちばんの主役は黒羽と灰島でしょうが、ほかのキャラもそれぞれ個性が光っていて、いつの間にか全員好きになっていました。舞台が福井(『サマーサイダー』と同じ)で、方言が多用されているのも味があっていいと思います。中学生から高3まで、キャラ同士の掛け合いはどれも青春ど真ん中!という感じで、「こんな青春送りたかった~」と黒羽たちがうらやましくなりました。
2投稿日: 2015.08.27
